JAPAN SHOP 2009 会場レポート

第38回店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2009」が、去る3月3日~6日、東京ビッグサイト(東京・有明)の東4・5ホールで開催され、同時開催の「建築・建材展2009」と合わせて、142,467人、同時開催6展で236,740人の来場者数を記録した。期間中、東京は雪が舞う悪天候続きだったことを考えると、この見本市への注目の高さが窺える数字と言えるだろう。個人消費はGDP全体の約55%以上を占めていると言われ、経済全体に与える影響が多大であることは言うまでもない。集客のために、より魅力的な商環境の創出は不可欠であり、店舗デザイン・開発のための新製品、新技術が一堂に会する「JAPAN SHOP」の会場は、例年より一層の熱気を帯びていた印象を得た。
展示全体から感じられたことは、さらなる環境負荷の軽減を図るための提案だ。リサイクルの考え方に関しては、単に再利用しやすい素材を使うという視点を超え、具体的なリサイクルの方法を提案する企業も見られた。また、消費エネルギーの軽減は既に常識化しており、単なる削減数値の表示にとどまらず、省エネでいかに魅力的な演出を行うかという提案が中心になってきた。そのほか、フルカラーLEDによる照明演出や、現場で自在に商品陳列のスタイルを変えることができるシステマチックな什器など、売り場の環境を、季節やイベントに応じて自在に変容させるシステムも目にとまった。市場の動きに、より迅速に対応できる店舗空間が求められていると言えるだろう。本稿ではそれらの傾向を具体的に紹介したい。

JAPAN SHOP 2009の会場風景。海外からの来場者の姿も多かった。

JAPAN SHOP 2009の会場風景。海外からの来場者の姿も多かった。
JAPAN SHOP 2009の会場風景。海外からの来場者の姿も多かった。

廃棄物と温暖化ガスを減らすサインのリサイクルシステム

大規模店舗では、大判の布張りサインボードやバナーをファサードや吹き抜けなどに掲示して、イベントや新製品情報などを広くPRするマーケティング手法が定番となっている。セーレンは、独自の技術で布にフルカラー染色を施し、オリジナルの絵柄でバナーやサインボードを企画・製造する〈ビスコテックスプリント〉で知られている。こうしたバナーは、掲示期間が終わると産業廃棄物として埋め立て処理される例が多かったが、今回の「JAPAN SHOP」でセーレンは、再生資源利用システムを使ってリサイクルする「ビスコテックス リサイクル シート」を発表し、企画、施工から回収、再利用までの大きな仕組みを提案し注目を集めていた。〈ビスコテックス リサイクル シート〉により製作されたバナーは、掲出後に同社が回収し、検査判定後、特殊処理により同社内にて再利用される。あるいは、ケミカルリサイクル処理を施し、ポリエステル原料への再生を行うというシステムだ。これにより、廃棄物が少なくなり、資源の再利用が促進されるのはもちろん、従来の廃棄処分で排出されていた二酸化炭素の量も軽減できると言う。リサイクルが難しいと言われていた広告幕の再生にチャレンジした同社の取り組みは、環境への関心が高い企業や店舗から支持されるのではないだろうか。

〈ビスコテックス リサイクル シート〉によるサインのリサイクルシステムで注目を集めたセーレンのブース。
〈ビスコテックス リサイクル シート〉によるサインのリサイクルシステムで注目を集めたセーレンのブース。

光、映像、香りの変化で消費者にインパクトを

注目の新光源LEDに関する関心は今回も高く、日本ビジュアルマーチャンダイジング協会の特別協力による「JAPAN SHOP」のエントランスを飾るウエルカムプレゼンテーション「未来都市・Towers」にも、光色を自在にコントロールできるLEDが効果的に用いられていた。また、素子の性能進化と合わせて、使い方もより洗練が進み、情報表示や演出でユニークな使い方をしている製品も現れた。エー・ジー・クルーが取り扱う、ドイツ・グラスプラッツ社の〈パワーグラス〉は、LED光源を透明ガラスに挟み込んだ演出用のハイテクガラス製品として知られている。同社が今回発表した〈パワーグラス〉の新製品はさらに改良が進み、LEDを発光させるための通電用のワイヤーがまったく見えないため、光の点が中空に漂っているように見えるもの。同時に、LEDの明滅させることで、透明ガラスに文字情報やパターンを光の点で描き出す情報表示システムも発表している。LEDには、単なる光源を超えたさまざまな進化の可能性があることを、私たちに実感させる新製品だと言える。空間演出の主役であった映像機器にも、ガラス建材と一体化した注目の新システムがある。浜新硝子のブースに展示された〈GLAS LUCE〉だ。ハーフミラーの内部に液晶画面を収め、モニターのスイッチを入れるとミラーの中に映像が浮かび、映像を消すと普通の鏡面に戻る、機器の存在感を完全に消し去った究極の映像システムだ。ミニマルなインテリアや、鏡を使う美容室、ホテルのバスルーム、展示施設など、幅広く応用できる新製品と言えるだろう。デジタルサイネージの新しい動きとして目にとまったのは、映像と、アットアロマの〈アロセントマルチ〉の香りを組み合わせた〈香るサイネージ〉だ。NTTコミュニケーションとの共同開発によるこのシステムは、表示映像や告知情報に合わせた香りを発生させ、消費者や来店客の視覚と臭覚に訴えかけることで、より強いインパクトを与えることを意図している。近い将来、店舗デザインの領域は視覚、音響を超えて、香りのジャンルや後述する温熱環境まで拡大するかも知れない。今年の「JAPAN SHOP」では、その萌芽が感じられた。

「JAPAN SHOP 2009」のウエルカムプレゼンテーション。糸電話を連想させるペーパーカップの集積による「未来都市・Towers」。ディレクションは朝比奈保、河野聡子の各氏。デザインは山田 祐照氏。

「JAPAN SHOP 2009」のウエルカムプレゼンテーション。糸電話を連想させるペーパーカップの集積による「未来都市・Towers」。ディレクションは朝比奈保、河野聡子の各氏。デザインは山田 祐照氏。
「JAPAN SHOP 2009」のウエルカムプレゼンテーション。糸電話を連想させるペーパーカップの集積による「未来都市・Towers」。ディレクションは朝比奈保、河野聡子の各氏。デザインは山田 祐照氏。

エー・ジー・クルーが取り扱う、ドイツ・グラスプラッツ社の〈パワーグラス〉。LED光源を透明ガラスに挟み込み、光の点が浮いているように見える。
エー・ジー・クルーが取り扱う、ドイツ・グラスプラッツ社の〈パワーグラス〉。LED光源を透明ガラスに挟み込み、光の点が浮いているように見える。

デジタルサイネージにアットアロマの〈アロセントマルチ〉の香りを組み合わせた〈香るサイネージ〉
デジタルサイネージにアットアロマの〈アロセントマルチ〉の香りを組み合わせた〈香るサイネージ〉

変化に柔軟に対応できる製品が売り場の活性化を促進

店舗用什器では、什器の存在感を消して商品を浮かび上がらせることと、より簡便な変更や配置換えの二方向で新しい動きが見られた。岡村製作所が昨年から取り扱いを始めた、ヨーロッパのトップブランドの一つでもある、スイス生まれのモジュラーシステム〈Visplay〉は、 Invisible design=インビジブルデザイン(見えないデザイン)が開発コンセプト。モダン家具やオフィス家具で知られるVITRA社の店舗什器部門が開発したシステムである。〈Visplay〉は、モジュラーに取り付けられた棚板やブラケットを簡単な操作で移動可能で、実際にパーツの着脱を試してみると、棚板やフックの画期的な固定方法や安定感、研ぎ澄まされた支持金物、ネジ頭の意匠などのディテールデザインの細やかさに驚く。一方、注目の新進デザイナーユニット、トネリコが展示デザインを手がけた玉俊工業所では、1986年製造開始のロングライフデザイン什器〈HANGLINE19〉を改良し、棚受けブラケットをより目立たなくしたリニューアルモデルを発表した。いずれも、店舗空間における什器自体の主張をできるだけ小さくする工夫と、システムの多様さや可変性の高さが魅力だ。特に可変性は、店舗空間に常に動きがあり、いつ来てもどこか新しい、生き生きとした雰囲気の創出に力を発揮しそうだ。
現場主導による柔軟な対応という点では、ローランド ディー. ジー. の提案も見逃せない。今回は同社が全国で展開しているクリエイティブセンターを「JAPAN SHOP」会場に再現し、プリント&カットのプリンターやカッティングマシン、彫刻機を活用して、これまで外注していた店舗オリジナルの食器やギフトアイテムを内製化する提案を行っていた。仕上がりも非常に美しく、コストダウンとともに、納期短縮でスピーディーなマーケティングが可能になる。特に、ワインボトルやグラスなどのガラスや金属に彫刻や名入れができる彫刻機が会場内で注目を集めていた。

Invisible design=インビジブルデザインのコンセプトで設計されたスイス生まれのモジュラーシステム〈Visplay〉。岡村製作所ブースにて。
Invisible design=インビジブルデザインのコンセプトで設計されたスイス生まれのモジュラーシステム〈Visplay〉。岡村製作所ブースにて。

実力派若手デザイナーユニットのトネリコがディスプレイデザインを手掛けた玉俊工業所ブース。
実力派若手デザイナーユニットのトネリコがディスプレイデザインを手掛けた玉俊工業所ブース。

オリジナルの食器やカトラリー、お客さまへのギフトの内製化を提案するローランド ディー. ジー. のブース展示。コストダウンと即時対応が可能に
オリジナルの食器やカトラリー、お客さまへのギフトの内製化を提案するローランド ディー. ジー. のブース展示。コストダウンと即時対応が可能に

店舗用建材の新傾向

会場では、どうしても新しいデジタル技術や設備に目が向かいがちだが、建材や部材など、実際に空間を形づくる店舗用マテリアルのユニークな新製品も看過することはできない。中川ケミカルは、12色相×3階調(25、50、100%)と白黒×3階調の計42色からなる透明装飾用シート〈IROMIZU〉で自社の展示ブースを構成し、透過光が美しいクリアな環境をつくり出していた。〈IROMIZU〉を貼った透明ガラスを複層させると、店内への採光や見通しを損なわず、カラーアクリルを重ねたような繊細で透明感のある色の世界を、シートの貼り込みだけで創出できる。応用範囲は広そうだ。
今年、総合壁装材のカタログを3年ぶりに刷新したサンゲツは、本物の漆や漆喰、珪藻土といった伝統的なマテリアルを付加したクロスを発表している。こうしたクロスは、例えば漆喰クロスは漆喰の調湿や抗ウイルスの効果を発揮するなど、素材がもともと持っている固有の性能や機能も期待でき、適材適所で素材の力が生きる製品と言える。このほか、スワロフスキーのクリスタルビーズを使ったゴージャスなクロスも注目を集めていた。また、和のインテリアには欠かせないワーロン紙を手掛けるワーロンでは、個性的な和風空間をつくり出す工芸和紙シリーズ〈The Next Wa-fu〉に、スサ入り和紙、波落水、荒雲竜などの7柄を追加している。この両社からは、リアルな素材を加工転用することで、クオリティの高い店舗空間づくりに貢献しようとする姿勢が窺えた。本物の素材という意味では、400年以上の伝統を持つ会津塗を、ガラスや金属などに展開するユーアイヅを忘れることはできない。漆仕上げには安定した平滑な下地が必要になる。同社は、伸縮や歪みが少ない、安定した表面を持つアルミのハニカムボードを使い、最大4×8版の大平面を会津塗で仕上げたパネルを展示していた。旧来であれば納期には半年以上が必要だったものが、シンプルなタイプであれば1カ月程度で仕上げることができるようになったそうだ。

計42色からなる透明装飾用シート〈IROMIZU〉で自社の展示ブースを構成した中川ケミカル。透過光が美しい透明感のある環境をつくり出していた。
計42色からなる透明装飾用シート〈IROMIZU〉で自社の展示ブースを構成した中川ケミカル。透過光が美しい透明感のある環境をつくり出していた。

サンゲツは日本の伝統的な仕上げ素材を生かしたクロスを発表したほか、クリスタルガラスを使った豪華な壁紙も注目を集めていた。
サンゲツは日本の伝統的な仕上げ素材を生かしたクロスを発表したほか、クリスタルガラスを使った豪華な壁紙も注目を集めていた。

4×8版の大きな平面を会津塗で仕上げたパネルを展示していたユーアイヅ。伝統工芸による美しい仕上げを短い納期で実現できる。
4×8版の大きな平面を会津塗で仕上げたパネルを展示していたユーアイヅ。伝統工芸による美しい仕上げを短い納期で実現できる。

この他に、温熱環境の向上など目に見えない環境のデザインに関わる設備や建材が増えていることだろうか。まず、放射熱や冷輻射を利用した気流感のない自然で快適な冷暖房を実現する、ピーエスが手がける放射熱冷暖房機器。霧の気化熱による冷却効果や粉塵を除去するなど、さまざまなアメニティ効果が期待できるスーパー工業の〈スーパーエコクール〉。透明ガラスの採光をそのまま活かし、不快な熱だけをカットできる、リンテックの高透明断熱フィルム〈HEATCUT〉など。また、大型プリンターメーカー各社が出展している「JAPAN SHOP」は、プリンターの最新情報をアップデートができ、同時に比較検討ができるのもユーザーとしては有用だ。富士フイルムグラフィックシステムズの新製品〈LUXEL JET UV350GTW〉はホワイトインク対応で、透明シートや下地色のあるメディアにも白打ち処理で通常通りのカラープリントが可能になった。セイコーアイ・インフォテックはグレーとライトグレーインクを搭載し、平滑で美しいダブルトーンのモノクロプリントやメタリック調も再現できる〈H-104S/H-74S〉を発表している。
次回(2010年)のJAPAN SHOPは、3月9日(火)~12日(金)に、本年と同じく「東京ビッグサイト」で開催される予定だ。

JAPAN SHOPは大型プリンターの情報を一気にアップデートできることも魅力だ。写真は富士フイルムグラフィックシステムズのブース。
JAPAN SHOPは大型プリンターの情報を一気にアップデートできることも魅力だ。写真は富士フイルムグラフィックシステムズのブース。