JAPAN SHOP 2012 会場レポート(前編)
街に賑わいを生み出す魅力的な商空間。その環境づくりやデザインのための新素材、最新システムが一堂に会するアジア最大級の店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2012」が3月6日、「東京ビッグサイト」東4・5ホールで開幕した。「賑わう店が街をつくる 未来に向かう新たな提案」をテーマに223社が出展。ウェブやカタログの情報との差別化のため、単に製品を展示するだけでなく、五感で体験できる提案型展示が増え、会場内にはライブ感のあるディスプレーが多い。各社渾身の展示を会期中にぜひ体感してほしい。
ここでは、今年の傾向や注目の新製品を、2回に分けて紹介したい。今日は、注目のデザインマテリアルを中心にまとめ、後編(8日)では大判プリンターの最新情報と、快適な環境づくりのためのシステムや設備、分煙トータルソリューション、コンクリートの新仕上げなどをレポートする。
建材メーカーの積極的なデザイン提案
普段はカタログでしか見ることのできない素材を、体験として知ることができる。見本市の強みを、より積極的に生かしたディスプレーを展開しているのがサンゲツだ。震災を契機に消費マインドが大きく変わった生活者に向けて「いつもより、もう一色。」のメッセージを込めて、さまざまな建材、さまざまな素材、質感で「色」が織りなす環境をブース内につくりだした。内部を移動する中、移り変わる色で製品を体感できる印象的な展示だ。
重なり合う色が目を引くサンゲツの展示ブース。
昨年、商業施設に適した複層ビニル床タイル〈エルワイタイル〉を発表したリリカラでは、4人のデザイナーが、ファサード、カフェ、雑貨、アパレルショップの疑似店舗空間をブース内外にデザイン。展示ブースをファッションビルに見立て、自社のさまざまな建材を使い、「ART」と「MATERIAL」が融合した空間提案を行っている。ミニマルなデザインの〈エルワイタイル〉の床の上に、出現したデコラティブな空間では、装飾の楽しさと意味を体感できる。
リリカラのブース内部。Japanese modern(ジャパニーズ・モダン)がコンセプトの「Cafe shop」(左)と、Woody combination(ウッディ・コンビネーション)がコンセプトの「Life goods shop」(右奥)の展示。
リリカラの展示ブース。ファサードデザインのコンセプトはRising dragon(ライジング・ドラゴン)。
メラミン化粧板やジョリパットなどの壁仕上げ材で知られるアイカ工業の新製品は、テキスタイルとメラミン化粧板の融合だった。任意の布をプレスして化粧板をつくりあげる〈マチエール化粧板〉は、表面プリント加工では難しかった原色の表現や複雑な模様を、希望の柄の布をプレスすることで実現できる。サンプル出しまで約1週間。1カ月以内に納品できる予定だという。展示ブースのファサードはさまざまな布でつくられた〈マチエール化粧板〉で華やかに彩られている。
アイカ工業、展示ブースのファサード。〈マチエール化粧板〉と加工に用いた布で構成されている。
木の風合いを残しながら、木の導管に樹脂を充填し安定化させるWPC技術で、耐摩耗性、対汚染性に優れた住宅向けの木質フロアを手がけてきた大建工業。同社は、定評ある同技術を使い、土足用の店舗、公共施設用に特化した高耐久性天然フローリング〈デザインタフ エンブ〉を、昨年の「JAPAN SHOP」でも大々的に展示発表した。今年は優れた性能をそのままに、新しい樹種(スギ、ウォールナット)を追加した新ラインアップを発表している。発売は5月の予定。材が柔らかく床材には不向きだったスギ材をWPC加工したフローリングは、白木に個性的な木目が特長で、店舗の空間表現の幅を広げる素材して注目だ。また、同社では「森のサイクル」を標榜し国産材の積極的な活用にも乗り出している。
大建工業のブース。ヒールマークが付きづらい高耐久性に優れた床材の性能をアピール。
豊富なカラーバリエーションが特長の化粧板メーカーの伊千呂は、新展開として、化粧板のビビッドな色調を生かした家具〈イチロのイーロ〉シリーズの第一弾を発表。トラフ建築設計事務所がデザインを手掛けた〈コロロデスク〉と〈コロロスツール〉を展示している。
伊千呂とトラフ建築設計事務所が手掛けた〈コロロデスク〉
店舗用什器の新展開にも注目したい。展示什器の開発でおなじみのボックス・ワンと、展示用ワイヤーシステムで世界的に知られる荒川技研工業が共同出展しているブースでは、両者の強みを生かした〈アルミモジュールアタッチメント〉が参考展示されている。フレームのスリットにワイヤーを留め、展示什器との組み合わせで多様な展開が可能になる。
ボックス・ワンと荒川技研工業が共同開発した〈アルミモジュールアタッチメント〉
岡村製作所が2008年から日本での取り扱いを行っている、スイス生まれのモジュラーシステム〈Visplay〉にも、新アイテムが追加発表された。既存の〈Grid40〉よりグリッドサイズがひとまわり大きくなった〈Grid50〉(参考出品)と、サポートスリットに電源を仕込み、照明を組み込むことができる〈invisible 6P/L〉だ。〈Grid50〉は〈Grid40〉と同じコンセプトのシステムだが、実物を見ると印象はかなり異なる。会場で見比べてほしい。
岡村製作所が取り扱う〈Visplay〉の新アイテム〈Grid50〉と〈invisible 6P/L〉。
LED照明と好相性の樹脂加工造形
昨年は生活者の節電への関心が高まり、LED照明は、公共施設や店舗に急速に広がった。消費電力の軽減を実現できる省エネ性や、ランプの長寿命性が注目されたためだ。今回の「JAPAN SHOP」では、普及が進むLED照明の、高輝度の特性を生かし、また、不快な眩しさを軽減するマテリアルを数多く見ることができた。このほか、LEDの演出照明やサイン照明などの出展も多い。
LEDのきらめきが映える素材が透明アクリルだ。プラスチック加工で定評のあるフジデノロは、シャンパンのような細かな気泡を透明アクリルに封じ込めた素材を発表。均一に広がる小さな泡に、高輝度光が乱反射する華やかな透明アクリルプレート〈シャンパンプレート〉のほか、さまざまな表情のアクリル板を配したカウンターが展示されている。
フジデノロの展示ブース。アクリル+光でつくるバーカウンター。
〈シャンパンプレート〉のサンプル。
また、アクリル樹脂を使ったオリジナル什器や家具などを手がけ、インテリアデザイナーからの信頼も高いワーズウィズの展示ブースでは、3D切削、レーザー加工、封入など、アクリル加工のサンプルを一覧することができる。
ワーズウィズの展示ブース。3D切削で造形された仏像。
三次曲面加工に適した樹脂素材は、凹凸のある表情豊かな装飾材をつくることが可能だ。LEDのラインライトの間接照明と組み合わせることで、テクスチュアが浮き立ち、より個性的な空間デザインが手軽に実現できる。また、さまざまな形に切り抜き、影をデザインに生かすこともできる。プラスチックの自由さが改めて注目されそうだ。益基樹脂の展示ブースでは、プラスチックのさまざまな加工を見ることができる。
プラスチック加工による益基樹脂のディスプレー。
LEDの不快な眩しさを、高輝度光を拡散させて、快適な光に変えてくれる素材に和紙がある。商業空間における障子紙の代替として、和の空間づくりに欠かせない〈ワーロン〉は、言うまでもなく照明との相性が良い。今回のワーロンの展示ブースでは、粘りのある樹脂シート素材の特性を生かし、切り込みを入れたワーロンを丸め、骨組みなしでドラゴンのオブジェを造形。障子紙の代替だけでなく、表現素材としての可能性を提案する展示が行われた。破れた障子紙は意味をなさないが、あえてパターンを切り抜いたワーロンを重ねて、光の濃淡でグラフィカルに見せる提案も、LED照明との組み合わせで表現の幅が広がるだろう。このほか、ブース内ではガラス装飾フィルム〈ハルワーロン〉の新製品も展示されている。
ワーロンの展示ブースを飾るドラゴンのオブジェ。
CAD+加工技術が段ボールを進化させる
今年の「JAPAN SHOP」でひときわ注目を集めていたのは、段ボールを加工した什器やディスプレーアイテムだろう。段ボールを使ったパレットや箱を手掛けていた企業が、CADとカッティングマシンを活用し、段ボールのデザイン造形を大きく進化させた。積層段ボールで組み上げた巨大なキリンのスケルトンオブジェを展示しているのは日本セキソーだ。防炎製品性能試験基準の適合認定を受けた〈防炎白パネル〉で、複雑な形状のディスプレーオブジェとブースを構成し、段ボール造形の可能性が感じられる展示になっている。
日本セキソーのディスプレー。巨大なキリンのオブジェが注目を集めていた。
同じように段ボールを使いトライウオール箱の製造を行っているタカムラ産業は、段ボールを使った有機的なパラメトリックデザインの巨大什器や家具を展示している。実際の展示を見ると、さまざまなジャンルの造形に転用できるイメージも膨らむはずだ。
タカムラ産業が手掛けた段ボールの什器。有機的なデザインの現代建築を連想させるフォルムが特長だ。
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