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連載コラム

高架下の新たな商空間からはじまる「沿線まちづくり」!! ~JR中央線「中央ラインモール構想」~

[ 2018年2月7日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
百瀬 伸夫

 首都圏や都市部では、"開かずの踏切"が地域生活の障害になっている。全国に600あるともいわれる"開かずの踏切"の除却に向け、国や東京都など自治体は鉄道の連続立体化交差事業を推進し、交通渋滞の解消や移動時間の短縮に努めている。
 JR東日本は中央線の三鷹~立川駅間の連続高架化により、踏切を完全になくし、駅前や駅周辺の回遊性を高め、エリア全体の利便性を飛躍的に向上させた。
 駅舎の建て替えと、駅~駅間の高架下空間を積極的に活かした"沿線まちづくり"「中央ラインモール構想」のねらいは何か、高架下空間の利活用による商空間ビジネスを探ってみた。

1. 駅舎1階の「スターバックス コーヒー」。今や、若者・単身者のマイルーム
1. 駅舎1階の「スターバックス コーヒー
」。今や、若者・単身者のマイルーム
2. 商業施設「nonowa」は改札を出た正面にあり、ネーミングがユニーク
2. 商業施設「nonowa」は改札を出た
正面にあり、ネーミングがユニーク
3. 駅構内の天井高を活かしたフードコートがダイナミックで、高架下空間ならではのもの
3. 駅構内の天井高を活かしたフード
コートがダイナミックで、高架下空間
ならではのもの

新しい街づくりが、高架下からはじまる

 国交省は、平成27年時点で全国54の連続立体交差化事業を支援、地元自治体・鉄道事業者・地域が連携して地域の活性化に寄与する「沿線まちづくり」を推進している。
 首都圏の動脈である中央線の朝夕のラッシュ時は、ほぼ1分間隔の超過密ダイヤが組まれており、1時間のうち40分以上遮断機が下りたままの、いわゆる「開かずの踏切」が、沿線の市民生活と地域の経済活動に大きな障害をもたらしていた。
 JR東日本では、1960年代に中野駅~三鷹駅までの高架化を完了、区間24の踏切が全てなくなった。そして、30年を経て1995~2014年にかけて、三鷹駅~立川駅間(三鷹・武蔵境・東小金井・武蔵小金井・国分寺・西国分寺・国立・立川の8駅)の延長13.1km、6市にまたがる高架化工事がようやく終了し、18か所あった踏切が完全に除却され、東京駅から立川駅間は悲願の踏切ゼロとなった。
 中央線の踏切除却は道路管理者である東京都の管轄であり、連続立体交差化事業の効果として、都は①交通渋滞や事故の解消、②鉄道により分断された市街地の一体化、③駅周辺の中心市街地の再生、④利便性や安全性の向上を挙げている。

4. コミュニティステーションとして使われているコンテナショップ。高架下なので雨に濡れないのが強み。手前は椅子テーブルを並べテラスに
4. コミュニティステーションとして使われて
いるコンテナショップ。高架下なので雨に濡
れないのが強み。手前は椅子テーブルを並べ
テラスに
5. 東小金井駅周辺には大学が沢山あることから、モールは「カルチェラタン・ストリート」と名付け、パリの学生街をモチーフに洗練された街並みを再現
5. 東小金井駅周辺には大
学が沢山あることから、
モールは「カルチェラタ
ン・ストリート」と名付
け、パリの学生街をモチ
ーフに洗練された街並み
を再現
6. 東小金井駅改札を出た時計台広場に面した、洋服修理・靴とバッグ修理・クリーニングのプロ3社による「メンテナンス・コラボショップ」1号店
6. 東小金井駅改札を出た時計台広場に面した、
洋服修理・靴とバッグ修理・クリーニングの
プロ3社による「メンテナンス・コラボショッ
プ」1号店

中央線では高架下空間を徹底活用!!

 JR東日本では高架化による大工事にともない、駅舎の建て替えと駅周辺施設の開発に取り組むとともに、さらに利用可能な高架下空間を積極的に活かす壮大なプロジェクト「中央ラインモール構想」に着手したのである。
 「中央ラインモール構想」の対象となる空間は、全長9km、7万2,000㎡で、三鷹駅から立川駅までの高架下を全てつなぐ膨大な計画である。JR東日本傘下のJR中央ラインモールの大澤実紀社長は、「マーチエキュート神田万世橋」の経験から「高架下の利用は駐車・駐輪場や倉庫などに限定され、積極的な活用をしてこなかった。駅から離れたところでも、周辺住民の方に住みやすい・暮らしやすい環境を整備する必要がある」と語っている。
 ラインモールでは、新しくなった各駅改札口に「コンシェルジュ」を開設し、駅施設や地域イベント・観光情報などを案内するなど、駅利用者に街なかへの回遊を促している。また、高架下のモールには商業施設、保育園、クリニック、デイサービスなどがあり、"武蔵野の環・輪・和"から取った「ののわ(nonowa)」のブランドで統一、高架下側道や緑道・歩行者回遊空間を"武蔵野のみち"「ののみち」とネーミング、地域とのつながりを目指したエリアマガジン『ののわ』を無料配布し、ブランドの定着にも余念がない。
 また、「コミュニティステーション」(商業施設)、「モビリティステーション」(駐車場・駐輪場)とSuicaがそのまま利用できるシェアサイクル「Suicle」の整備や、緑の広場空間「コミュニティガーデン」「コミュニティテラス」も開設するなど、乗降者や近隣住民の利便性を高め、沿線のまちづくりにも積極的だ。
 高架下の整備には周辺自治体も参加し、面積の15%を活用する計画で、すでに「事業創造センターKO-TO」のベンチャー・SOHOオフィス利用をスタートさせ、「市政センター」などの整備を予定し、公民連携を進めている。

7. 2016年度グッドデザイン特別賞「地域づくり」を受賞した「コミュニティステーション東小金井」は、
7. 2016年度グッドデザイン特別賞
「地域づくり」を受賞した「コミュニ
ティステーション東小金井」は、"街
と人をつなぐメディアとしての場"が
評価された
8. シェアサイクル「Suicle」も若い女性たちに気軽に使われている
8. シェアサイクル「Suicle」も若い女
性たちに気軽に使われている
9. 「ヒガコ東」ゾーンの店舗案内と、散策マップで回遊を誘発
9. 「ヒガコ東」ゾーンの店舗案内と、散
策マップで回遊を誘発

仲間と出店、ローカル色豊かな"商業モール"に注目!!

 東小金井駅から東に100mほど行った高架下に「コミュニティステーション東小金井」がある。イベントで知り合った地元のクリエーター5人が集まり、"地域とつながる"をコンセプトに「HIGAKO PLACE」を設立、雑貨・工芸品の「atelier tempo」「Coupe」「safuji」「ヤマコヤ」や、全国のフリーペーパーを集めた書店「ONLY FREE PAPER」、自家焙煎のコーヒー店「珈琲や」などが一か所に集結、お互いに店内を行き来できるよう仕切りをなくし、広い店舗空間をシェアしている。
 コンテナをベースに、高架橋を活かし、雨に濡れずに利用できる路地風のテラス広場を確保、イベントスペースとして利用するなど、ラインモールのコンセプトでもある「緑と人と街」とのつながりにも配慮している。
 2014年オープンから1周年の際は、地域を家族と見立て「家族の文化祭」を開催し1,000人を集めたが、昨年は5,000人にも膨らみ大盛況だった。また、食のイベント「ほんもの展」には30店が出展するなど、地域で話題の場所として早くも認知され、都心では体験できない"ローカルファースト"が芽生えている。

10. 「コミュニティステーション」の中心は、東小金井をモジった「ヒガコプレイス」だ。5組の作り手によるモノづくり店「atelier tempo」、奥はフリーペーパー書店「ONLY FREE PAPER」
10. 「コミュニティステーション」の
中心は、東小金井をモジった「ヒガコ
プレイス」だ。5組の作り手によるモ
ノづくり店「atelier tempo」、奥は
フリーペーパー書店「ONLY FREE PA
PER」
11. フリーペーパーを手に取り、となりの「珈琲や」でコーヒータイム
11. フリーペーパーを手に取り、とな
りの「珈琲や」でコーヒータイム
12. 独自の焙煎が好評のサードウェーブコーヒー店「珈琲や」
12. 独自の焙煎が好評のサードウェー
ブコーヒー店「珈琲や」

若い起業家の夢がカタチになった"シェアショップ"

 また、東小金井駅に近い一角に開設された「PO-TO」(ポート)がユニークだ。PO-TOは東京都より「インキュベーション施設運営計画認定事業」の認定を受けたシェアルームで、店舗・工房・ショールームなどを併設し、隣り合う小さな部屋をつなぎ、出店者同士のコラボレーションが生まれるスペースも完備されている。部屋は大小18あり、料金は月額42,000円からとなっている。内装と空調設備が完備され、法人登記も可能で、小さなお店を出したいが資金的に難しかった人達を、後押ししてくれる施設である。
 初めて起業したバルーン専門店の若い女性店主は「子供と一緒にいながら仕事ができる」。石巻出身で地元の物産を扱う若い女性店主は「ふるさとの素晴らしい商品を知ってほしい」と、通りすがりに出会った小さな物件に夢を賭けている。PO-TOへの出店資格は、起業5年以内または新規開業の人のみで、賃貸契約期間も5年を限度とするなど、インキュベーションと新陳代謝を促す仕組みは、地域の人材発掘・育成の視点からも評価される。

13. ハードルを下げた低賃料の「PO-TO」で開業した子供が喜ぶバルーンショップ。地元に住む子育て中の若いママの夢が実現!!
13. ハードルを下げた低賃料の「PO-TO」で
開業した子供が喜ぶバルーンショップ。地元
に住む子育て中の若いママの夢が実現!!
14. 石巻出身の若い女性のチャレンジショップ。トレンドのアンティーク空間にセレクトされた商品が並ぶ
14. 石巻出身の若い女性
のチャレンジショップ。
トレンドのアンティーク
空間にセレクトされた商
品が並ぶ
15. 高架下に連なる保育園・クリニック・スポーツジムなどのサービス施設群が集積、女性が働きやすい環境が整備された
15. 高架下に連なる保育園・クリニック・ス
ポーツジムなどのサービス施設群が集積、女
性が働きやすい環境が整備された

協業による空間シェアが、多様なビジネスチャンスを生む

 都心では、再開発事業でもなければ新たな土地や空間の確保が困難であることから、高架下空間の商業利用が各地で広がりつつある。JR秋葉原駅~御徒町駅間に生まれた職人の街「2k540」や、東急沿線の中目黒駅が話題だが、「中央ラインモール」は都心型の施設とは違い、郊外ならではの高架下大空間を大胆に利活用し、地域のコミュニティも重視した構想・アイデアで、新しい空間創造の姿を見せている。
 武蔵境駅寄りに開業した、地域プレーヤーの協業による「ond(オンド)」では、タルト専門店、デリと珈琲の焙煎工房、武蔵野市初となるクラフトビール醸造場を併設した工房からなる小さなショップだが、店内のワーク・スペースで新たにビジネスを起こす人や、子育てママのコミュニケーションの場所を提供するなど、地域のつながりを大切にしている。こうした、「ヒガコプレイス」や「ond」のように、一つの店舗空間を複数の出店者がシェアし、全体で一つのテイストに編集するショップスタイルは実に新鮮である。
 全国的に中心市街地の賃料が高留まる中、このように賃料が軽減でき、複数の事業者による新たな付加価値が創出できる協業スタイルには、商業の未来を感じる。
 中央ラインモールの一連の取組みは"空間創造"と"協業"という、新たな商業への多様な可能性を示している。

16. 新しい協業スタイルが注目の「ond」。5人の職人がコーナーを担当
16. 新しい協業スタイルが注目の「ond」。
5人の職人がコーナーを担当
17. 地元で収穫した野菜や果物、天然酵母のパンなど、こだわりの食材を集めた「nonowa」のイベントポスター
17. 地元で収穫した野菜
や果物、天然酵母のパン
など、こだわりの食材を
集めた「nonowa」のイ
ベントポスター
18. 東小金井駅脇の小道「ののみち」に面するカフェのテラス席
18. 東小金井駅脇の小道「ののみち」に面す
るカフェのテラス席
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー、東京都板橋区商店街活性化コーディネーター
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にて環境設計部・スペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、(株)ロッテ専務取締役を経て、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、NPO法人顧問建築家機構理事、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会顧問、一般社団法人パブリックデザインコンソーシアム会員、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』、『Showroom & Exhibition Display Ⅰ・Ⅱ』他がある。

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