JAPAN SHOP 2011会場速報レポート(前編) (ライター・橋場 一男)
国内最大の店舗総合見本市「JAPAN SHOP」は今年で40回目を迎える。40回記念特別企画として、会場内で「店舗アメニティー2011」が開催中だ。快適性が重視される商環境では、視覚を超えて人の感覚に訴えかける要素にも注意を払うことで、より高感度で完成度の高い空間を実現できる。「店舗アメニティー2011」では、香り、音、温度、空気の質......など、目には見えないが、人々の快適性を左右する「素材」をテーマにした、新技術を一覧することができる。特に「空気の質」に関して、分煙に着目した「分煙トータルソリューション」の提案展示が、分煙設備、機器メーカーの総力で実現した。
「JAPAN SHOP2011」会場レポート(前編)は、店舗空間において展示商品やサービスの「背景」となる、環境づくりの最前線を、「店舗アメニティー2011」を中心に紹介したい。
「JAPAN SHOP2011」会場。今年の出展社数は昨年を上回る232社。
3月11日まで「東京ビッグサイト」東4・5ホールで開催される。
日本ビジュアルマーチャンダイジング協会によるウエルカムプレゼンテーション「元気新風 商売繁盛!」。
新たな時代の扉を開くパワーを風神雷神で表現。デザイン/四十重雄氏。ディレクション/朝比奈保氏、河野聡子氏(いずれも日本ビジュアルマーチャンダイジング協会理事)
企業コラボレーションによる分煙環境の提案
「店内を禁煙にしたことで大切な顧客が離れていった」。こうした事例は少なくないと、「分煙トータルソリューション」のある出展社は語ってくれた。求められるのは、喫煙者にも非喫煙者にも快適な空間だ。一社単独で効果的なソリューションを提供できる企業もあるが、分煙は、ブース構築、換気、消臭、空気清浄、外気遮断のシステムなど、さまざまな専門技術の総力で実現されると言っていい。「分煙トータルソリューション」はまさにそれを体現した提案展示であった。会場内には「オフィス」「商業施設」「飲食店」「外部空間」の四つのスペースを想定した喫煙ブースが、9社の技術、製品のコラボレーションによってゾーン展示されている。参加各社とその技術や製品を紹介しよう。
「店舗アメニティー2011」内の「分煙トータルソリューション」コーナー。
さまざまな技術を持つ企業コラボレーションによって、店舗やオフィス向けの快適な分煙環境を提案。
会場内では分煙のさまざまな手法や考え方がリファレンスできる。
飲食店では、お店のスタッフは料理や食器を運ぶため手が塞がり、扉の開閉が難しいため、禁煙/喫煙の二つのゾーンを扉なしで実現することが望ましい。山岡金属工業とトルネックスは、吹き下ろしの気流で内外の空気の流れを遮断する、エアカーテンを開発している企業だ。「飲食店ゾーン」の喫煙ブースはこの技術で二つの環境を分ける提案を行っている。山岡金属工業は気流感が少ないタイプの製品を展示、トルネックスは天井埋め込み式の空気清浄機と自動ドアが連動して作動するエアカーテンを紹介している。
「商業施設ゾーン」は、パーティションの製作から喫煙ブース開発に参入したコマニーと、喫煙室用プラズマ脱臭機を手がける日鉄鉱業の協同で展示ブースを製作している。日鉄鉱業のプラズマ脱臭技術は、スイスで軍事開発された、有害物質除去に由来する技術。同社はそれを応用し、タバコの煙臭に特化した据え置き式の脱臭機を開発している。タバコの煙と臭いを同時に除去することができる。
「オフィスゾーン」は岡村製作所と高砂熱学工業の二社共同開発の省電力喫煙ルームの標準仕様を展示している。換気機能を備えた給排気パネルにより、煙の分散を防ぎ、効率よく煙を除去するシステムの提案だ。喫煙ルーム内は竹炭塗料で塗装され脱臭効果を高めている。
岡村製作所と高砂熱学工業の共同開発で誕生した省電力喫煙ルーム〈i-smoking〉。
iはアイソレーション(分離)の頭文字。
「外部空間ゾーン」ではテラモトが開発した、折りたたみ式のドーム状の屋外用喫煙ルームを展示。夜間はLEDのカラーライティングで喫煙コーナーが光で認識できる工夫が凝らされている。景観に合わせたデザインも可能だ。テラモトでは4年前、創業80年を機にスモーキングサイト事業部を発足。屋内、屋外における分煙のトータルプロデュースを提案している。このほか、新菱冷熱工業は、喫煙ブース用に独自に開発した空気清浄・脱臭システムのデモ機を会場に展示。実際に煙除去と脱臭効果を体験することができる。
テラモトが開発した屋内用喫煙ルーム(左)と小型の屋外用喫煙ルーム(右)。
前者は人の動線の邪魔にならない省スペースの平面形状が特徴。
「分煙トータルソリューション」内では、出展各社のプレゼンテーションや、バンブー・メディア代表の笈川誠氏(左)がモデレーターを務めるトークイベントなどが連日開催される。
8日のゲストはアジアで高い評価を得ているインテリアデザイナーの小坂竜氏(右)。
空気に付加価値を与える
「店舗アメニティー2011」では、アロマオイルを用いて、香りによって空間のアメニティー向上の実現を目指す3社が出展している。会社設立2年のマイクロフレグランスは、フランスで医療用に開発された除菌剤散布用の技術を使い、広範囲に香りを拡散させるアロマデフューザーを紹介。若年層対象のアパレルショップからの引き合いが多く、既に「109」内の数社が同社のシステムを導入している。オーストラリアの高品質なオリジナルのエッセンシャルオイルとデフューザーで、国際的に実績のあるエアアロマを展開しているのはグローバルプロダクトプランニング。同社ではホテルやフィットネスクラブの納入が多い。洗練された機器デザインもエアアロマの魅力の一つだ。アットアロマのブースでは、アロマデフューザーの最新の納品事例と、小売りされている自社ブランド製品を一覧することができる。
マイクロフレグランスのアロマデフューザーの展示。
会場に漂う心地よい香りが人を引き寄せる。
オーストラリアのエアアロマを展開しているグローバルプロダクトプランニングのブース。
高品質で安全な香りとデザイン性の高い機器が特徴。
オーニットは、空気中にオゾンを発生させ除菌消臭する衛生的な環境づくりに取り組んでいる企業だ。「店舗アメニティー2011」では、高級ホテルの客室消臭などで実績のあるシステムを展示している。店舗空間では裏方的な設備だが、空気を媒介として衛生的な環境を実現する技術として知識に加えておきたい。
「店舗アメニティー2011」ではこのほか、店舗内の植栽をトータルプロデュースし、メンテナンス、季節ごとのディスプレーも手がけるグリーンディスプレイを始め、音響機器、キッズ向け製品、駐車場用品など、来店客の利便性や快適性に焦点を当てたアイテムが紹介されている。また、電気自動車用急速充電インフラの普及拡大を目指すCHAdeMO協議会からは、GSユアサ、高砂製作所が充電スタンドを展示。近い将来、ロードサイド型商業施設には必須のアイテムになるはずだ。
売り場の「雰囲気」をつくる壁のマテリアル
商品が主役の店舗空間では、「壁」は売り場の背景であり、無個性、無機質なデザインが求められたと言って過言ではない。しかし、今回の「JAPAN SHOP」では、個性豊かなテクスチュアやパターンを持つ壁装材が目に留まった。こうした素材は、照明との組み合わせで陰影が際立つ、味わい深い背景をつくり出すことができる。その好例をいくつか紹介したい。
旭中部資材は、ケイ酸カルシウム人造木材の表面に三次元のパターン加工を施した壁用パネル〈Belle〉シリーズで知られている。これまで同製品の施工は直接接着する方法に限られていたが、今回の「JAPAN SHOP」では新開発の非接着型乾式工法を発表。撤去したパネルを破棄することなく、交換や一度使ったパネルの転用が可能になった。多店舗展開のオーナーは、複数店で同様の施工方法を採用すれば、パターンの異なるパネルを店舗間で融通、交換することで、非常に少ない投資で気軽にシステマチックに店内の壁の表情を変えることができる。背景を変えることで店の雰囲気も一新されるはずだ。新しい壁装飾の考え方として注目したい。
壁用装飾パネル〈Belle〉シリーズの乾式工法を発表した旭中部資材のブース。
壁紙を中心とした内装材の老舗メーカー、リリカラは、デジタル加工技術で、デザイン性の高い多様な壁面パターンを実現できる〈リリカラ デジタル・デコ〉に、新たなコンテンツを追加し、今年7月より発売する予定だ。そのラインアップの一部をブース内で見ることができる。注目は重要無形文化財にも指定されている伊勢型紙の意匠を、壁紙、化粧シート、ガラスフィルムなどに展開したもの。着物の模様には固有の意味や成り立ちがあり、それを壁面に描き込むことで空間の意味に奥行きを与え、意匠の美しさだけではなく、日本的な粋や華やかさ、美意識を表現することができる。日本模様のデザイン言語を現代に蘇らせたプロジェクトと言える。
日本の模様をブースデザインにも用いたリリカラ。
リリカラが今年7月に発売予定の〈リリカラ デジタル・デコ〉新コンテンツ、伊勢型紙の模様。
窯業系サイディングの大手、ニチハは外装材のような彫りの深さを持つインテリア用パネルを展示。〈アルプリモ〉は、防汚染性、調湿性、防虫性の機能が選べるのと同時に、最大寸法910×2455mmの大判パネルは、量感のあるダイナミズムを感じさせる素材でもある。新製品としては、波打つような幾何学的ラインのパターンに、和紙風のテクスチュアを与えたタイプや、木漏れ日のシルエットをプリントした外装材がラインアップされている。もちろんインテリアでも使うことができる。
表情豊かな壁面パネルで構成されたニチハのブース。
展示ディスプレーで目を引いたのはサンゲツだろう。植物を立体的に俯瞰撮影した写真を拡大プリントした壁紙に、サントリーの壁面緑化を組み合わせた展示は印象的だ。壁紙と他の表現との編集・組み合わせにより、よりデザイン性の高い壁面を実現できる可能性を感じさせる展示だ。
植物を拡大プリントした壁紙に壁面緑化を組み合わせたサンゲツのディスプレー。
進化する素材とデザイン情報をキャッチアップ
昨年発売され話題になった、アイカ工業の指紋レスメラミン化粧板〈セルサス〉は、グッドデザイン賞に続き、メラミン化粧板として初めてドイツiFマテリアルデザイン賞を受賞した。〈セルサス〉はマットな質感が特徴だったが、今年は光沢やツヤが際立つタイプや、色やテクスチュアの幅を広げた新シリーズを発表している。
指紋レスメラミン化粧板が話題のアイカ工業のブース。
大建工業は、商業施設向けに、天然木の木材組織にプラスチックを充填して硬化させ、重歩行にも対応した土足用の複合フローリングをラインアップしてきたが、今年6月には新たに3樹種7柄が加わる予定だ。さらに夏には高級感を演出できる、杉、ホワイトオークの厚単板仕様が追加される。杉に関しては、充填する樹脂の色により、白木、経年で飴色に変化したようなクリア仕上げ、焼杉風の濃色の3種類が発売に先駆けて発表されている。いずれも高い耐久性と杉の持つ豊かな表情を併せ持った床材で、インテリアデザインの幅を広げてくれそうだ。
大建工業のブースでは新製品の商業施設向けフローリングを立体的にディスプレーしている。
また、「JAPAN SHOP2011」会場内には空間デザイン機構(日本ディスプレイデザイン協会、日本商環境設計家協会、日本サインデザイン協会、日本ディスプレイ業団体連合会)の各団体賞のパネル展示と、「第4回 KU/KAN賞」を受賞した「旭川・旭山動物園」の空間性を読み解く写真とテキストの展示も行われている。ここでは最新のデザイン情報やショップデザインの動向をチェックしたい。
「第4回 KU/KAN賞」のパネル展示。デザイナーや有識者が旭山動物園の本質に迫る。
次回「JAPAN SHOP2011」会場レポート(後編)では、「JAPAN SHOP2011」の会場から、大判プリンターの新展開、デザイン什器(じゅうき)、装飾用のマテリアルなどを紹介する。
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