JAPAN SHOP 2023 会場レポート vol.2(2023/3/1)

サステナビリティーやSDGs実現に配慮した素材、設備を採用することで、消費者の共感が得られ、顧客ロイヤルティの向上が期待できる。一方、社会的意義の高い素材・設備を店舗空間に採用することは、そこで働くことの「誇り」を育み、働き手のエンゲージメントを高める効果がある。
後編ではJAPAN SHOP 2023の会場で公開中の、サステナビリティーを重視した開発プロジェクト、新製品を紹介し、さらに、公衆衛生向上と防災・災害対策と、自然と最新技術などでウェルビーイングを高める事例にも触れていきたい。

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サステナビリティーに関心が高い消費者に向けた店舗開発

アイカ工業株式会社は自社製品にバイオマス原料を積極的に導入することで、同社のメラミン化粧板は石油由来原料を従来品より50%削減、日本有機資源協会のバイオマスマーク(バイオマス度50%)を2013年に取得している。その後、バイオマス度60%の製品も認証を受け商品化を検討中だ。さらに、JAPAN SHOP 2023では、同社が開発に成功したバイオマス度75%のメラミン化粧板を参考展示し注目を集めていた。最終的にはバイオマス度100%を目指しており、環境負荷の少ない建材・仕上げ材で持続可能な社会の実現とカーボンニュートラルの目標への貢献を目指す。

アイカ01
アイカ工業の環境負荷軽減への挑戦

日本を代表する家具産地の一つ大川家具の一般財団法人大川インテリア振興センターは、九州の山に多く育つ早世広葉樹のセンダンを家具に使うプロジェクトに取り組んでいる。センダンは約20年で家具材としての利用が可能で、再生可能資源によるサーキュラーエコノミー実現が期待できるほか、HWP(伐採木材製品)として木材製品中の炭素固定による「炭素貯留効果」が認められ、日本のカーボンニュートラルにも大きく貢献する。センダンは生育が早いため他の樹種よりCO₂吸収量が多い特徴もある。センダン材活用と植樹・育林の取り組みは、IDMのENsowerのコーナーでも詳しく紹介している。

大川家具
センダンを使った多目的木製ブース「WITH TREE」。Web会議のパーソナルブースや商業施設の授乳室にも使うことができる

店舗用展示什器を手掛ける株式会社店研創意は、自社什器システムに木質系棚板のバリエーションを追加。一部のパーツは国産の杉材を用いて製造している。杉は柔らかく、そのままでは家具には不向きだが、什器のパーツには適した素材といっていい。日本の山には戦後復興期に植林され、標準伐期齢を迎えた杉が未使用のまま大量に残され、その利活用は大きな課題だ。

店研
店研創意は什器に木製棚板のパーツを追加。国産杉材を使ったパーツも用意している

特別展示「NIPPONプレミアムデザイン」IDMブース内にも、環境負荷軽減やゼロウェイストへのコミットメントの事例は多い。Vol.1で紹介した株式会社幸呼来Japanの裂き織の展示のほか、越後和紙の株式会社五十嵐製紙による廃棄される野菜や果物の皮を使った「Food Paper」、住化アクリル販売株式会社のリサイクルアクリルなどだ。「NIPPONプレミアムデザイン」以外では、物流パレットをディスプレイ什器に使うエスコット株式会社のプロジェクト「Palego」も注目だ。商品輸入後に廃棄されるパレットを転用したパレット什器は、同じモジュールでつくられているため、レゴブロックのように組み合わせが自由。

店研
五十嵐製紙
手前の内照式の瓢箪形小物は葡萄の皮を漉き込んだ和紙で造形している

住化
住化アクリル販売
リサイクルアクリルは白、黒、クリアの3種類。後方に展示した透明のカリグラフィーを刻んだ作品(デザイン:fRAum)と白色の解説ボードがリサイクルアクリルを使用

エスコット
エスコット
廃棄される物流パレットを什器に。積み重ねられ、フォークリフトのフォークが入る隙間のボケット部分を収納に使うことができる

公衆衛生向上と防災・災害対策が店舗開発の新たな課題か

この数年の感染症対策で消費者の公衆衛生の意識は大きく変化し、例えば、手指の消毒と体温検査はエントランスに求められる新たな機能として定着した。同時に、手が触れる壁面や手すり、結露によるカビが美感を損なう天井などにも意識が向くようになった。前出のアイカ工業株式会社は、自社ブースで抗ウイルス剤練込メラミン化粧板に防臭性能も併せ持つ「ウィルテクトplus」を展示。視覚的にも清潔感を感じられる白色の鏡面仕上げを追加した。また、不燃天井材に防カビ性能を付加した新製品「カビテクト」の展示では、実店舗で試験施工し、通常の不燃化粧板とカビ抵抗性の違いを提示して、同製品の防カビ性能の高さを紹介している。結露しやすい冷蔵ショーケースまわり、裏に配管が通る部分やバックヤードの天井などへの採用が進みそうだ。

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「ウィルテクトplus」

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「カビテクト」の効果を映像で紹介

店舗の和風表現に不可欠な防炎認定の特殊強化和紙、和紙調装飾樹脂版などを手がける株式会社ワーロンは、既存のSIAA(抗菌製品技術協議会)抗菌加工認証製品に、SIAA抗ウイルス加工認証を新たに取得した抗菌・抗ウイルスタイプの「ワーロンシート」「ワーロンプレート」を展示している。同社が得意とする意匠性の高さに新機能を付加した製品で、店舗空間だけでなく老健施設などの福祉施設での採用も視野に入れている。

ワーロン
SIAA抗菌加工認証に加え抗ウイルス加工認証を取得。JAPAN SHOP 2023にもブースを構える中井産業株式会社の「KITOTE」が制作した障子とともに展示している

コンビウィズ株式会社が22年6月から発売している避難所用コット「ベビーにこっと」は、段ボール製の組み立て式コットでパッケージに3個が収められている。防災備蓄品として注目を集め、災害時避難場所となる大型商業施設や保育施設などが採用を進めている。8月の新潟豪雨の避難所でも活用された。防災備蓄品として看過されがちな「赤ちゃんのためのスペース」を、工具なしで組み立てることができる。1カ月以上の使用を想定した強度があり、コットの四隅には蓄光テープを配し停電時も赤ちゃんの寝場所を認識できる工夫も加えられた。避難所での親の負担が大きく軽減するプロダクツと言えるだろう。同社ブースでは、車椅子利用者が使いやすい高さのベビーキープとおむつ交換台を備えたパブリックトイレの提案も行っている。子育てしやすい環境整備は日本が直面する大きな課題の一つ。同社の取り組みに注目だ。

コンビ
避難所用コット「ベビーにこっと」

地震などの被害直後は被災した怪我人を迅速に搬送することが重要だ。各種施設の立て看板やポスタースタンドを手掛ける常磐精工株式会社は、被災時にストレッチャーを倉庫から持ち出すのではなく、売り場やホールに置かれたサインスタンドにストレッチャー機能を持たせた救護器具兼用看板「サポートサイン」を展示している。少人数で担架を使って人を運ぶことは想像以上に難しく、タイヤで移動できるストレッチャーは不可欠だ。「サポートサイン」は簡単な手順で看板をストレッチャーに変形できる機構を備えている。

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「サポートサイン」(左)とストレッチャー変形時(右)

地震による火災の多くは電気が原因であり、地震による通電火災を防ぐ感振ブレーカーの普及は急務だ。株式会社エコミナミが開発した感振ブレーカー「瞬断」は、コンセントに差し込みアース線を接続するだけで、漏電ブレーカーの仕組みを使い電気を遮断する。夜間は停電後に真っ暗になってしまうが、同社は停電後も内蔵バッテリーで点灯状態を維持する「いつでもランプtsuita」を開発して、両者で感振ブレーカーの普及率向上に取り組んでいる。

エコミナミ
「瞬断」(左)と内蔵バッテリーで停電後も光り続ける「いつでもランプtsuita」

リアルな自然の心地よさと映像技術の空間化による新体験

エクステリア・ガーデン用品の株式会社タカショーは、ガーデンや屋外に設置する「5thROOM」の提案を続け、さまざまなシーンに対応できるよう、そのスペックはどんどん進化している。同社ブースではその最新モデルが展示されている。関連会社の株式会社タカショーデジテックは22年12月からスペイン・バルセロナのアウトドア照明器具ブランド「Vibia」製品の国内展開をスタートし、「Vibia」の主要プロダクツが展示されている。LED光源をフレームや器具本体と一体化してデザインしたミニマルな構成は現代美術のような佇まいを見せる。屋外照明の概念が大きく変わるプロダクツだ。

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タカショーによる「5thROOM」の提案

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タカショーデジテックが国内展開をスタートしたスペイン「Vibia」の屋外照明「MERIDIANO」

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ミニマルアートのような「Vibia」の「Empty」

富士フイルムイメージングシステムズ株式会社は、自社の空間演出用プロジェクターによる空間型VRのデモ展示を行っている。フォレストデジタル株式会社が提供するVRシステム「uralaa」の森林や海岸の映像が壁と天井にシームレスに映し出され、映像に包まれる没入感を体験できる。これを大口径の超単焦点レンズを搭載した1台のプロジェクターで実現可能にしたのは、富士フイルムがこれまでのレンズ開発・製造で培ってきた光学的制御のナレッジの蓄積だ。通常は投影時に空間に合わせた専門技術者による微妙が調整が必要になるが、富士フイルムイメージングシステムズのプロジェクターは簡単な調整で、専用ゴーグルなしで空間型VRを実現できる。会場で実際に体験してほしい。

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富士フイルムイメージングシステムズの空間演出用プロジェクターを使った空間型VR

株式会社シーマは、センサを内蔵し、インララクティブ機能を搭載した新システムを組み合わせたフロアLEDディスプレイを床面に使ったステージ状の映像展示をブース中央に設置。LEDディスプレイに囲まれたステージを歩くと、足並みに合わせ床面の映像が変化する様子を体験できる。

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インタラクティブ機能を搭載したフロアLEDディスプレイ

(フリーライター 橋場一男)

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