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連載コラム

大転換社会、転機を迎える地域商業 ~ 自治体のリーダーシップ、商業者のまちづくり ~

[ 2015年2月28日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
一般社団法人IKIGAIプロジェクト 理事
百瀬 伸夫

カフェ「手紙舎」の2号店。東京調布市、京王線柴崎駅前商店街の空きビル2・3階に出店。内装も手づくりで、若いアーティストをネットワークし、独自のテイストを持つアート&クラフト・雑貨に囲まれたカフェ。ゆったりした時間・空間が何とも魅力的だ。
カフェ「手紙舎」の2号店。東京調布
市、京王線柴崎駅前商店街の空きビル
2・3階に出店。内装も手づくりで、
若いアーティストをネットワークし、
独自のテイストを持つアート&クラフ
ト・雑貨に囲まれたカフェ。ゆったり
した時間・空間が何とも魅力的だ。
柴崎の隣町に出店した、型染め・注染によるオリジナルの手ぬぐい・風呂敷・雑貨を製作・販売するアトリエショップ「kata kata」。並びに「手紙舎」1号店がある。UR商店街から撤退した最寄品店の後を埋めたのは、やはり個性的な専門店だ。ネットやSNSで店を知ったという、遠方からの客も多い。
柴崎の隣町に出店した、型染
め・注染によるオリジナルの
手ぬぐい・風呂敷・雑貨を製
作・販売するアトリエショッ
プ「kata kata」。並びに
「手紙舎」1号店がある。UR
商店街から撤退した最寄品店
の後を埋めたのは、やはり個
性的な専門店だ。ネットやS
NSで店を知ったという、遠方
からの客も多い。
「手紙舎」の親会社「手紙社」主催のイベント
「手紙舎」の親会社「手紙社」主催の
イベント "布博" には「kata kata」を
はじめ、70人の作家、約40の店が
ブースを構え、インターネットを通じ
て狭い会場にもかかわらず3日間で約
6,000人の来場客。(2015年2月、東
京町田市にて)

 人口減少・超高齢社会の進展は、経済の縮小と地域社会へ大きな負担をもたらすことから、地方創生の議論が活発化している。
 昨年末に流通大手の旗艦店が相次いで地方都市駅前に出店し、大手チェーン店各社がインターネットによりオムニチャネル化を加速させている現在、企業間格差はさらに拡大し、はたして地域商業は地方創生の担い手となれるのか。そして、地域商業の転機は来るのか。

地域の衰退がシャッター通り化の直接原因ではない

 地方都市のシャッター通り商店街を歩いて気付くのは、今も営業を続けている業種に共通点があることだ。米屋、酒屋、八百屋、魚屋、肉屋、和菓子屋などの業種店と一部の洋品中心店である。こうした近隣・コミュニティ型商業はいわば地域のライフライン的機能を持っており、高齢化が進む地域では尚更、最寄品店は必要不可欠の存在となっている。逆に、高齢化の進展により、クルマを手放した徒歩圏の住民を取り込むことで、何とか営業を続けているともいえる。

シャッター通りで奮闘する市場の八百屋。
シャッター通りで奮闘する市場の
八百屋。
路地には、鮮度と安さが売りの魚屋に集まる地元客。
路地には、鮮度と安さが売りの魚
屋に集まる地元客。
閉鎖に追い込まれた大手スーパーの西友JR清水駅前店(静岡市)。商業環境の変化や来店者の減少に伴う売り上げ減少が主な理由とみられ、別の市内店舗に集約される。
閉鎖に追い込まれた大手スーパーの西
友JR清水駅前店(静岡市)。商業環
境の変化や来店者の減少に伴う売り上
げ減少が主な理由とみられ、別の市内
店舗に集約される。

 従来、近隣・コミュニティ型商業には最寄品店、地域型は最寄中心店、広域型以上は買回り品等の専門店がふさわしいとされてきたが、社会が大きく変わる中、商業形態も自ずと変わってきている。
 先日、静岡市のJR清水駅前西友撤退の知らせに、自治体関係者や地元商業者の方々はショックを受けておられたが、私には、ウォルマートが主導してきた品揃えとサービスが地域ニーズに応えられなかったと受け取れ、必ずしも地域の衰退と結びつける必要はないように思う。同様に地方都市の中心市街地商店街がシャッター通り化しているからといって、決して衰退しているとはいえない地域もある。過疎に悩む限界集落でない限り、地域にはまだ相応の住民がおり、シャッターを閉じた店は、近隣・地域商業が住民のニーズに応えられなくなり、後継者を講じていないなどの理由で、廃業を余儀なくされたのだろう。つまり、旧態依然とした地域商業が衰退しているのである。

地域商業の生き残り策は確実にある

 中小・小規模商業者及び商店街の生き残り策のキーワードは、①縮小調整、②個店から集団への組織化、③個性化と専門性、④ネットショップの出店、である。
 

① 縮小調整とサービス機能の充実

 全国的に商業床は拡大を続けており、売り場効率が極端に落ち込んでいる。地域商業の望ましい姿はオーバーストアを抑制し、適正な競争環境を残しつつ、最適な商業床の規模に調整することで、言い換えれば、営業床面積の総量規制であり、縮小する社会に必要な「縮小調整」という概念だ。最近の建築界で良く使われる「減築」と同様の発想である。欧米では、リーテイル・サイズ・キャップという出店面積を厳密に規制する政策が取り入れられ、一定の効果を上げてきた。

大阪天王寺駅前の日本一高いビルとして話題になった、「あべのハルカス近鉄本店」の屋上展望台。百貨店は早くも苦戦を強いられている。
大阪天王寺駅前の日本一高いビルとして話
題になった、「あべのハルカス近鉄本店」
の屋上展望台。百貨店は早くも苦戦を強い
られている。
 「グランフロント大阪」北館。吹抜け上層階は企業ショールームなどで埋まっているが、人はほとんどいない。
「グランフロント大阪」北
館。吹抜け上層階は企業
ショールームなどで埋まっ
ているが、人はほとんどい
ない。
大阪梅田北ヤード跡の施設。手前右が、大阪ステーションビル「JR大阪三越伊勢丹・ルクア」(面積を縮小)、正面は「グランフロント大阪」南館、奥は同北館。これらと、駅南の新しくなった「阪急梅田本店」と建て替え予定の「阪神百貨店・新阪急ビル」を合わせた建築延床面積の合計は約135万m2、商業床は1/3の約43万m2と超巨大だ。市中商業への影響も心配だが、40万m2を越える商業床はいつまで維持できるのか?
大阪梅田北ヤード跡の施設。手前右が、大
阪ステーションビル「JR大阪三越伊勢丹・
ルクア」(面積を縮小)、正面は「グランフ
ロント大阪」南館、奥は同北館。これら
と、駅南の新しくなった「阪急梅田本店」
と建て替え予定の「阪神百貨店・新阪急ビ
ル」を合わせた建築延床面積の合計は
約135万m2、商業床は1/3の約43万m2
超巨大だ。市中商業への影響も心配だが、
40万m2を越える商業床はいつまで維持で
きるのか?

 人口減少による市場の縮小と、リアル市場からネット市場への進展、流通大手や好調なチェーン店の出店攻勢など、地域を取り巻く商業環境を冷静に分析すれば、地域商業の規模は縮小せざるを得ないのは明らかである。今後、商店街の空き店舗の激増が予想される中で、空き店舗対策は抜本的かつ多様な対処が求められるだろう。リーシングスペースを2つ3つに分割して、出店者の負担を軽減すれば、若い起業家にもチャンスがつかめる。
 また、既に商店街の商品構成は物販が4割に減少している為、サービス機能の充実が決め手となる。たとえば、カフェ、アトリエ・工房、ギャラリー、そして鳥取市若桜街道商店街の「こむ・わかさ」(市民食堂)のように、住民の食に焦点をあてたコミュニティの場づくりなど注目されている。朝昼晩の食事を地域住民が集まって楽しめる場は、地域のサードプレイスとして有効である。
 大手シネマの一部では、稼働していない空きスクリーン(客席)の時間貸しサービスを、レンタル事業ベンチャーと組んで開始するところもあり、空きスペースの多様な活用が新たなビジネスになりつつある。

② 個から集団への組織化が、商店街再生の条件だ

 個々の小規模商業者の経営努力に頼る商業政策には限界があり、競争力を発揮し持続可能な地域商業のあり方を再構築するには、組織的な取組みが不可欠だ。セブン&アイ・グループの「グランツリー武蔵小杉」や「イオン岡山」の事例からも明らかなように、彼らの仕事は個人ができる範囲を大きく超えている。今後の商業にはまちづくりの視点を持ち、組織的取り組みができなければ、一部の頑張る小売店を除いて、商店の集積が薄まれるにつれ、商店街の存続は難しくなっていく。

「イオンモール岡山」に設置された貸自転車「ももちゃり」。岡山市は市街地中心部と、旧城下町の風情を残す同出石町地区に貸出・返却場所(ポート)を新設。市内で計232台。
「イオンモール岡山」に設置された貸自転車「ももちゃ
り」。岡山市は市街地中心部と、旧城下町の風情を残す
同出石町地区に貸出・返却場所(ポート)を新設。市内
で計232台。
セブン&アイの旗艦店「グランツリー武蔵小杉」の屋上公園「ぐらんぐりんガーデン」。いつしか、街なかから消えてしまった
セブン&アイの旗艦店「グランツリー武蔵小杉」の屋上公
園「ぐらんぐりんガーデン」。いつしか、街なかから消え
てしまった "子供の遊び場" を地域に提供している。

 中心市街地に点在する商店街は10を超えるところが多いが、今後は商店街の適正な数を見極め、個店の再配置・引越し移転するコンパクト化が避けられない時がくるだろう。例えば、A・B・Cの既存商店街の中で、Aは地域性を、Bは専門性を残して、Cは消滅させる選択をすることである。Cに点在する店舗をAとBに移転させ、それでも不足があれば戦略的にテナントを誘致し、AとBを共存・再生し、Cは商業機能から別の用途にコンバージョン(転換)する方法である。ハードルが高いとはいえ、住民が望む新しい品揃え・サービス、駐車場などを整えるだけでも、資源や機会損出を押さえ、消耗戦もやめることができるのだ。

③ 近隣・地域商業こそ、個性化と専門性で売る

岡山市「イオン岡山」の「ハレマチ特区365」。約70社の地元企業と連携したものづくりが売りだ。入口には
岡山市「イオン岡山」の「ハレマチ特
区365」。約70社の地元企業と連携し
たものづくりが売りだ。入口には
"ALL MADE IN OKAYAMA" のポス
ター。
「イオン岡山」の革小物・鞄売場では、オーダーされた小物をその場で制作し販売している。
「イオン岡山」の革小物・鞄売場では、
オーダーされた小物をその場で制作し販
売している。
「ハレマチ特区365」では、オリジナルの財布や小物入れの制作を、お客と一緒に手づくりするサービスがある。
「ハレマチ特区365」では、オ
リジナルの財布や小物入れの制
作を、お客と一緒に手づくりす
るサービスがある。

 地域商業に魅力を感じないのは、製造販売から撤退し、商品を仕入れて売るストアー形態に変わっていったことに要因がある。本来の地域商業の特徴は、豆腐屋や和菓子屋など自分の店で製造加工して店先で販売する製造販売という形態にあったが、大手スーパーがこうした製造販売を行うようになり、店舗のBOH(バックオブハウス)に食品加工製造設備・機能を充実させ、鮮魚加工や精肉、揚げ物などの加工調理能力を飛躍的に向上させてしまった。仕入れて売るストアー型業態と最寄品市場は大手流通業が最も得意としてきたところで、さらに製造加工まで加わり、地域住民の多くは安くて便利・豊富な品揃えの大型店に吸引されてしまったのだ。
 今後、生き残るのは、常に経営努力を続ける大手チェーン店とCVS、100円ショップと個性的な専門店、職人技で勝負する製造販売店など、ネット社会でも受け入れられるプレーヤーはかなり絞られてきている。
近隣・コミュニティ型・地域型の商店街には、こうした強豪と戦わなくて済む個性的でイキイキした専門店が必要である。実際シャッター通りに、若い店主が始めた本格的なベーカリーや、こだわりのケーキ屋、オシャレな雑貨店やカフェが、意外にも繁盛しているケースを最近見かける。
 今日の中高年は高度経済成長を経験してきた人達であり、それなりにオシャレやセンスには自信のある世代だということを忘れてはならない。ましてや、地域に若者を取り込むのであれば尚更である。

静岡市清水区の洋菓子店「quatre epice」(キャトルエピス)。人口25万人地区の住宅地にひっそりオープンした、オシャレなケーキ&カフェ店。
静岡市清水区の洋菓子店「quatre epi
ce」(キャトルエピス)。人口25万人地
区の住宅地にひっそりオープンした、
オシャレなケーキ&カフェ店。
あえて、駅前の喧騒を避け、「静かでゆったりした時間を大切にしたい」というのがコンセプトだ。思い切りオシャレな店づくりに徹している。
あえて、駅前の喧騒を避け、「静かで
ゆったりした時間を大切にしたい」と
いうのがコンセプトだ。思い切りオシ
ャレな店づくりに徹している。
ケーキ&カフェに、器・雑貨、Booksなどの展示・販売を行っている。店内をギャラリーとしても活用し、定期的にアート&クラフト展を開催している。駅前商店街の衰退が懸念される中、好感度な店には客足が絶えない。
ケーキ&カフェに、器・雑貨、Books
などの展示・販売を行っている。店内
をギャラリーとしても活用し、定期的
にアート&クラフト展を開催している。
駅前商店街の衰退が懸念される中、好
感度な店には客足が絶えない。

④ EC参入は、地域活性化の貴重なリソースだ

 インターネット社会の浸透は商業のあり方を大きく変え、経済そのものを転換する力となっている。地域の小売店はまず、個店の販路開拓のためにもネットショップの出店にトライすべきだろう。最近はYahooショッピングのような無料のネットショッピングモールが多数あり、まずはネットショッピングモールに出店し、商品を並べてみてはどうだろう。年中毎日24時間、お客(全国から)の反応が手に取るように分かり、売筋商品と死筋商品の見分けも簡単にできるので、売れる商品を増やし売れない商品を除くことによって、品揃えは専門性を持つようになる。その手順を繰り返すことで、より個性ある専門店として新規顧客の支持も集まる。市場のニーズを知ることはもちろん、接客(メール応対など)・集客技術を磨くことや、商品配送等のサービス拡充など、ネットショップで得たノウハウをリアル店にフィードバックすることで、魅力的な店舗への転換が可能になっていく。
 全国各地には公的な支援機関が多く存在し、EC参入促進を対面、ネット、動画配信などで対応している。無料で中小・小規模商業者の問い合わせ、受け入れを待ち望んでいるので利用しない手はないだろう。

静岡市呉六町名店街の刃物店「政豊」。入口は狭く店舗は2階とあって、ネット通販を活用し売上の7割まで業績を上げている。一昨年、中小企業庁による「がんばる中小企業・小規模事業者300者」にも選ばれた。
静岡市呉六町名店街の刃物店「政豊」。入口
は狭く店舗は2階とあって、ネット通販を活用
し売上の7割まで業績を上げている。一昨年、
中小企業庁による「がんばる中小企業・小規
模事業者300者」にも選ばれた。
店のキャラクター「おとぎちゃん」は公募で採用、
店のキャラクター「おと
ぎちゃん」は公募で採用、
"おとぎ話と研ぐ" から家
族でネーミング。著名作
家の作とのうわさから、
コスプレーヤーにも注目
されブレイク中だ。
ホームページの商品写真(ハサミ)のクオリティが高く、ギフトやノベルティなど、従来にない顧客の開拓にもつながっている。
ホームページの商品写真(ハサ
ミ)のクオリティが高く、ギフ
トやノベルティなど、従来に
ない顧客の開拓にもつながっ
ている。

地域商業は、まちづくり発想への切り替えを急げ

①地域商業は地域と運命共同体だ

 商店街は事業者間の結束が弱く、住民のニーズに合わないところが多い。最近は、こうした状況を反映して国や支援組織では、中心市街地活性化と、商店街振興とを分けて考える傾向が強まっている。理由は、商業者達への補助金などの公的救済措置に対する住民達の反発である。商業者の利己的な考えや、地域活性化に対する意識への批判と受け止めるべきではないだろうか。商店街の公的機能や役割への理解と行動なくして、もはや住民の支持は得られない時代であるばかりか、地域の活性化なくして商業者の未来もなく、地域と運命共同体であるという意識改革こそ、生き残りへの大きな一歩となるだろう。
 福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズが、常磐炭鉱の閉鎖から、奇跡の復活を生んだ「一山一家」の考えや、熊本県の秘湯黒川温泉を再生した「黒川一旅館」の成功例がある。

② モール化で、生産性と収益力を上げる

 人口減少による経済の縮小は、生産性(付加価値)を高めることで解消される。日本の一人当たりの購買力はアメリカの8割となっており、世界第3位の経済大国であり、かつ先進国水準においてもアメリカと引けを取らない日本の労働生産性は、125%(10割÷8割)のポテンシャルがある。
 日本の長引く経済停滞は、日本の都市政策と都市問題にあるとOECDは指摘したが、今後のまちづくりにおいて生産性の向上は重要な視点になってくる。
  
 中心市街地の顔となる商店街の振興は、相変わらず地域活性化の重要なよりどころであることに変わりはない。商店街の振興は地域商業の構造的イノベーションによって可能と考えるべきで、地域が一体となり持てる資源を最大限に活用すれば、生産性と収益力は上げられる。

 それが、商店街のモール化である。モール化には2つの考えがあり、その一つは、疑似的モール化である。既存の商店街組織のマネジメント機能を高めて、商店街にショッピングモールの管理方法を取り入れ、テナントの紹介、ポイント制度の導入、イベントの実施、景観ルールや駐車場対策等の対策を講ずるものだ。もう一つは、商店街をまちなかのショッピングモールと見立て、運営会社に権限を委譲、実際のショッピングモールと同様に、売上管理にも及ぶ高度なマネジメントするもので、商店街を構造的な仕組みから改革する手法だ。
 後者は個店の限界を超えて、商店街全体の意思と計画・施策に基づいて運営するので、その実現には経営管理や土地・建物の権利問題まで踏み込んだ取組みが避けて通れない。突き詰めると、土地・建物の所有と使用の分離に行き着く。本格的な土地の権利変換によって商店街を再生した例として、日本では高松市の丸亀町壱番街があるが、この後に続く取組み事案はほとんどないのが実情だ。
 ただし、いずれの場合でも、モールマネジメントをしっかり理解し、力を発揮できる人材の確保は緊要であり、広く公募する方法もある。

いち早く商店街のモール化に取組み、全国的に名高い「横浜元町ショッピングストリート」。ハード・ソフトの両面にわたり、今も視察者が絶えない。
いち早く商店街のモール化に取組み、全国的に名高い
「横浜元町ショッピングストリート」。ハード・ソフト
の両面にわたり、今も視察者が絶えない。
商店街を全面的に建て替え、SC並みの本格的なモールマネジメントを導入した「高松市丸亀町壱番街」。商業テナントビル「PARCO」でSCマネジメントを経験したプロを採用し、成果を上げている。
商店街を全面的に建て替え、SC並みの本格的なモールマ
ネジメントを導入した「高松市丸亀町壱番街」。商業テナ
ントビル「PARCO」でSCマネジメントを経験したプロを
採用し、成果を上げている。

③ 地域の将来は、本当に身の丈で良いのか

 全国的に中心市街地の建物群は戦後に建てられたものが多く、築年数は50年を超える。物理的・機能的・コスト的にも、耐震補強や防災上の観点から建て替えは避けられない。建築費の捻出・回収には、収支バランスを保つための経済効率が優先されるので、ある程度の容積と床面積を確保する必要がある。ただし、オーバーストアの現状からは、商業床としての需要は限られるだろう。逆に、積極的に住居や業務、都市サービス施設などを併設した、Mixedユース(複合施設)とすることで、今日の中心市街地活性化に一番求められる複合機能を満たすことが可能だ。なぜならば、多様な機能・用途を複合することで、朝から晩まで、時間帯ごとに多様な人の交流が可能になるからだ。従来のように区画ごとに用途を分けてしまうと、動線は用途別に単調となり、回遊・交流機会が生まれにくい。

共に、昭和30年代に建築された長屋方式の商業ビル。当時、このようなビルが多く建てられた。底地と空中床の所有が複雑で、権利関係の調整が難しく老朽化に伴う建て替えが進まない。      共に、昭和30年代に建築された長屋方式の商業ビル。当時、このようなビルが多く建てられた。底地と空中床の所有が複雑で、権利関係の調整が難しく老朽化に伴う建て替えが進まない。
共に、昭和30年代に建築された長屋方式の商業ビル。当時、このようなビルが多く建てられた。底地と空中床の
所有が複雑で、権利関係の調整が難しく老朽化に伴う建て替えが進まない。

 しかし、現実は地域経済の将来的見通しがつかないことから、再開発事業等の資金や建て替え費用の捻出は難しい。そこで現状維持型の「身の丈」論が浮上してくるのだが、やはり「リスク」に対して「身の丈」は安心感があり、背景には商業者や地権者の合意形成が困難であるための避難的思考もあるのだろう。建て替え時期を迎え、地域商業を転換できる絶好のチャンスにありながら、「身の丈」であることが、本当に地域の活性化を呼び込めるのか、将来はどうなるのか深い議論と検討が必要だ。
 社会の構造が大転換を迎えている中で、現状維持で物足りるのか、本質的なイノベーションを選択するのか、地域の将来を左右する決断を地権者や商業者・事業者だけの判断に委ねて良いのだろうか。

④ まちづくりの主体は、商業者である

 まちづくりの主体はだれか、よく問われることがある。私は、それは商業者であると考える。「中心市街地」の「中心」とは何かを突き詰めると、にぎわいを生み出している商業集積地であり、地元を代表する商店街がそれに該当する。
 商店街を構成している商業者が『自分達は商売人で、まちづくりの専門家ではない。中心市街地活性化への意見を行政や支援機関から求められても、アイデアがない』と述べても至極当然だ。しかし、中心市街地活性化の下では多額の投資がなされ、その受益者は商業者であることが多い。そういう意味でも、地域商業を支えてくれる地域の住まい手への恩返しをするという商業者の意識改革こそ、今、地域の再生に欠かせない目線だ。商業者はまちづくりの主体であるに違いないが、そのビジョンや構想を描くのは必ずしも商業者である必要はない。行政の後押しにより、外部専門家と商業者が協働して将来の絵を描けるよう、ソフト事業にこそ支援機関等による助成を活用すべきではないか。

川崎市武蔵小杉駅前にオープンしたセブン&アイ「グランツリー武蔵小杉」の店内。今や、大型店にこそ、ヤングファミリーの居場所が確保されている。
川崎市武蔵小杉駅前にオープンしたセブン&アイ「グラン
ツリー武蔵小杉」の店内。今や、大型店にこそ、ヤング
ファミリーの居場所が確保されている。
千葉市「イオン幕張新都心」の屋上も安心・安全な遊び場として人気だ。
千葉市「イオン幕張新都心」の屋上も安心・安全な遊び
場として人気だ。 "遊び場" も大型店に依存する時代なの
か。

商業者のまちづくりを、自治体は徹底支援する覚悟が欲しい

 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部は全国の自治体に対し、2040年時の地方人口ビジョンと平成27年度から平成31年度の5年間の地方版総合戦略の策定を求めている。雇用・人の流れ・子育て・くらしが重要なキーワードとなっているが、その実現には、やはりまちづくりの視点は必要不可欠である。
 大手流通のセブン&アイやイオンでは、組織的にまちづくりに取組む姿勢をすでに示しており、この意識と行動力に早くも地域商業は格差を広げられている。自治体と商業者による、縮小調整や、商店街の組織化やモール化など、将来のまちづくりビジョンの共有がなければ、足並みはそろわない。
 小さな成功・身の丈であることの積み重ねが大切であるのは十分承知だが、多様な大転換社会に応えられるイノベーションを具現化できる「まちづくりプロデューサー」「ファシリテーター」の発掘と登用こそ、地方自治体や支援組織の喫緊のテーマである。行政のリーダーシップこそ、地方創生に欠かせない重要な役割ではないか。

テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にてスペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、その後(株)ロッテ専務取締役。ロッテグループのホテル・百貨店・SC・飲食チェーン・アミューズメント施設・劇場・映画館、ネットビジネス等の開発をサポート。現在、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』他がある。

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