JAPAN SHOP 2023 会場レポート vol.3(2023/3/2)

JAPAN SHOP 2023では最新の店舗用建材や設備の情報を入手するだけでなく、発売前の先行展示で一足早く実機や製品に触れ、展示を通して開発の背景を知り、普段は気づかずに通り過ぎていた未知の素材と出合う機会でもある。会場では、テクノロジー主導型設備がどう進化しているのか、最新情報もアップデートもできる。そうした視点で会場を見てみよう。

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大判プリンタとカッティングプロッタの最新情報がワンストップで

店舗・イベント装飾や販促ツールのスピーディーな作成には、大型プリンターやカッティングプロッターが不可欠になった。産業⽤インクジェットプリンター、カッティングプロッター、3Dプリンターを手掛ける株式会社ミマキエンジニアリングは、昨年発売した、エコソルベントインクを使うプリント+カッティング機のミドル・ハイエンドモデル「CJV330-160」を使い、プリント後にインラインでポスターの絵柄だけを枚葉カットするデモ展示を行っている。同時にプリントされるカット情報と回転情報を記録したIDをスリッターのトンボセンサが読み取り、不要な余白を自動的に切り落とす。オペレータはデータごとにカット指示を行う必要がなく、カット作業のためのスペースと手間も不要になる。併せて。今年7月に発売予定のフラットベッド型カッティングプロッターの新型機「CFXシリーズ」を展示ブースにて公開している。

ミマキ
「CJV330-160」でプリントしたシートから絵柄部分だけをスリッターが自動カット

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7月発売予定のカッティングプロッターの最新型機「CFXシリーズ」を出品

大判プリンターの差別化は、今後は性能面だけでなく環境負荷軽減への配慮もポイントになりそうだ。ローランド ディー.ジー.株式会社は同社初となるレジンインクジェットプリンタ「TrueVIS AP-640 Resin Printer」を展示。水溶性レジンインクは溶剤系と比べ環境負荷が小さく、揮発性有機化合物(VOC)の排出が少ないため、安全性や環境配慮が求められるインテリア用途にも適している。室内でのプリント中に特別な換気も不要で、プリントのコストは溶剤系とほぼ同等だ。

ローランド
新製品の「TrueVIS AP-640 Resin Printer」

育成中の樹木は光合成で大気中のCO₂を吸収し炭素を貯蔵するため、カーボンニュートラル実現への貢献が広く知られている。しかし樹齢が高い老木はCO₂吸収能力が低下する。日本製図器工業株式会社は、こうした老木を原材料とする、100%リサイクル可能な紙素材のボード「Re-board」を、カット加工に最適な自社の新世代カッティングマシン「Kongsberg X Series」でパーツ化し組み上げたディスプレイを展示している。また、武藤工業株式会社は、プラスチック容器メーカーの株式会社アクタが製造する再生プラスチック使用ポリスチレンボード「Recoボード」にプリントするディスプレイパネルを提案。リサイクルに適したMPインクを使いプリント、パネル使用後に廃棄するのではなく、回収してボードをリサイクルする仕組みも紹介している。

日本製図
CO₂吸収能力が低下した老木が原材料の「Re-board」を使ったディスプレイ

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武藤工業の「VJ-1628MH」。リサイクルに適したMPインクを使い「Recoボード」の特性を活かす

空間演出のための素材としての音と光を探す

これまで店舗では、音響設備として、ブラックアウトしたスケルトン天井や白い壁面に溶け込むモノクロームの業務用スピーカーを設置する例が多かった。音響機器の輸入販売を行う株式会社オーディオブレインズと、商空間の音響計画やコンサルテーションを手掛ける株式会社カエルワークスは、株式会社タブチクラフテックが手掛ける「Taguchiスピーカー」のセレンディピティ・シリーズを店舗空間に導入する音響計画を提案。木材を使ったハンドメイドのスピーカーのプロダクトデザインとしての魅力や豊かさを店舗空間に活かしながら、スピーカーの特性を発揮したアンビエントな音環境をつくり出す。全方向型の六角体ペンダントスピーカーや、音が360°水平方向に拡散する反射板を備えたスピーカーなどを駆使し、音が空間全体に均質に満たされ、包み込まれるような快適な環境を「デザイン」する試みを体感できる。

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Taguchiスピーカーの全方向型ペンダントスピーカー「CUBE060-MP」。出隅に積層材の断面が現れるクラフト作品のような筐体が特徴的

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アメリカの屋外用高品位スピーカーのメーカーRockusticsの岩形スピーカーを坪庭の景石のように展示

テス・ライティング株式会社は、新製品の、幅約8ミリの極細の照明器具でプース内の造作を演出。乳白シリコンのデフューザーで拡散した均質な光のラインが壁と天井に浮き上がる。繋ぎ目がほとんど目立たないのも特徴だ。コントロールパネルで光源のLEDの色温度変更が可能で、空間のベース照明としての明るさも確保している。スリムな形状なので、棚下やわずかな隙間にも無理なく収められるため、設計の自由度も高く間接照明の光源にも適している。

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色温度を変えることで空間の印象も一変する

注目の素材・設備・加工方法に出合う

スクリーン印刷、高精度フィルター、電磁波遮断用などに使われる極細線金属織物を開発・製造する株式会社アサダメッシュはデザイン素材としてのステンレスメッシュを展示。金属とは思えない質感に驚く来場者は多い。線径や密度、織り方のバリエーションで、絹のオーガンジーのような柔らかなタイプから、コシがあって折り目がつくタイプ、金属ならではの独特の光沢を持つタイプなど多様な質感をつくり出している。素材に実際に触れてそれぞれの触感の違いを確かめることもできる。

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アサダメッシュの展示風景。さまざまなタイプのメッシュが壁面に並んでいる

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プロダクトデザイナー大島淳一郎氏がデザインしたフラワーベース。使用したメッシュは#SI-510。ステンレスの線径が細く、低密度の織りで開口率が高いシルクのような質感が特徴のメッシュ

店舗の入り口に設置する手指消毒のスプレースタンドや検温装置を、より洗練したデザインに。株式会社エーワンが開発した消毒・検温ディスペンサー「AldiSX」は、直線的なシンプルな造形で、オリジナルのサーフェスデザインが可能な面のボリュームも確保されたサインポールのような立面が特徴的だ。エーワンはビルの設備保守管理やメンテナンスなどを手掛けている企業。ウィズコロナの時代にビルに新たに求められる消毒・検温の機能を違和感なく空間に収めることを考えた。上部の小窓に手を差し入れると体温測定とエタノール消毒を行い、消毒用エタノールは噴水のように下から噴霧する設計なので、床面が余滴で汚れる心配もない。

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エーワンが開発した非接触型検温消毒器「AldiSX」

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カスタマイズも可能だ

一枚の平面でも、折ることで強度を高め、自立する立体に変容するなどさまざまな展開が可能になる。「折り工学」に関する設計・材料・製造ノウハウを提供し、問題解決をサポートする受託開発サービスを手掛ける、株式会社OUTSENSEが、紙と折りの技術で創造した三次元のディスプレイ装飾のプレゼンテーションを行っている。製品開発、パッケージデザイン、建築・インテリアなど応用範囲は広い。「折る」ことで何が可能になるのか、どんな課題が解決できるのか、折り工学の奥深さや面白さが伝わる展示だ。

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(フリーライター 橋場一男)

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