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連載コラム

SNSで広がる「SHOP」の未来

[ 2016年2月24日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
百瀬 伸夫

1. 今日の手紙社の原点となる「もみじ市」は、2006年東京調布市の多摩川河川敷から始まった。
1. 今日の手紙社の原点となる「もみじ市」は、2006年東京調布市の多摩川河川敷から始まった。
(写真 : momijiichi.com)

 東京の調布市で3店舗を経営する「手紙社」のユニークな活動を紹介したい。彼らは自らを編集チームと名乗り、「店舗の運営」「イベントの企画・制作」「本の編集・執筆」の3事業を柱に、調布市から首都圏、全国に活動の輪を広げ、最近はアメリカのポートランドや台湾へと、グローバルな展開を加速させている。
 その活動の大半を支えているのがインターネットであり、特にSNSを駆使した業態展開は、他の追随を許さない。従来の商業・流通の概念からは大きく離れ、全く新しい商業の在り方にチャレンジし、日々成長を続けている手紙社の取り組みは、商業の最先端を行くものだ。
 しかし、手紙社の活動の根源にあるのは商業の原点回帰ともいえる「市(いち)」へのこだわりである。今、なぜ「市」なのか、手紙社の取り組みから店舗が持つ計り知れない可能性を探ってみた。

2. 手紙社の1号店となった「手紙舎つつじヶ丘本店」。1階の外には団地の広場が広がり、大きなヒマラヤ杉が見える。(写真: tegamisha.com)
2. 手紙社の1号店となった「手紙舎つ
つじヶ丘本店」。1階の外には団地の
広場が広がり、大きなヒマラヤ杉が見
える。(写真: tegamisha.com)
3. 2013年にオープンした「2nd STORY」店。雑貨店と飲食店が同じフロアに同居し、ゆったりした居心地の良さが売りだ。
3. 2013年にオープンした「2nd STO
RY」店。雑貨店と飲食店が同じフロ
アに同居し、ゆったりした居心地の良
さが売りだ。
4. 昨年オープンした「本とコーヒーtegamisha」は、手紙社のコンセプトである「本とコーヒー」の世界を具現化している。毎週のように「表現の学校」を開いて、手紙社のスペースメイキングにもなっている。(写真: tegamisha.com)
4. 昨年オープンした「本とコーヒーte
gamisha」は、手紙社のコンセプトで
ある「本とコーヒー」の世界を具現化
している。毎週のように「表現の学校
」を開いて、手紙社のスペースメイキ
ングにもなっている。
(写真: tegamisha.com)

アパートの一室から、事業を広げた「手紙社」

 手紙社は、2008年東京狛江市の昭和レトロなアパートの一室からスタートした。翌年、京王線「つつじヶ丘駅」から徒歩10分、昭和40年に建てられた神代団地商店街の空き店舗の一角に、現在の「手紙舎つつじヶ丘本店」を出店した。駅から遠い古い団地内という不利な立地にもかかわらず"本のある、おしゃれなカフェ"が評判を呼び、オーガニックランチを目当ての固定客をつかんだ。
 2012年1月に株式会社手紙社(資本金500万円、代表者:北島勲)を設立、本店2階に本社を置き、会社名には「社」を、店舗には「舎」を使用することになった。
 翌年、京王線の隣り駅「柴崎駅」近くのマンションビル2階に、2号店となる「2nd STORY」を、続いて2014年に、「手紙舎手芸店 trois」を3階にオープン。
 翌2015年4月、ビルの1階に念願の書店、「本とコーヒーtegamisha」を出店、3階「手紙舎手芸店 trois」を展示室「トロワ」としてリニューアル、若き作り手達を公募し、彼らが世界に羽ばたくという壮大な夢を目的に開設した。また、12月には待望の海外初出店となる「手紙舎台湾店」のオープンにこぎ着け、順調な発展を遂げている。
 手紙社は3つの事業を展開し、第1は、飲食店と雑貨店の経営、商品企画開発・製作・販売・卸と、オンラインショップ「手紙舎」の運営である。
 第2はイベントの企画・制作・主催で、「もみじ市」「カフェ&ミュージックフェスティバル」「東京蚤の市」「布博」「GOOD FOOD MARKET」「パンフェス」などを手掛けている。
 第3は、書籍、雑誌などの出版コンテンツ企画・編集で、『活版印刷の本』『レトロ印刷の本』『かわいい印刷』を執筆・編集、雑誌『LETTERS』も昨年創刊している。

5. 手紙社の著書、印刷3部作、『活版印刷の本』『レトロ印刷の本』『かわいい印刷』。
5. 手紙社の著書、印刷3部作、『活版
印刷の本』『レトロ印刷の本』『かわ
いい印刷』。
6. 昨年創刊した雑誌『LETTERS』は、今年海外での発売も予定されている。
6. 昨年創刊した雑誌『LETTERS』
は、今年海外での発売も予定されて
いる。
7. 「本とコーヒーtegamisha」では、独自の焙煎にこだわったオリジナルコーヒー豆も販売している。
7. 「本とコーヒーtegamisha」では、
独自の焙煎にこだわったオリジナル
コーヒー豆も販売している。

「店」の原点「市(いち)」に、3万人の女性達が集い、にぎわう!!

 手紙社の代表を務める北島氏は、会社設立以前の2006年の11月、陶芸家、布作家、料理家、音楽家、農家、イラストレーター、エッセイスト、カフェなどの多様な 「ものづくりびと」 による"大人の文化祭"「もみじ市」を調布市の多摩川河川敷で開催した。そのために「もみじ市実行委員会」を立ち上げ、事務局を手紙社内に置き、秋は「もみじ市」、春は「花市」の名称で、年に2回開催してきた。2009年からは年1回、「もみじ市」のみの開催とし、調布市後援のもとで今年11回目を迎える。
 会社設立前から、2万人規模を動員するイベント企画会社として、手紙社の名は業界に知られる存在となった。しかし、手紙社のイベントの新しさは、動員数よりも、ものづくりびとが集う「市」の楽しさに主眼を置いていることだ。来場者の大半は30代女性とヤングファミリーで、彼女たちは「市」でくつろぎ、露店をのんびりのぞいたり、食事を楽しんだりして癒しの一日を過ごす。
 手紙社は、「もみじ市」で経験を積み、2012年5月には、「ヨーロッパにある、子供の頃の宝探しの気分になれる蚤の市を」との思いから、「東京蚤の市」を「東京オーヴァル京王閣」にて開催、11時から17時までの6時間、入場料300円で、2日間に7,000人の来場者を集めた。
 昨年は東京(5月と11月)・関西の3回開催で過去最高の動員を記録、東京だけでも3万人/回が集まった。今年5月の第9回「東京蚤の市」は、古道具店や古書店、カフェ等が全国から約230店が参加し、人気の「東京北欧市」も共催、日本屈指のエンターテインメントを提供すると、北島氏は意気込んでいる。
 さらに、布にまつわるすべての歓びが集う「布博」は、今年で6回を数える。今年3月の「布博 in 東京 vol.6」では規模を拡大し、80組を超える出展者(作家・工房など)の予定だ。新たなクリエーターたちと、ボリュームを増した「Textile & Fabric Accessories」、「Embroidery & Knit」「Button etc.」、手づくりの喜びを体感できる「Workshop」、トークショーやコンサートの「Stage Event」と合わせ、「ブローチ博」と「靴下パーラー」も同時開催する。
 こうしたイベントの企画・制作は手紙社の3大事業の一つとして、重要な位置付けになっている。その開催規模と回数、動員数、内容・質の高さは、郊外の一雑貨店・飲食店の域をはるかに超えるもので、その労力と情熱、またボランティアとの連携にも驚嘆する。

8. 昨年11月に開催された「東京蚤の市」で紅葉を見ながら、ベンチでランチを楽しむ来場者。
8. 昨年11月に開催された「東京蚤
の市」で紅葉を見ながら、ベンチで
ランチを楽しむ来場者。
9. 昨年2月に東京町田市で開催された「布博」のポスターデザイン。(写真: textilefabrics.jp)
9. 昨年2月に東京町田市で開催された
「布博」のポスターデザイン。
(写真: textilefabrics.jp)
10. 2日間で3万人を動員する「東京蚤の市」。2階は流行最先端の「東京北欧市」。
10. 2日間で3万人を動員する「東京
蚤の市」。2階は流行最先端の「東
京北欧市」。

作家やクリエーター達の起業をバックアップ

 手紙社では第3の事業に加え、さらに2015年8月に「表現の学校」を開校した。手紙社が主宰し、他の学校とはひと味違う学校として、「表現をすることで生きて行きたい人」「表現の世界を何よりも愛する人」を対象に、人数枠を10名程度に絞り、参加者一人ひとりとのつながりを最も重視している。最近は、表現の具体的対象として「店づくり、ものづくり」のカリキュラムも加え、若い人への起業の手助けや手づくり試作品の紹介・販売機会の提供なども行っている。この表現の学校は、手紙社のスタッフや外部クリエーターを講師にし、世間一般の学校やHOW TO本とは違う、"リアリティー"のある実践的な講義を展開している。特に、手紙社のSNS技術を学ぼうと、代表の北島氏自身が講師を務める「3大SNSを使ったプロモーション技術とコツ」は、数分で受講申込み締切りの人気プログラムとなっている。
 手紙社の事業を推進してきた根幹は、「人」にある。多くのものづくり作家や、クリエーターの発表の場をつくることが活動の動機となっているのだ。もみじ市を開催したのも、雑貨店の経営に乗り出したのも、そうした思いがあるからだ。これから世に出る未来の作家やクリエーターと、第一線で活躍するクリエーターを結びつける学校や、展示室「トロワ」の運営には、その哲学が感じられる。

11. 「東京蚤の市」で見つけたレトロな品々。レアな宝探しはモノにこだわる女性達の癒しのひととき。    12. 「東京蚤の市」で見つけたレトロな品々。レアな宝探しはモノにこだわる女性達の癒しのひととき。    13. 「東京蚤の市」で見つけたレトロな品々。レアな宝探しはモノにこだわる女性達の癒しのひととき。
11,12,13. 「東京蚤の市」で見つけたレトロな品々。レアな宝探しはモノにこだわる女性達の癒しのひととき。

すべての事業を支えているのがSNSだ

 また、手紙社はオウンドメディアとなる自社サイト「今日のお手紙」の運営にも力を入れている。手紙社のメンバーが誰でも簡単に効率よく記事をポスティングできるようCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を導入、サイト全体をブログ化し、HTMLの知識や面倒な手間をかけずにサイト更新・運営ができるよう社内スタッフが細部まで関与している。
 手紙社がイベントや店舗のプロモーションを行う際に、もっとも重視しているツールがSNSである。現在、それぞれ次の数のフォロワーがいる。
 Facebook 10万5,900人、Twitter 4万4,300人、Instagram 8万1,900人である。
 Facebookの発信には、その都度平均して300~500回、関心の高いコンテンツの場合は1,000~2,000回の「いいね!」が、多くの30代女性フォロワーたちから送られて来る。これが手紙社の事業を支えているのだ。
 手紙社の事業の大半は、自社のWebサイトとSNSを媒介にして成立しているが、ネットワーク上のつながりをリアルな世界でも実感できる機会を積極的に作ることで、コミュニケーションと信頼の輪を広げ、オンライン&オフライン双方向のO2Oを実現している。手紙社は、我が国でも成長著しいO2O分野の進化版を地で行き、他のキュレーションメディアとは一線を画す、前人未踏の領域に踏み込んでいる。

14. イベントに出店している飲食店のサンプルケースもおしゃれ。
14. イベントに出店している飲食店の
サンプルケースもおしゃれ。
15. テント中央のステージでは、日替わりバンドがノスタルジックなヨーロッパのストリートミュージックを演奏、アコースティックな響きが新鮮だ。
15. テント中央のステージでは、日替
わりバンドがノスタルジックなヨーロ
ッパのストリートミュージックを
演奏、アコースティックな響きが新鮮
だ。
16. こだわりのパン職人が全国(北海道から沖縄まで)から駆け付ける。旅費は自己負担にもかかわらず、徹夜して焼き上げたパンを運んでくる。手紙社のコンセプトに共感する出展者は後を絶たない。
16. こだわりのパン職人が全国(北海
道から沖縄まで)から駆け付ける。
旅費は自己負担にもかかわらず、徹夜
して焼き上げたパンを運んでくる。手
紙社のコンセプトに共感する出展者は
後を絶たない。

「ものづくり」と「市」への原点回帰がもたらす商業の未来

 手紙社の代表を務める北島氏は雑誌の編集にかかわってきた経歴を持つ。「Webサイトは、その本質や"人格"を伝える、最も有効なチャネルで、それだけに難しい。言いたいことをそのまま並べれば良いわけではなく、言いたいことは何か、それをどう加工し、編集して伝えるかで、企業の見え方は大きく変わる」と、編集へのこだわりを持つ。手紙社では、スタッフ全員が編集者であり、編集者の目をもって持ち場をマネジメントすることが求められる。スタッフは日々ハードな仕事をこなしつつ、編集者や表現者としての力量が問われるため、通常の職場以上に鍛えられ、成長していく。
 手紙社が目指すものは、生き方を表現することであり、「市」やSNSではその価値観に共感した者たちの"ゆるい"コミュニティー(社会)が形成されている。
 昨年は、オレゴン州ポートランドにて、手紙社フェアを実現し、日本から作家たちと共に、作品(商品)を現地に持ち込み、展示会は大成功に終わった。世界の若者に大人気のポートランドのライフスタイルは、手紙社の価値観と通ずるものがあり、ポートランドの若者たちも手紙社の表現に魅了されたようだ。手紙社の雑誌『LETTERS』は、ポートランドのライフスタイル誌『KINFOLK』の後を追うように、今年海外でも発刊される予定で、手紙社の表現が世界の若者の心をつかむ時代を迎えており、クールジャパンのけん引役になる日が来るだろう。
 人口減少と高齢化、ネット社会とグローバリズムの進展は、社会構造に大きな転換をもたらしている。商業界、とりわけ小売業界の生き残りは過酷さを増している。手紙社の取り組みをもう一度整理すると、「ものづくり」、「SNS」、「海外進出」、「人材育成」、「顧客創造」「コミュニティー形成」と、並べるだけでも新たな価値創造に満ちており、商業が持つ編集力、ライフスタイル表現の重要さがわかる。手紙社10年の挑戦は、商業の未来に向けて、限りない可能性を示している。
 北島氏は2016年の年頭に際し、昨年ノーベル賞に輝いた大村智さんの言葉を借りて、「幸運は強い意志を好む」と述べているが、世界の手紙社となるための強い意志を持ち続けていってほしい。

17. 手紙舎の基幹店となっている「2nd STORY」店の2階入り口。3階は「手紙舎手芸店 trois」を展示室「トロワ」としてリニューアルしたばかりだ。
17. 手紙舎の基幹店となっている
「2nd STORY」店の2階入り口。
3階は「手紙舎手芸店 trois」を展示
室「トロワ」としてリニューアルし
たばかりだ。
18. 2016年手紙社年賀状のデザインには手紙社のスタッフがフィギュアのように登場!(写真: tegamisha.com)
18. 2016年手紙社年賀状のデザイン
には手紙社のスタッフがフィギュアの
ように登場!(写真: tegamisha.com)
19. イベント会場でも「本とコーヒー」コーナーの設置は必須だ。
19. イベント会場でも「本とコー
ヒー」コーナーの設置は必須だ。
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にてスペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、その後(株)ロッテ専務取締役。ロッテグループのホテル・百貨店・SC・飲食チェーン・アミューズメント施設・劇場・映画館、ネットビジネス等の開発をサポート。現在、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』他がある。

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