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連載コラム

地方発、新たな産業と雇用を生む、リノベーションまちづくり

[ 2016年10月7日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
百瀬 伸夫

1.「ONOMICHI U2」の全景。湊の古い倉庫をリノベーションした商業施設が、地域を変えた。手前広場から左手海沿いにはウッドデッキが敷き詰められ、憩いの場になっている。
1.「ONOMICHI U2」の全景。湊の古い倉庫をリノベー
ションした商業施設が、地域を変えた。手前広場から左手
海沿いにはウッドデッキが敷き詰められ、憩いの場になっ
ている。
2. オープンテラスから眺める海は絶景だ。
2. オープンテラスから眺める海は絶景だ。

 人口減少や高齢化、ネット通販の進展などにより、中心市街地のにぎわいをけん引してきた商店街の衰退が加速している。また、住宅地においても空き家が増し、空き家の放置や劣化への懸念が拡大している。
 こうした空き店舗や空き家、空きビルや空き地などの遊休不動産を積極的に活用し、地域再生に取り組むリノベーションまちづくりが注目されている。広島県尾道市の「ONOMICHI U2」では、"まちリノベ"により地域に雇用と賑わいを復活させ、観光地域づくりの一端を担うまで、大きな成果を挙げている。

客を呼べるユニークな商業施設・ホテルが人気、若者の発想で短期間に成果

 2012年広島県尾道市に「ディスカバーリンクせとうち」という集団が立ち上がった。地元の数人で始めた小さな会社だったが、観光を手段に様々な事業を展開し120人の雇用を生み、尾道の観光を牽引する企業となった。
 「広島は、繊維や造船、鉄工などの産業に支えられてきたが、海外生産に頼るようになり、雇用も減りこのままでは街も守れない。街のためになるなら何でもやりたかった」と代表取締役の出原昌直氏。
 彼らは次々とアイデアを出し、実現させるとともに、その運営にも決して手を抜かない。

  • ①湊の空き倉庫を商業施設・ホテルとしてリノベーションした「ONOMICHI U2」の開業。
  • ②古民家を再生し、宿泊施設「せとうち 湊のやど」として事業展開、「島居邸洋館」、「出雲屋敷」を再生した。
  • ③街なかにおいては、江戸期の建物を再生した鯛味噌専門店「鞆 肥後屋」を創業。味はもちろんだが、商品パッケージのグラフィックデザインにこだわり抜いた。
  • ④「尾道デニムショップ」のオープン。地元の異業種の職人たちに、実際にGパンを履いてもらい、回収・洗濯を繰り返し、1年後に引き取りユーズドデニムとして商品化するユニークなもので、1本4万円前後にもかかわらず販売は好調。
  • ⑤自由に生きるための学校「尾道自由大学」を開校。主に社会人を対象に、尾道の将来を本気で考え行動する人の育成につなげている。
  • ⑥シェアリングエコノミーを先導するシェアオフィス「ONOMICHI SHARE」を運営し、若者層のコミュニティを形成。
  • ⑦「桂離宮」に使用され、畳表の最高品質として名高い備後のい草品種「せとなみ」の復活を目指し、地元の県立高等学校に協力を得て「伝統産業プロジェクト」を始めた。

 これらの中核事業となったのが「ONOMICHI U2」である。海沿いの環境を生かした開放的な空間と最先端のセンスに満ちた商業施設、そして「しまなみ海道」でサイクリングを楽しむ世界中のサイクリストをターゲットにしたホテルとの業態MIXとなっており、個々の完成度の高さが大評判となり、一躍海外にもその名を知らしめた。
 「ONOMICHI U2」の最大の魅力は、広いボードウォークとテントでオーニングされたオープンテラスだ。海辺の環境を生かした空間利用は、東京発ではなくとも遠方からお客を呼び込むだけのパワーがある。また、古い倉庫を耐震補強し、高い天井にはトップライトを新設、海外の商業施設かと勘違いしそうなこの大空間にも圧倒される。
 ハイセンスなカフェ&バー、レストラン、雑貨・衣料店、グローサリー&ベーカリー、プロ仕様のサイクルショップが配置され、その奥には「HOTEL CYCLE」があり、エントランスやロビーをなんと自転車が行き交い、今までにない体験が満喫できる。こうした、東京などの大都市にもない独自のコンセプトが、国内はもとより海外からの旅行者を呼び寄せているのだ。
 「ONOMICHI U2」の成功は、地元市民に受け入れられる一方、従前の尾道観光が典型的な「通過型」であったのに対し、「着地・目的地型」から、さらに「滞在型」観光への転換をもたらしたことにある。尾道流のライフスタイルや地産地消を提案する個性的な店舗が街なかにも波及するなど、まちづくりと観光が一体化した事例として注目されている。

3. 広い売り場の一角を占めるパン屋「Butti Bakery」。焼きたてパンが隣の「Yard Cafe」で食べられ、モーニングとランチは観光客と地元客でいっぱい。
3. 広い売り場の一角を占めるパン屋「Butti Bakery」。
焼きたてパンが隣の「Yard Cafe」で食べられ、モーニン
グとランチは観光客と地元客でいっぱい。
4. 店内は高い天井と広い空間が自慢。窓からの海の眺望も他では得られない魅力だ。
4. 店内は高い天井と広い空間が自慢。窓からの海の眺望
も他では得られない魅力だ。
5. 店内雑貨コーナーの書籍売場。観光案内をはじめ、「ONOMICHI U2」のライフスタイルに合った書籍・雑誌や雑貨・インテリア小物が並べられ、手前ソファでゆっくり選べる。
5. 店内雑貨コーナーの書籍売場。観光案内をはじめ、
「ONOMICHI U2」のライフスタイルに合った書籍・雑誌
や雑貨・インテリア小物が並べられ、手前ソファでゆっく
り選べる。
6. 自転車のプロショップ「GAIANT」。日本の技術を取り入れ、今や世界屈指のメーカーとなった台湾企業の直営店とあって、自転車のチューニングから、パーツ交換や修理に至るまで、スペシャリストのサービスが受けられ、サイクリストが集合!
6. 自転車のプロショップ「GAIANT」。日本の技術を取
り入れ、今や世界屈指のメーカーとなった台湾企業の直営
店とあって、自転車のチューニングから、パーツ交換や修
理に至るまで、スペシャリストのサービスが受けられ、
サイクリストが集合!

リノベーションまちづくりから、巨大インバウンド市場の攻略へ

 2014年、世界の航空旅客数は33億人、海外旅行者数は11億3,800万人と、いずれも過去最高を記録した。昨年の訪日外国人観光客数は1974万人(47%増) と史上最高を記録、インバウンド消費額は3兆5千億円と前年比7割増の躍進となった。
 日本政府観光局(JINTO)によれば、2012年の世界の観光市場は6兆6,300億ドル(世界総GDP比9.3%)で、雇用は2億6千万人だった。仮にドル円換算100円の場合でも約663兆円となり、我が国GDPの1.3倍となる莫大な数字である。
 世界の自動車や鉄・エネルギー産業などと比べても、観光は最大の産業規模となっているのだ。
 観光市場の世界的な拡大を背景に、尾道の観光客は昨年675万人5.23%増と過去最多となり、観光消費額も264億円に達した。中でも、昨年の外国人観光客数の伸びは21万人2.3倍となり、台湾からの観光客が約3割を占めた。
 米CNNで、「しまなみ海道」が「世界の最もすばらしい7大サイクリングコース」に選ばれたほか、3月には「中国やまなみ街道」全通や日本遺産認定の効果もあり、2014年はサイクリング客が13.2万人45%増と、「ONOMICHI U2」の存在感が増した。

7. サイクリストにターゲットを絞った「HOTEL CYCLE」のロビー回り。1~2階が客室となり、室内にも自転車を持ち込むことができ、部屋の壁には自転車専用フックが取り付けられている。
7. サイクリストにターゲットを絞った「HOTEL CYCLE」
のロビー回り。1~2階が客室となり、室内にも自転車を
持ち込むことができ、部屋の壁には自転車専用フックが
取り付けられている。
8. サイクリングロードとして大人気の「しまなみ海道」を周遊する外国人サイクリストの一団。サイクリストに国境はない!
8. サイクリングロードとして大人気の「しまなみ海道」
を周遊する外国人サイクリストの一団。サイクリストに
国境はない!

観光推進機構 ( DMO ) が観光立国のカギとなる

 欧米では観光が地域経済活動の高い位置に置かれ、「稼ぐ力」を引き出す「着地型観光」の舵取り役となるDMO ( Destination Management Marketing Organization )の存在が不可欠だ。世界の観光をリードしてきたスイス、フランス、スペイン、カナダなどですでにDMOは導入され、我が国でもその効果に関心が集まっている。
 DMOとは、「観光地域づくり」を一体的に推進する仕組みであり、観光を通じた「地域づくりプラットフォーム」として機能させるもので、まちづくりにおけるエリアマネジメントの役割にも近いものだ。
 観光庁では、すでに全国に7つの広域観光周遊ルート形成計画を策定し、①複数の都道府県にまたがる広域連携型、②複数の地方自治体にまたがる地域連携型、③単独の基礎自治体、の3つのタイプによるDMOの募集を全国に呼びかけたところ、27年度はすでに61の地区法人から応募があり、今年度も追加応募が後を絶たない。
 2016年4月には、尾道の「ONOMICHI U2」の動きと連動するように、国内最大規模となる広域連携DMO「一般社団法人せとうち観光推進機構」が設立された。観光立国を目的とする活動への期待から、山陽・四国地方にまたがる瀬戸内エリア7県が連携し、各業界から300社、サポート企業400社が参加し名乗りを上げた。

9. 「尾道観光土産品協同組合」が運営する土産店「尾道ええもんや」。明治時代の商家を改装した店舗には尾道発の良質な商品が新しいデザインで生まれ変わった。
9. 「尾道観光土産品協同組合」が運営する土産店「尾道
ええもんや」。明治時代の商家を改装した店舗には尾道発
の良質な商品が新しいデザインで生まれ変わった。
10. 江戸中期天明6年(1786年)創業の「ちりめんじゃこ佃煮」専門店の「北前亭」。200年以上にわたる老舗で、伝統の味を守っている。
10. 江戸中期天明6年(1786年)創業の「ちりめんじゃこ
佃煮」専門店の「北前亭」。200年以上にわたる老舗で、
伝統の味を守っている。

まちづくりと観光産業との具体的な接点となるリノベーション空間

 まちづくりの推進には、歴史文化・自然環境や地域資源を生かした地域ならではの景観や空間の整備と、運営する人材やソフトの充実が必要である。
 「ONOMICHI U2」は、"ここにしかない"古い倉庫空間と湊の景観を一新し、新たな商業店舗と独自のコンセプトホテルを運営することで、わざわざ出かけてみたい"目的地化"することに成功した。
 また、尾道市はリノベーション事業の一環として「尾道空き家再生プロジェクト」にも着手し、10軒の空き家を再生、空き家バンクを通じて70軒の空き家が新たな担い手に渡った。
 宿泊施設として再生したゲストハウス「あなごのねどこ」のオープンにより、外国人バックパッカー層を中心に外国人宿泊者数も7倍になるなど、リノベーションまちづくりによる尾道らしい再生空間を巡る体験を目的に訪れる若者が増えている。
 こうして、尾道市は街並み景観の環境整備にかかわるハード・ソフト事業の推進を支援・補助するなど、積極的に民間と一体となってまちづくりと観光地域づくりへの取り組みを強化している。官民連携と若者の積極的な参加を促進する施策が奏功した尾道のように、地方発の"まちリノベ"が、次々と続いてほしい。

11. 「尾道帆布」の店内。帆布は平織りで織られた厚手の布で、船の帆にも使われてきた。船が寄港することから、帆布生産地としても栄えてきた歴史があり、今では尾道を代表するブランドとして人気だ。店奥には工房があり、デザインから製造まで手作りしている。
11. 「尾道帆布」の店内。帆布は平織りで織られ
た厚手の布で、船の帆にも使われてきた。船が寄
港することから、帆布生産地としても栄えてきた
歴史があり、今では尾道を代表するブランドとし
て人気だ。店奥には工房があり、デザインから製
造まで手作りしている。
12. 映画のロケ地として多く使われた尾道の細い路地にはネコが多い。ネコの目線で尾道を紹介するサイト「広島キャットストリートビュー」が話題だ。尾道のネコブームにあやかり、店先にもネコのキャラクターグッズが並ぶ。
12. 映画のロケ地として多く使われた尾道の細い路地には
ネコが多い。ネコの目線で尾道を紹介するサイト「広島
キャットストリートビュー」が話題だ。尾道のネコブーム
にあやかり、店先にもネコのキャラクターグッズが並ぶ。
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にてスペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、その後(株)ロッテ専務取締役。ロッテグループのホテル・百貨店・SC・飲食チェーン・アミューズメント施設・劇場・映画館、ネットビジネス等の開発をサポート。現在、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』他がある。

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