JAPAN SHOP 2006 会場レポート~その1~

 新しいショップデザインや店舗向け新商品・新システムを紹介する、アジア最大級の店舗総合見本市「JAPAN SHOP」(第35回)が、今年も「東京ビッグサイト」で開催された。




展示会場エントランス


 本格的なユビキタス・ネットワーク社会を迎え、消費者が求める情報の量や質はますます高まる傾向にある。こうした状況は店舗デザインのあり方を大きく変えようとしているようだ。例えば什器や床壁天井の建材、照明器具が、単純に視覚的な意匠としてのみ捉えられるのではなく、空間情報を表現する機能を併せ持っていたり、コミュニケーション装置や情報システムの一つとして機能していたり。今年の「JAPAN SHOP」ではこうした傾向が「実感」として体験できる展示が多い。同時に、什器のデザインや床、壁の装飾材など、視覚的なデザインが多様化しているのはもちろん、どんどん洗練されている様子も窺えた。

 今日は「JAPAN SHOP」初日の会場から、特別企画「次代を彩るLED Next Stage」の展示概要や新商品、システムなどのトピックスをレポートする。


発光ダイオード(LED)が導く商環境の未来




LED照明光から情報を受信


 「電球はスイッチを切るとフィラメントが次第に暗くなり消灯されますが、LEDは電流の有無で速やかに点灯、消灯する特長があります。この特質を活かすと、1秒間に14000回もの明滅が可能で、つまり光で1.4K bit/sの情報を伝えることができるわけです。おそらくLEDの開発当初よりこうしたアイデアはあったと思います。技術的にはもう実用段階に達していますよ」。

 特別企画「次代を彩るLED Next Stage」企画展示の担当者はこう説明する。LEDなどの光を使った情報の送受信は「可視光通信」と呼ばれている。この企画展示には"21世紀のあかりとコミュニケーション"というサブタイトルがついているが、まさに「照明=コミュニケーション装置」となる未来が実体験できる機会と言っていいだろう。1秒に14000回の明滅は、肉眼では一般の「照明」とまったく同じように見える。しかしこの「照明」の光の範囲で可視光受信端末を使うと、さまざまな情報が端末のディスプレイに表示されるというシステムだ。照明は建築の内外に広く存在しているものなので、その光源をLED化して「情報発信」に利用すると、情報があちらこちらに存在するユビキタス社会が実現されるというわけだ。しかも光は目に見えるので情報が伝わる範囲も分かる。赤、青、緑、それぞれの光に異なった情報を載せることもできる。


バーのカウンター照明から小説をダウンロードして

飲み物の待ち時間を使って読書を楽しむことなどもできる。


ショッピングカートに搭載した可視光受信機でビビッドな売り場情報を入手。

光色のチャンネルによって提供情報を分けられるので、

例えば一般向けとは別に会員向けに特定情報を提供することも可能だ。



照明に受信端末をかざして音声情報を受信することも。


 LEDは小型なのでプライスタグや名札などにも取り付けることもできる。可視光通信は店舗開発でさまざまな活用方法が考えられるシステムだ。近年LEDが注目されるようになったのは、エネルギー効率が非常に高いので他の光源と比べ消費電力が少なく、長寿命であることが省エネの観点から評価されたためである。例えば最近、交通信号機の光にLEDが使われているが、従来の電球の75Wに対して15Wと、消費電力量が大幅に削減されている。このほか視認性、指向性に優れているという特質もLEDにはあり、光源が小型で光学的制御も容易なことから今後、店舗用の照明としてどんどん導入されていくだろう。各メーカーも器具の開発に力を入れていて、企画展示に隣接する照明器具メーカー、光源メーカーの展示ブース(52社)ではLEDを使った新製品が数多く紹介されている。


東芝ライテックなど照明メーカーからは

LEDを使った照明器具や光源が数多く発表されていた。


LEDを組み込んだディスプレイ什器と演出システム


 一方、什器やディスプレイ用の素材にもLEDを使った新システムがいくつか紹介されていた。照明メーカーの小泉産業は4ミリ厚の透明ガラスにLED48灯をサンドイッチした装飾照明用ユニット「GLASS LEDs SERIES」を発表している。配線の代わりに透明な金属酸化膜をガラスに挟み、そこに通電させることで発光させるシステム。完全なシースルー化を実現している点がユニークだ。基本ユニットは450ミリ角で約5kg。中央に1WのハイパワーLEDユニバーサルスポットを取り付けたユニットもあり、ディスプレイ什器の照明内蔵棚板として使うこともできる。同製品は参考出品。


モニターカバーに使用した小泉産業の例。

ガラスユニットを留めるメタルケーブルに12Vの微弱電流が流れていて、

ここからLED点灯用の電力を得る。


 アクリル製の棚板の側面に極細蛍光管を組み込んで、棚板全体やエッジ部分を発光させる什器は目新しいものではないが、この蛍光管の代わりに白色LEDを使ったディスプレイ什器がいくつか発表されていた。戸谷染料商店が開発した「LEDライトS」は15ミリの薄型で、光源が組み込まれている部分が熱くならない、ムラなく均一に面発光するなどの特長があり、棚板やサインボードなどに展開が可能だ。




戸谷染料商店の薄型LED什器


 吉川化成は小型光源であるLEDの特長を活かし、軽量プラスチックレンズと組み合わせた面発光照明を開発。重量はわずか105g。3.7ミリの薄さの超軽量小型照明「YP PANEL P300W」(313×86.1ミリ)だ。両面テープを使い棚裏に取り付けディスプレイ照明として使うことができる。携帯電話のディスプレイに使われているバックライトの技術を照明器具に転用したもの。




吉川化成の面発光照明


 業務用の音響照明器具の開発、輸入などを行っているグラフィカは、次世代LEDパネルを組み合わせた、現代アートを思わせるクオリティの高いライティングウォールを展示。光で演出される環境グラフィックスを体験できる。このシステムはコンピュータにより制御されており、応答性が良いLEDが可能にしたシステムと言えるだろう。演出パターンはオリジナル・プログラムを制作することもできる。

 
グラフィカのライティングウォール。

表示のピクセルは荒くなるが、ビデオ映像を再生することも可能だ。


ドイツ生まれの超ミニマルなディスプレイ什器


 注目はLEDだけではない。店舗什器専門メーカーもエコロジーやデザイン性に重点をおいた新アイテムを「JAPAN SHOP」で初公開している。ここでは洗練されたデザインのシステム什器と、電子タグで商品・在庫管理ができるガラス什器を紹介する。エコロジカルな製品については明後日の記事で改めて紹介したい。

 ドイツのバウハウス大学との共同研究・開発されたディスプレイシステムが「JAPAN SHOP」で初お目見えとなった。カワノが輸入販売する「SYSTEM2040」だ。このシステムの最大の特長は、正面から見るとアルミフレームの壁面とガラスの棚板だけという端正でシンプルな構成だ。棚板を左右から支える支柱や側板、棚下の支持金物が見当たらない。飛散防止フィルムを貼ったガラス板をフレームで挟み込み裏側で固定するシンプルな構造で、ブラケットを移動することで棚位置を自由に移動できる。壁面背後に必要な懐の奥行きは40ミリ。棚板の存在感を最小限に抑え、逆に商品や展示物を最大限に際立たせるシステムと言える。アルミフレームにはガラス棚のほかにボックスを取り付けることができ、オフィスや住宅の壁面収納の新しい提案も可能だ。ドイツ本国では既に大手ヘアサロンでの納品実績があり、日本での展開に当たり免震パーツも標準装備されている。




壁と棚板だけの超シンプルな構成が美しい。


 板ガラスメーカーの大手、日本板硝子は電子タグ対応アンテナが組み込まれたガラスシェルフ「スマートグラシェル」を発表している。自動車のリアウインドウにラジオやテレビ受信用の極細ワイヤ・アンテナが内蔵されているものを見たことがあると思う。この棚板も仕組みは自動車用ガラスと同じ。商品に取り付けられた電子タグを棚板のアンテナが読み取り、商品がどの棚に何個置かれているかが常にコンピュータモニタ上で把握できるシステムだ。会場ではその応用としてガラスシェルフの隣にコンピュータ画面をプロジェクションして、棚板から商品を取り外すと、その商品の情報が画面に表示されるプログラムがプレゼンテーションされている。


商品を取り出すと価格、メーカー名、商品についてのコメントなどが表示される。

また商品を別の棚に移動すると瞬時に在庫一覧表も更新される。


 3月9日には環境問題に配慮したサスティナブルな新製品と、会場で公開された店舗向けサイン、グラフィックス、プリンターなどの最新情報などを紹介する予定。


 文/橋場一男(編集者)