JAPAN SHOP 2005 会場レポート<ニーズをふまえ、今後を予測。ソリューション提案最前線。>

「JAPAN SHOP」会場では、店舗づくりや街づくりの現在を細かく分析したうえでの「次なる需要」に向けた提案を知る。日々進歩を遂げているプリンターのメーカーからは、印刷メディアの特性をふまえた、より効果的な販促物に関する具体的な提案も聞くことができる。チェーン店舗の棚割状況をはじめ、遠隔地の情報を画像データの送信で蓄積、編集するシステムを例とする情報共有の新しい方法や、少子化時代の親子連れに向けた配慮など、今後の需要が期待できる品々も様々に目にできた。




開催3日目。3月3日のエントランス風景。


「JAPAN SHOP」会場では、店舗づくりや街づくりの現在を細かく分析したうえでの「次なる需要」に向けた提案を知る。日々進歩を遂げているプリンターのメーカーからは、印刷メディアの特性をふまえた、より効果的な販促物に関する具体的な提案も聞くことができる。チェーン店舗の棚割状況をはじめ、遠隔地の情報を画像データの送信で蓄積、編集するシステムを例とする情報共有の新しい方法や、少子化時代の親子連れに向けた配慮など、今後の需要が期待できる品々も様々に目にできた。


●プリンターの新機軸


広告物やPOPの制作に欠かせないプリンターの新傾向が一望できるのもJAPAN SHOPの魅力だ。各社製品より一例を取り上げたい。


幅2m、厚み44mmまでの各種素材にダイレクトプリントが可能な大型プリンターを出展していたのは住友スリーエム。両面印刷時の絵柄のズレ防止など、精度の高い印刷を実現するべく工夫が凝らされている。透明素材への印刷時に際に有効な白インクも近く販売予定。「環境面への配慮もあって、欧米ではUV硬化プリンターがすでに普及し始めている。日本でも、需要の高まりとともに製品価格を下げることが可能となっている」と同社の製品担当者。




各種素材にダイレクト印刷が可能。今後が期待されるUVプリンター機器より、
写真は住友3Mの大型UVプリンター。


ミマキエンジニアリングでも、自社のUVプリンターで印刷した様々な広告物を紹介、タイルアクリルや石材PET等、多様なメディアへの具体的な印刷事例をブースで展開していた。素材に白インクの裏打を施し、カラープリントと白プリントの高精度な位置あわせ技術をいち早く実現する機器に来場者からは具体的な質問が寄せられていた。使用可能なメディアは600mm×500mm。「小型化した分、割安かとは思うが、価格はもっと下げていきたい」と担当者。


セイコーアイ・インフォテックの新製品は、「幅100インチ」のソルベントインクプリンター。「価格1000万円以下の製品群で可能な限りの高品質を追求した。独自インクの開発によって日本の広告物で頻繁に使われる黒と赤をより美しく印字できるようになり、また、裏抜け防止の不織布(ライナー)を不要にした製品。さらに印刷時間の短縮も目ざした」と同社。「スーパーやショッピングセンター、ホームセンターなど、広告物を社内制作する企業が増加しており、それらの需要にも応えていきたい」。


分散染料インクのインクジェット方式とオリジナルメディアの組み合わせによって高画質、高耐候性の印刷を実現しているノーリツ鋼機では、プリント部と加熱部を独立されたセパレートタイプを発表。プリント作業と加熱作業を平行して行うことができるなど、現場の効率を高める新製品である。




ノーリツ鋼機の展示ブースより。


溶剤インクジェットでは世界初となるDIC標準色認定を取得したのは、武藤工業。このことにより、DIC色を基準に屋外看板等の色彩統一が可能となる。クライアント企業のCIの要求を満足した印刷等では重要な点だ。他に、昇華転写システムも参考出品された。「顧客にとって付加価値の高い、印刷物を実現できる」と同社。有機溶剤取扱主任者を必要としないシクロヘキサノンフリー・インク搭載のジェトプリンターを例とする次世代プリンターの開発も行いながら、印刷メディアの開発や、大判となるほど重量も増すメディアの運搬やセットを一人で可能とするキャリーなど、同社では周辺製品の開発にも余念がない。プリンターの性能向上に向けた研究はもちろんのこと、製品の周辺への配慮が重視される時代であることを知る。


●技術と発想。迅速な対応をサポート


通信機能搭載の専用カメラで撮影した画像を、コンピュータに接続することなくサーバーに送信、インターネット上ですぐに編集可能というCG用画像管理システムを開発したギア・ヌーヴ。そのブースでは、熱心に質問する建設業や流通関係者らの姿を目にできた。「たとえば建設現場の職人さんも簡単に使える操作方法にし、情報の閲覧、編集の方法もシンプルにした」と同社代表。「工事の進捗状況をその都度施主に伝えたい住宅メーカーでの利用も増えている」。情報の迅速なやりとりを必要とする企業での需要のほか、チェーン店舗の棚割状況の連絡・分析など、幅広い可能性を含んでいる。




撮影後、ボタンを押すだけでギア・ヌーヴのサーバーに
送信可能な専用カメラ(130万画素)。
最近では専用携帯電話も開発されている。


エプソン販売の「DPP(デジタル・プロモーション・ポータル)」も、今後の可能性を強く感じさせる一例だ。ハイエンド・モデルプリンターからビジネスプリンターまで、印刷機器での実績を有する同社が、情報コンテンツやアプリケーションソフトに着目。インターネットを介しての情報提供によって、店頭配布のレシビカードの作成やPOP制作など、販促ツールのオンデマンド印刷を可能としている。「レストランやホテル、流通業界など、印刷物や演出小物を社内制作する企業が増えている」と同社。ハードとソフトの融合によって店舗現場のニーズにより細やかに応えるソルーションの好例を知る。



 
販促業務を支援するエプソン販売のDPP。


●店舗や施設で不可欠な子ども連れの配慮


改正ハートビル法の施行によるバリアフリー化の義務規定、各自治体における福祉のまちづくり条例施行など、少子高齢化社会に向けた取り組みが様々に進んでいる。子ども連れに配慮した店舗づくりや環境づくりは今や不可欠だ。コンビウィズは、今回、ベビー休憩室の提案として、限られたスペースにも設置可能な「ミニベビー休憩室」を発表していた。2m×2mの空間に、おむつ替えシートやベビーキープ、浄水器・温水器つきシンクなどが収められたセット空間。長時間の授乳にも疲れない専用チェアなど、快適性を重視したデザインだ。



 
写真左:ミニベビー休憩室。
左の授乳チェアは、子どもが落ちないよう、親の膝が自然に高くなる。
写真右:製品デザインでは居住性を徹底研究。「快適なら、落下などの思わぬ事故も防げる」。


スーパーマーケット等での利用を主な対象に、人気アニメーションのキャラクターを用いた子ども用乗用玩具付きショッピングカートを製造しているオークスでは、今年夏以降に発表予定の新製品をいち早く披露していた。「子ども連れのお客様が時間にとらわれずに楽しく買い物できるように考えたもので、既存製品はドラッグストアなどからも需要がある。通路幅が限られる商業施設や買い物カゴを必要としない施設など、幅広い業態での需要に応えていきたい」と同社。


JAPAN SHOP会場では、他に、フレーベル館や西尾レントオールなどからも子ども向け製品が紹介されていた。親子連れが快適な時間を過ごせる店舗、環境づくりが急務とされる少子化時代。そのために開発される製品の幅が拡がっていることを知る。


●多様化するニーズ応える提案力


他にも気になった商品をいくつか挙げておこう。ひとつが、川島企画販売の和紙。「設立は平成5年。ショールームを設けたのは2年前」という若い企業だが、建築家やインテリアデザイナーらから個別デザインの注文も寄せられ、飲食を中心とする店舗等での実績を多く持つ。若い社員が、自社工房の熟練した工芸師らと連動しながら、新しい和紙の製造に励んでいるそうだ。「四重、五重と重ねて漉く和紙は、光と組み合わせると深みのある表情が出る。こうした特性を楽しんでくれる建築家やデザイナーからの注文が増えている。和の素材に興味を持つ若いデザイナーも多い」と同社の開発担当。




和紙の魅力を改めて伝える。
各種光源との組み合わせで飲食店舗に用いられることも多い。


住友3Mのブースで紹介されていた「アクティブフロアサイン」は、床面に投影される映像に来場者が働きかけることで、画像や音響を変化、動作させることのできるインタラクティブな情報提示コミュニケーションシステムだ。赤外線カメラを用いて映像上の遮蔽物の位置座標をセンシングし、その情報をもとにPC上で映像処理を行う。「対話型のフロア広告も可能となる。新しいサインのあり方を提案していきたい」と同社。




3Mではコンテンツの開発まで手がける予定。今春販売予定。


プリントメディアの特性をあわせて提示しながら、制作物の効果をより細かく紹介するプリンター・メーカーや、オンデマンドによる業務サポートのあり方を具体的に提示する企業など、技術力を背景に開発された自社製品を軸として、広く今後の可能性の提示に積極的な企業の姿勢が会場では目立った。


人々のニーズはますます多様化している。専門性の探求と同時にマクロの視点で社会に向かう姿勢が、店舗や環境づくりに向けた最新のソリューションとして、今後さらに求められるだろう。幅広いニーズに応える製品づくりを可能とするのは、専門性の探求と同時に広く社会に向けられた視点なのである。次なるニーズをいち早く掘り起こせるのもその視点があってこそ。こうしたことを改めて考えさせられる展示が多かった。


 (川上典李子/デザインジャーナリスト)