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連載コラム

新業態"グローサラント"&「猿田彦珈琲」が似合う緑と文化の街 ~新たな商空間「トリエ京王調布」の魅力とは~

[ 2018年1月12日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
百瀬 伸夫

 東京の新宿を起点に、東京南西部から多摩地区、神奈川県北部で鉄道事業を行う京王電鉄は、「調布駅」周辺の連続立体化(地下化)事業に伴い、駅周辺の新たなにぎわい拠点となる商業施設開発に取り組んできた。そして2017年9月「トリエ京王調布」がオープン、新たに整備された駅前広場と新しい商業施設群とを「緑」でつないだ、郊外にふさわしい商業空間が誕生した。また、線路跡地に広場"てつひろ"を開設するなど、「トリエ」の開業効果もあって連日多くの人が訪れ、新宿に次ぐ乗降者数約12万人の主要駅「調布」は"住みたい街"としても人気が上昇している。

1. 「トリエ京王調布」A館。「調布駅」と地下で直結する専門店棟。2階には駅前広場に面して「スターバックスコーヒー店」のテラス席がある
1. 「トリエ京王調布」A館。
「調布駅」と地下で直結する専門店棟。
2階には駅前広場に面して「スターバ
ックスコーヒー店」のテラス席がある
2. 同B館。圧倒的な集客をもたらす家電量販店「ビックカメラ」棟、夜は窓からLEDの様々な色の光が駅前広場を彩る
2. 同B館。圧倒的な集客をもたらす家
電量販店「ビックカメラ」棟、夜は窓
からLEDの様々な色の光が駅前広場を
彩る
3. 駅から一番奥に建つトリエC館。「映画のまち調布」の象徴となる映画館棟には「どんぐり広場」のシンボルツリーと壁面緑化
3. 駅から一番奥に建つトリエC館。
「映画のまち調布」の象徴となる映画
館棟には「どんぐり広場」のシンボル
ツリーと壁面緑化

郊外都市らしい、自然と"ちょっとステキ"が両立する街

 

 「トリエ京王調布」はA館・B館・C館の3つの施設からなり、A館がファッション・雑貨・食物販・カフェ&レストラン等の63専門店で構成、B館は大型家電量販店の「ビックカメラ」等の2店、C館は「映画の街・調布」を体現するシネマコンプレックスを中心に7店舗が入店した。また、A館は地下で「調布駅」と直結、駅前広場を挟んで、B・C館が元の線路上を一直線に並び、C館前の線路跡地には子供達の遊び場や、大人の憩いの場となる広場"てつひろ"がある。
 「トリエ」のネーミングは、tri(ラテン語の3)とtre(アイスランド語の樹木)の意味だ。それぞれが役割を発揮し、寄り添い豊かな木々の街として、共に成長していく願いが込められている。また、トリエのターゲット・コンセプトは、「自然体でいながらもちょっとセンスアップした生活に憧れる女性&その女性につながる人々」であり、人口23.4万人の郊外都市らしいライフスタイルを提案している。
 3棟合計の敷地面積は11,900㎡、延床面積38,000㎡で、地上4~5階、駐車場は約330台だ。

4. 線路跡地につくられた
4. 線路跡地につくられた"てつひろ"
広場に集まる人々。ベニヤ材で構成
した家具を置いてオープンテラスに
早変わり
5. 同広場の人工芝絨毯で元気に遊ぶ子供達
5. 同広場の人工芝絨毯で元気に遊ぶ
子供達
6. 外に開かれた1階路面店
6. 外に開かれた1階路面店

グローサリーと、レストランの機能を併せ持つ「グローサラント」

 「トリエ」の開業により、調布駅周辺の商業床は大きく増床されたが、B館の「ビックカメラ」とC館の「イオンシネマシアタス調布」は、既存市街地商業との競合がなく、周辺地区からの吸引力向上に寄与するなど、にぎわい創出に大きく貢献している。
 「トリエ」で話題の店舗は何といっても高級スーパーの「成城石井」とコーヒー専門店の「猿田彦珈琲」だろう。
 1万1,500品目・660㎡となる最大規模の出店となった「成城石井」が今回取り組んだのが「SEIJO ISHII STYLE DELI&CAFE」という"グローサラント"である。成城石井が得意とするグローサリーと、レストランの機能を併せ持つ業態の事だが、店頭で販売している商品をその場で食べられるイートインや、居並ぶファストフード店から好きなものを選べるフードコートとも違う、新たなサービスが注目されている。
 すでに米国では「ホールフーズ」や「イータリー」がいち早くグローサラント業態を展開し大きな話題となったが、日本国内でも導入機運が高まっている中での進出とあって、「成城石井」初の試みへの意気込みが伝わってくる。店内は42席で、決して広いとは言えない厨房には7~8名のスタッフが詰め、主力商品の"グルメバーガー"は黒毛和牛100%使用・手ごねパティ2枚で1,000円前後と味も価格も本格的だ。他にも、得意の高級食材などを使ったメニューをそろえ、レストランクオリティで提供することにより、新たな食シーンの体験と食材への理解を深めることができ、ネット購買の対極として人気となっている。

7. 成城石井最大の店舗に挑戦、スーパーマーケットと初の飲食新業態「SEIJO ISHII STYLE DELI&CAFE」を融合
7. 成城石井最大の店舗に挑戦、スー
パーマーケットと初の飲食新業態「
SEIJO ISHII STYLE DELI&CAFE」
を融合
8. キッチンは常時7~8名体制で、客からの注文を受けてから調理する
8. キッチンは常時7~8名体制で、客か
らの注文を受けてから調理する
9. 店頭にはグローサリーも陳列、
9. 店頭にはグローサリーも陳列、"グ
ルメバーガー"もテイクアウトできる

店内で焙煎を見ながら、異空間が楽しめる「猿田彦珈琲」

 一方、恵比寿で生まれて6年、日本発スペシャルコーヒー専門店「猿田彦珈琲」も"サードウェーブコーヒーとは一線を画す"と勝負に出て大注目だ。代表者の大塚朝之氏が調布市仙川の出身とあって、地元への出店に心を動かされたという。この「猿田彦珈琲 調布焙煎ホール」は150坪の店内に、月10トンの豆を焼くのにふさわしい焙煎機5台を導入、ようやく盤石な生産体制が整い、約100席を備える設備投資となった。「たった1杯でしあわせになる珈琲屋」の物語はまだ始まったばかりで、最高のホスピタリティーを提供するフラッグシップ店として、その本気度が伝わり終日行列客でにぎわっている。駅から最も離れたトリエC館の最奥の場所にもかかわらず、住宅地に最も近い立地という落ち着いた雰囲気の中、窓からの景観や「けやき広場」の大樹の緑とテラス空間が絶好の居心地を提供してくれている。

10. 「猿田彦珈琲」はトリエで一番人気の行列のできる繁盛店だ
10. 「猿田彦珈琲」はトリエで一番人
気の行列のできる繁盛店だ
11. 「猿田彦珈琲 調布焙煎ホール」の要となるロースティングプレイスは猿田彦珈琲の重要な生産拠点でもある
11. 「猿田彦珈琲 調布焙煎ホール」の
要となるロースティングプレイスは猿
田彦珈琲の重要な生産拠点でもある
12. 様々なシチュエーションのテーブルが用意され、客はその日の気分で
12. 様々なシチュエーションのテーブ
ルが用意され、客はその日の気分で
"珈琲物語"を楽しむ

集客の目玉"映画の街"ならではの最先端シネコンが満を持して登場

 「トリエ」集客のもう一つの目玉がシネコンである。調布市には多くの撮影所があり、日本の映画産業を支えてきた歴史を持つ。現在も、「日活調布撮影所」、「角川大映スタジオ」の2つの撮影所をはじめ、「石原プロ」「東京現像所」、「高津装飾美術」、「東映ラボ・テック」など、30以上の企業が邦画製作に携わっている。
日本映画の発展に大きく寄与してきた調布市だが、近年は映画館がなく復活が待望されていた。そんな中、ようやく「イオンシネマシアタス調布」が開業。シネマ専用の最高級シート「ダイヤモンドクラス」を全席に採用、最新の電動リクライニングをはじめ、飛行機のファーストクラスを凌ぐゆったりサイズのシートで、優雅な気分に浸れる。また、最先端の立体音響技術を駆使、大迫力と映像美を両立する新次元の臨場感も楽しめる。モーション(動く)ベースの座席、ミスト、雨や風、煙や香りの演出が体験できるシアターもあり、全11スクリーンの1,650席となり、「映画の街・調布」悲願のシネコンがようやく誕生し、わざわざ新宿まで行かなくても映画鑑賞ができる環境が整った。

13. 本格的なシネコンの登場で
13. 本格的なシネコンの登場で"映画の
まち"が復活した
14. 館内の壁面も
14. 館内の壁面も"ENJOY THE MOVI
ES"のメッセージ
15. 地面にも「映画のまち調布」の刻印
15. 地面にも「映画のまち調布」の刻

景気回復が期待される今、商空間の新たな役割とは

 「トリエ」のデザインコンセプトは3つ。「街を結ぶ」「ヒトを結ぶ」「緑を結ぶ」で、その象徴が「テラス席」と「緑」である。テラスによって来館者と道行く人に一体感を醸し、街と館を一つにつなげるような空間づくりに努めている。また、3館共通のレンガ素材の使用や、緑に映える赤いオーニング(日よけ)、地上を走っていた「鉄道の記憶を残したい」思いから、本物の鉄道レールを街のアイデンティティとして随所に取り入れた。特にC館は正面入口の「どんぐり広場」と後方口の「けやき広場」で建物を挟み、間を壁面緑化でつなぐなど、都市空間のシンボルを緑が支えている。
 また、施設内外の壁には、調布の歴史や記憶を留める壁画アートが描かれ、街と人と地域文化を結ぶ一役を買っている。

16. B館「ビックカメラ」のショーウインドーは緑(壁面緑化)のディスプレイと連続して並んでいる。赤いオーニングとのコントラストが鮮やか。緑化部分の枠は本物の鉄道レールでつくられ、茶は鉄錆の色だ
16. B館「ビックカメラ」のショーウ
インドーは緑(壁面緑化)のディスプレ
イと連続して並んでいる。赤いオーニ
ングとのコントラストが鮮やか。緑化
部分の枠は本物の鉄道レールでつくら
れ、茶は鉄錆の色だ
17. A館外壁には
17. A館外壁には"調布の印象"をアー
ティストMARIYA SUZUKI氏が6面を
描き、道行く人が思わず足を止める
18. 1階店舗の入口ステップにも、本物の鉄道レールを短く切って並べている
18. 1階店舗の入口ステップにも、本
物の鉄道レールを短く切って並べて
いる

 「トリエ」の店づくり・空間づくりのポイントは、「ビックカメラ」や「シネコン」で広域から集客し、街中に滞留してもらえるよう、建物内部と外部の空間の一体的なつながりに配慮している点であり、その象徴がテラスである。行き交う人々の視線が交わることや、まち歩きを誘発することで、にぎわいを創出するねらいがある。
 また、話題の「SEIJO ISHII STYLE DELI&CAFE」はA館の最端に、「猿田彦珈琲 調布焙煎ホール」はC館の最奥に配し、一直線につながる3館の最両端を抑えるマグネットとして長い動線を回遊してもらう工夫も流石だ。
 商空間の魅力が高まることで、人々が街の中へ出向き、街で過ごし、楽しむ時代が来ているのだ。ネット社会が進展する一方で、商空間が外出の目的地として、滞在する場として、街に暮らす機会としての役割がますます広がっていくだろう。

19. A館入口の花と緑とデジタルサイネージで館内情報を発信
19. A館入口の花と緑とデジタルサイ
ネージで館内情報を発信
20. 建物の1階は広場と一体となれる空間が魅力
20. 建物の1階は広場と一体となれる空
間が魅力
21. C館最奥の「けやき広場」。「猿田彦珈琲」のテラスとしても利用できる
21. C館最奥の「けやき広場」。
「猿田彦珈琲」のテラスとしても利
用できる
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー、東京都板橋区商店街活性化コーディネーター
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にて環境設計部・スペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、(株)ロッテ専務取締役を経て、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、NPO法人顧問建築家機構理事、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会顧問、一般社団法人パブリックデザインコンソーシアム会員、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』、『Showroom & Exhibition Display Ⅰ・Ⅱ』他がある。

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