JAPAN SHOP 2007 会場レポート

去る3月6日(火)〜9日(金)、東京ビッグサイトで開催された「第36回店舗総合見本市 JAPAN SHOP 2007」は、同時開催展との合計で、過去最多の264,717人を記録し、大盛況のうちに幕を閉じた。今やアジア最大級の店舗総合見本市であり、その会場内には、ショップデザインの未来を感じさせる新製品・サービスに、来場者の注目が集まった。このレポートではJAPAN SHOP 2007の展示や製品のトピックスを紹介し、進化し続ける店舗デザインの新潮流を捉えてみたい。




多くの来場者で大盛況であった「JAPAN SHOP 2007」会場風景。



エントランスにて来場者を迎えた、「ハッピーツリー」をコンセプトにした
華やかなウエルカムプレゼンテーション。


和風から本格的な"和"へ。


 ショップデザインのトレンドとは関係なく、時代を超えて愛されているデザイン要素が"和の表現"だろう。日本人に馴染み深く、好みに適っていることはもちろん、和の新解釈による新鮮な表現や、伝統素材の持つクオリティーが店舗空間をより豊かに演出するからだ。しかし日本の伝統素材は、施工上の基準をクリアしていないため、店舗空間では使えないケースが多かった。そのため伝統素材のテクスチャーを模した和風仕上げ材や和風建材が数多く開発され、多くの店舗に採り入れられていった。しかしその状況もこれからは変わっていくだろう。JAPAN SHOPでは、越前和紙や加賀友禅、京友禅、塗、土壁......など、日本の伝統工芸側から店舗向けの新素材の提案が積極的に行われていたからだ。"和風"ではなく"本格的な和"がショップデザインのマテリアルとして登場となったわけだ。和の表現はさらに進化するかもしれない。


 越前和紙の五十嵐製紙と加賀友禅の工房久恒は、ガラスメーカーとの共同で和紙の質感や友禅模様の色合いをそのままに、ガラスに樹脂コーティングした内装材を発表した。素材をガラスでサンドイッチしたものは既にあるが、今回発表された製品は1枚のガラスに練り付けたものなので、軽量で薄くすることができる。障子の代わりに使うことも可能だ。また、五十嵐製紙は不燃加工を施した壁装用和紙もブース内に展示していて、その手触りは通常の和紙とほとんど変わらない。


 京都染匠倶楽部のブースでは京友禅をガラスに挟み込んだ「京友禅硝子」、好みの木の葉や草花をガラスにサンドイッチできるオーダー装飾ガラス「ピアンタグラス」を紹介し注目を集めていた。


 塗り壁材ジョリパットで知られるアイカ工業は、そのジョリパットに日本古来の6種類の色土を加え、日本の伝統的な土壁の質感と色などを再現する「ジョリパット素材シリーズ 爽土(そうど)」を発表している。伝統的な左官の技を思わせる表現力を持ち、施工性の良さと相まって、本格的な和表現の仕上げ材として注目されるのではないか。


 こうした傾向は素材だけではなくインテリアエレメントの意匠にも見ることができる。例えばインテックは漆塗りで仕上げた、高級感のある洗面ボウルを自社ブースで発表していた。下地はデュポン社のコーリアン。コーリアンは耐酸性、耐候性に定評があり、漆との相性も良いと言う。既製のコーリアン製ボウルを漆で仕上げるなら納期は約2週間。そして和風素材の先駆者と言えるワーロンは、自社製品と照明を組み合わせた美しいインスタレーションを展示していた。また、林工芸は、スタンド式の和紙照明が、ちょっとしたアクシデントやいたずらなどで簡単に破れてしまう欠点を、和紙のクロス補強によって改善。破れにくい和紙シェードを使った照明器具を提案していた。本格的な和の意匠や質感を、より気軽に商環境に用いることが可能になってきた。




工房久恒の加賀友禅をガラスに樹脂コーティングしたパネル。
薄くて軽量なので応用範囲は広い。



不燃和紙を展示していた五十嵐製紙



京都染匠倶楽部の装飾ガラス


日本の伝統的な土壁の質感と色を再現した
アイカ工業の新しい塗り壁材



インテックの人造大理石の漆仕上げの洗面ボウル。



ワーロンの光のインスタレーション。
和紙のような柔らかな透過光がしっとりとした空間をつくり出す。



林工芸のクロスで補強した破れにくい和紙シェード。


デザイン表現の自由をもたらす
ハイデザイン什器


 売り場のデザインはいきおい什器のデザインになりがちだが、ブランドのアイデンティティーや商品を浮き立たせるためには、むしろ什器は存在を感じさせないデザインが求められるようになる。しかし什器を極限までシンプルにするためには精度と技術が必要になる。アルミ製の壁面ユニットのスリットに、棚板やフックを差し込んで使うブラケット什器は、自由度の高さはもちろん、支持金物を小さくできることで空間自体がすっきり美しく整えられることで人気が高い。今年のJAPAN SHOPでは、その究極の什器を追求した製品が玉俊工業所から発表された。同社が新たに開発した「HANG LINE」には棚受けの金物がなく、板がそのまま壁面に差し込まれているだけ。3ミリ厚のスチール製棚板で耐荷重は10cm当たり約10kgを誇る。スリットと棚板だけという最小限の形だけが残り、視覚的にじゃまなパーツがなくなることで、店舗環境のベースとなるインテリアデザインの自由度も高くなるはずだ。究極の什器システムと言えるだろう。


 一方エム・ビー・エージャパンではアルミシステム部材とストレッチ素材を組み合わせた、三次曲面の有機的な面が美しい、柔らかな印象のパーテーションを発表している。ストレッチ素材は透光性があり、繊維に乱反射した柔和な透過光が目にも優しい。質感も良く、オフィスや店舗にユーザーフレンドリーな雰囲気を創出することができそうだ。軽量なのでフレキシビリティーが求められる売り場の間仕切りや、オフィスの接客ブースなど応用範囲は広いのではないか。




壁面ディスプレーの可能性を追求した玉俊工業所のシステム。



エム・ビー・エージャパンのパーテーション。
アルミ部材とストレッチ素材の組み合わせは店舗やオフィスを柔らかに演出。


プリンターは成熟期へ。
スピード&ユニバーサルデザイン。


 今やショップデザインやサインデザイン、店内演出のための必須ツールであるプロ向けの大判出力プリンター。その最新情報を一気にアップデートできるのもJAPAN SHOPが人気の理由の一つだろう。今年の結論から言うと、大判出力プリンターは各社とも技術的には成熟期を迎え、これからの差別化のポイントには、価格、スピードに加え、ユニバーサルデザインなども挙げられそうだ。その例をいくつか紹介したい。


 セイコーアイ・インフォテックから新発売となったソルベントインクジェットプリンタ「ColorPainter 64S Light」は、高速ヘッドによるプリント速度のアップが実現されていると同時に、ヘッドトラブルがプリンターのアクシデントとして多いことに着目し、ユーザーが工具なしで簡単にヘッド交換できるヘッド着脱機能を採用。夜間や休日にトラブルが発生しても、予備のヘッドと交換することでサポートスタッフやオペレーターの到着を待たず、作業を進めることができるよう考えられている。


 また、プリント&カットが同時にできる省スペースの大判プリンターで知られるローランド ディー.ジー.も、新製品にはダブルヘッドを採用してプリント時間の大幅短縮を図るとともに、操作部分を20センチ下げ作業性の向上を強調している。これは大判プリンターの操作は女性スタッフが行う例が多く、女性にも使いやすいデザインを見直した結果だと言う。いずれも単に性能を競うだけでなく、ユーザーの立場の細やかな視点で開発が行われていることが見て取れる。




セイコーアイ・インフォテックはユーザーが使いやすい
ヘッド着脱機能付きのプリンターを紹介。



女性にも使いやすいデザインの
プリンターを紹介していたローランド ディー.ジー.。


集中管理と低コストで一気に進む
ショップ空間のメディア化。


 今回の注目出展ブースとして挙げられるのはデジタルサイネージと呼ばれるシステムとその関連プロダクツだ。間違いなくJAPAN SHOP 2007の新傾向と言うことができる。デジタルサイネージとは店頭のディスプレーモニターを使い、来店客にさまざまな情報を提供したり、製品情報をピンポイントで紹介するなど、映像情報を用いた店頭マーケティングシステムだ。欧米の大型店やショッピングモール、フードコート、公共空間などではかなり普及していて、日本でもコンビニエンスストアや量販店の店頭などで見かけることが多くなっている。


 わざわざモニターを設置する場所を設けなくとも、店頭の内照式のサインパネルの一部をディスプレーモニターに置き換えると、固定の情報ではなく、そこに表示できる画像や映像を、時間帯や顧客に合わせて自由に変えることができる。同システムの出展社の一つ、COMELの場合は、コンテンツはセンターサーバーで集中コントロールされインターネットで配信される。そのためコンテンツ更新や管理の心配も無用だ。そのほか、ICタグを応用すれば、商品を手にとると、その商品に関する情報映像を提供できるなど、インタラクティブなシステム構築も可能になる製品も紹介されていた。


 デジタルサイネージは、軽量薄型モニターの普及とインターネットのブロードバンド化によって実用化に至った、まさに旬の、店舗向け新システムと言っていい。


 広告効果が期待できる集客力のある商業施設や公共施設では、デジタルサイネージは一気に普及しそうな印象だ。店舗デザインの新トレンドとなるのではないだろうか。ショップデザイナーは今後、こうしたシステムのモニター周りの意匠やレイアウト、ICタグの応用などを含めた『ショップ メディア デザイン』のスキルも求められるようになるだろう。




コメルによるデジタルサイネージの提案



明和産業(協力:デジタルスカイ)のブースで紹介されている
デジタルサイネージの提案。
小型ディスプレーで商品情報を多角的に発信する。


 このほか、進化を続けるLED(発光ダイオード)と、写真などを立体的に見せたり、絵柄の動きの演出に用いられるレンティキュラレンズ(かまぼこ型の凸レンズを一列に並べた特殊レンズ)の精度向上により、強力なアイキャッチ・デザインの可能性が感じられる展示も多かった。LEDを使った大型映像装置を展示するエフェクトメイジ、ヒビノ、シミズオクトの3社が並ぶ一角は、LEDによる演出照明がアーティスティックなエンターテインメントであることを実感させた。


 また、細かなレンズ加工が施された透明シートを使い、バックライトで立体的なパターンを浮かび上がらせる美濃商事のオブジェ「ミノハート3D」は、平面なのに不思議な奥行き感があり、思わず手を触れてしまう。この素材はライティングテーブルや照明のシェードに使われているが、デザイン次第では様々な可能性があるだろう。アロンズはレンティキュラレンズで立体視加工されたシートの背後から映像を照射して、立体写真と映像を組み合わせたディスプレーを発表していた。ガラスや透明アクリルの両面に白色のドットをプリントして、片面をずらすことで視覚的な面白さを演出する、リンテックの技術も注目だ。視覚的な面白さという、人の目を集め、楽しませる原点が見直されることになるかも知れない。




ヒビノのLEDパネルを使った大規模な照明演出



美濃商事の照明内蔵テープルに使われている「ミノハート3D」



アロンズの立体写真と映像を組み合わせたディスプレー



文字がすべてドットで構成されているリンテックの透明アクリル。



最新のデザイン・トレンドがわかりやすく展示されていた
空間デザイン機構のブース


 また、空間デザイン機構((社)日本ディスプレイデザイン協会/(社)日本商環境設計家協会/(社)日本サインデザイン協会/(社)日本ディスプレイ業団体連合会)により、ディスプレイデザイン賞、JCDデザイン賞など各種デザイン賞の受賞作品パネルが一同に紹介された。デザイン・トレンドのチェックが"ワンストップ"でできたため、デザイン・建築関係の来場者に好評だった。次回のJAPAN SHOPにも店舗デザインをリードするイベントとしてさらなる注目が集まるだろう。2008年は同じく東京ビッグサイトにて3月4日(火)~7日(金)の開催が予定されている。


文/橋場一男(編集者)