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連載コラム

新たな経済社会を生む"シェアリングエコノミー"の拡大に商業界の展望は?

[ 2019年1月17日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
百瀬 伸夫

 欧米で広がったシェアリングエコノミーは、すでに日本社会にも定着し、その市場は拡大の一途をたどっている。「所有」「購入」することから「共有」「借りる」ことに価値を置くライフスタイルが若い世代を中心に広く浸透しつつあり、商業を支えてきた「消費経済」が「共有経済」に置き換わる節目を迎えている。その主な要因はSNSとスマートフォンで、いつでもどこでもユーザー同士が直接取引を行えるようなったからだが、その影響は計り知れない。従来のサービスや資産への考え方を根底から変えるシェアリングエコノミーに焦点をあて、商業界の展望を探ってみた。

1. サニーサイドアップと電通の共同事業として2019年1月に東京原宿駅前にオープンした「神宮前6丁目プロジェクト」。文化発信と企業ブランディングの場として新たな価値を提供する
1. サニーサイドアップと電通の共同事業として2019年1月に東京原宿駅前にオープンした「神宮前6丁目プロジェ
クト」。文化発信と企業ブランディングの場として新たな価値を提供する"次世代の日本文化のショーケース"を目
指す。オープニングを飾るルイ・ヴィトンのポップアップストアでは、2019春夏メンズコレクションを先行発売
する

シェアキッチン「MIDOLINO_」から始まる新たな可能性

 「MIDOLINO_」は2017年3月、東京都武蔵野市にオープンしたシェアキッチンだ。JR中央線三鷹駅から路線バスで10分ほどの「グリーンパーク商店街」にあり、空き店舗物件をシェアキッチンとしてリノベーションし、食を通した創業支援の拠点として、また地域のコミュニティの場として新しいビジネスモデルを打ち出し、話題となっている。
 「MIDOLINO_」は囲炉裏を中心にL字型に並ぶシェアキッチン (コミュニティキッチン)を配置し、実戦経験が踏めるレイアウトとしている。また、店内には5つに仕切られたキッチンブースがあり、それぞれ「飲食店営業」・「菓子製造業」・「惣菜製造業」・「ソース類製造業」・「粉末食品製造業」の製造許可を取得しているので、利用者は各々許可を取る必要がなく、このシェアキッチンで飲食店・パン屋・菓子屋などの営業ができるだけでなく、オリジナル商品の試作製造や、製品化して一般に販売することもできる。

2. グリーンパーク商店街の中ほどにある「MIDOLINO_」の外観
2. グリーンパーク商店街の中ほどにある「MIDOLINO_」の外観
3. 「MIDOLINO_」のメインキッチン。昼はランチ、夜は居酒屋に早変わり
3. 「MIDOLINO_」のメインキッチン。昼はランチ、夜
は居酒屋に早変わり
4. カフェコーナーでは「やさいやグリンコット」が
4. カフェコーナーでは「やさいやグリンコット」が"や
さいカフェ"とこだわりの薬膳茶を提供

 オーナーの舟木公一郎氏は、グラフィックから映像、音楽、造形・建築・内装に至るまで、デザインと名のつくものは何でも手がけるナリワイ実践者として、ほぼ一人で内装・設備工事、厨房機器の全てを施工した。
 「自分にできることを仕事として、想い起こした仕事で地域がつながり、地域の経済が循環することが理想だ。うちで小さな失敗を繰り返し、思い切って起業した人だけが見える新たな世界をぜひ経験してほしい」と、2年目で「MIDOLINO_」を黒字化した舟木氏は熱く語る。
 「MIDOLINO_」では創業支援プログラムを開発し、MDOLINO_実践学習創業カレッジの開講、「創業支援cafe & レストラン」「起業を支えるコミュニティづくり」をキッチンで実践できるようになっている。すでに、「MIDOLINO_」から「勇気」と「覚悟」をもらい3名が起業、実績を挙げている。最近は地元や近隣・遠方からの利用者も多く、地域の活性化とコミュニティの共創に貢献し、シェアキッチンという新業態を通じて、シェアリングエコノミーの新たな可能性を見せてくれた。

5. 舟木氏によるシェアキッチン研修会。カウンター内では人気の
5. 舟木氏によるシェアキッチン研修会。カウンター内では人気の"アツオ飯"シェフがランチの準備に取り掛かり、
シェアキッチンならではの光景だ

シェアリングエコノミーの5つのサービス分野

 シェアリングエコノミーは大きく5つの分野に分類され、多額の設備投資を必要とせず、アイデア次第で多種多様な事業の可能性がある。

  1. (1)「スペース」のシェア
    使われていない住宅や遊休地、空き室情報等をインターネットで公開し、利用者を募るもので、「民泊」や会議室、駐車場、イベントスペース、球場などもシェアの対象だ。
  2. (2)「モノ」のシェア
    中古や不用品をインターネットで売買する「メルカリ」などのフリーマーケット業態や、「ラグザス」などの高級ブランドバッグなどの貸し出しサービスなどが人気。
  3. (3)「移動」のシェア
    クルマの相乗りや、カーシェア、シェアサイクルなどが代表格。トヨタも「クルマを買わない・所有しない」時代への対応を急いでいる。
  4. (4)「スキル」のシェア
    個人の「スキル」をシェアするサービス。家事代行やベビーシッター、翻訳、観光ガイドなど様々な分野に広がり、子育て支援や高齢者の活用など、自治体や地域課題の解決にもつながる。また、副業やリモートワークの促進は働き方改革に直結する。
  5. (5)「カネ」のシェア
    「クラウドファンディング」が代表例。
6. 2018年10月、東京・南青山に「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA(シェアグリーン南青山)」がオープン。敷地内の「LIFORK南青山」は、約18㎡から101㎡まで全46区画のオフィスと、ラウンジ、ミーティングルーム、コワーキング、セミナールームからなるシェアオフィスで、開業時からすでに満室となった
6. 2018年10月、東京・南青山に「SHARE GREEN
MINAMI AOYAMA(シェアグリーン南青山)」がオ
ープン。敷地内の「LIFORK南青山」は、約18㎡か
ら101㎡まで全46区画のオフィスと、ラウンジ、ミ
ーティングルーム、コワーキング、セミナールーム
からなるシェアオフィスで、開業時からすでに満室
となった
7. 新進気鋭の映画製作集団「Tokyo New Cinema」のPOP広告。設立2年で4作品を製作、全作品が国際映画祭で受賞。「カネ」のシェア、クラウドファンディングで1,000万円を集めたことも話題だ
7. 新進気鋭の映画製作集団「Tokyo New Cinema」のPOP
広告。設立2年で4作品を製作、全作品が国際映画祭で受賞。
「カネ」のシェア、クラウドファンディングで1,000万円を
集めたことも話題だ

市場規模5,250億円 から拡大し続けるシェアリングエコノミー

 内閣府では、2016年にシェアリングエコノミー全体の市場規模は4700億〜5250億円と発表。「スペースシェア」の市場規模は1400億〜1800億円、「モノのシェア」は3000億円、「スキル・時間のシェア」と「お金のシェア」はそれぞれ市場規模が150億〜200億円と試算。我が国GDPの530兆円からすると、まだまだ小さい数字だが、今後、シェアリングエコノミーが拡大するのはほぼ間違いない。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)では、2025年に全世界の市場は10年で3350億ドル(総務省「平成27年版情報通信白書」)となり、2013年の150億ドルに対し約20倍の成長が見込めるとしている。また、新経済連盟では、日本でも2025年に10兆円台の経済効果があると試算している。
一般社団法人シェアリングエコノミー協会では、「共有経済」の社会的な効果を掲げ、公共サービスにおける予算的、人員的な逼迫への解決策になるとしている。公助から「共助社会」へ、地方創生を効率よく進めるためにも、「共助」による課題解決を目指す自治体向けに、「シェアリングシティ」の認定を急いでいる。

8. 東京三鷹市の「ハモニカ横丁」。吉祥寺でハモニカ横丁を成功させた手塚一郎氏によるもので、建物外観は東京オリンピックのシンボルとなる新国立競技場の設計を手掛けた世界的建築家の隈研吾氏がデザイン、自転車のホイールがぎっしりと建物を包む。また、店内にはアヒル、ワニ、ブタ、マグロが吊られているが、これも隈研吾氏のアイデアだ
8. 東京三鷹市の「ハモニカ横丁」。吉祥寺でハモニカ横丁を成功させた手塚一郎氏によるもので、建物外観は東京
オリンピックのシンボルとなる新国立競技場の設計を手掛けた世界的建築家の隈研吾氏がデザイン、自転車のホイ
ールがぎっしりと建物を包む。また、店内にはアヒル、ワニ、ブタ、マグロが吊られているが、これも隈研吾氏の
アイデアだ
9. 店内には吉祥寺で成功した業態を中心に、大小10の飲食ブースが空間をシェアし、国際色豊かな大人の
9. 店内には吉祥寺で成功した業態を中心に、大小10の飲食ブースが空間をシェアし、国際
色豊かな大人の"フードパーク"が評判だ。定期的にシンポジウムや料理研修会などのイベン
トも盛り沢山

所有から共有の時代、商業の近未来はどう変わるのか?

 シェアリングエコノミーは資産やスキルを提供したい側と、提供を受けたい側とのマッチングを、主にインターネットを利用して行っているが、スマートフォンの普及が、個人間の取引において、いつでもどこでもリアルタイムで行うことを可能にし大きな追い風となっている。
 クルマ離れ、新聞離れ、読書離れ、結婚離れ、お酒離れが進む中、モノやコトの利用形態が変わる社会において、資産は保有・維持コストの抑制と臨時報酬の確保などの観点から「所有より共有へ」と意識転換が進んでいる。"持たない"ことにインセンティブが支払われる社会の到来など、産業界の構造転換は待ったなしだ。
 商業界に転じてみると、古着ショップやリサイクル店が市民権を得て久しく、最近は大手も参入する大きなマーケットを形成している。一方、売場を複数の小規模店で構成する「シェアショップ」や短期間に店舗が次々入れ替わる「ポップアップショップ」が新たな業態として注目されるなど、シェアリングエコノミーは商業界にも大きなウネリをもたらし、「共有社会」とは何かを真剣に考える機会が来ている。
 シェアリングエコノミーの本質は、単なる経済行為の一つに留まらず、時間と空間の有効利用と、価値観の共有にあり、人と人のつながりや新たなコミュニティの共創に意味がある。 "シェアしてツナガル"を満たしてくれる商業の近未来とは何か、リアル店舗ビジネスとインターネットビジネスのどちらにも、まだまだ新たなビジネスモデルが生まれる機会は多そうだ。

10. JR東小金井駅「中央ラインモール」内のシェアショップ「ヒガコプレイス」。手前はペットグッズ店
10. JR東小金井駅「中央ラインモー
ル」内のシェアショップ「ヒガコプレ
イス」。手前はペットグッズ店"犬と
暮らす家"「dogdeco HOME」、奥は
「あたらしい日常料理 ふじわら」に
つながっている
11. 短期間に店が入れ替わるポップアップショップ「東小金井コミュニティステーション」
11. 短期間に店が入れ替わるポップア
ップショップ「東小金井コミュニティ
ステーション」
12. 5組の作り手によるアトリエ併設のストア「atelier tempo」から、「お好みの焙煎」でお客一人一人に合った
12. 5組の作り手によるアトリエ併設の
ストア「atelier tempo」から、「お好
みの焙煎」でお客一人一人に合った"美
味しい"コーヒーを提供する「珈琲や」
に続く
13. 14. 15. JR中央線武蔵境駅近くの「ond(オンド)」は、5つ(5人)のショップがそれぞれの手作りの温度が感じられる憩いの場を提供。自家焙煎カフェ、デリやスイーツ、クラフトビールが楽しめる。カフェスペースでは、地元主婦などに、ワークショップ等の会場としても、地域コミュニティに解放している。    13. 14. 15. JR中央線武蔵境駅近くの「ond(オンド)」は、5つ(5人)のショップがそれぞれの手作りの温度が感じられる憩いの場を提供。自家焙煎カフェ、デリやスイーツ、クラフトビールが楽しめる。カフェスペースでは、地元主婦などに、ワークショップ等の会場としても、地域コミュニティに解放している。    13. 14. 15. JR中央線武蔵境駅近くの「ond(オンド)」は、5つ(5人)のショップがそれぞれの手作りの温度が感じられる憩いの場を提供。自家焙煎カフェ、デリやスイーツ、クラフトビールが楽しめる。カフェスペースでは、地元主婦などに、ワークショップ等の会場としても、地域コミュニティに解放している。13. 14. 15. JR中央線武蔵境駅近くの「ond(オンド)」は、5つ(5人)のショップがそれぞれの手作りの温度が感じ
られる憩いの場を提供。自家焙煎カフェ、デリやスイーツ、クラフトビールが楽しめる。カフェスペースでは、地元
主婦などに、ワークショップ等の会場としても、地域コミュニティに解放している。
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

まちづくりアドバイザー、商店街活性化コーディネーター、高齢者就労、地方創生にも係る。
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にて環境設計部・スペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、(株)ロッテ専務取締役を経て、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、NPO法人顧問建築家機構理事、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会副理事長、一般社団法人新現役交流会サポート理事、テンポロジー未来コンソーシア株式会社代表取締役。著書に『新・集客力』、『Showroom & Exhibition Display Ⅰ・Ⅱ』等がある。

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