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連載コラム

東京府中駅前の商業施設「ル・シーニュ」が街を変える!! ~再開発事業と市街地商業活性化の行方は、エリアマネジメントが鍵~

[ 2018年3月2日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
百瀬 伸夫

 東京・西部に位置する府中市の府中駅南口再開発事業による第3期プロジェクトが完成し、半世紀にわたる開発に終止符が打たれた。そして2017年7月、商業施設「ル・シーニュ」がオープン、駅周辺は近代的な新しい街に一変した。
 3つの再開発により駅周辺の拠点性が格段に増強され、京王線の高架化とともに地域交流機能の分断も解消し、回遊性の向上による今後の"にぎわいの創出"への期待が集まっている。府中市と府中駅周辺再開発事業による市街地商業活性化への取り組みを探ってみた。

1. ケヤキ並木大通りから見た「ル・シーニュ」の外観
1. ケヤキ並木大通りから見た「ル・
シーニュ」の外観
2. 府中駅前ペデストリアンデッキから交通広場と「ル・シーニュ」を臨む。商店や木造家屋が密集していた面影はすでにない
2. 府中駅前ペデストリアンデッキから交通広場と「ル・シーニュ」
を臨む。商店や木造家屋が密集していた面影はすでにない

再開発の完成で、沿線価値が高まる

 東京都府中市は武蔵国の国府が置かれたことから「府中」と呼ばれた。府中市は都心から西へ約30km、八王子市との中間に位置し、大國魂神社と参道の「馬場大門のケヤキ並木」を配した歴史文化を背景に、多摩地区を代表する緑豊かな田園都市として発展した。
 しかし、京王線府中駅の周辺は、自然発生的に商店や木造家屋が立ち並び、狭い道路しかない密集地帯となり、防災上の観点からも危惧されていた。
 特に南口地区は業務・商業の中心地として、道路や広場・公共施設の整備、商業の近代化、防災強化と都市機能の向上が必須であった。
 1976年から1981年にかけて再開発を具体的に進めるための準備組合が、A、B、Cの3地区に設立されたのと併せ、1981年に京王線府中駅付近の高架化工事が開始された。1982年12月、市街地再開発事業の都市計画決定となり、駅に近いA、B、Cの3地区約3.8ヘクタールを先行して開発、高架化事業と一体的な整備を進め、1991年高架化、1993年に駅舎が完成した。
 府中市は現在、人口約26万人を抱えるまでになった。市のほぼ中心にある京王線府中駅の乗降者数は約8.8万人となり、京王線を代表する中核駅になっているが、駅周辺再開発の完成により、沿線価値がさらに高まり"住みやすい・暮らしやすい"街として人気が急上昇している。

3. B地区の「伊勢丹」「フォーリス」の外観
3. B地区の「伊勢丹」「フォーリス」の外観
4. C地区「くるる」の外観と、一体開発された高層マンション
4. C地区「くるる」の外観と、一体
開発された高層マンション

"商業モールのショーケース"となった府中の再開発

 最初に完成したのがB地区で、「伊勢丹府中店」と専門店街「フォーリス」がテナントとして入店する「フォレストサイドビル」と、併設されたオフィスビル「明治生命府中ビル」が1996年にオープンした。
 百貨店と専門店によるMDミックスで、1階に出店した地元の名店とカジュアルなフードコート、地下1階の生鮮売場「さくら市場館」が人気である。
 同施設は、百貨店と専門店が力を持っていた時代のMDを反映したものだが、「伊勢丹」の不振は今後の府中地区商業のあり方に大きな影響を与えかねない。

 続いて、2005年にC地区が完成、「TOHOシネマズ」と「トイザらス」の"カテゴリーキラー"が核店舗として入店、一体開発された高層マンション棟と合わせて「くるる」が開業している。
 「くるる」の店内には、1階とペデストリアンデッキにつながる2階通路が、それぞれ通り抜け道路になっていて、1階には地権者でもある地元の鮮魚店、精肉店、野菜青果店、地元スーパーマーケットなどが通路に面して入店し、ビル中における商店街を形成している。また、中央の大吹き抜けにはシースルーエレベーターが上下し、外壁には大型ビジョンが設置されるなど、この時代の流行を反映したSCの典型的タイプとなっている。

 そして、最後のA地区がようやく2017年7月に「ル・シーニュ」としてオープンし、半世紀にわたる駅前再開発事業は終止符を打った。
 A地区は、地下1階から4階までが商業ゾーン、地下2階に府中市立「府中の森芸術劇場分館」と、5・6階には観客定員数284人の「バルトホール」と府中市市民活動センター「プラッツ」が入った。7階から15階は野村不動産が手掛けた分譲住宅「プラウド」138戸となっていて、府中駅に直結する絶好の立地から、高額物件にも関わらず即日完売となった。
 「ル・シーニュ」のMDは、特にフロアコンセプトを設けず、テナントが雑多に入店する形で、フロア単位では商・公・医のミクストユースとなっている。駅前の好立地を生かしたMDと、「プラッツ」による市民生活の利便性向上と、新たな地域コミュニティの場として連日多くの市民に利用され、今日の再開発事業のあり方を示唆している。

5. 「くるる」の吹き抜け空間を上下するシースルーエレベーター。地下1階「トイザらス」の専用エレベーターもある
5. 「くるる」の吹き抜け空間を上下す
るシースルーエレベーター。地下1階
「トイザらス」の専用エレベーターも
ある
6. 「ル・シーニュ」3階の「MUJIカフェ」は大手旅行代理店のH.I.Sと組んで
6. 「ル・シーニュ」3階の「MUJIカフェ」は大手旅行代理店のH.I.S
と組んで"旅と食"を融合した初の取り組みが話題
7. 6階「プラッツ」の料理教室と手前のミーティングスペース
7. 6階「プラッツ」の料理教室と手前のミーティング
スペース
8. 同じく、6階「バルトホール」で開催しているダンス教室
8. 同じく、6階「バルトホール」で開催しているダンス
教室

「ル・シーニュ」の見どころは、仮店舗対策にある

 府中駅南口再開発事業で注目されるのは、地元で営業している既存商店(個人店及びチェーン店)に対し、工事期間中に仮店舗を斡旋し、完成後の入店を促すなど、再開発事業と地元商業者との調整・連携に力を入れた点にあるだろう。
 B地区が先例となったが、再開発で失われる商業床の減少を最小限に抑え、にぎわい維持のため、再開発ビルへの再入店を前提に、仮店舗対策に多大な労力が費やされた。そして、第3期のA地区再開発事業においても、府中駅前で営業していた全ての店舗が消失されるため、B地区同様の手法が取り入れられたのである。また、A地区には仮店舗を設置するスペースがなく、府中市が管理する歩行者通路や駅前歩道、ぺデストリアンデッキ下や京王電鉄の高架下、さらに民間の土地を確保して、仮設店舗の建設から解体撤去、地代(場所代)に至る全てを再開発組合が負担した。

9. 「くるる」の2階に再入店した地元の精肉店「いせや」は通り抜け通路に面している
9. 「くるる」の2階に再入店した地元の精肉店「いせや」
は通り抜け通路に面している
10. 「ル・シーニュ」に再入店した地元ファッション店「AKASHIYA」も仮設店舗組である
10. 「ル・シーニュ」に再入店した地元ファッション店
「AKASHIYA」も仮設店舗組である
11. 駅周辺の歩道に設置された地元の薬局店「府中薬局」の仮設店舗
11. 駅周辺の歩道に設置された地元の薬局店「府中薬局」
の仮設店舗
12. 「ル・シーニュ」2階ペデストリアンデッキに面した好位置に再入店した「府中薬局」
12. 「ル・シーニュ」2階ペデストリアンデッキに面した
好位置に再入店した「府中薬局」

エリアマネジメントでローカルファーストに挑戦する

 2016年6月、府中市中心市街地活性化基本計画の認定を受け、府中市、むさし府中商工会議所、府中市商店街連合会、NPO法人府中観光協会、府中駅前再開発ビルの管理運営会社「フォルマ」の支援を得て、中心市街地のエリアマネジメントを担うまちづくり会社「一般社団法人まちづくり府中」が設立され、2019年度には株式会社に移行する予定である。
 府中駅南口再開発のハード事業の完成にともない、今後の地域活性化の課題はソフト事業の強化にあり、府中市による府中市市民活動センター「プラッツ」との連携にも力を入れている。
 「まちづくり府中」は、府中駅周辺と大國魂神社を結ぶ「けやき並木通り」を中心に、様々なにぎわい創出事業に取り組み、仮店舗で使用された部材を再利用した新たなチャレンジショップ「ふちゅこまーけっと」を開設、若い起業家や地元農業事業者の出店を支援している。また、昨年は青年会議所と連携し"フードフェスタ"を開催するなど、既存イベントとの調整や「府中まちなかフェスタ」の推進、隣接する東京競馬場と連携した新たな集客策にも取り組んでいる。
 地元農家と協働した地場野菜の販売においても、市内のスーパーマーケットと連携し約20店舗に売り場を確保している。また、地元素材を使用したパン・菓子店も市内で20店になるなど、ローカルファーストの取り組みにも積極的だ。
 「ル・シーニュ」がオープンし、府中駅周辺再開発がようやく終了した現在、東京の多摩地区でも突出した大規模な商業集積をもたらしたが、開発期間が長期にわたったため、再開発時期やコンセプトの違いから、一体感のない印象になってしまった。
 また、全体的にオーバーストアになっている懸念があり、ネット社会や時間消費へのシフト、ライフスタイルの多様化と単身世帯の増加など、人口減少する今日の商業のあり方に課題を投げかけている。
 商業にかつての活気が戻らない中、地域経営の立場からエリアマネジメントへの期待は大きくなるばかりである。

13. チャレンジショップ「ふちゅこまーけっと」の外観
13. チャレンジショップ「ふちゅこまーけっと」の
外観
14. チャレンジショップ内に並ぶ、府中産の地物野菜
14. チャレンジショップ内に並ぶ、府中産の地物野菜
15. 2017年11月に開催した第1回「フードフェスタ」、ケヤキ並木大通りの紅葉が美しい
15. 2017年11月に開催した第1回「フードフェスタ」、
ケヤキ並木大通りの紅葉が美しい
16. 府中野菜でつくったブーケを買って、プレゼントに‥?
16. 府中野菜でつくったブーケを買って、プレゼント
に‥?
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

中心市街地商業活性化アドバイザー、静岡市まちづくりアドバイザー、町田市街づくりアドバイザー、東京都板橋区商店街活性化コーディネーター
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にて環境設計部・スペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、(株)ロッテ専務取締役を経て、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、NPO法人顧問建築家機構理事、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会顧問、一般社団法人パブリックデザインコンソーシアム会員、テンポロジー未来コンソーシアム(株)代表取締役。著書に『新・集客力』、『Showroom & Exhibition Display Ⅰ・Ⅱ』他がある。

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