街づくり、店づくりコーディネーター 百瀬 伸夫

JR辻堂駅に直結する「湘南テラスモ
ール」。川崎駅の「ラゾーナ」と共
に、ショッピングモールの必勝パタ
ーンとして定着か。

積極的なリノベーションを繰り返す東
京駅地下街。菓子メーカーの情報発信
基地として話題となった「お菓子ラン
ド」は、連日親子づれでにぎわってい
る。ここでも単にテナントが並ぶ地下
商店街から、積極的な集客戦略を駆使
するモール化(マネジメント)が進行。

首都圏の観光メッカとして定着した横
浜中華街。その繁栄は、地域と商店の
連携・合意形成の長い歴史にある。
国内ECサイト、「楽天市場」や「アマゾン」のモール化が進展し、2社だけでも2兆円を超える莫大な流通総額に達している。そこに、ヤフーが「革命」と銘打ってモールの出店料・手数料の無料化を打ち出し話題となった。
ECメガモールが注目される最大の要因は、圧倒的な中小店舗の集積力であるが、出店者はその中でいかに自社のサイトに集客を図るか、リアル店舗さながらの売場づくりにしのぎを削っている。
リアルな小売市場を支えて来た商店街の強化にも、ECメガモールのように店舗の集積力を高めることと、モール化が不可欠だ。モール化は商店経営の抜本的な転換を促すもので、私はこれを「まちモール」と呼び、古い商店街の概念を払拭する新しい商店街の形態として提案したい。
「まちモール」の最大のメリットは、新しいマネジメント手法の導入により一体的な運営体制が確立され、共通のルールの下で意思決定のスピードアップが図れることだ。また、「まちモール」には、テナントマネジメントの行使により貴重なテナントノウハウが蓄積され、競争力と独自性を持ったマーチャンダイジング(MD)の構築や、空き店舗対策とリーシングに真価を発揮する。訪問販売や宅配、ECサイトの共同運営など、「場」を越えたサービスの強化も可能で、単にショッピングモールの形状を取り入れることではない。
「まちモール」は、住まい手の利益に貢献する商業・サービス活動を行う場
商店街のモール化において、まず手掛けなければならないのは、郊外の大規模商業施設との違いを明確にすることである。まち中ならではの差別化と付加価値を創出するには、あらためて「まちモール」とは何かを定義し、めざす方向(軸)を正しく共有することが重要だ。
商店街は、立地条件や規模、生い立ち、さらに地域の自然や歴史・文化の違いなどから様々であり、一括して論じることは避けなければならないが、ここでの「まちモール」の価値は、「活気と活性化」「人々の交流とコミュニケーション」「地元・地域の結びつき」にあり、住民は「街並み・景観」「清掃・美化」「防犯・防火」「福祉」などに関心を持ち、地域のコミュニティ活動や場の公共性を求めている。
つまり、「まちモール」は、地権者や商店主、商店街組織などの私的資産ではあるものの、既に地域に根差した公的空間として位置づけられ、地域の生活文化形成にかかわる、公的役割を果たす存在でなければならない。したがって、「まちモール」の意味は、商品やサービスを提供する商機能にのみ限定されるものではない。既に商店街を構成する業種の6割を非物販系が占める今日では、商店街という言葉自体が既に古くなってしまっている。
「まちモール」は地域のためにあり、地域の主役が住まい手(住民、就業者、来街者・観光客などの交流者等)である以上、「まちモール」は店舗が集積する便益を活かし、地域の住まい手の利益に貢献する商業・サービス活動を行なう場である。また、「まちモール」には公的な性格があるため、住民の意識と理解、地域の支えによって、持続的な発展が求められており、コミュニティの担い手としての受け皿(プラットフォーム)でなくてはならない。

天后宮は航海安全の守護神をまつる社
。横浜中華街には、他にも有名な関帝
廟や媽祖病などがあり、コミュニティ
の拠りどころとして、横浜中華街に暮
らす人々の信仰を集めている。

メインの通りから入った路地にも
お店が並び、話題の料理を求める
客でいっぱいだ。

10月10日の中華民国国慶日を祝うパレードの
一群。沿道を埋める人たちには中華民国の国旗
が配られた。

横浜中華学院の校庭に集まる市民たち。パレー
ドの出陣を待ってファミリーや関係者が待機。
「まちモール」の存続には、後継者・事業継承問題を放置してはならない
中小企業・小規模事業者のM&A件数は、この20年間に4倍に増加している。中小企業経営者の高齢化と後継者不在、少子高齢化と人口減少、マーケットの縮小による競争激化などを背景に、事業継承の有効な手段としてM&Aへの関心が急浮上しているからだ。
一方、商店街においても、店主の高齢化と後継者の不在は深刻な問題になっている。現在、空き店舗・後継者対策を講じていない商店主が半数以上となっているが、M&Aの動きは商店街にも及ぶことになるだろう。商店街の将来を個々の事業者や地権者の個別の事情や判断に委ねざるを得ない現状では、「まちモール」への再生を難しくするばかりか、「まちモール」化の致命的なダメージとなりはしないか。特に、公共的な性格をもつ土地が容易に人手に渡ってしまうことや、建物の建て替え問題などが生じる前に、ルール化を急がなくてはならない。
「まちモール」は合意形成なくして実現しない
「まちモール」化で最も急がれる施策は、個の集合から集団意識への切り替えと、明確なビジョンに向けた合意形成である。
経済が右肩上がりの時代には、商店街組織は、商店街活性化に向けたアーケードの架構やストリートファーニチャーの設置、電線の地中化工事などのハード事業の推進においては、それなりに機能してきた。
しかし、商店街に社会的役割が求められる中で、その範囲は極めて広く、地域貢献に対する個々の商店経営者の思いは千差万別で、容易に結論を見いだせない。
少子高齢化が進み人口が減少する地方では、エリアに分散・拡散してきた複数の商店街は、相互の連携や集約化など、いずれ地域商業の再編を見据えた難しい決断を迫られる時が来るかも知れない。農業の近代化に向け、農地の集約化が叫ばれるように、地域商業にも厳しいリストラの波が押し寄せるだろう。
「まちモール」への転換には、強力なリーダーシップの発揮と、個店経営者が危機感を共有して問題意識を高めていくことが求められる。その好機を逃さず捉えるには、やはり高度なマネジメント能力が必要である。商店街を構成するメンバーには有能な経営者もおり、ネット社会では、"よそ者"の力を借りることや、適材適所に必要な人材を集めることは十分に可能だ。
しかし、地域・組織の合意形成へのステップを確実に踏んでいけば、「まちモール」化への扉が開き、勝ちパターンに乗じて自ずと人材は集まるものだ。
危機こそ、「まちモール」への変革と選択、チャレンジの時
東京都商店街振興組合連合会の報告では、商店街が「消滅して良いか」については87%が困ると回答、「商店街が残って欲しい」は85%と多数を占めた。
しかし、こうした地域住民の気分とは裏腹に、社会構造が大きく変化する中で、全国に約15,000ある商店街の全てが生き残ることは至難の技である。
高度成長期に確立された商店街という独特のスタイルは、既に著しい制度疲労と陳腐化が進んでいる。時代の変化は、個人商店や商店街が新しく生まれ変わる機会を促していると考えるべきで、商店街を取り巻く深刻な危機こそ、再生へのチャンスと捉えるべきではないか。
なぜなら、商店街は縮小・衰退するだけが未来の姿ではなく、その持てるポテンシャルを存分に発揮する余地はまだ十分にあるからだ。個店にはできない店舗集積の利点と立地の良さを活かし、ICTなどの技術革新や地域・地場産業との連携などにより、雇用の創出や、暮らしへの利便性の向上など、地域住民の信頼を取り戻し、交流人口を増やすことで、地域経済に好循環をもたらすことは決して不可能ではない。
最近は、個々の事業者の集まる商店街の振興と、中心市街地活性化の施策とを分けて考える向きもあるが、商店街は中心市街地を構成する重要な要素であり、今後も地域ににぎわいをもたらす存在として、国の制度や条例などの充実にも期待したい。
横浜ショッピングストリートの成功
商店街のモール化には関係者間の利害調整に多大な労力を要することから、具体化した例は極めて少ないのが実情だ。
そんな中で、220店舗を擁する横浜市元町ショッピングストリートでは、いち早くモール化に取組み、全国を代表するストリートとして名声を博してきた。

横浜元町ショッピングストリートを
象徴する入り口のアーチ。

居心地の良い美しい街並みに、寛ぐ
市民。

セットバックする車道の駐車スペース
。建物もセットバックさせて、十分な
歩道を確保している。
全長両側合計1,000メートルの商店街の軒下1.8メートルのセットバックをほぼ10年の歳月をかけて実行し、アーケード全盛の中で全国に先駆けて、街並みを重視したオープンモールを選択、独自の快適な「歩行者空間」を生み出した。また、歩道の拡幅、ストリートファーニチャーの充実と花の寄せ植え、電線の埋設等道路再整備事業を完成し、個性ある店舗と街路が調和する極めて質の高い空間をつくり、まちづくり協定の徹底にも努めている。
さらに、ヨーロッパ6カ国の一流商店街と姉妹協約を結び、商品の直輸入・情報交換を図り、オリジナル商品の開発にも力を入れてきた。全国の一流百貨店と販売提携することにより、元町ブランドの知名度は急速に高まり、オリジナルファッションを求めるモトマチアンが全国各地から訪れ、全国トップクラスのファッション商店街の地位を築くに至ったのは周知である。
元町ショッピングストリートでは街のブランディングにもこだわり、「変わらない想い。変わっていくストーリー。」をブランドコンセプトに掲げ、元町発の「ハマトラ」は今も健在である。
元町地区では排気ガス・騒音などの環境問題、違法駐車問題・歩行空間の確保、交通事故防止、配送トラックの大幅削減を目的として、単独商店街による共同配送を実施した例は、全国でも極めて希である。

元町共同配送センターの全景

共同配送社会実験車

蛇行する車道により、車速を制限。ヨ
ーロッパの街並みを連想させる石畳み
と、路面のエンブレムが元町らしさの
演出にも一役かっている。

いたる所にベンチが設けられ、一息
つく買い物客。

元町ファッション「ハマトラ」の元祖
となった「キタムラ」。今では全国ブ
ランドに成長、ヨーロッパブランドと
肩を並べる品質が人気の秘訣だ。




個性的な建物と店舗ファサード。高さやグレード感を統一することで、元町ショッピングストリートならではの高級感を醸し出している。また、通りにはナショナルチェーン店の姿をほとんど見かけないのも、元町らしさの要因になっている。

1985年に建造された元町のシ
ンボル「フェニックス・アー
チ」。伝統を受け継ぎながら、
常に新しく生きる不死鳥として
、「翔べ光の中へ」の意味が込
められている。
次回は、「まちモール」実現への重要な戦略となる土地所有と使用権の分離、中心市街地活性化との新たな関係について考えてみたい。

横浜高速鉄道みなとみらい線の延
伸と、東急東横線・東京メトロ副
都心線・東武東上線・西武池袋線
(西武有楽町線経由)と相互直通
運転が開始され、神奈川・東京・
埼玉の主要都市が結ばれた。元町
・中華街と渋谷・新宿・池袋、川
越も一直線となり、首都圏市民の
行動範囲が格段に広がった。

川越一にぎわう商店街「クレアモー
ル」は、川越新富町商店街と、川越
サンロード商店街の統一名称で、東
武東上線・JR「川越駅」から北へ全
長約1kmのストリートを形成。商店
街の近代化をめざし、電線地中化に
着手、ショッピングモール化への取
り組みを推進してきた。川越では「
一番街の観光」と「クレアモールの
実需」の両立に成功、全国でも屈指
の商店街に発展している。

商店街に立地する店舗の老朽化が
進み、新たに容積率をフルに消化
したテナントビルやマンションへ
の建て替えが各地で進行し、今後
の商店街振興策の手詰まりを痛感
してしまう。

全国の商店街で進む、地権者と商業者の分離。
チェーン店のテナント出店が加速している。


2012年4月、「新東名高速道路」開通に合わせて登場した商業施設の新
ブランド『NEOPASA(ネオパーサ)』。サービスエリアと言わず、あえて
商業施設と言うこだわりだ。駿河湾沼津上り線SAには、まぐろの解体ショー
などで話題となったバラエティ豊かな15店舗が揃い、各地でサービスエリア
のショッピングモール化が進行している。最近オープンした東北自動車道の
羽生PA(上り)も話題だ。

JR東静岡駅前に2013年4月オープンした
、マークイズ静岡。店舗面積11,000坪、
テナント約150店の本格的ショッピング
モールとして話題となった。