2013年3月6日 会場レポート(前編)
第42回店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2013」が、3月8日まで「東京ビッグサイト」(東京・有明)で開催中だ。好天に恵まれた初日、今年の「JAPAN SHOP」の第一印象は、店舗デザインのための素材や建材メーカーのブースが際立っていたことだ。デザイナーや建築家にとって、見るべき新製品は多かったのではないだろうか。近年は、店舗経営者向けのSP関連商品や店舗運営に関する展示が目立つケースが多かったが、今年は「デザイン」関連の新製品も例年以上に注目を集めていたように思う。今回は、そうしたデザイン系の総合建材メーカー注目の新製品と、進化する大判プリンターの傾向を中心に紹介したい。
フリーライター:橋場 一男
建材メーカーのショップデザイン提案
会場内でひときわ注目を集めていたのはサンゲツ、アイカ工業の展示ブースだ。また、住宅向け内装建材として定評のあるリリカラ、大建工業も、デザイン性を全面に打ち出し、店舗デザイン向けの素材を積極的に発表している。
サンゲツは「アート」をテーマに、脱構築主義建築風のダイナミックなブースで、新製品と既存の素材をアレンジした提案的展示を行っている。ブース内では、タブレット型PCと専用アプリを使った《サンゲツ3D床シミュレーター》(4月公開予定)のデモも体験できる。同社のカーペットタイルを敷き詰めた空間を、さまざまな視点で3Dでシミュレーションできるシステムだ。また、長尺シート床材「グラニット」をジグソーパズル形にカットして、パズル状に色を組み合わせるパターン貼りも、新しいデザイン提案として面白い。
サンゲツのブース。商品が美術館のように展示されている。長尺シート床材「グラニット」をパズルパターンで貼り分けた床も面白い。
アイカ工業はブース内のほとんどが新製品、新仕上げと言っていい。薄さ0.7ミリの薄物メラミン不燃化粧板《アイカフレアテクト》は、曲げに強い柔軟さが特長で、複雑な面のポストフォームや家具の仕上げ材にも使うことが可能だ。また、店舗ではおなじみの装飾性塗材ジョリパットに、消臭と抗菌の機能を持たせた《消臭抗菌!ジョリパット》を発表し、アンモニアを使った消臭デモも行っている。塗装材で消臭抗菌機能を持つ商品はあったが、塗材として同機能を併せ持つ製品は初めてで、ジョリパットと同じ方法で仕上げ施工ができる。商業施設のトイレや病院などをターゲットとした新製品だ。
受付カウンターのバックパネルには、リアルな質感を持つ化粧フィルム《オルティノ》を、3次元加工された基材にラッピングした新しい化粧板《ウェッジプレス オルティノタイプ》が配され、美しい陰影による表情豊かな意匠をつくりだしている。このほか、インテリア向けに、メタリックパールの磨き壁風に仕上げる《ジョリパットイタリアーノ》や《ジョリパット爽土》にも、表情豊かな新しい仕上げ方法を発表している。
《ジョリパット爽土》の4種類の仕上げ例。下から、塗りっぱなし、掻き落とし、刷毛引き、削り出し。
また、自社のメラミン加工技術を生かしたトイレプロジェクトのコンセプトモデルもユニークだ。アイカ工業の女性社員が、荷物やバッグの置き場や使い勝手を考えてデザインした提案展示で、ブース内では開発コンセプトをまとめた小冊子《Toilet Space Comfort & Relax》を配布している。バッグを自然に置けるよう荷物棚が傾斜していたり、カウンターに荷物止めの工夫があるなど、ユーザー目線の細やかな心配りが感じられるデザイン提案になっている。
アイカ工業による商業施設のトレイ空間コンセプト
壁紙やカーテンで知られるリリカラは、ブース全体を巨大な見本帳としてデザイン。ブース内ではグラフィックデザイナーなどとコラボレーション企画や、高機能なビニル壁紙の新ブランド《リリカラライト1000》を発表している。北欧のファブリックのような軽快なパターンを描き込んだ壁紙が、展示ブースの壁面を彩っていた。リリカラはウィリアム・モリスや江戸小紋の壁紙でも知られているが、《リリカラライト1000》はデザイン企業として歴史のある同社の、新しいデザイン壁紙の提案と見ることもできる。 フロアには、2011年に発売開始した商業施設向けの複層ビニル床タイル《エルワイタイル》が、無彩色のグラデーションパターンで貼られている。フロアに立つと独特の視覚効果が感じられるはずだ。
見本帳をモチーフにしたリリカラのブース
食器のデザインで人気の高い、スウェーデンの女性グラフィックデザイナー、ロッタ・キュールホルンがパターンデザインを手がけた《リリカラライト1000》
《エルワイタイル》のグラデーションパターンによる影のような視覚効果。
住宅建材メーカーとして知られる大建工業。昨年までは重歩行用の店舗向けフローリング材を中心としたディスプレーだったが、今年はデザイン性と耐久性の高い、和紙製の《DAIKENの畳おもて》を全面に打ち出した展示となっている。い草に比べダニやカビの発生が少なく、メンテナンス性や撥水性に優れているため、住宅だけでなく、飲食店や旅館などにも適した素材だ。ブース内では店舗空間をイメージさせるカラーコーディネート展示を行っている。畳おもてを装飾や仕上げ素材として使う新しい提案である。落ち着いた配色と質感は和洋を問わずハイエンドの空間にも合いそうだ。色や織り方の違いで47種類のバリエーションがある。
《DAIKENの畳おもて》のコーディネート展示とバリエーション
ピクチャーレールや店舗のワイヤーディスプレーを手がける荒川技研工業は、今年4月にフルモデルチェンジする《ワイヤー手すり》の新製品を展示。これまでのシステムと比べパーツが細くシャープになり、スパンも3mから8mに一気に拡大した。旧モデルと見比べるとパーツの小ささが分かる。同社では併せて、荷重最大300kgの重量物対応ワイヤーシステムのパーツを発表。内部構造の改良により破断荷重を大幅に改善し、商品化を果たした。小さなパーツではあるが、店舗デザインの幅を大きく広げる可能性がある。
左がモデルチェンジ後の《ワイヤー手すり》のグリッパー。右は既存製品のもの。断面の大きさの違いがわかる。
荒川技研工業。モデルチェンジされる《ワイヤー手すり》。
進化するUVインク搭載プリンター
機能面では十分成熟したと見られている大判プリンター。これからは価格とサービス体制が差別化の要素ではないかと思われていたが、LED方式とUVインクは大判プリンターの機能をさらに進化させていた。その代表例を見てみよう。
まずミマキエンジニアリングは、新製品のハイスピードLED方式UV硬化インクジェットプリンタ《UVJ500-160》と、3Mの新UVインク《LUS-200》および専用メディアを使い、製作上の規定条件を満たせば「屋外耐候保証6年」を打ち出して注目を集めている。一般に溶剤系インクであれば屋外では3年程度で劣化が起こるとされている。製作物の超寿命化は、交換が難しい高所での使用にも最適で、環境負荷軽減にも適うものだ。また、《LUS-200》は硬化後も200%の延伸率があり、車両ラッピングに用いることもできる。ブースではトヨタ自動車のプリウスにラッピングした作品が展示されている。
同じく新製品のLED-UV硬化フラットベッドインクジェットプリンタ《JFX500-2131》は、新開発の高速UVインク《LUS-150》によってスピードと画質を高レベルで実現、条件次第で最小2ptの文字が判読可能という高性能プリンタだ。同機種と木質パネルをメディアに用いて、下地の木目を生かしながらUVインクで意匠を与えるデザイン提案も、さまざまな応用が考えられるのではないだろうか。
ハイスピードLED方式UV硬化インクジェットプリンタ《UVJ500-160》。後方にラッピングしたプリウスが見える
フラットベッドインクジェットプリンタ《JFX500-2131》で作成した突板張り木質パネル(製作協力/カラーマーク)
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズの《ACUITY LED 1600》はクラス最高レベルの20㎡/時のハイスピードが最大の特長だ。富士フイルムグループで開発した白インクは濃度が高く、白を重ねてプリントする必要がないので、カラー+白+カラーの3層プリントをワンパスで実現できる。同様に同グループが開発した高精度プリントヘッドもに多いに貢献。これらの総合力で作業効率とプリントスピードが飛躍的に向上。実機を見るとコンパクトさも特長の一つであることが分かると思う。
富士フイルムグローバルグラフィックシステムズの《ACUITY LED 1600》
家庭用、オフィス用プリンタや、プリンタヘッドの製造開発で定評のあるエプソン販売が、溶剤系インクプリンタに参入し「JAPAN SHOP」で新世代エコソルベントプリンター《SureColor SC-Sシリーズ》3機種を発表展示したことも話題になっている。インク、ヘッドなどを自前で開発できる強みを生かした新展開だ。ブースでは同社の《SureColor SC-Sシリーズ》の導入事例の紹介も行われている。導入業者の一社は、採用の決めてとしてプリンタヘッドの信頼性を挙げており、専門メーカーとしての技術力が評価されているようだ。
エプソン販売《SureColor SC-Sシリーズ》の導入事例紹介
日本ヒューレット・パッカードは、さまざまな素材に対応できる水性Latexインクで作成した、壁紙、ファブリック、テント地などのカラフルなサンプルをブースいっぱいに展示している。プリンタの性能はもちろんだが、プリンタ+グラフィックデザインの多様な可能性が伝わるブースだ。
エコマーク認定を取得した水性インク搭載の《HP Designjet L26500》
水性Latexインクでデザインされた壁紙サンプル
大判プリンタ用のメディアにも注目してみよう。プリンタ用粘着フィルムなどを手がけるリンテックのブースでは、ウインドー、屋外、内装など、さまざまな場面に対応するデジタルプリント内装材各種を一覧することができる。穴開きフィルムを使わずにガラス面にシースルーグラフィックの作成が可能な《contorAVision》を使い、照明の明滅で絵柄が変化するウインドーディスプレー提案も注目を集めていた。
《contorAVision》を使ったディスプレー提案
デジタルプリント内装材で構成されるリンテックのブース
明日は分煙トータルソリューションを始めとする特別企画展、地方企業や中小メーカーの注目のデザインマテリアルを紹介したい。