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連載コラム

情報資本主義へ大転換、進化する商業 ~ 大手チェーンもオムニチャネル化を加速 ~

[ 2015年2月18日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
一般社団法人IKIGAIプロジェクト 理事
百瀬 伸夫

セブン&アイ・グループが総力を結集した『グランツリー武蔵小杉』。昨年11月のオープン以来、川崎市の
セブン&アイ・グループが総力を結集した『グランツリー
武蔵小杉』。昨年11月のオープン以来、川崎市の "武蔵小
杉" が多くのメディアに取り上げられ、業界関係者の視察
も絶えない。
イオンは昨年12月に、西日本では最大級の旗艦店となる『イオン岡山』を岡山市の駅前にオープン。未来志向の新業態店として、並々ならぬ意気込みが伝わってくる。
イオンは昨年12月に、西日本では最大級の旗艦店とな
る『イオン岡山』を岡山市の駅前にオープン。未来志
向の新業態店として、並々ならぬ意気込みが伝わって
くる。

 今年正月に放送されたNHKの番組「ニッポンのジレンマ」では、1970年生まれ以降の新世代の論客がスタジオに集まり、「ニッポンの大転換2015」と題し、資本主義経済の限界と、新たに台頭する情報資本主義社会の到来にフォーカスし、はたして現代社会が抱えるジレンマは克服されるのか、日本社会に大転換はあるのか、熱い議論が展開された。
 また、『21世紀の資本』で一躍世界の話題を集めた、フランス人の経済学者、トマ・ピケティ(43歳)氏が来日、各地で講演会が開催され話題となった。
 ピケティ教授は、資本(財産)の運用から得られる収益(資本収益率)は、通常の経済活動の伸び(経済成長率)を大きく上回り、未来は先進国の経済成長率低下により資本収益率との差がさらに拡大し、「市場に任せていては、富の格差は拡大し続ける」と警鐘を鳴らした。また、全世界人口の1%の金持ちに対し、所得以外の財産にも累進課税を課す世界的な枠組みが不可欠と説いて、注目を集めた。
 同じくピケティ理論のように、事業者においても格差は拡大している。我が国の総事業者数は約386万者あり、99.7%が中小・小規模事業者となっており、0.3%の大企業の生産高はGDPの約半分のシェアとなっていて、残り385万者の中小・小規模事業者と二分している。つまり、約1万者の大企業に資本が偏り、市場支配力の格差は進み、地域商業の衰退を加速させる一因になっているのだ。

 社会を牽引してきたエンジンが、「経済」から「情報」に移行する中、はたして「商業」は「地方創生」の担い手となれるのだろうか。格差の進展で懸念される地域商業のあり方について、インターネットがもたらす大転換社会の視点から探ってみたい。

大転換1 ネット通販市場が拡大、スマホの普及は購買慣習を変革

 日本国内B to CのEC(eコマース)市場規模は11.2兆円、個人間取引によるC to C市場を加えると、15.9兆円と、共に前年比で17.4%の高い伸びを示している。また、インターネット利用者数は初めて1億人を突破し、10,044万人となった。人口普及率は実に82.8%となり、15歳以上の3人に1人はネットショップを利用、30歳代では6割に上り、ネットで商品や価格を調べる人は全体の約7割と、小売市場におけるインターネットの存在感は増すばかりである。

 2015年の携帯電話所有者の70%がスマートフォンになるとの予測もあり、スマートフォン利用者の爆発的な伸びによるスマホコマースは、今後さらにEC市場の拡大を加速させると予想される。アパレル通販サイトの勝ち組で名高いZOZOTOWNでは、既に2014年2月にスマートフォンの割合が5割を突破しPCを逆転、購入者の平均年齢は31歳、約6割が女性で、上記数字を裏付けた。

 2015年のスマホコマースの市場規模は既に2.7兆円と見込まれている。矢野経済研究所のリポートでは、スマートフォン経由でのECコマース利用経験者の比率は女性20代:74%、女性10代:55%、男性30代:50%、女性30代:50%と、若い世代を中心に非食品分野の物品購入の手段として広く支持され、消費者の購買慣習は大きな転換点を迎えている。

大転換2 ネット店舗の増加でリアル店舗の採算が悪化

 EC市場の17.4%の成長率を今後も維持した場合、2018年度には市場は20兆円となり、30兆円にも年数を要しないことが予測される。日本の小売サービス市場はこの数年、300兆円(GDP500兆円の約6割)であり、サービス業の55%を除けば135兆円と横ばいだ。しかし、この小売市場には自動車やガソリンなど自動車関連市場が含まれており、市中の小売店の占める市場規模はおよそ110兆円前後と推測される。その中での20兆~30兆円の市場がネット通販に取られてしまうと、リアル店舗の小売シェアは現在の3/4から、さらに2/3へと、この5年で大きく縮小する可能性がある。今でも、厳しい経営環境にある地域小売業にとって、特にシェアの激減が予想される業種では採算割れを引き起こす大きな脅威となる。

 また、リアル店舗の市場が縮小する一方で、総売り場面積は1.5倍の1.58億㎡と拡大、小売市場総額は横ばいを維持するなかで、売り場効率は逆に2/3程度まで減少し、経営・運営効率は極端に低下している。店舗数も1982年をピークに172万店から100万店規模(推定)まで減少している現実を前に、実店舗の廃業という形での自然調整が進み、各地にシャッター通りを出現させている。

 ネットショップの出店者数は現在20万店(Yahooショッピング7.8万店、楽天市場4.1万店など)あり、1997年に日本初のECショッピングモールとして産声を上げた楽天市場を見た者が、現在のEC市場の成長をどれだけ予測できただろうか。ネットショップの出店はリアル店舗に比べローコストで手間もかからないため、成功店は2号店、3号店と他の複数のネットショッピングモールに出店するケースが増えており、リアル店舗の数が減少する一方でネット店舗の数は増加を続け、市場は地上戦から空中戦へと変化し、大量の店舗が時空を移動している。

 近い将来には、EC化率(小売全体の流通のうち、何%が ECで購入したかという割合) は20%を越え、事業者対事業者間(B to B)の取引から、1次・2次産業の事業者から消費者(B to C)に向けた小売市場に直接進出するケースや、Yahooオークションに代表される個人間の取引であるC to Cの成長など、今後も農業、漁業、製造業、卸、小売、個人からの新たな参入が予測され、60兆円市場へと拡大し、約50万事業者がECに進出すると推計されている。

大転換3 小売業界の売り方を進化させる人工知能

 今後のEC市場において注目されるトレンドは、①オムニチャネル化、②O2O、③越境EC(海外展開)だろう。さらに、ソーシャル&キュレーションコマースが台頭し、販売のカギは人から検索ロボットの手に移る社会を迎えている。
 オムニチャネル化とは、商品を中心にリアル店舗とネット店舗をつなぐもので、Web、ECサイト、実店舗、カタログ、スマートフォン、e-mail、SNSなど顧客接点から得られる全情報を一元化するシステムだ。イオンやセブン&アイなど大手チェーン店はグループ傘下にある全ての業種・業態店舗を連携し、「どのグループ店の商品でも、いつでも・どこでも、一つの店で買える」「届く」仕組みを構築中である。すでに販売員には携帯端末を配布、在庫の確認や競合分析、商品レビューや閲覧が可能となっている。さらに配送者にも端末を持たせ、配送・在庫管理、注文機能の拡充を図るなど、リアル店舗・ネット店舗の評価分析やマーケティング戦略の立案、キメ細かな販売施策まで、顧客の囲い込みが始まっている。

「グランツリー武蔵小杉」の店内には、セブン&アイ・グループの百貨店「西武・そごう」の売場が設けられ、店頭にない商品でも
「グランツリー武蔵小杉」の店内には、セブン&アイ
・グループの百貨店「西武・そごう」の売場が設けら
れ、店頭にない商品でも "オムニ端末" からお取寄せ
ができる。
「イオン岡山」のコンセプトは未来志向の
「イオン岡山」のコンセプトは未来志向の "haremachi" 。
その中心にある「未来スクエアー」は、"広場の空間" と
"ハレマチスタジオ" と "大型ビジョン" で地域と人をつなぐ。

 O2Oは、オンライン(ネット)とオフライン(リアル)の融合にあり、インターネットでオンライン情報にアクセスした顧客を、オフラインのリアル店舗に誘導する仕組みである。以前のクリック・アンド・モルタル(Click and Mortar)と同義だが、この数年はO2Oという表現に変わり、最近はオン&オフを融合させ、相互に影響させる仕組みへと発展している。
 ユニクロでお馴染みのファーストリテイリングのカジュアルブランドGUでは、実際に店舗でアプリを起動してスマホを振ると割引クーポンがもらえる「Shake!クーポンキャンペーン」という来店誘導のO2Oを展開し、簡単さと楽しさが受けてクーポンの利用率は95%に達した。
 リアル店舗の在庫情報をネットで随時配信し、今すぐにお目当ての商品が欲しい客の来店を促すなど、送料コストに敏感な消費者にも受けて、国内の小売市場において、こうしたインターネットからの情報収集による消費(O2O)規模は約22兆円となり、EC市場と並びO2Oによる新たな販路開拓の手法が注目されている。

 新聞・雑誌・TVに変わるソーシャルメディアとしてインターネットの地位が確立されてからは、若者達を中心にネット上に彼らの感性に沿った雑誌感覚のコミュニティ空間が多数形成されている。利用者同士が趣味や暮らし、商品などの情報を投稿・交換し、同じ価値観・感性を共有する仲間がさらに集まり仮想社会が拡大した。商品の感想などが投稿レビューに刻々アップデートされ、興味のある情報や記事、商品情報をクリックする度に、利用者の履歴がクラウド上に蓄積される。データ化された個人の好みが検索ロボットにより瞬時に解析され、膨大な商品情報の中から、その個人に適した商品を選び出し推奨する仕組みがソーシャル&キュレーションコマースだ。キュレーションとは、商品を独自の基準でセレクトし、一つのジャンル・スタイルとしてサイト上に並べることで、予想を超えた商品との出会いや、同じセンスを持つ者同士をつなげるサイト運営により、ECに誘導する仕組みだ。
 年間購入者数300万人を突破したアパレル通販サイトZOZOTOWN発のキュレーション型EC「WEAR」の快進撃や、キュレーションマガジン Antenna[アンテナ]もECサービス『Antenna ショッピング』を開始し、Origami、MONOCO、HATCH、babytopiaなどの新しい動きも目が離せない。特に「WEAR」は、タレントやプロのスタイリスト・編集者に交じって素人も参加するファッションのコーディネートを競い合うメディアとして話題だ。
 この分野では、熟練した販売員の能力をはるかに凌ぐ人工知能ロボットによる推奨セールスが現実のものとなっている。こうした技術革新とアプリケーションの開発力によって武装されたマーケティング手法は、従来の売り方に大転換をもたらす力を秘めている。

大転換4 駅前大型店時代の再到来で、中心市街地商業は変貌を遂げるか

 昨年末にオープンした、セブン&アイ・ホールディングスの新しい商業施設「グランツリー武蔵小杉」と、イオンの旗艦店「イオンモール岡山」が流通・商業関係者の間で話題だ。共に川崎市の武蔵小杉駅、岡山市岡山駅と駅前立地に出店し、各地の自治体関係者からも注目を集めている。
 両者に共通するキーワードを洗い出すと、「街」「地域」「広場」「公園」「未来」「環境」「オムニチャネル」「総力結集」などが並ぶ。都心立地への出店コンセプトとして「街」に焦点を当てた点は当然としても、地域社会との連携・地域密着に軸足を置くなど、従来の戦略には見られない視点が盛り込まれている。
 すでに、両社は、この2~3年に全国の自治体と地域包括連携協定を締結し、徐々にその取組みが実現している。これ程までに地域社会への配慮が行われるのは、大手チェーン店といえども地域の発展及び地域社会の繁栄というビジョンが伴わなければ、成長・継続が見込めなくなったからだ。「焼畑商業」と揶揄された郊外への出店ラッシュ時代との決別を意味する大転換プロジェクトとなっている。

武蔵小杉の景観、スカイラインを一変させたタワーマンション群。
武蔵小杉の景観、スカイラインを一変させたタワー
マンション群。
タワーマンションに囲まれる、屋上公園
タワーマンションに囲まれる、屋上公園 "ぐらんぐりんガ
ーデン" 。

 成長著しい川崎市が重点的にまちづくりを進めてきた地区が武蔵小杉だ。公共施設の整備と、都市型居住地域として医療・文化・業務・商業など都市機能を集積してきた。今では駅を中心に高層タワーマンション11棟(工事中を含む)が林立し、歩いて暮らせるコンパクトシティの実現を強力に推進してきた。この結果、総戸数は8,500戸、25,000人の人口増となり、周辺には商業施設も充実し、首都圏で最も地価が上昇、住みたい街の上位にランキングされるなど、域外から若いファミリー層を集めて活性化している。

フードコート「Food Terrace」に集まる、ヤングファミリー。子供を通じて親同士のコミュニケーションの場にもなっている。
フードコート「Food Terrace」に集
まる、ヤングファミリー。子供を通じ
て親同士のコミュニケーションの場に
もなっている。
    
"ぐらんぐりんガーデン" で食事するヤングファミリー達。都会の中で安心し
て遊べる場に、子供たちの声が響く。

 「グランツリー」は "ムサコマダム" と呼ばれる若いママたちが集まる場を店内に数多く提供し、屋上の「ぐらんぐりんガーデン」は子供たちの遊び場としてもヤングファミリーに好評だ。オープン時には近所の子供たちが屋上公園に木を植えるイベントが行われたが、植樹した木の成長と共に街の未来までも視野に入れた店づくりには感心させられる。かつて、街が大事にしてきた地域コミュニティの場を、今は「グランツリー」が提供し、新しい街の「顔」となっていて、開発担当者が、『買物目的ではなくても、いつでも店に遊びにきてほしい』と語っていたのが印象的だ。

「イオン岡山」の食品売り場の一角に出店した百貨店の「タカシマヤ フードメゾン岡山店」。店頭は、朝からにぎわう。
「イオン岡山」の食品売り場の一角に出店した百貨
店の「タカシマヤ フードメゾン岡山店」。
店頭は、朝からにぎわう。
イオンが力を入れてきた「未来屋書店」。「イオン岡山」では
イオンが力を入れてきた「未来屋書店」。「イオン岡山」
では"Life with Books"をコンセプトに、"わたしの隠れ
家" をテーマにしている。文具の "Reading and Writing"
も併設している。

 一方の、岡山市は県庁所在地として、人口71.5万人を抱える政令指定都市として発展、現在も人口増加を続けており、岡山駅周辺の開発や相次ぐ商業施設の進出など、都心回帰による集客力を誇ってきた。その流れをさらに加速させるのが中四国地方最大規模の複合商業施設「イオンモール岡山」である。
 従来の郊外型にはない取り組みには、高島屋百貨店や地元企業と協業して豊かな食の恵みを取り揃え、地元文化との融合では地元出版社とサザビーが組んで商品開発と販売をプロデュースする「ハレマチ特区365」の新設、岡山放送のまちなかスタジオ「ミルン」による情報発信機能の強化などがあり、地域連携への力の入れようは半端ではない。
 イオン本体の売場は「イオンスタイル」の提案が随所に見られ、低迷するGMS業態からの転換を狙って、顧客のライフスタイルを重視した店舗業態への脱皮に注力している。

「ハレマチ特区365」は、岡山のものづくり特区として70の地元ブランドとクリエーターによるコラボの場を提供し、地元文化の創造と発信を担う。
「ハレマチ特区365」は、岡山のもの
づくり特区として70の地元ブランドと
クリエーターによるコラボの場を提供
し、地元文化の創造と発信を担う。
OHK岡山放送のWEB(ネット)TVスタジオを常設、店内のデジタルサイネージを通じて専門店情報やイベント案内、地域情報などを発信。
OHK岡山放送のWEB(ネット)TVスタ
ジオを常設、店内のデジタルサイネー
ジを通じて専門店情報やイベント案
内、地域情報などを発信。
同質化からの脱却と、価格政策の見直しを推し進める新業態店「イオンスタイルストアー」。消費者の多様なライフスタイルにフォーカスした品揃えでディスプレイを刷新。
同質化からの脱却と、価格政策の見直
しを推し進める新業態店「イオンスタ
イルストアー」。消費者の多様なライ
フスタイルにフォーカスした品揃えで
ディスプレイを刷新。

 この2大プロジェクトは、商業施設としての機能、役割を最大限に拡張し、「店づくり」そのものを「まちづくり」の視点に立って捉え直し、まちなか商業や商店街の機能、さらにコミュニティ機能をも積極的に取り込むなど、商空間が持つあらゆる可能性にチャレンジしている。
 日本を代表する2大流通企業が、「地域密着」と「脱チェーンオペレーション」という、過去を否定するかのような新機軸を打ち出したことは、駅前大型商業再来への新たな歴史を予感させる。
 さらに、インターネットにより構築される情報資本主義社会の到来は、オムニチャネル化への本格的な投資を加速させる大手チェーン店各社の動きと合わせ、今後の地域商業・商店街の大転換を余儀なくさせるだろう。

 次回は、地方創生への関心が高まる中、大転換社会における中心市街地商業の有効な活性化策はあるのか、まちづくりの視点から探ってみたい。

テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にてスペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、その後(株)ロッテ専務取締役。ロッテグループのホテル・百貨店・SC・飲食チェーン・アミューズメント施設・劇場・映画館、ネットビジネス等の開発をサポート。現在、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』他がある。

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