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「新国立」の図面、面子より現実性、整備費2520億円、大成・竹中、JSCと攻防、資材・人件費が高騰。

[ 2015年7月7日 / 日経産業新聞 ]

「たぶん赤字」悲観論も

 2020年の東京五輪のメーンスタジアムとなる新国立競技場(東京・新宿)。事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は7日、有識者会議に整備費や設計内容を提示する。直近まで1625億円だった整備費は2520億円に膨らむ。背景には「赤字工事は請け負えない」と守りを固めた総合建設会社(ゼネコン)の姿勢がある。

 話は約3年前にさかのぼる。「施工上の技術やノウハウを早期に設計に反映できる発注方式を検討してほしい」。12年8月、新国立競技場の建設について、日本建設業連合会(日建連)の幹部はJSCに申し入れた。

 公共工事では設計と施工は別々に入札し、建設会社は設計内容に沿って施工するのが一般的だ。日建連が慣行に反する要望をしたのは、設計内容が斬新すぎてコストがかかりすぎるなどのリスクを懸念したからだ。ロンドン五輪のスタジアムでは、建設会社が設計から加わっていたという前例も背中を押した。

 だが、公共工事における公正さを重視するJSCの返答はこうだった。「明治以来、日本の公共事業は入札と決まっている」。設計へのゼネコンの参画を断ったのだ。ゼネコンにとって五輪会場の施工は名誉になる。「技術的に難しくても採算が合わなくても、入札に参加する建設会社はいくらでもある」。JSCにこのような考え方があったのかもしれない。

 だが、東京五輪開催が決まった13年9月、建設業界を巡る環境は一変する。東日本大震災の復興関連工事の本格化に加え、東京都心の再開発に伴う複数の大型プロジェクトが動き始めたのだ。

久々の夏の時代

 建設業界に久々に訪れた「夏の時代」。ゼネコンは採算を見極め、工事を選んで受注できるようになった。人件費や資材費も高騰し、一時は「1週間前の見積もりを修正しなければならない急激なインフレ」(大手ゼネコンの財務担当役員)に見舞われる。

 すでに13年7月の時点で五輪施設のひとつである「武蔵野の森総合スポーツ施設」の1次入札は応札のない「不調」に終わった。築地市場を江東区豊洲に移転する新市場の建設工事などで入札が不調になる事例が目立つようになってきた。

 JSCは焦った。12年11月に新国立競技場のデザインにザハ・ハディド氏の案を選んだとき、整備費は1300億円としていた。だが、人件費や資材費の高騰を受けて13年夏から秋にかけて試算したところ、3000億円との結果が出たのだ。13年11月に規模の縮小などで1785億円に修正した。14年5月には1625億円に再修正した。

 14年8月には「実施設計からゼネコンの知見を生かす」として「技術協力会社」を募る。12年に断った日建連の提案に近い形だ。14年10月にスタンドとグラウンドの本体部分は大成建設、屋根は竹中工務店を選んだ。実質的な施工予定者だ。交渉はゼネコンのペースで進むようになっていた。

 「1625億円の根拠を示してください」。技術協力会社となった大成と竹中はJSCに求めた。しかし「見せてもらえなかった」(ゼネコン幹部)。ゼネコン側が独自に見積もった整備費は3000億円に達した。

 「もっと安くできるはずだ」。金額の引き下げを迫るJSC。「それなら安くできる業者や素材を紹介してほしい」と応酬するゼネコン。大成の山内隆司社長(現会長)と竹中の宮下正裕社長がたびたびJSCに足を運び、直接交渉してきた。ある首脳は「一緒に合理的な手段を考えましょうと一貫して訴えてきた」と話す。

 「スタンドの席数を減らしたら予算はどうなる」「屋根の材質を変えてはどうか」

 大成と竹中の事務方もJSCの矢継ぎ早の要求に対応し続けた。その結果、常設スタンドを8万席から6万5千席に減らし、開閉式の屋根の設置を五輪後に先送りする現行案にたどり着く。6月下旬まで交渉を続けてきた整備費も2520億円でようやく着地する。

難工事は必至

 2520億円のうち、大成の担当する本体部分がおよそ1500億円、残りが竹中の担当する屋根となる。特に屋根は「キールアーチ」と呼ばれるグラウンドをまたぐ独特のデザインで、難工事は必至だ。

 それでもまだ「基本設計はあるが、図面の最終版はない」(竹中の幹部)。工事に移るための図面が完成するのはこれからだ。2520億円という整備費についても「概算でぎりぎり採算がとれるかとれないかのライン」と両社の幹部は語る。現場に近い社員からは「正直きつい。たぶん赤字」との悲観論も漏れる。

 大成と竹中に共通するのは「ゼネコンがごねて値段が上がったと見られるとつらい」との声。他のゼネコンは着実に採算の良い工事を積み上げている。一般論として面倒の多い赤字工事を抱え込む利点は薄い。工事の正式契約はもう少し先になる。ゼネコンとJSCの攻防が「延長戦」にもつれ込む可能性も残る。(藤野逸郎、大林広樹)

【表】新国立競技場のデザイン、整備費を巡る流れ
2012年〓 7月 デザインの募集要項を公表。「総工事費は約1300億円程度を見込む」
      11月 JSCがザハ・ハディド氏のデザインを選定
  13年〓夏〜秋 JSCが総工事費が3000億円になると試算
       9月 東京五輪・パラリンピック開催決定
      11月 JSCが面積縮小などで1785億円に修正
  14年〓 5月 一部見直しなどで1625億円に
  15年〓 5月 下村文科相が舛添都知事に500億円の負担要請。
          開閉式の屋根を五輪後に先送りし、客席1万5000席を仮設にする案を提示
       6月 下村文科相が2520億円、19年5月完成予定と公表

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