日経メッセ > JAPAN SHOP > 連載コラム > テンポロジー考 > 自然と共に経済発展する街 ( 前編 ) ~ ポートランドが実現したヒューマン・シティ ~

連載コラム

自然と共に経済発展する街 ( 前編 ) ~ ポートランドが実現したヒューマン・シティ ~

[ 2013年1月23日 ]

都市政策の成功例として、米国オレゴン州のポートランド市が挙げられるが、昨年10月、久し振りにポートランド視察を行った。

写真1市民運動により撤去された高速道路跡地を整備、1974年に完成したトム・マッコール・ウォーターパークとダウンタウンのビル群。(手前はウィラメット川) この景観は、ここから始まったポートランドの街づくりの象徴である。

 ポートランドがなぜ注目を集めるのか、改めてその魅力について考えると、一言でいえば落ち着いた、心休まる「街」にあるように思う。しかし、アメリカの多くの都市と比較して、ポートランドの街並みから受ける印象は、必ずしも視覚的に優れているとは映らない。街行く人のファッションは地味で、カフェやショップも他の地方都市と変わらないし、街の風景からは大きな差が見えてこない。では、その居心地の良さや、他の都市では感じることのない解放感や安心感はどこから来るのか、前編ではポートランドの街づくりの視点から探ってみた。

写真2
ダウンタウンを中心に、パブリック
アートが100カ所以上も設置されて
いる。
写真3
バラの街で知られる市内は、至る所
にフラワーBOXが飾られる。
写真4
ダウンタウンの広場でビッグチェス
と遊ぶ、お爺ちゃんと孫。


日本と関係の深いポートランド

 オレゴン州はカリフォルニア州の北に位置し、その最大の都市がポートランドだ。人口約58万人、都市圏人口は214万人となっており、札幌・仙台・八王子・広島・福岡の各市と並ぶ規模にある。

 ポートランドは西海岸最大の貿易港(木材輸出など)として栄え、今ではトヨタ・ホンダ・スバルの輸入港であり、また、日本向け米国産小麦の3分の2がここから輸出されている。主産業は農業と林業だったが、現在は近郊にインテルの生産・研究拠点を7つも抱え、ハイテク産業の進出を促し、シリコンウエハーの全米生産量の約半分を生産している。日本との距離が近く、インフラも整備され、電力コストも安いなど、ポートランドには米国市場で最大手の信越半導体をはじめNEC、富士通、エプソンなど約150社の日系企業が事業を展開しており、最近では大手製菓メーカーのカルビーがポートランド近郊に工場建設を発表したばかりである。

 文化交流でも、昨年のNHK紅白歌合戦で、歌手の由紀さおりさんがジャズ・オーケストラ「ピンク・マルティーニ」と共演した舞台がポートランドである。リーダーのトーマス氏が市内のCD店で偶然見つけた由紀さおりさんのレコードにインスピレーションを得て、アルバム「1969」が全米で大ヒットした話題も、ポートランドを身近なものにしてくれた。

写真5
由紀さおりさんのレコードがあった「EM」CD店は、
資源再利用のため大量の中古レコードを扱っている。
写真6
「Powell's CITY OF BOOKS」は世界最大の面積、100万冊
の新・中古本を扱い、日本の漫画アニメ・コーナーも充実し
ている。(ウインドーに、LOCAL+INDEPENDENTの文字)


ヒューマンな空間とゆるやかな時間をもたらす街づくり

 ポートランドの街区は、1ブロック(一辺)の長さが61mと短く、米国で一般的な122mの半分で、道路幅も20mと狭い。これは1マイル(1.6km)を20で割って、道路と合わせて1辺80mとしたもので、極めてユニークな都市計画である。したがって、心理的に歩く速度はゆっくりとなり、路地や、看板・ショーウィンドウ、すれ違う人にも目線が行きやすい。両側の建物の高さも道路幅との比率から10m、建物は2層が基本だ。また、1階部分は店舗や飲食店、カフェとなっているため(街区によっては義務)、道行く人とのアイコンタクトが生まれやすい。

 ポートランドの中心街は東西1.5km、南北3.5kmと歩いて「20分の街」である。
公共交通機関はストリートカー(路面電車)とMAXライトレール(郊外と結ぶ)、バス路線などがあり、中心部への自家用車の通行やタクシーの乗り入れが制限されていて、クルマが本当に少ないことに驚く。ポートランドは土地利用の効率化と集約化が進み、90年代、中心部の人口増加率26%に対し、宅地面積は8%の上昇にとどまり、公共交通の利用は5~10倍、徒歩は3倍、クルマの移動・所有も半減した。

 このコンパクトシティへの取り組みは、1973年の土地利用法に始まった。1978年に住民投票で全米初のオレゴン州を含むメトロポリタン地区(25市3郡)の広域行政府「メトロ」が設立され、1992年に都市の骨格となる50年後のビジョン「リージョン2040」を制定して、成果を上げてきた。中でも注目されるのが、政策を実行してきたポートランド市開発局(PDC)の存在である。

写真7
ダウンタウン街区の1ブロックは短
く、陽が差し込んで見える街路樹の
ところが次のブロックだ。
写真8
クルマをほとんど見かけないダウン
タウンの中心部。 
写真9
コーヒー通の多いポートランドで、
5つ星と評価される地元の超人気店、
「STUMPTOWN COFFEE
ROASTERS」。世界の覇者スター
バックスもかなわない。

写真10 写真11無料だったMAXライトレール(ストリートカーと共に)も、当初の地域振興の使命をほぼ果たし、リーマンショック以降の税収の落ち込みから昨年9月に一律$2.5の有料化に踏み切った。

指導力と信用が強みのプロ集団、ポートランド市開発局(PDC)

 PDCは1958年から、長年にわたって自然と共生するポートランドの都市政策を推進し、「持続可能な街づくり」をプロデュースしてきた。PDCは5人の理事(企業家、弁護士、などの一般市民)と、7つのエリア(95のネイバーフッド・アソシエーション)、40のビジネス街連合(TMO)による組織である。その事業は、事業者やデベロッパーへの資金貸付、空港アクセスや交通インフラの整備、河岸地域の開発、公園・広場の整備、公共施設の管理・修繕、都市再開発資金の調達、住宅整備など多岐にわたり、多くの雇用を創出している。

 PDCは、未利用遊休地や空き物件を買い取り、信頼のおけるデベロッパーに開発協力を求め、オフィスビルや商業施設のテナント・リーシングにも的確な事業者を誘致してきた。政策的に必要なテナントには家賃の一部を補填するなど、事業リスクにも耐えうる高度な専門性をもって、絶大な指導力を発揮している。

 その信用を支えてきたのが潤沢な財源であり、税収増分引当金(TIF)の存在が大きい。開発区域内の固定資産税等の増収分を見込んだ債権を発行し、再開発に必要な資金を調達する手法だが、他にも連邦政府、州・市からの補助金や、住宅・駐車場の施設管理などの事業収入、民間からの資金(投資・寄付)などがあり、2013年の予算規模は$217.4M(90円換算で約195億円)になっている。また、開発地域の管理は下部組織のビジネス街連合が引き受け、タウンマネジメントや公共空間の維持・管理を共同運営管理費(BID)の徴収によって賄っている。

写真12
PDCは、ビルオーナーからの相談に応じて、ダウンタ
ウンの中心部にも大手ディスカウンターが必要と判断
し、事業者を厳選して名門店ブルックス・ブラザース
の2階空き店舗に、近く誘致を予定。
写真13
中心市街地の駐車場は 、PDCの指導で歩道に面する
スペースを屋台にレンタルしている。
味と価格とボリュームで勝負するストリート・フード
が人気となり、地域ににぎわいが戻った。
写真14
ラウス社(大手デベロッパー)が開発した高級専門店SC
の「パイオニア・プレイス」。
しかし、PDCでは施設の閉鎖性(業種・業態の偏りと、
客の街歩き・回遊を誘発しない構造)を理由に、タウン
デザインの失敗だったと反省。
写真15
旧操車場跡地を再開発して、見事ににぎわいを取り戻
したパール地区の旧倉庫街。
建物の床は鉄道貨車の荷台の高さが基準となり、
歩道も道路から人の背丈ほど高く、階段・スロープ
と手すりが付く。


自然と共生する産業で高い経済成長を誇る

 ポートランド・オレゴン観光協会やダウンタウン・マーケテイング・イニシアティブによる積極的な自然体験キャンペーンと街なかに誘導する販促政策が奏功し、ポートランドの評判(消費税がない)は、ワシントン州や各地からの集客を高め、この20年間の観光市場は倍増の成長を見た。

 また、ポートランドの自然環境の良さが人気を呼んで、地元のスポーツ用品メーカーNIKE本社をはじめ、アウトドア用品で名高いColumbia Sportswear本店、adidas・USA本部、KEEN本社など、超有名ブランドが集まった。一方、自転車通勤者の割合は8%と全米平均の8~10倍になり、自転車先進国のオランダ30%、デンマーク20%には及ばないものの、自転車オーダーメイドショップも市内に20以上を超え、サイクリングを愛する街として世界屈指の都市に選ばれている。

 ポートランドの経済は農業・畜産、木材産業が支えてきたが、都市の発展と共に多様化が進み、スポーツ、観光・サービス産業などが繁栄、今では主要産業となったIT分野のシリコン・フォレストの急成長と合わせて、2011年には全米平均の1.5%より遥かに高い4.7%と、全国第2位の成長率を誇った。

 次回の後編では、ポートランドの魅力とその成長を支えてきた住民意識について述べてみたい。

写真16
公道の自転車専用レーン、クルマは
道路中央側に路駐 。
写真17
「橋」をアートしている駐輪スポッ
トは、ミニチュアのクルマやトラッ
クが走る精巧なもの。
写真18
ウィラメット川沿いのボードウォー
ク。この先は1990年に撤去した貨物
鉄道跡地につくられた、ポートランド
初の自転車道「スプリング・ウォー
ター・コリドール・トレイル」。
今では自転車道の総延長は400km
を超え、将来的には1,000km以上の
ネットワークへ道はどこまでも続く。
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にてスペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、その後(株)ロッテ専務取締役。ロッテグループのホテル・百貨店・SC・飲食チェーン・アミューズメント施設・劇場・映画館、ネットビジネス等の開発をサポート。現在、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』他がある。

バックナンバー

PAGE TOP