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連載コラム

地域の小規模商店に未来はあるのか?

[ 2013年7月22日 ]

街づくり、店づくりコーディネーター 百瀬 伸夫

海外ブランド店、ファストファッション店の出店が相次ぐ銀座通りの「松坂屋」は、1924年の開店から88年の歴史に幕を閉じて解体される。(2017年の再開発後に新たな商業施設が誕生するが、松坂屋は未定)
海外ブランド店、ファストファッション店の出
店が相次ぐ銀座通りの「松坂屋」は、1924年
の開店から88年の歴史に幕を閉じて解体さ
れる。(2017年の再開発後に新たな商業施設
が誕生するが、松坂屋は未定)
便利さの飽くなき追及と進化によって、世界最大のコンビニチェーンとなった「セブンイレブン」
便利さの飽くなき追及と進化によって、世界最大
のコンビニチェーンとなった「セブンイレブン」。

 あべのハルカスの開業により、大阪梅田地区から阿倍野周辺は日本一の商業激戦地区の様相を呈する一方で、東京銀座最古の老舗百貨店「松坂屋」が6月30日をもって閉店した。激戦の地で闘いに立ち向かっていく果敢な事業者もあれば、時代の変遷の中で競争に終止符を打つものもある。こうした戦いの果てに何が残るのか、衰退の著しい小規模店舗に果たして未来はあるのだろうか。

商店街にチェーンストアが次々と進出

 日本の小売市場は1997年をピークに減少を続け、ここ数年は135兆円前後に落ち着いている。一方、全国の店舗総数は82年の172万店を頂点に、この30年で推定約70万店が減少している。
 商店街の空き店舗数は年々増加を続け、2012年には率にして約15%に悪化、広域・超広域商店街などの老朽化した店舗が商業ビルに建て替わる時期と重なり、ほぼすべての商店街でチェーンストアの出店が加速し、超広域型商店街では既に平均約18店が進出している。( 商店街の分類には「近隣型」「地域型」「広域型」「超広域型」がある。)
 住民はチェーンストアにシャッター通りから活気ある商店街への復活を期待し、チェーンストアは商店街の集客力を期待したにも拘らず、全国商店街の8割が来街者は増えなかったと答えている。つまり、効率優先のチェーンストアの経営が、同質化と一般化を基本とする限り、利用者の日常ニーズは満たすものの、ウォンツに届かない点で商店街に活気が戻らないのである。

商店街の3割を占める飲食店の多くがチェーン店になっている。
商店街の3割を占める飲食店の多くがチェーン店になっている。
徹底したローコストオペレーションで急成長を続ける豆腐チェーン「茂蔵」。
徹底したローコストオ
ペレーションで急成長
を続ける豆腐チェーン
「茂蔵」。
商店街サイズに縮めたコンパクトな「リンガーハット」。
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ンパクトな「リンガーハ
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今や商店街の常連となっている「おかしのまちおか」。
今や商店街の常連となっ
ている「おかしのまちお
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根強い人気の茶・煎餅店チェーン「小藤屋」の店頭はいつもエキサイティングだ。
根強い人気の茶・煎餅店
チェーン「小藤屋」の店
頭はいつもエキサイティ
ングだ。
地域コミュニティの場となったセルフカフェ「ドトール」。街中では自転車での来店客が多い。 
地域コミュニティの場と
なったセルフカフェ「ド
トール」。街中では自転
車での来店客が多い。 

商店街が空洞化する一方、小売業界は顧客に近づく

 市場が伸び悩む中で、コンビニエンスストアとドラッグストア、ホームセンターは拡大を続け、一方でデパートやGMS(総合スーパー)は苦戦が続き、業態間の差が広がっている。前者は高齢者や単身者世帯の増加が追い風となり、後者は消費支出の多かった50代世帯や30歳未満世帯の減少が大きく影響している。

 CVSでは、高齢社会にいち早く対応して、高齢者や買物弱者に向けたソーシャルビジネスに着手、セブンイレブンでは「お食事お届けサービス、セブンミール」を500円以上なら配達無料のサービスを開始した。他のチェーンもこの動きに追従、高齢者宅への訪問活動や、季節商品の案内など、潜在ニーズの掘り起しに攻勢をかけている。また、女性客の来店利用が高まっていることから、生鮮野菜の拡充や食料品に力を入れるなど、業界内の競争が過熱している。
 一方、スーパー業界では、進化を加速するコンビニと、食料品にまで間口を広げるドラッグストアの出店攻勢により顧客が流出している。特に売り上げの6割を占める食品が低調で、価格プラス品質訴求に重点をおくPB商品を開発し、巻き返しを図ろうと必死だ。
 日本の小売業界を牽引する大手チェーンは、今後はより顧客に近づき潜在需要の喚起に力を注いでいくだろう。

セブンの便利なマルチコピー機では、住民票や印鑑登録証明証も取得できる。
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ピー機では、住民票や印
鑑登録証明証も取得でき
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ファミマ本部の「おとなコンビニ研究所」では、上質感・こだわり・安心感をキーワードに商品開発に意欲的だ。
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は、上質感・こだわり・安心感をキーワー
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本格的なエンタメモールが楽しめる、ローソンのマルチメディア端末「Loppi」は、この分野で他チェーンをリード、最近は格安航空券の予約・購入もできる。
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で他チェーンをリード、最近は格安航空券の予
約・購入もできる。

業種・業態を越えて、ボーダーレス化へ

 総合業態の百貨店とGMSは専門店事業の強化で、抜本的な改革に復活を賭ける。
 三越伊勢丹は製造小売り(SPA)手法による衣料品の自社生産を開始する。ファストファッションによるカジュアル化と、アパレルブランドが無個性化する中で、あえてリスキーなビジネスに踏み切り、百貨店らしい独自性の回復に攻勢をかける。また、食配大手のオイシックスと提携、優良顧客の囲い込みにデパ地下の宅配サービス「三越伊勢丹エムアイデリ」をスタートさせる。
 流通最大手のイオンでは、こだわりの消費者にはナロー&ディープをキーワードに、選択と集中に特化した、都心型小規模スーパーの「まいばすけっと」、生活雑貨専門店「R.O.U」、自転車専門店「AEONBIKE」、酒販専門店「イオンリカー」、ペット分野で「ペットシティ」、手芸分野で「パンドラハウス」を既に投入、今後は衣料品やシニアライフ分野でも専門店化を推進していく計画だ。
 また、専門店業態では顧客の囲い込みを狙った総合化が加速しており、無印良品では飲食業から住宅産業まで領域を広げ、家電大手が食品や衣料・服飾雑貨、医薬・化粧品などのデパート化を進め、SPAでは衣料から生活雑貨や家具へと、専門店のワンストップ化が後を絶たない。
 消費が低迷する中で、新たなビジネスチャンスを狙って今後も伸びが期待できる数少ない成長市場に、多業態からの参入が相次ぎ、専門化と総合化が同時に進行している。
 一方、ネット通販市場は、2011年に8.5兆円、金融商品などを除く小売サービス部門だけでも約6兆円、伸び率は12%となり、全百貨店売上を超える勢いだ。EC市場の急速な進展は、流通企業全般にリアルとネットのハイブリット化を促し、従来の業種・業態の定義すら意味を持たないボーダーレスの様相に突き進んでいる。

ソムリエやリカーアドバイザーを配置する本格的な酒販専門店「イオンリカー」。
ソムリエやリカーアドバイザーを配置
する本格的な酒販専門店「イオンリカ
ー」。
都心回帰に対応、市街地の徒歩客に割安感を打ち出す小型生鮮食品店「まいばすけっと」。東京・神奈川県に集中出店、既に400店にも届く勢いで、コンビニの脅威となるか。
都心回帰に対応、市街地の徒歩客に割
安感を打ち出す小型生鮮食品店「まい
ばすけっと」。東京・神奈川県に集中
出店、既に400店にも届く勢いで、コ
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手作りのぬくもりが感じられる手芸に注目、手芸本に掲載された材料が揃う専門店「PANDORA・HOUSE」。
手作りのぬくもりが感じられる手芸に
注目、手芸本に掲載された材料が揃う
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「R.O.U」は、オシャレでかわいい、文具から雑貨まで、幅広く・深く揃えた専門店で、東急ハンズやLOFTのライバルに。
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、文具から雑貨まで、幅広く・深く
揃えた専門店で、東急ハンズやLOFT
のライバルに。
専門店プロジェクトの第1号となった本格的なサイクルショップ「AEONBIKE」。1,000店舗をめざす
専門店プロジェクトの第1号となった
本格的なサイクルショップ「AEON
BIKE」。1,000店舗をめざす。
パンドラハウスとセットとなる「未来屋書店」。「作り方がわかる本がほしい」という声に対応、楽しく「見る・買う・習う」機会を提供する余暇空間だ。
パンドラハウスとセットとなる「未
来屋書店」。「作り方がわかる本がほ
しい」という声に対応、楽しく「見
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空間だ。

製造販売するSHOPにこそ、小規模店舗の商機がある

 大手小売業界が多様化と専門化を急ぐ中で、地域の小規模店舗が果たして生き残る余地はあるのだろうか。その答えにSHOPとSTOREという店舗形態の原点を考えてみた。
 まず、SHOPは、職業の分業化が進み、職人たちの目利きで優れた材料や品物を仕入れ、加工してその場に並べて売る形態に起源する。一方、貨幣の誕生で、商いは地理的に拡大し、大量に商品が流通するようになり、港に倉庫が立ち並び、これがSTOREの原型となった。SHOP形態はヨーロッパや日本で現存しており、肉屋、パン屋、和菓子屋、豆腐屋などが製造販売の典型であり、専門店の始まりである。アメリカでは町工場や工房をSHOPと呼ぶ。
 一方、STOREの代表はスーパーやコンビニである。20世紀にアメリカを中心に発展した流通形態として世界を席巻して来たが、今では日本がその理論とシステム化の先頭を切っている。STOREの基本はメーカーの販売代理に始まり、当たり前となったコンビニのおでんや、スーパーのパン・惣菜コーナーなど「調理・加工して売る」機能からPB商品まで、メーカーと街中のSHOP機能を貪欲に取り込み、付加価値を高めて進化を続けている。それでは、元々のSHOPは消えていくのだろうか。

行列の絶えない吉祥寺ダイヤ街の精肉店「さとう」の名物は何と言っても松坂牛のメンチコロッケだ。専門の牛肉鑑定士が厳選したものだけを使用、2階はステーキハウス、高級牛肉のネット通販にも力を入れている。
行列の絶えない吉祥寺ダイヤ街の精肉店
「さとう」の名物は何と言っても松坂牛
のメンチコロッケだ。専門の牛肉鑑定士
が厳選したものだけを使用、2階はステ
ーキハウス、高級牛肉のネット通販にも
力を入れている。
TVでも紹介されている十条銀座商店街の肉店「鳥大」の店先は一日中客でいっぱいだ。大人気の1個10円のおから入り鳥ボールの他、サラダや惣菜にも力を入れている。
TVでも紹介されている十条銀座商店街の肉
店「鳥大」の店先は一日中客でいっぱいだ。
大人気の1個10円のおから入り鳥ボールの
他、サラダや惣菜にも力を入れている。
吉祥寺ダイヤ街商店街のおでん種専門店「塚田蒲鉾店」は武蔵境工場から材料を直送、店で調理したての味と鮮度(保存料を使わない)が魅力だ。
吉祥寺ダイヤ街商店街の
おでん種専門店「塚田蒲
鉾店」は武蔵境工場から
材料を直送、店で調理し
たての味と鮮度(保存料を
使わない)が魅力だ。
高松市丸亀町のハマノ製靴店は、高度な技術と厳選された素材にこだわり、すべて手作りのオーダーメイドが売り物。
高松市丸亀町のハマノ製靴
店は、高度な技術と厳選さ
れた素材にこだわり、すべ
て手作りのオーダーメイド
が売り物。
東京台東区、団子坂の老舗「いせ辰」は、江戸末期に創業した江戸千代紙の専門店。
東京台東区、団子坂の老舗
「いせ辰」は、江戸末期に
創業した江戸千代紙の専門
店。
谷中銀座商店街近くの千駄木から白山に向かう途中には、日本伝統の飴細工の実演販売を、2008年に日本で初めて常設店舗にしたSHOP「吉原がある。
谷中銀座商店街近くの千駄
木から白山に向かう途中に
は、日本伝統の飴細工の実
演販売を、2008年に日本
で初めて常設店舗にした
SHOP「吉原」がある。
戸越銀座商店街で人気の米粉パン専門店「米魂」。
戸越銀座商店街で人気の米
粉パン専門店「米魂」。

 そこで、全国の和菓子店の多くが今でも健在であることに着目してみたい。
日本には創業100年を超える老舗が2社以上もあり、今でも事業を継続している例は、世界でも例を見ない。驚くのは和菓子店が圧倒的多数を占めていることだ。老舗に限らず、団子や饅頭、赤飯や稲荷寿司などを置いている街中の普通の和菓子店が、全国各地で今でも営業しているのだ。和菓子は機械化に向かず大量生産が難しく、菓子職人には技術が求められる。また賞味期限が短いことなどを武器に、大手が参入しにくい独自の市場を守ってきた。スーパーやコンビニの店頭にも和菓子はあるが、質の高い本格的な商品は専門店かデパートでしか手に入らない。
 小規模店舗は、大手が最も得意としてきた最寄品分野で戦うのを止め、価格から価値に移行する消費スタイルに合わせ、中小の利点が活かせる製造販売の原点に立ち返ることにこそ、生き残る道があるのではないだろうか。

東京、門前仲町の老舗和菓子店「深川伊勢屋」、本店が売切れで支店に回るお客も多い。
東京、門前仲町の老舗和
菓子店「深川伊勢屋」、本
店が売切れで支店に回る
お客も多い。
中延銀座の和菓子店「丸京屋工房店」。
中延銀座の和菓子店「丸京屋工房店」。
同じ中延銀座に共存する和菓子店「伊勢屋」。
同じ中延銀座に共存する和菓子店「伊勢屋」。

生き残りのカギは、地域性、専門性、ICT

 小規模店舗の再生アイデアとして、地域住民の期待が最も大きい総菜店はどうか。高齢化と単身化の進展、健康志向や多様なライフスタイルから、食へのニーズや期待は益々高まっている。農業分野で注目される、「生産・加工・販売」を一貫し付加価値を生み出す6次産業化のビジネスモデルを取り入れてはどうだろう。地域資源や地元ネットワークを活かした製造小売業で、独自の商品化に取り組めば、新たな小市場が生まれ、地域経済にも貢献できるはずだ。
 小規模店舗の利点は小回りと地域密着にある。高齢化に対応してシニア向けの商品・サービスの拡充、介助士や認知症サポーター資格の取得、地域ならではの信頼感によるシニアサービスのネットワーク化など、需要を掘り起こせるテーマは多様だ。
 業界最大手のイオンでも、狭く深く・ナロー&ディープをコンセプトにする時代である。地域の市場規模が経営を持続できるサイズに満たなくても、近隣学生や都会の若者に手伝ってもらえば、インターネット販売も難しくはない。地理的・物理的な不利はインターネットが解決する時代である。SNSで身近な地域とつなぎ、インターネットなら地方から大都市、海外にもつながり、新たな市場を喚起することができる。外国語のトップページさえ準備できれば、何とかなるものだ。インターネットによるコミュニケーション力に注目である。

 小規模商店が本来得意とするSHOPへの原点回帰をもって、商店街の6次産業化を推し進めて行けば、地域の活性化も不可能ではない。
 今後の小規模店舗の再生・生き残りは、地域性、専門性、ICTがキーワードになるだろう。

新鮮・安全をコンセプトにした弁当・惣菜店「くいしんぼうの食卓」は東京で6店舗を展開、話題となっている。
新鮮・安全をコンセ
プトにした弁当・惣
菜店「くいしんぼう
の食卓」は東京で6
店舗を展開、話題と
なっている。
巣鴨地蔵通り商店街の人気店「ときわ食堂」は、仕入れから調理まで徹底したこだわりで勝負、名物のエビフライを目当てに、お客は終日絶えない。
巣鴨地蔵通り商店街の人気店「とき
わ食堂」は、仕入れから調理まで徹
底したこだわりで勝負、名物のエビ
フライを目当てに、お客は終日絶え
ない。
土づくりから始める自社農園と契約栽培で、健康惣菜にこだわり6次産業化に取り組む浜松市「知久屋」の幸福弁当。
土づくりから始める自社農園と契
約栽培で、健康惣菜にこだわり6
次産業化に取り組む浜松市「知久
屋」の幸福弁当。
国内の需要が伸び悩む南部鉄器は、今はインターネットを通じてヨーロッパで販売されている。オシャレなパリっ子たちのティータイムにカラフルな鉄瓶が大人気だ。
国内の需要が伸び悩
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インターネットを通
じてヨーロッパで販
売されている。オシ
ャレなパリっ子たち
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ラフルな鉄瓶が大人
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テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にてスペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、その後(株)ロッテ専務取締役。ロッテグループのホテル・百貨店・SC・飲食チェーン・アミューズメント施設・劇場・映画館、ネットビジネス等の開発をサポート。現在、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』他がある。

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