日経メッセ > JAPAN SHOP > 連載コラム > 魅力的な店舗アメニティーの創出 > テーマ性のある建造物のデザイン

連載コラム

テーマ性のある建造物のデザイン

[ 2012年12月28日 ]

不可欠な「建築デザインのテーマ性」

 商業施設のアメニティーを構成する重要な要素として、「建築デザインのテーマ性」がある。統一したテーマやコンセプトに基づく個性的な建造物群から形成される施設は、われわれにビジュアル面での刺激を与え、興味を喚起し、感動をもたらしてくれる。
 米国で人気を博するライフスタイルセンターの建築物はどれも変化に富み、それが大空や自然の樹木とマッチすることによって秀逸なストリートスケープを形作っている。ライフスタイルセンターの来場者は、ディベロッパーが設定した独自のテーマやコンセプトにそった建物群に取り囲まれることによって、束の間の異次元空間を享受することができるのだ。
 1990年代初期のライフスタイルセンターは、ちょっと瀟洒なストリップセンターといった面持だった。しかしその後、このタイプのショッピングセンターが人気をさらい、続々新設されてきた。競合の激化とともに、施設面の差別化が積極的に展開され、個性的で興味深いテーマを設定した構造物の本格化や大規模化が進められた。
 言うまでもなく、ライフスタイルセンターのメーン・ターゲットは自分の価値観を大切にする富裕な市民であるので、彼ら/彼女らの独特のライフスタイル・ニーズを反映した施設の多様化・個性化が顕著になってきている。
 建築デザイン面の個性に関して論じると、ライフスタイルセンターは本来的にそれを出しやすいが、対照的に旧来型のエンクローズド・モールでは極めて出しづらい。例えば、伝統的なリージョナルセンターは、クッキーカットといわれるいわゆる金太郎飴の造作で、箱型の施設全体を覆う大屋根があるため、小売テナントの天井の高さを必然的にそろえねばならなくなる。個々のテナントが建築デザイン面で個性を打ち出すにはせいぜいファサードに意匠を凝らすことぐらいしかできないのだ。
 これに対して、ライフスタイルセンターは、オープンエアであるため、物理的に高さの制約を受けることはなく、独自の「ライフスタイル」を求める意識の高い顧客に向けて、自由で多彩なデザインを提供することができる。
 この自由度の高さが、顧客にとってはデザイン面での魅力になり、開発するディベロッパーにとっては施設全体のテーマやコンセプトの本格的な設定を可能にする。
 米国のライフスタイルセンターでは、どのようなテーマに基づいた個性的な建造物が構築されているのかについて主なものを明らかにしてみよう。

ヨーロピアン・テイストの建造物のデザイン

 米国で人気を博するライフスタイルセンターには、ヨーロピアン・テイストやオールド・アメリカン・テイストのものが多い。が、米国人の異国趣味からと推察できるが、とりわけ前者のタイプが顕著である。例えば、著名ディベロッパーのカルーソ・プロパティ・マネジメントがカリフォルニア州カラバサスで1998年11月に開発したザ・コモンズ・アット・カラバサスは、画像1から3に示す通り個々のテナントの建物は多様な形態をとっているものの、「イタリアのビレッジ」というテーマで建築様式が統一されている。


1.ザ・コモンズ・アット・カラバサスの建造物

 筆者は米国滞在中、カリフォルニアに住んでいたので、ロサンゼルス郊外のこの施設には数度訪問したことがあった。施設面積は、約2700坪と決して大きなものではないが、瀟洒なヨーロピアン・テイストの建物群の周囲には緑も多く、非常に落ち着いた異次元空間を展開していた。


2.木々に取り巻かれた建造物


3.イタリアン・ビレッジのシネコン

 また、特筆されるのが、ラスベガスにあるタウン・スクエアである。ここは、本格トラディショナル志向のトレンドにのっているといえる。ラスベガスの南西、ストリップ通りとして名高いラスベガス・ブルバード沿いに2007年11月14日にオープンしたこの施設は、42000坪もの敷地に150の小売テナントを配置し、ライフスタイルセンターに不可欠といえるアップスケールなレストランが13店舗も入店している。さらにここには、いわゆる「商業施設」を超え、約10000坪の高級オフィス・スペースも併設されている。
 とりわけこのセンターで特筆されるのは、優美な建造物と入念に作り込まれたファサードである。22のパートに分かれた建物群は、世界の著名な都市の建築様式を取り入れていて、それは実に70種にも及んでいる。ゆったりとしたペデストリアン(遊歩道)を歩くと、フランスのパリやスペインのバルセロナの街路に迷い込んだかのような錯覚を覚えてしまう。それほど手抜きのないディテールにこだわった本格的な建造物ばかりなのだ。


4.タウン・スクエアのメーン建造物


5.南欧風の建造物


6.瀟洒な街並み

自然との一体化

 繰り返す通りライフスタイルセンターはオープンエア仕様であるため、箱型のエンクローズド・モール独特の「人工性」を排除でき、施設のテーマ、コンセプト自体が、当世風の自然回帰志向、環境志向、ロハス志向等の現代思想と調和しやすい。
 また、オープンエアであることのメリットは大気や自然物などの背景のよさを十二分に生かすことができるところにある。満天に広がる群青の空や白く美しい雲、夕日、星空等は、個性的な建造物と一体化することで、一幅の絵画のように鑑賞するわれわれの気分をリフレッシュしてくれたり、感動をもたらしてくれたりする。
 「借景」を上手に活用したこのタイプの施設の建造物は、時々刻々変化して常に違った顔を見せてくれる。自然光によって創り出される光芒や陰翳は多彩で、かつ時の歩みとともに変幻し、ミステリアスであるとさえいえる。例えば、上述のザ・コモンズ・アット・カラバサスはいつでも非日常的な姿を見せてくれているが、とりわけ夕刻には、優美な建造物が夕日に映えて美しい南欧の情景を現出する。その様は、まさにカルロス・サンタナのバラード「哀愁のヨーロッパ」の旋律のような感傷的な気分を誘起するものなのである。


7.ザ・コモンズ・アット・カラバサスの夕刻の情景

魅力的な店舗アメニティーの創出
執筆者:野口 智雄

野口 智雄略歴

早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。日本ショッピングセンター協会顧問。1956年、東京都に生まれる。84年、一橋大学大学院博士後期課程単位修得。その後、横浜市立大学助教授を経て、92年に早稲田大学助教授。93年から現職。2006年3月から2008年3月まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部でマーケティング、流通の研究を行う。88年、『現代小売流通の諸側面』 で日本商業学会賞を受賞。
主な単著に『マーケティングの基本(第三版)』(日本経済新聞出版社)、『マーケティング戦略』(日本経済新聞社)、『マーケティングの先端知識』(日本経済新聞社)、『新価格論』(時事通信社)、『価格破壊時代のPB戦略』(日本経済新聞出版社)、『一冊でわかる! マーケティング』(PHP研究所)、『店舗戦略ハンドブック』(PHP研究所)、『流通 メガ・バトル』(日本経済新聞出版社)、『I型流通革命』(講談社)、『ウォルマートは日本の流通をこう変える』(ビジネス社)、『FREE経済が日本を変える』(中経出版社)、『水平思考で市場をつくるマトリックス・マーケティング』(日本経済新聞出版社)がある。また、近著に『なぜ企業はマーケティング戦略の誤るのか』(PHP研究所)、出演・監修ビデオに『よくわかるマーケティング(日経ビデオ)』(日本経済新聞出版社)がある。

バックナンバー

PAGE TOP