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連載コラム

大規模商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」 に挑む 「ラ チッタデッラ」(小さな街)の戦略

[ 2012年10月15日 ]

1936年(昭和11年)から川崎と共に歩んだチッタグループ

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「ラ チッタデッラ」入り口のゲート
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広場を囲む「ラ チッタデッラ」の建物群


 1987年、川崎に日本初のシネマコンプレックス「チネチッタ」が開業し話題となった。その後も施設の拡充と業態を変革し、2002年に「ラ チッタデッラ」(小さな街)となってグランドオープンを飾り、エンターテインメントをテーマとする全く新しいコンセプトの商業施設として注目を集めた。その「ラ チッタデッラが11月に10周年を迎える。

 この間に川崎駅周辺の大規模再開発が進展し、川崎は商業の街へと変貌を遂げ、新旧商業者の競争が激化する中で「ラ チッタデッラ」の進化が今も続いている。この進化とは、「ラ チッタデッラ」の核をなす映画部門「チネチッタ」の前身である映画館「川崎銀星座」での、1937年(昭和12年)の誕生から実に75年にもわたり映画を愛してきた人達の足跡である。終戦直後の何もない時代に娯楽を求めた大衆に応え、空襲で全焼した映画館をいち早く再建したチッタグループは、川崎の復興に大きく貢献し、今も地域の活性化に一役買っている。その取り組みと今後を探ってみた。


人口143万人の都市、川崎は大激戦エリア

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開発が加速する川崎駅西口界隈とラゾーナ
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「ラ チッタデッラ」の広い駐輪場

 川崎市は1971年に政令指定都市となった。当時の人口は97万人であったが、現在は143万人、この40年間で1.5倍と全国一位の成長率を維持し、福岡・京都市にも届く勢いだ。また、川崎駅乗降者数もJR・京急を合わせると66万人/日と、この10年で6万人も増加している。

 旧市街地(海側)に面する川崎駅東口は、さいか屋、岡田屋モアーズに始まり、1986年の地下街アゼリア、翌年の「チネチッタ」に続き、今ではアトレ川崎、川崎ルフロン(丸井川崎店・ヨドバシカメラ・無印良品などが入居)、川崎DICE(東急ハンズ・ユニクロ・TOHOシネマズ・HMVなど)、タワーリバーク、ホテルメッツなどの事業者が出揃う。

 一方、大規模再開発で大きな変貌を遂げた西口(内陸側)には、1995年に明治製菓跡地のソリッドスクエア、2004年に音楽ホールのミューザ川崎、2006年には東芝工場の跡地にJR川崎駅と直結するラゾーナ川崎プラザが誕生。オフィスビルや高層住宅レジデンスの開発と合わせて、東西連絡コンコース、バス・交通ターミナルや駅前広場も整備され、市民の利便性は格段に向上した。


ジョン・ジャーディ氏デザイン、イタリア古都の"小さな街"

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イタリア古都のようなヒューマンスケール空間
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アンティークな外灯に施設ロゴとサイン

「ラ チッタデッラ」は、シネマコンプレックスの「チネチッタ」(12スクリーン、3,208席)、ライブホールの「クラブチッタ」(スタンディングで1,300人)を中心に、ショップ、レストラン、ウェディング施設などを加え、歓楽街だったエリアのイメージを刷新し、現代的な文化情報発信地として一躍川崎の新しい顔となった。

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階段にもアートを施す
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街を一望する丘の上のチャペル
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心安らぐ並木通り


 「ラ チッタデッラ」はイタリア語で"小さな街"の意味だ。イタリアのトスカーナ地方の丘陵に造られたヒルタウン(街)をモチーフに、石畳の小道や噴水がイタリア古都の雰囲気を醸し出している。施設デザインは、博多キャナルシティや六本木ヒルズ、カレッタ汐留・電通本社ビルなどで日本でもその名を知られるジョン・ジャーディ氏によるもので、2004年には米国で世界の優れた小売店を表彰する「SADI賞」新オープンエアセンター部門において最優秀賞、また神奈川県建築コンクールでの優秀賞などを獲得した。


シネコン「チネチッタ」と飲食部門でラゾーナ川崎プラザに対抗

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開放感のある雰囲気が人気のレストラン
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路地のようにつくられたレストラン街


「ラ チッタデッラ」となったリニューアルオープン当初は、順調に業績を伸ばし、シネマコンプレックス「チネチッタ」の年間観客動員数は180万人、興行収入22~23億円を誇り、平成2003年から2006年の4年連続で全国首位となる栄冠に輝いた。

 しかし、2006年のラゾーナ川崎プラザの開業と駅前整備の完成に伴い、駅周辺の人の流れは「ラ チッタデッラ」のある東口からラゾーナ側の西口へと大きく変化した。「ラ チッタデッラ」も、SC全国1位の業績を上げるに至ったラゾーナ川崎プラザ大成功の陰でその影響を受け、有力テナントの撤退や衣料品を中心に物販部門が伸び悩んだ。とはいえ、商業床がもともと少ないことや、イタリアの街並みをイメージした居心地の良い飲食部門が健闘し、映画部門の底力にも支えられ対抗しているのが現状だ。


映画部門は大手資本組と独立系小資本の熾烈な闘い

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「チネチッタ」のあるマッジョーレ棟
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シネコンを2層に収める巨大な建物


 しかし、その映画部門も相次ぐ新規参入により競争が激化した。2003年に、隣接する川崎DICEに業界最大手のTOHOシネマズ川崎(9スクリーン、1,902席)ができ、ラゾーナ川崎プラザには東急系チェーンの109シネマズ川崎(10スクリーン、1,957席)も進出、伸び悩む映画業界にあって大手大資本組と独立系小資本との熾烈な闘いを呈している。

 その中でチネチッタの映画への愛着とこだわりは、大手チェーンでは上映機会のないマイナー作品や、単館でしか掛からないような芸術作品や問題作などもいち早く番組に取り入れ、映画の殿堂として地元および東京・神奈川エリアの映画ファンを引き付けているのだ。


"映画業界の革命"、デジタル化の波

写真14音楽と映像を駆使した「クラブチッタ」

 ところで、映画業界では米欧、さらに国内でも撮影・編集・配給・上映に至る全ての工程が完全デジタル化する"映画業界の革命"が進行し、設備投資に多大なコストがかかる(1スクリーン当たりのデジタル機材費は1,000万円)。資本力の差が映画館の勝敗を決するとも言われている。

 デジタル化のメリットは、フィルム時代と違ってパソコンと回線さえあれば、人的・スペース(建築)的・時間的な制約を受けないことと、デジタル化されたコンテンツであればスポーツや音楽、劇場公演など、どんなジャンルでも上映が可能な点にある。臨場感あふれる迫力の大画面と最先端の立体音響が体感できる映画館なら、ダウンロードやレンタルで音楽や映画を楽しんでいる若者達を呼び込むことも可能だ。

 今後は、さらに番組づくりのノウハウや力量が問われる時代を迎えるが、既にデジタル化への対応を済ませた「チネチッタ」にとっては、実力を発揮するチャンスともなった。「ラ チッタデッラ」は「クラブチッタ」というライブホールの運営経験があり、世界的な音楽家やアーティストを直接プロモートできる資格と豊富なネットワークを持ち、内部にプロフェッショナルを抱えているのが強みだ。

商業施設と商店街が一体となる

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石畳の小路と「チネチッタ通り商店街」
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スターバックスコーヒー店(右側1階)

 施設内中央の石畳みと美しい並木通りは、「チネチッタ通り商店街」になっており、通りに面する商業者と一体となって地域の活動を支えている。その一つ、スターバックスコーヒーでは朝・昼・午後・夕方・夜の客層が頻繁に入れ替わり、コミュニティの貴重な場となっている。

 店には、朝刊を読む中高年男性、ベビーカーに囲まれる若いお母さん達、昼時は近隣OLやサラリーマン、午後の婦人グループや高校生、夜の集まりなど一日中客足が途絶えず地域に溶け込んでいて、喫茶店と現代的なカフェの顔を合わせ持ち、地域マーケットの特性と可能性を示している。


「チネチッタ」からスタートした「カワサキ ハロウィン」

写真17円形階段に囲まれた噴水広場のライヴイベント

 通りには"中央広場"と"街の広場"、サテライトスタジオなどが面しており、光・音・噴水のパフォーマンスやライブショーが毎日行われ、地元に憩いと活気を提供してきた。

 この10月26日(金)~28日(日)に16回目の開催が予定されている、話題の「カワサキ ハロウィン」は、そもそもこの「場」から始まったイベントである。「カワサキ ハロウィン」は、今や川崎市と周辺商業者を挙げての一大イベントに成長し、3,500人の参加者と10万人を超える集客規模の名物イベントとなったのも「ラ チッタデッラ」の功績である。

写真18熱気と興奮の「カワサキ ハロウィン」


文化的イメージを広め、川崎の顔となっていく

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恒例のクリスマス野外コンサート
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初詣のメッカ川崎大師に近く、
2,000人もの若者が集まる大晦日のカウントダウン
スターバックスコーヒー店(右側1階)


 今後の「ラ チッタデッラ」の戦略には、エンターテインメント型商業施設の存在感と、文化的イメージをさらに強め川崎の顔となることが不可欠だ。そのためには、市内川崎区・幸区と横浜市鶴見区から東京都大田区までの5km商圏(推計人口150万人)における旺盛な市場でのシェアをしっかり守り、テナントと地域商業者、更には自治体やコミュニティとの連携を深め、地域色とチッタらしさを発揮していくことが重要だろう。

 まず、何といっても日常的に人を集めるために、核となる食品スーパーやデイリーニーズを満たすブーランジェリー&ベーカリー、書店などが欲しい。またエンターテインメントを幅広い層に広げるために、団塊世代を呼び込む名画上映や、若者バンドに加えオヤジバンドのバトル、カラオケ大会の開催など、今まで以上に地域参加のイベント・プログラム強化を期待したい。

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GWは沖縄一色に染まる「はいさいFESTA」
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広場につづく商店街の玄関


「ラ チッタデッラ」のように、程よい規模感と地域密着により、地域の活性化に貢献している姿は、今後の全国の中心市街地のあり方を示す好例である。全国各地でコミュニティの崩壊が危惧され、成熟社会における生活の質が問われる中で、コミュニティの再生のためにも「場」の持つ力は重要だ。

「ラ チッタデッラ」の魅力は、地域に開かれ多様な文化に触れられる「場」を提供している点に尽きるだろう。都市文化の視点に立った"小さな街"こそ、今後の地域社会の救世主と言えるのではないだろうか。

■施設概要
○名 称 ラ チッタデッラ ( LA CITTADELLA )
○住 所 川崎市川崎区小川町4番地1 他
     JR川崎駅より徒歩5分
○設 立 2002年11月
○敷地面積 約16,500㎡
○延床面積 約66,000㎡
■施設構成
○VIA CINECITTA'<チネチッタ通り> 非日常空間へ誘う玄関口。ヨーロッパのプロムナードの雰囲気が漂う。
○MAGGIORE<マッジョーレ> LA CITTADELLAのメインエリア。シネマコンプレックスCINECITTA'や個性豊かなショップ&レストランに加え、頂上の丘の上には「カペラ サンタンジェロ(天使の教会)」と名付けられたチャペルがあり、シネマのような結婚式を提案している。
○VIVACE<ビバーチェ> アパレル・雑貨・ビューティ・アミューズメントなどのショップ&レストランが詰った地下1階地上6階建てのタワー型エリア。「マッジョーレ」とは空中ブリッジによって繋がる。ブリッジからは360度広がるイタリア風の街並みが楽しめる。
○PICCOLO<ピッコロ> 川崎エリア最大規模のサロンkakimoto armsが入居する最新ヘアスタイルの発信地。
○VIA CLUB CITTA'<クラブチッタ通り> CLUB CITTA'前の通り。深夜まで営業のレストラン・バーやショップが並ぶ。
○CLUB CITTA'<クラブチッタ> 最新の音響設備が整うイベント空間。ライブ、演劇、ファッションショーなど多彩なイベントが繰り広げられる。
○CINEPIT<チネピット> 約320台収容可能な立体駐車場と平面駐車場。「ラ チッタデッラ」利用の場合一部駐車料金の割引あり。
○Arena CITTA'<アレーナチッタ>屋根付き全天候型のフットサルコート2面を軸とした、「ラ チッタデッラ」の新しいエンターテインメントエリア。

テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にてスペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、その後(株)ロッテ専務取締役。ロッテグループのホテル・百貨店・SC・飲食チェーン・アミューズメント施設・劇場・映画館、ネットビジネス等の開発をサポート。現在、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』他がある。

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