JAPAN SHOP 2012 会場レポート(後編)
後編では、前編で紹介し切れなかったデザイン建材や床のユニークな仕上げ方法、環境グラフィックスや店舗の販促ツール製作に不可欠となった大判プリンターの最新情報や、分煙トータルソリューションをはじめとする店舗アメニティー設備について、「JAPAN SHOP 2012」会場からレポートする。
分煙の提案と店舗アメニティー
昨年の「JAPAN SHOP」でも注目を集めた〈分煙トータルソリューション〉。今年も「店舗アメニティー2012」のメイン展示として、9社の技術、製品のコラボレーションで快適性の高い分煙提案を行っている。今年の特長はデザインの情報の充実で、優れたケーススタディの映像、パネル展示を見ることができる。もちろんデザインだけでなく、「トータルソリューション」の企画名通り、会場では、ブース構築、換気、消臭、空気清浄、外気遮断のシステムの専門技術、法規・条例、意識調査など「分煙」に求められるさまざまな情報を入手することが可能だ。
特別展「店舗アメニティー2012」内の〈分煙トータルソリューション〉コーナー。
「店舗アメニティー2012」では、このほか、安全性、香り、消臭、音響など、快適な店舗環境づくりのためのシステムや設備も体感できる。その出展者の中から、インドアグリーンの新展開と育児環境づくりの新製品を紹介しよう。
店舗空間用の観葉植物などを扱うグリーンディスプレイは、インドアグリーンの展開を通して、いかに環境負荷軽減を図るか、同社の取り組みを発表している。例えば、樹木の育成のためにビニルハウスと暖房設備を使うのではなく、植物は東南アジアで育成することで化石燃料の使用を削減。軽量のココヤシ繊維を土壌の代替とすることで、土を可燃ゴミとして処理することも可能になった。
緑豊かなグリーンディスプレイのブース。温暖な気候の東南アジアで育成したインドアグリーン。暖房のための化石燃料使用を削減。
ベビーシート・キープなど、店舗用の育児環境製品で知られるコンビウィズは、外出中の乳児のおむつ交換時に、お尻の下に敷くペーパーシートを、おむつ交換台の新アイテムとして提案している。同社は、調査で外出先でのおむつ交換台の清潔さを求める母親の声が80%を超えていることに着目(N=約700)。新たなアイテムとして〈おむつ替えペーパーシート〉とホルダーを新製品として発表した。店舗空間内の育児環境は、小さな子供がいない客層には看過されがちだが、乳幼児がいる母親の約80%に支持されるアイテムで、顧客満足度向上や施設の差別化に効果的に働く新サービスといえるだろう。
コンビウィズからの新提案。〈おむつ替えペーパーシート&ホルダー〉
「店舗アメニティー2012」への出展企業ではないが、快適な温熱環境をつくりだす新しいシステム建材として、エー・ジー・クルーの室内用発熱ガラス〈E-GLASS〉にも注目したい。電極+発熱コーティングをガラスにサンドイッチすることで、ガラスパーティションや水回りのミラーが放射熱ヒーターになる新製品だ。洗面台の鏡にタオルホルダーを取り付けると、タオルを乾かすこともできる。外部サッシに使用することもできる。結露防止にもなり、運転音や気流感もない快適な暖房システムだ。電源が確保できれば通常のサッシに納めることができる。
エー・ジー・クルーの室内用発熱ガラス〈E-GLASS〉。ガラス面から心地よい温かさが放射されている。手前はガラス内部にLEDを組み込んだ〈POWER GLASS〉。
オリジナリティの高い床仕上げ2題
足下に広がる大面積の床面では、素材や意匠でデザインコンセプトを効果的に表現することが可能だ。〈JAPAN SHOP 2012」では、2社の展示ブースで店舗用の床仕上げの新提案が行われていた。第一カッター興業は、コンクリートの本磨きによる〈プラチナコンクリートフロアー(硬強度鏡面仕上工法)〉で、御影石のように光沢のある床仕上げを発表し、デザイナーや建築家の注目を集めている。店舗の床は「貼る」「塗る」仕上げが中心だが、こうした既成概念を覆す「削る」仕上げは、見た目が美しいだけでなく、目地がなく平滑であることで清掃や作業負担が軽減される利点もある。研磨により表面の脆弱部分を除去することで表面硬度を通常のコンクリートの約10倍に高めることもできるという。コンクリートを打つ際に、ガラスや色石を混ぜ込み、研磨によって種石を表出させるなど、アイデア次第で、昔の現場研ぎテラゾのような個性的なデザイン床をつくりだすことができる。
〈プラチナコンクリートフロアー(硬強度鏡面仕上工法)〉の展示。
〈プラチナコンクリートフロアー〉を応用したさまざまな表面仕上げの提案。
もう一社の床仕上げも、目地がなく意匠性の高い装飾塗床(壁)の提案だ。Anonimo Designが総輸入・販売元の〈DECOR ART〉と〈DECORE PALLET〉は、透明からゴールドまで多様な色彩表現ができて、オリジナリティの高い床デザインが可能だ。手仕上げ(コテ仕上げ、筆仕上げなど)の表情豊かなテクスチュアも特長である。
Anonimo Designのブースでは、〈DECOR ART〉で仕上げた床を見ることができる。
同じくAnonimo Designが扱うストリングスカーテン〈ラインビュー〉。空間に「軽さ」や「動き」などを表現できる、ポリエステルの紐の間仕切り。
大判プリンターの最新技術
「JAPAN SHOP」の定番展示の一つとなった大判プリンター各社のブースでは、今年も自社プリンターによる製作物展示と実演が行われ、各社特色のある高性能をアピールしていた。
ミマキエンジニアリングは最新3機種を会場に持ち込み、その新技術を実演で見せている。昇華転写プリンターの〈TS500-1800〉は、生産性の向上を視野に入れた新製品で、同タイプのプリンターでは圧倒的なプリント速度が特長。〈JV400シリーズ〉はラテックスインクプリンターとして初めて白インクを搭載した機種(6色+白)。ラテックスインクは高温で仕上げるため、メディアの変質が課題だったが、同機種は熱問題もクリアしている。100V仕様もあり、インク由来のVOCも少なく、個人事務所でも導入しやすい機種といえる。〈JV400シリーズSUV〉は、ソルベントUVインクを搭載した新製品で、UV仕上げ独特の光沢感はもちろん、UV成分は堅牢性が高く、プリントしただけでラミネート加工と同等のスクラッチ耐性が得られるのも魅力だ。
ミマキエンジニアリングの新製品。昇華転写プリンター〈TS500-1800〉と、同プリンターでプリントした布を展示。
ソルベントUVインク搭載、ミマキエンジニアリングの〈JV400シリーズSUV〉。優れたスクラッチ耐性を確かめることができる。
ラテックスプリンターの先駆者でもある日本ヒューレット・パッカードは、新世代のラテックスインクを採用した、省スペースのコンパクトなプリンター〈L25500シリーズ〉と、最大印刷幅3.2mまで対応できる〈LX600/820〉を自社ブースで発表している。二世代目になる同社の〈HPラテックスインク〉は、耐候性に優れ、黒のしまりが良く、プリントの質も向上しているのが特長。VOCが非常に少なく、特別な換気設備も不要だ。環境性能が高くエコマークも取得している。
日本ヒューレット・パッカードの〈L25500シリーズ〉。
今年創業60周年を迎える武藤工業は、3月末まで〈Value Jet VJ-1324J〉を低価格で提供するキャンペーンを展開。建築製図プロッターの技術がベースにある同社のプリンターは、細線を表現できる作画性能に定評がある。コストパフォーマンスの高さも注目だ。
今年60周年を迎える武藤工業のブース。
富士フイルムグラフィックシステムズの新製品、高速UVプリンター〈Acuity LED 1600〉は、プリント速度はクラス最速レベルを実現。UVインク硬化の光源にLEDを採用し、発熱を抑え、省エネ性も向上した。写真フィルムで培われた化学技術、カメラの光学制御技術、画像解析技術、それぞれのスペシャリストがプロジェクトチームを組んで開発に取り組み、同社の総力で品質と性能の向上を図った新製品でもある。
富士フイルムグラフィックシステムズの新製品〈Acuity LED 1600〉。
ローランド ディー.ジー.のブースは、製品の性能を競う展示に注力するのではなく、自社製品を使うことで何が可能になるのか。どんな問題解決ができるのか。実機展示を最小限に抑え、ソリューションとアフターケアに焦点を当て、コミュニケーションを重視したユニークな展示を行っている。同社の特長でもあるメタリックシルバーインクの表現力や、立体物へのダイレクトプリントが可能な〈VersaUV LEF-12〉を使い、さまざまな意匠、表情のiPhoneケースプリントの実演を行うなど、自社の得意分野に特化した展示は、分かりやすく来場者にも好評だ。
ローランド ディー.ジー.の〈VersaUV LEF-12〉。同機で製作したさまざまなサンプルを手に取って見ることができる。
ローランド ディー.ジー.の展示ブース。
このほかにも、立体的に見えるプリントが可能になるインターコスモスの〈3Dメディア〉や、CAD、高性能スキャナー、大判プリンターなどの技術を駆使してオリジナル建材の製作過程を見せる日本製図器工業のブースなど、見応えのあるブースが多い。
インターコスモスの〈3Dメディア〉。
日本製図器工業のブースのリアルスキャナーの実演展示。オリジナルと見間違う精度で布や壁紙にプリントされていく。
〈テンションファブリックシステム〉を展示している昭栄美術も注目だ。同システムは、高精細の熱転写プリンターでプリントされたファブリックと、軽量フレームを組み合わせた非常に簡便なディスプレーユニット。布の透光性を生かし、照明機器やプロジェクターを内部に仕込むことで多様なディスプレーが可能になる。
昭栄美術の〈テンションファブリックシステム〉。
会場で開催されているデザイン企画展
エントランスのウエルカムプレゼンテーション「i・b・u・k・i」。太陽を浴びて伸びる芽の力強いイメージが表現された(特別協力/日本ビジュアルマーチャンダイジング協会、デザイン/打良木誠、ディレクション/朝比奈保、山田祐照)。
空間デザイン機構(日本ディスプレイデザイン協会、日本商環境設計家協会、日本サインデザイン協会、日本ディスプレイ業団体連合会)の企画展示「魅せるジャパン空間デザイン」。「第5回 KU/KAN賞」を紹介するブース。
日本に甚大な被害をもたらした東日本大震災から1年が経ち、「JAPAN SHOP」会場でも震災からの復興にちなんだ企画展示が開催されている。一つは、被災地で日本経済新聞の写真部記者が取材撮影した、報道写真のスライドショー「記憶・忘れてはいけないこと」。もう一つは、「Project Sunshine for Japan」。被災で疲弊した日本に向け、ドイツ・デュッセスドルフ芸術大学の呼びかけで行われたポスターデザインコンペの最優秀作品5点が、「EuroShop」と「JAPAN SHOP」の共同企画展示として会場入口で日本初公開されている。「EuroShop」とは、メッセ・デュッセルドルフで3年に一度行われる国際店舗設備・販売促進機材展で、次回は2014年2月の開催予定だ。
ポスターデザインコンペティション「Project Sunshine for Japan」の最優秀賞作品の展示。「EuroShop」と「JAPAN SHOP」の共同企画。
独立行政法人中小企業基盤整備機構の協力による「NIPPON MONO ICHI ~モノイチ品質! 安心・安全な店づくり・街づくり企画展~」は、日本各地の中小の企業が開発、製造した建材や設備を一覧できる企画展示だ。実物を見るチャンスが少ない地方産品の建材に触れ、日本の風土や生活文化、モノづくり文化に培われた中小企業の高度な企画開発力を知る好機でもある。各地の伝統的な工芸技術を転用した建材も多い。
「NIPPON MONO ICHI ~モノイチ品質! 安心・安全な店づくり・街づくり企画展~」の展示風景。
「NIPPON MONO ICHI」で出展している兵庫・姫路市の光洋製瓦が開発した、日本瓦のテクスチュアを持つ〈ARARE〉。モザイクタイル状のプレートなど。