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連載コラム

アーバン・アメニティー:CIAL PLAT

[ 2011年12月26日 ]

 都市の過密度の高い日本のような国で、アーバン・アメニティーを享受できるショッピングモールがある。それは、東神奈川駅ビルの「CIAL PLAT東神奈川」だ。


1.CIAL PLAT東神奈川の外観

 2009年10月に開業したこの施設は、駅ビルという日本固有のモール形態ながら、巨大なフィットネスクラブやクリニックモールという充実した医療施設を内包することで、エリアの生活者に単なるショッピング機会を超えた潤いと安心の場を提供している。


2.CIAL PLAT東神奈川の入口

 この施設を開発したのは、JR東日本グループのデベロッパー企業、横浜ステーシヨンビル。駅ビルの躯体、外装は JR東日本が担い、設備と内装は同社が担当するという役割分担で作られた。
 同社社長の濱田賢治氏によると、「東神奈川に駅ビルタイプのショッピングセンターを作ろうという構想は10年近く前から存在していました」という。ただ、東神奈川駅は、何といっても大ターミナル、横浜駅に隣接するため、従来型のファッション・テナントを中心するモールではやっていけないだろうという考えがあった。


3.お話をうかがった濱田賢治社長


 それではどのようにするかと思案をめぐらし、フィットネスクラブやクリニックという目的性の高い施設と食料品店やDVDレンタルショップ、携帯ショップなど、生活に密着した店舗が同居するデイリー・ライフスタイル志向のモールを作ろうとの考えにたどり着いたのだ。とりわけ開設にあたっては地元町内会の方々の声を真摯に聞き、フィットネスクラブに対する並々ならぬニーズがあることを知って、これを目玉に据えることになった。
 ただし、現代風のモールで、ファッション・テナントが皆無となると、女性顧客が離散し、業績がはかばかしくなくなるのが普通である。それゆえぎりぎりまでこのようなスタイルのモール作りをすることの是非が問われ、活発な議論が重ねられたという。
 その結果、ファッション・テナントのない駅ビルという一見「非常識なモール」を東神奈川駅に作るという英断が下された。そして、開業以来同施設の売上高も、来場者数もずっと伸び、予想外といえるほどの好調を続けている。

 フィットネスクラブのようなアメニティー・テナントをメーンとする生活密着型のモール・スタイルは、近年の米国ショッピングセンター業界で人気化しているライフスタイルセンターに一脈通じるものがある。この駅ビルは小規模ながら、ライフスタイルセンターの特徴であるアメニティー性、上質性、近辺性などをすべて具備しているのだ。


4.小奇麗な生活密着型モール内部

 こちらのアンカーテナントであり、強烈な個性を発揮しているのが、「ジェクサー・フィットネスクラブ東神奈川」である。7コースある25m プール、筋力トレーニングや有酸素運動のできる最新鋭機器を豊富に備えた広大なジムエリア、ダンススタジオにエステティックサロンなど、高度なフィットネス・ニーズに応えられる設備が充実している。


5.ジェクサーの受付


6.ジェクサーの売店部分

 濱田社長によると、「フィットネスクラブというものは、本来郊外の遊休地を活用した大規模運営が常識」という。だが、こちらの施設ではこの種の常識を破り、駅と完全に一体化させたのだ。その結果、極めて利便性の高い、個性的なモールができたのである。こちらのフィットネスクラブは、開業早々に募集会員数5500名が満杯となり、その後に募集をかける必要がほとんどない状態という。
 施設内には、日帰り温泉をほうふつさせるような広々とした大浴場も完備していて、一日中お湯につかって過ごす人々も少なくないという。この駅ビルは、まさに家庭の一部であり、生活を楽しむ憩いの場として機能しているのだ。
 こちらの施設のもう一つの主役が、クリニックモールである。これは、各種医院の集合形態を意味し、多様な患者の医療ニーズに対応するものである。現在、4階の比較的広いスペースに、歯科、皮膚科、内科、神経科という4軒のクリニックが入っており、地元住民の病気治療、健康管理に貢献している。


7.4階のクリニックモール入口

 言うまでもなくクリニックは非営利組織であり、営利組織であるこの規模の商業施設に、4軒ものクリニックが入っているのは異例のことといえる。まさに地域住民の暮らしに根差した生活密着型モールならではといえよう。


8.多数のクリニックが並ぶ

 ただ、クリニックのような非営利組織をモールのテナントにするには、リーシングの問題がどうなるのか疑問に思う。商業者と商売感覚、金銭感覚の異なる医者の誘致には難しい面が多々あるのではないかと考えてしまうからだ。この点に関して、濱田社長はこう語る。「現在では、モールの側からでなく、お医者さんの側からモールに入りたいという希望が高いです。今日、医院もモールの時代に入ってきており、モールへの入居を望む医院が多くなっています」。

 このようなユニークなテナント構成が功を奏し、このモールは前述の通り、大きな成果を上げてきている。2011年11月末時点の年間売上高は対前年比で111.6%を記録し、客数も対前年比109.1%となっている。
 今日のような未曽有の不況下で、なぜこのような高成果を得られるのであろうか。その理由に関して、濱田社長は「多様化するニーズに適応した点にあります」と述べる。商業の側面に目を向けると、もちろん東神奈川には沢山の小売店舗があるが、総じて価格訴求型である。だが、このエリアには、単なる価格訴求型では満足できない消費者が多数いるのだ。
 実はこの駅ビル内のテナントでも当初、価格を安くすることによって集客を図ろうとしたところがあった。だがその結果、かえって売上高も客数も落ちてしまったのである。このエリアには、高額所得者が多いため、低価格を訴求するよりも品質を良くし、あえて価格を高く設定するくらいの方が購買してくれる可能性が高いからだった。
 この低価格戦略をとったテナントはその後、逆に価格を引き上げることによって、業績をアップさせたという。デフレ不況下でもあえて逆行する価格設定で集客が可能となる非常に興味深いエピソードといえる。
 このようなエピソードが生まれるのは、ここ東神奈川が、海側に高層マンションが新設され、高質の生活を求める人々が増加しているエリアだからだ。いわゆる「神奈川都民」と呼ばれる東京に通勤する所得水準の高い居住者が増えることによって、商業施設に対しても単なる低価格ではなく、潤いや豊かさといったアメニティー要素を重視したのである。
 それゆえ、アメニティーを前面に据えて積極的に提供するCIAL PLATが好感を持って迎えられたのである。今日では、CIAL PLATにしか行かない、ここでしか買い物をしないというモール・ロイヤルティーの高い消費者が増えているという。
 今回、モール内をつぶさに見学させていただいてその魅力を実感した。例えば、生鮮品を取り扱う横浜水信では、新鮮な産品を豊富に取りそろえることはもちろんのこと、その陳列方法にも巧みな演出がみられる。


9.ユニークな横浜水信の陳列

 例えばにんじんや玉ねぎなどは、画像9に示す通り、円形のざるに奇麗な花びらが開くように並べられている。これによって、朝市での買い物を想起させるようなビビッドな鮮度が訴求されているのだ。プチトマトも小さな透明カップに入れられて陳列されているが、それはあたかもファンシーグッズの品ぞろえを見るようで美しく、可愛らしい。


10.可愛らしいプチトマトの陳列

 これらは、ビジュアルマーチャンダイジングへの注力ということなのだが、同店ではこのような陳列や品ぞろえに関して、店の人間だけで対処するのではなく、外部の専門家を活用しているという。ハイクラスの消費者を対象にして、「見た目」の演出という付加価値面にも細心の注意を払っているのである。
 そして最後に付け加えたいのが、テナント間の連携を基礎にしたマーケティング活動である。このモールでは、メーンであるフィットネスクラブの会員になると、例えばサンマルクカフェのドリンクがどれでも定価より10%引きで購入することができる。また、大戸屋では、会員が定食を注文した場合、店内のドリンクバーを無料で利用できる。
 このようなテナント間の連携効果は決して小さくない。ジェクサーの利用者は延べで1ヶ月30000人と見込まれているが、このうち会員割引を行う10テナントの利用者は、約2000人にものぼっている。つまり、このユニークな取組みによって、利用者ベースで約6.7%の連携需要を発生させているのだ。相互メリットにつながるシナジー効果が確実に発現しているのである。

 ジェクサーというフィットネスクラブを核としたアーバン・アメニティーの創出。それはモール全体の求心力を高め、街の生活者を強く引きつける魅惑のオアシスとなっているのである。

魅力的な店舗アメニティーの創出
執筆者:野口 智雄

野口 智雄略歴

早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。日本ショッピングセンター協会顧問。1956年、東京都に生まれる。84年、一橋大学大学院博士後期課程単位修得。その後、横浜市立大学助教授を経て、92年に早稲田大学助教授。93年から現職。2006年3月から2008年3月まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部でマーケティング、流通の研究を行う。88年、『現代小売流通の諸側面』 で日本商業学会賞を受賞。
主な単著に『マーケティングの基本(第三版)』(日本経済新聞出版社)、『マーケティング戦略』(日本経済新聞社)、『マーケティングの先端知識』(日本経済新聞社)、『新価格論』(時事通信社)、『価格破壊時代のPB戦略』(日本経済新聞出版社)、『一冊でわかる! マーケティング』(PHP研究所)、『店舗戦略ハンドブック』(PHP研究所)、『流通 メガ・バトル』(日本経済新聞出版社)、『I型流通革命』(講談社)、『ウォルマートは日本の流通をこう変える』(ビジネス社)、『FREE経済が日本を変える』(中経出版社)、『水平思考で市場をつくるマトリックス・マーケティング』(日本経済新聞出版社)がある。また、近著に『なぜ企業はマーケティング戦略の誤るのか』(PHP研究所)、出演・監修ビデオに『よくわかるマーケティング(日経ビデオ)』(日本経済新聞出版社)がある。

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