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コンビニ、消費者なぜ支持?――店増えるほど増す安心感、顧客広がり「飽和」を克服(エコノ探偵団)

[ 2014年7月1日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 「最近、自宅のすぐそばにコンビニエンスストアができたよ。なぜこんなに増えるのかな」。事務所に立ち寄った男子学生の質問に探偵、深津明日香が反応した。「立て続けに出店しても採算が合うのかしら」。早速、調査を始めた。

 「コンビニはどれくらい増えているのですか」。まず向かったのは、小売り、外食やサービス業などが加盟する日本フランチャイズチェーン協会(東京都港区)。直近のデータを調べてもらうと、コンビニの国内店舗数は2013年3月末で約5万店と前年同月に比べ5・5%増。チェーン店の総数は同2・7%増で、コンビニの伸びが突出している。12年度の売り上げをみると、コンビニは約9兆3千億円で前年度に比べ3・9%増、チェーン店全体では約22兆2千億円で同2・8%増。

 さらにセブン―イレブン・ジャパンなど大手4社の公開データを調べると、14年度の出店数は計約4700と過去最高だった13年度(約4200)を上回りそうだ。

全国どこでも同じ

 同協会専務理事の伊藤広幸さん(63)は「コンビニの国内店舗は長期間、増え続けています。地域に根ざした店舗運営と、本部の商品開発力がうまくかみ合い、買い物をしやすい場所として支持されているのです」と説明した。

 「いつまで増えそうですか」。流通業界に詳しい野村総合研究所上席コンサルタントの高木裕之さん(48)に尋ねると、「少なくとも今後数年は増え続けそうです」と語った。高木さんによると、コンビニの店舗数が4万店に達した前後にも「頭打ち」「飽和状態」と指摘されながら、勢いが止まらなかった。「コンビニの歴史は変化の歴史。品ぞろえやサービスを絶えず変化、充実させ、食品スーパーやファストフードなどの利用者も取り込んできました」

 「あまりにもコンビニが増えると消費者に飽きられませんか」と明日香が突っ込むと「消費者がコンビニに求めるのは全国どこでも同じ商品を得られる安心感。個々の商品にそれほど強いこだわりはない人が多いので、飽きられないでしょう」と高木さん。

 経済学では、携帯電話などネットワーク型のサービスを利用する人が増えれば増えるほど利便性や安心感が高まってサービスの価値が上がる現象を「ネットワーク外部性」と呼ぶ。コンビニでもこうした現象が起きているという。

 セブンイレブンにATMを設置しているセブン銀行企画部長の山本健一さん(47)も「コンビニは社会の共通インフラとしても認知されています」と話に加わった。

 「業界では10年後に10万店とみる人もいました」と中間報告する明日香。不満顔な所長は「コンビニ同士の競争激化や、人口減少の影響はないのか」と再調査を命じた。

懸念は人手不足

 次の訪問先は「コンビニエンスストア新聞」を発行する流通産業新聞社の清水俊照さん(51)。「大手4社を中心に空白地帯はかなり埋まってきました。業界全体で6万〜7万店が上限と予測する業界関係者もいます。確かに出店は多いですが、採算が合わずに閉店する店もかなりの数です。今年に入って顕著になっている人手不足の問題も懸念材料です」と解説した。最大手のセブンイレブンは今年度に1600の出店を予定するが、閉店も400を見込む。

 それでも、業界内では強気な声の方が大きいという。清水さんが注目するのはライフスタイルの変化。「利用者はかつては若者が中心でしたが、最近は高齢者の利用も目立ちます。台所で揚げ物などをする家庭が減り、コンビニ商品で間に合わせる主婦も増え、人口減の中でも新たな買い手が登場しています。コンビニ1店舗当たりの商圏が狭くなり、店舗を増やしても採算が合うのです」

「規模の経済」実現

 「コンビニに死角はないのかしら」。気分転換にコンビニでホットコーヒーを買おうとすると、東洋大学教授の加賀見一彰さん(44)が話しかけてきた。「経済学でいう『規模の経済』や『範囲の経済』が働くうちは大手を中心に出店攻勢が続くでしょう。日本の流通史を塗り替えるビジネスモデルを編み出したのです。でも、その前提が崩れるときは必ずきます」

 規模・範囲の経済とは、事業の規模が拡大するにつれ、生産や販売などにかかる費用の比率が下がって収益が向上する状態を指す。コンビニ業界では、総売り上げが増える限りは商品の仕入れ、共同配送、本部による商品や情報システムの共同開発にかかる費用などが「割安」になる。「この段階では出店を続ける方が有利ですが、需要の伸びが止まって飽和状態になると、ゲーム理論の『囚人のジレンマ』と呼ばれる状況になる可能性があります」

 加賀見さんのモデルでは、コンビニA社とB社が特定のエリアで競合する場合、片方だけが店舗を増やすと増やした社に利益が集中する恐れがある。そこで両社ともに店舗を増やすが、利益は現状維持の場合より減る。「各社は、国内市場の飽和を見越して海外展開にも力を入れるなど手を打っていますよ」との説明に明日香は納得した。

 報告後、「コンビニにはほとんど毎日、買い物に行ってます」と話す明日香に、「うちの事務所にも毎日来てくれる依頼人がいればいいんだが」と所長がポツリ。

調査メモから
消費者目線で一躍主役に

 日本の流通業界の主役はめまぐるしく交代してきた。商店街と百貨店が小売業の代表だった1950年代後半に開業したのが総合スーパーの元祖、ダイエー。「良い品をどんどん安く」というスローガンを掲げ、60年代に躍進した。戦後の日本ではモノ不足の時代が続き、商品を安く大量に供給するダイエーは流通革命の主役となった。

 『消費資本主義のゆくえ』の著書がある東京大学教授の松原隆一郎さん(57)は「ダイエーに代表される大量販売の仕組みは70年代以降に徐々に通用しなくなり、消費者が主導権を握る『消費資本主義』に移行した」とみる。日本の流通市場はこの時期に売り手市場から買い手市場に転換したといえる。

 供給過剰の中でいかに消費者に目を向けてもらうか。70年代に開業したセブンイレブンの経営者は、商品の売れやすさは必ずしも価格の高低では決まらないと判断。消費者に支持されない「死に筋」商品を生まない努力を続け、やがて流通業界の主役に躍り出た。

 コンビニの登場から40年余り。日本人の生活にすっかり溶け込み、「ポスト・コンビニ」による流通革命が起きる気配はない。「コンビニは日本経済の到達点だが、我々は倦怠(けんたい)を感じざるを得ないのでは」(松原さん)。日本の消費者はこの先、どこに向かうのだろうか。

(編集委員 前田裕之)

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