JAPAN SHOP 2023 会場レポート vol.1(2023/2/28)

JAPAN SHOP 2023(第52回店舗総合見本市)が2月28日に開幕した。今年は「未来を拓くデザインと技術」をテーマに、3月3日まで東京ビッグサイト(東京・有明)で開催する。感染症対策で大きく変化した消費スタイル、生活者のウェルビーイングの希求に応える商環境づくり、最新テクノロジーを用いた新しい快適性の提案など、これからの店舗開発・デザインの未来を実感させる見応えのある展示に注目だ。地場産業の卓越した技術や伝統工芸の強みを、社会課題の解決に活かす取り組みも目に止まった。会場レポートのvol.1では、そうした地域のものづくりの背後にある、技術の承継、SDGs実現の挑戦などを紹介したい。その成果物はいずれも高品質でユニーク。店舗開発・デザインに活かすことで、環境負荷軽減をはじめ社会的な貢献が期待できる。

エントランス01

エントランス02

NIPPONプレミアムデザインのIDMに注目

上質なジャパンオリジナルプロダクツを集結した特別企画「NIPPONプレミアムデザイン」の一角に「Interior Design Meeting(IDM)」のコーナーがある。日本の伝統的なものづくりの技とデザインを次代につなぐさまざまなプロジェクトを、アートギャラリーのようなホワイトスペースで展示している。この会場内から事例をいくつか紹介したい。

IDM

高度な木材加工技術が可能にしたフィルム状の「木材」
木製シート「BOIS-ART(ボイスアート)」

石川県金沢市の株式会社谷口は、0.12~0.15mmの薄さに木をスライスし、独自の加工技術により布やフィルムのように柔らかく丸めることもできる木質シート「BOIS-ART(ボイスアート)」を展示。ミシンがけが可能で、わずかに光を通し、その特性を生かしたバッグやウインドシェードへの加工例を紹介している。表面のテクスチュアや匂いは木そのもの、経年で成熟するように色合いが変化する面白味もある。極限まで薄くスライスしているため水性の汚れが染み込まず、素地のまま使うことが可能だ。

ボイスアート

伝統工芸の意匠をより日常的に
立体加賀友禅「紗透加賀友禅」

石川県金沢市の友禅空間 工房久恒は、加賀友禅の繊細な染色技法を、着物だけでなく、より身近に、さまざまなシーンで展開できないかを考え、友禅模様のデザインデータ化に取り組んだ。友禅の絵柄データをシアー素材に転写して、その布を間隔を開けて吊るすことで、絵柄が複雑に重なり合い、布が風に揺れると絵柄の動きも生まれ、背後の景色も透けて見える優雅な表現が可能になる。逆方向からは外部からの視線を遮る効果があるなどパーティションとしての機能性も併せ持つ。

加賀友禅

サステナブルで味わい深い21世紀の「裂き織」
「裂き織Textile」

東北地方の「裂き織」は、古くなり傷んだ着物や布団生地を紐状に裂き、それを材料に野良着や敷物を編み上げる手工芸で、綿布が貴重だった江戸中期より続く、モノを使い切る生活の知恵だ。岩手県盛岡市の株式会社幸呼来Japanはこの手法で、デニムの耳と呼ばれるデニム生地の両端を細長くカットした素材を編み込み、本来であれば産業廃棄物となる残材を質感豊かな織物に再生した。東北に息づいていた循環型ライフスタイルの手法を現代社会で活かす取り組みで、高等支援学校で「裂き織」に触れた障害者の就労の場にもなっている。このほか、人工スエードや光反射テープなどを裂き織に用いるなど、新たな織物制作にも挑戦している。素材としての物語性が高く、テクスチャーで、店舗空間に深みを与える素材と言っていい。

裂き織

IDMでは素材開発者、伝統工芸技術とデザイナーによるコラボレーションも面白い。株式会社Anonimo Designのストリングスカーテン「ラインビュー」、株式会社創意技巧の「LIVING組子」、石川県かほく市のゴム状の細巾織物を使ったSUPER PENGUINの竹村尚久による展示なども注目だ。ステンレスの熱処理を手掛ける株式会社メイネツは、熱処理の過程で変色してしまう素材特性をあえて活かして「朧-oboro」「霞-kazumi」を開発。顔料も染料も使わず熱処理でステンレス表面にランダムに色や模様を描きだす技法を完成した。

ストリングスカーテン
Anonimo Designのストリングスカーテン「ラインビュー」

組子01

組子02
精緻な手作業が求められる組子。創意技巧はこの技術で現代空間にフィットする「LIVING組子」を提案

ペンギン
アパレルや工業製品用に開発した伸縮性のあるゴム状の細巾織物を使ったSUPER PENGUINの展示。通常は服やプロダクツに組み込まれ意識されない素材だが、不思議な触感がありラインを動かしてもゴムのような復元性を持つ。

メイネツ
ステンレス熱処理で発色する「朧-oboro」「霞-kazumi」のテクスチャー。ステンレスの材質の違いで色味が変わる

メタルに新しい色彩と表情を与える粉体塗装技術

続いてIDMブース以外の出展者を紹介する。パウダーコーティングと呼ばれる粉体塗装に特化した仕上げ技術を誇る有限会社シリウスは、NIPPONプレミアムデザインの自社ブースにてステンレス、スチールそれぞれの下地材を用いて、艶感の差やグラデーションで異なる多様な色彩仕上げを見せている。マットな仕上げは反射を抑えた独特なテクスチャーを表現、透明感のある仕上げは薄板なのに奥行き感を感じる不思議な表情をつくりだし、クリアな発色も美しい。

シリウス01
シリウスの展示ブース

シリウス02
仕上げの違いによる多様な表情

京都伝統工芸の「お誂え」文化を店舗デザインに

NIPPONプレミアムデザインでは、マテリアルの展示だけではなく、地域の新たな取り組みを紹介する展示も多かった。「京都府/一人称工芸」はそのひとつだ。伝統工芸は高価な観賞用と考える向きもあるが、もともとは人々の日常の暮らしの中で洗練された品々や技術だった。「京都府/一人称工芸」は、敷居が高いと思われがちな京都の伝統工芸を、人に近い、暮らしを豊かにする生活技術として再評価する試みだ。5人の伝統工芸の担い手が、「これをつくりたい」という自身の個人的な思いから制作した「一人称工芸」品が並び、展示品を挟みつくり手と直接対話ができる。この展示に関わった「京都の工芸の基本は注文に合わせて制作する『お誂え』。この文化を店舗空間や自分たちの生活環境に活かしてほしい」と、京都府商工労働観光部染織・工芸課の西脇啓一郎氏はいう。今回の展示はその出発点で、一人称工芸への共感を通して京都伝統工芸をより身近に感じられる機会にもなっている。

京都01
「京都府/一人称工芸」の展示ブース

京都02
伝統工芸の金彩の技術で団扇、ティシュケース、コースターをリメイク

vol.2以降では最新テクノロジーを活用した空間演出、サステナビリティーに配慮しカーボンオフセットに貢献する取り組み、BPC、災害対策に応える設備、環境配慮型インクに対応する大判プリンタなどを紹介する。

(フリーライター 橋場一男)

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