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連載コラム

ライフスタイルを享受する癒しの空間

[ 2011年10月20日 ]

 近年の米国のショッピングセンターの主流は、ライフスタイルセンターである。これはかつて定番だった2核1モールの大屋根でくくられた箱型のショッピングセンターではなく、オープンエア・フォーマットを基本とする。

 センターを構成する個々のテナントは、独自の色合いを持った建造物やファサードを構え、来場者に美しいストリートスケープと、開放感を提供する。無論、ショッピングセンターである以上、メーン機能は小売りであるものの、そこには、多くの人々が爽快感を味わえるパティオ(中庭)や噴水などがあり、その周りにくつろぎのためのベンチや休憩施設を配備して、長時間滞留したくなるような場となっている。

 筆者は、スタンフォード大学で研究を行っていた2006年3月から2008年3月まで米国のライフスタイルセンターを数多く視察した。このショッピングセンターのカテゴリには、テキサス州オースチンのザ・ドメインやカリフォルニア州ロサンゼルスのビクトリア・ガーデンズのような「街」そのものともいえる巨大施設もあるが、多くは富裕層の住宅地の近隣に立地する小規模なコミュニティ型商業施設という形態をとっている。

 今回は、それらの中でも、とりわけ小ぶりではあるものの、来場者に「癒し」を実感させてくれるライフスタイルセンターを紹介したい。

 サンフランシスコの中心部から南へ200キロほど離れたところに、カーメルというヨーロピアンテイストの美しい街がある。ここは、俗に「アーティストの街」といわれるように、個性的な建物が多く立ち並び、その佇まいはまさにメルヘンの世界といった風情である。

 この街の一角に、カーメル・プラザという小規模なライフスタイルセンターがある。この施設は面白い造りで、メインストリートであるオーシャン・アベニューから敷地内に入ると、2階建てのショッピングセンターがみえる。


1.一見2階建てに見えるカーメル・プラザ

 だが、実はこのセンターは、3層構造になっているのだ。1階部分が、メーンの通りから見えず地下に位置しているのである。

 しかし、地下とはいっても、オープンエア・モールであるので、カリフォルニアの燦々たる陽光が降り注ぎ、明るく健全な施設を形成している。

 テナントには、タルボット、 J. クルー、アンソロポロジーなどの人気店が約40店あまり。敷地面積も8960㎡とコンパクトではあるが、しゃれた建物が豊富な緑に彩られており、おとぎの国のような佇まいとなっている。

 このショッピングセンターのアメニティー施設として、まず挙げられるのが1階にあるパティオである。ここには、モニュメントとなる巨大な樹木と噴水があり、かつ心を和ませてくれる美しい花々の花壇やフラワーポットが随所に配置されている。


2.植栽の多いパティオ


3.豊富なくつろぎのための施設


4.装飾をほどこした車椅子用通路


 また、この施設の際立った特徴として、休憩施設が非常に多いことが挙げられる。
 画像3に示す通り、2階のテナントの前には、ほぼ例外なくウッドベンチとテーブルが用意されている。それも簡易なメタル製のものではなく、頑丈そうな天然木材で作られており、座面には分厚いクッションが置かれている。来場者は有り余るほど取り揃えられた本格的なくつろぎの施設で、緑を愛でながら、お茶を飲んだり、談笑したりして、豊潤な時を過ごすことができる。

 このショッピングセンターで、さらに特筆されるのが、ユニバーサルデザインへの個性的な取り組みである。この施設では、南側にエレベーターが設置されており、これにより誰でも容易にフロア間の移動が可能である。これは今のご時世、一般的な取り組みといえるが、秀逸なのは階段脇に敷設されている車椅子用の通路である。

 これは画像4に示す通り、緩やかなスロープの両サイドに手すりが設置されたものだが、通路部分をみると、無機質的なコンクリートの打ちつけではなく、装飾的なタイルが施されている。このようなきめ細かな心配りに接すると、この施設が単に物理的な面でだけ優しいのではなく、情緒面、精神面においても、人に優しい配慮がなされていることがわかる。

 美しい樹木や花々に取り巻かれ、豊富なくつろぎの設備や人への優しい配慮を施されたこの空間は、まさに「購買施設」を超えた脱日常的な憩いと潤いの人間空間を形成しているといえる。


 さて、日本にも、カーメル・プラザに匹敵する施設がある。東京都立川市の若葉ケヤキモールだ。この施設もその名称で端的に表わされるように、立派なケヤキの木が立ち並び、豊富な花々が咲き乱れるフローリッシュな空間を形成している。


5.ケヤキが林立する施設

 ここは、デベロッパーの東神開発株式会社が環境面に配慮したライフスタイルセンターを作ろうと意図し、2006年に開業した施設である。それゆえ、上記の植栽に加え、構造的には完全にオープンエアで、構成するテナントはすべて中央のパティオ側を向いた独立店舗となっている。

 ところで、デベロッパーの東神開発といえば、なんといっても日本初の本格的な郊外型ショッピングセンター、玉川高島屋SCを開発した企業として有名である。今回取り上げた若葉ケヤキモール成立の背景にも、玉川高島屋SCが深くかかわっている。

 同社の元代表取締役で、実際、営業・管理に深く関わっていた大甕聡氏(現在、日本ショッピングセンター協会顧問)はその経緯を次のように語る。「玉川高島屋SCが、開業20周年を迎え、リニューアルをする時期に、今後どうしたらよいのかという点に関してさまざまな考えがありました。実は二子玉川は当初、独立商圏だと考えていたのですが、調べてみると渋谷という大商圏の一部でしかないのではないかという疑問がわいたのです。そこで"環境"というものに力を入れて個性化していこうと考えました」。


6.成立の背景を語る大甕聡氏

 そして、玉川高島屋SCでは、「ニュー・アーバン・アダルト・ガーデン・シティ」というコンセプトを創造し、緑園性、回遊性、体感性といったものを具現化するという方向を打ち出した。緑園性は、言うまでもなく樹木や花で施設のグリーン環境を整備することである。実は、東神開発の環境への取り組みは驚くほど早く、昭和50年代にはすでに地球環境保全計画なるものを立てていたというのだ。


7.パティオにある大きな花壇

 このようなバックグラウンドの延長線上ででき上がったのが、若葉ケヤキモールである。この施設は、ケヤキ並木をシンボルとし、中央のパティオには、大きな花壇が配置され、通路やフェンス際なども緑でおおわれている。


8.フェンス際の緑


9.連子でおおわれた立体駐車場(正面)


10.地下に設置された駐輪場

 ストリートスケープの美しさを維持するための仕掛けにも余念がない。
 画像9に示す通り、300台収容の立体駐車場はむきだし状態ではなく、興醒めとならないようウッディな連子で目隠しが施されている。ここには、単なる買い物の場を超えた施設内環境へのこだわりが感じられる。連子による装飾は、玉川高島屋SCでもみられる手法であるが、シンプルでありながら優美な「和テイスト」を醸し出しているともいえる。

 実は、ストリートスケートへの徹底したこだわりは、駐輪場に顕著にみられる。この施設には、1キロ商圏から徒歩や自転車でやって来る人々が多い。そのために自転車の駐輪施設が必要になるのだが、画像10に示す通り、ここではそれが地下に配置されている。これは言うまでもなく樹木や花々で形作られた美しい景観を壊さないためである。

 この施設の敷地は約1万平方メートルと、小規模だが、木々に取り巻かれたペデストリアンが切られており、多くの人々が行き交う散歩道を構成している。取材の際に、犬を連れて歩く来場者数を多く目にした。


11.犬を連れて散歩する人々

 30代の女性にこの施設のメリットについて尋ねたところ、「ここは、施設が広過ぎず、買い物がしやすいです。また、緑が多くて癒しになります。それからサービスのお店も多くて便利です」とのことだった。確かに、ここには、エステ、歯科医院、子供英会話教室など、物販店以外のサービス施設が充実している。

 若葉ケヤキモールは、単なる買い物施設を超え、そこに来れば日常的なストレスから解放され、自分流のライフスタイルを享受できる「癒しの空間」になっているのである。

魅力的な店舗アメニティーの創出
執筆者:野口 智雄

野口 智雄略歴

早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。日本ショッピングセンター協会顧問。1956年、東京都に生まれる。84年、一橋大学大学院博士後期課程単位修得。その後、横浜市立大学助教授を経て、92年に早稲田大学助教授。93年から現職。2006年3月から2008年3月まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部でマーケティング、流通の研究を行う。88年、『現代小売流通の諸側面』 で日本商業学会賞を受賞。
主な単著に『マーケティングの基本(第三版)』(日本経済新聞出版社)、『マーケティング戦略』(日本経済新聞社)、『マーケティングの先端知識』(日本経済新聞社)、『新価格論』(時事通信社)、『価格破壊時代のPB戦略』(日本経済新聞出版社)、『一冊でわかる! マーケティング』(PHP研究所)、『店舗戦略ハンドブック』(PHP研究所)、『流通 メガ・バトル』(日本経済新聞出版社)、『I型流通革命』(講談社)、『ウォルマートは日本の流通をこう変える』(ビジネス社)、『FREE経済が日本を変える』(中経出版社)、『水平思考で市場をつくるマトリックス・マーケティング』(日本経済新聞出版社)がある。また、近著に『なぜ企業はマーケティング戦略の誤るのか』(PHP研究所)、出演・監修ビデオに『よくわかるマーケティング(日経ビデオ)』(日本経済新聞出版社)がある。

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