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建設、待遇改善遅れたツケ、作業員、就労データ登録に二の足、時間管理徹底で給与減を懸念。

[ 2019年4月10日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 人手不足の解消を目的に作られた建設作業員データベースに登録者が集まらない。2018年6月に登録が始まったが、現在は2万人で今年度目標の100万人にはほど遠い。登録で労働管理が厳格化されれば、時間や日数を基に払われる給料が減りかねないと作業員が二の足を踏む。作業員の給与水準は低く、高齢化も進む。待遇改善を置き去りにしてきた業界の姿が浮き彫りになった。

 4月上旬、大手ゼネコンが東京都内で施工するビルの建設現場。作業員データベース「建設キャリアアップシステム」向けのカード読み取り端末を作業員が素通りして現場に入った。40代の作業員は「名前は知っているが、積極的に使いたいと思わない」と話した。

平均賃金低く

 建設会社が加盟する日本建設業連合会など20以上の業界団体などが活動を支援する建設業振興基金が1月にシステムの運用を始めた。作業員にICカードを配布して就労日数を記録してもらい、保有資格や研修の受講履歴なども登録する。

 建設作業員は業界全体で約330万人で、非正規雇用の契約で働く人が多い。ゼネコンがそれぞれ手掛ける建設現場を渡り歩くことから、技能や経験の蓄積が見えにくい問題がある。業界横断のシステムで作業員の能力を把握すれば、優秀な作業員には報酬を上積みするなど待遇改善につながると期待される。

 待遇を改善して将来の担い手を呼び込もうとゼネコン各社は対応を急いでいる。鹿島は3月までにカードの読み取り端末を455カ所で導入済みだ。大成建設は4月中に約500カ所ある受注額1億円以上の全現場に置く。体制を整えるゼネコンと違い、作業員が及び腰なのはなぜか。

 背景の一つが申請手続きの煩雑さ。作業員が登録するのが基本だが、申請書は10枚と膨大で、現状は9割の申請に不備があり書類を差し戻されている。運営側の処理にも遅れが目立ち、「登録に数カ月かかる例も多い」(大手ゼネコン幹部)。

 建設業界は作業員を社会保険に加入させる取り組みを進め、未加入の作業員を現場に入れない対応をとるゼネコンも増えている。17年秋時点で社会保険未加入の作業員は15%いるが、登録して加入状況が分かれば、働く場所が限られてしまうと考える作業員もいる。

 労働時間が把握されかねないと懸念する作業員も多い。厚生労働省によると、建設現場で働く男性生産労働者の平均賃金は製造業平均から約1割低い。全国建設業協会の調査では6割弱の企業が労働時間に応じて支払われる給与体系を導入する。長時間働かないと実入りが少なくなる作業員にとって労働時間減は歓迎できない。

外国人にも活用

 システムは当面、作業員の就労日数だけで労働時間は記録しない。だがゼネコンは4月施行の働き方改革関連法で5年の猶予を経て残業時間の上限が設けられるため、システムで作業員の労働時間を把握しようと動いている。作業員にとっては受け入れにくい事態だ。

 建設業の17年度の年間実労働時間は2054時間で調査産業の平均から300時間以上長い。元請けを頂点に下請け企業が現場で業務を分担するピラミッド構造だ。これまで末端の下請け企業と雇用契約を結ぶ作業員に目が届かず、厳しい労働環境との見方が広がる。

 そうした認識が若年層の入職を阻み、人手不足に拍車をかけている。19年2月の「建設・採掘の職業」のパートタイムを含む常用の有効求人倍率は5・13倍と、全体の1・54倍を上回る。17年度で全体の34%を55歳以上で高齢化も進む。日本建設業連合会は今後、作業員の大量退職が始まり、20年代に200万人台に減りかねないとみる。

 国土交通省や建設業界が悪循環を打破すべく導入したシステムだが、今の作業員への待遇の悪さが普及を妨げる要因になっている。システムはいずれ外国人の就労管理や不法就労の防止に活用する考えだ。建設業振興基金は審査基準の見直しや書類の記載方法を簡素化して不備率を50%以下に下げる方針だが、改善につながるか不透明だ。

(高尾泰朗、桜井豪)

 ▼建設キャリアアップシステム 建設業振興基金が運用する建設作業員のデータベース。社会保険への加入状況のほか、就業履歴や技能などの情報を蓄積する。作業員個人か、所属する建設会社を通じて登録するとICカードが発行され、工事現場に設置した読み取り機にかざすだけで日々の勤務情報が集約される。外国人労働者の就労状況の把握にもつながる。

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