日経メッセ > JAPAN SHOP > 連載コラム > テンポロジー考 > "テレワーク"がまちを変える!!

連載コラム

"テレワーク"がまちを変える!!

[ 2019年3月5日 ]

まちづくり・みせづくりコーディネーター
百瀬 伸夫

 2016年、政府の掛け声で始まった「働き方改革」は、その後「ワーク・ライフ・バランス」「一億総活躍社会」「生涯現役」「人生100年時代」などの言葉とともに、さまざまな分野に影響を与え、浸透してきた感がある。そもそも「働き方改革」は、①長時間労働の改善 ②非正規・正規雇用の待遇格差の是正 ③多様な働き方の環境づくりなどを目的としてきたが、「働き方改革」の啓発により働く人々の価値観やライフスタイルの変化にも波及、仕事や生活環境改善への意識改革も進んでいる。テレワークなどによる"働き方改革がまちを変える"事例を通じて、働き方の変化とまちと商業の近未来を探ってみた。

1. リノベーションで活気づく静岡市駿河区用宗(もちむね)地区は、テレワーク拠点としても関心が集まっている。プライベートビーチのようなひっそりした用宗海水浴場は、波が穏やかで水がきれいなことから、
1. リノベーションで活気づく静岡市駿河区用宗(もちむね)地区は、テレワーク拠点としても関心が集まっている。プライベートビーチのようなひっそりした用宗海水浴場は、波が穏やかで水がきれいなことから、"SUP"(マリンスポーツで人気上昇のスタンド・アップ・パドル)の名所となっている

地方創生の切り札となる"テレワーク"の推進

 2014年9月、政府は「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、"東京への一極集中の是正"と、"地方の人口減少の歯止め"を地方創生の柱に置いた。その中心がUIJターンを含む地方への移住・定住だが、移住・定住のネックは仕事・雇用の確保にあり、その実現は簡単ではない。そこで注目を集めたのが「テレワーク」である。
 テレワークは、離れた所(tele)で仕事(work)ができる環境づくりを意味し、情報通信技術を活用して場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が可能である。「労働や生活環境の改善」と「生産性の向上」の両面に寄与できることから、都心の大企業を中心に関心を集めている。
 政府は、2020年オリンピックの開会式が行われる7月24日をテレワーク・デイに指定、この日はテレワークにより都心勤務者の通勤を控え、都心交通をスムーズにするのが狙いだ。 2017年からテレワーク・デイの社会実験が行われているが、総務省、経産省、厚労省、内閣府が昨年実施した実験結果では、積水ハウスは利用者の83%が「時間を有効にできた」、菓子メーカーのカルビーでは、利用者の72%が「業務効率が向上した」94%が「今後も利用したい」と、参加企業の7割、すでに導入した企業の8割が効果を実感している。

2. 和歌山県白浜町に本社を移転したIT企業のオフィス。空き家となっていた大企業の保養所をリノベーションして、快適な環境の中で仕事ができる。奥の壁一面は黒板になっている
2. 和歌山県白浜町に本社を移転したIT企業のオフィス。空き
家となっていた大企業の保養所をリノベーションして、快適な
環境の中で仕事ができる。奥の壁一面は黒板になっている
3. 静岡市中心街のコワーキングスペース「コテラス」。地元の不動産屋が
3. 静岡市中心街のコワーキングスペース「コテラス」。
地元の不動産屋が"働き方改革"を提案し直営している

"働き方改革先進市"を目指す静岡市

 静岡市は世界最大のメガリージョン(巨大圏域)を構成する東京・名古屋の中間に位置し、人や経済が大都市圏に引っ張られ、政令指定都市の中で最も人口減少が進んでいる。東京・名古屋とは新幹線で1時間、東名高速なら2時間と恵まれた立地にあることが裏目となっていた。しかし、地方創生の観点からすれば、大都市圏との近さが強みとなる施策や戦略の展開が必至で、働き方改革の必要性に早くから着目してきた。その柱となるのがテレワークの推進である。
 一昨年7月のテレワーク・デイに続き、昨年7月と9月も「お試しテレワーク」の社会実験を実施、首都圏大手企業から延べ100名が参加し「静岡市は近くて便利、安心、暮らしやすい環境が整っている」「移住したい」との声が挙がり、手ごたえは十分だった。
 また、静岡市は働き方改革を経験し、実践につなげる狙いから、昨年10月にコワーキング・スペースを世界の主要都市で展開する「WeWork」GINZA SIXに全国自治体では初の進出を果たした。現在は京橋「東京スクエアガーデン」の「WeWork」に移転し、WeWork会員企業との連携を深め、情報収集に努めている。

4. 静岡市では、2017年7月のテレワーク・デイに初の「お試しテレワーク」を実施、東京の大手IT企業が参加、市内の落ち着いた環境が都会人に好評
4. 静岡市では、2017年7月のテレワーク・デイに初の「お試
しテレワーク」を実施、東京の大手IT企業が参加、市内の落
ち着いた環境が都会人に好評
5. 2018年の「お試しテレワーク」は同市内の数か所で実施、参加者から
5. 2018年の「お試しテレワーク」は同市内の数か所で
実施、参加者から"東京に戻りたくない"との声も
6.7.8.  静岡市は全国自治体で初のWeWork進出を決断。早速、共用ラウンジを使って静岡ナイト・イベントを開催、    6.7.8.  静岡市は全国自治体で初のWeWork進出を決断。早速、共用ラウンジを使って静岡ナイト・イベントを開催、    6.7.8.  静岡市は全国自治体で初のWeWork進出を決断。早速、共用ラウンジを使って静岡ナイト・イベントを開催、
6.7.8. 静岡市は全国自治体で初のWeWork進出を決断。早速、共用ラウンジを使って静岡ナイト・イベントを開催、"静岡
茶とビールのカクテル"試飲会では会員企業との会話も弾んだ

リノベーションで活気づく用宗(もちむね)漁港

 静岡市のテレワーク拠点整備の候補地の一つとなっている用宗地区は、静岡市駿河区にあり静岡市の西南端に位置し、JR静岡駅から2駅、所要時間7分と至近である。用宗駅から海岸まで600m、港も約700mと徒歩圏で、静岡市の中心市街地から近いにもかかわらず、海と山の自然が満喫できるロケーションだが、まだその魅力が十分認知されていない。
 用宗地区の主な産業は漁業で、中でもシラス漁は全国的に有名で、「用宗シラス」は駿河名物として知られている。駿河湾沖は河川がもたらす豊富な栄養分が含まれており、シラスの生育に絶好の環境で、生産量は常に全国1・2位を誇る。しかし、用宗地区も全国の港町と同様に高齢化が進み、近年人口は5,000人を割り込み、JR用宗駅利用者数もこの15年で35%減少、現在1日約1,500人と衰退が進んでいた。
 一方、用宗には数万人が集まる大イベント「用宗漁港まつり」があり、観光地としてのポテンシャルは高まっていた。そんな用宗地区のポテンシャルに魅かれ、「用宗を"東洋のモナコ"にして見せます!」と言い切る人物がいた。静岡市内で事業を営むCSA不動産(社員31名)の小島孝仁社長だ。小島氏は用宗地区の古民家や空き家を買い取り、旅館や店舗、温泉施設にリノベーションし施設運営も手掛け、リスクをものともせず、まちづくりに孤軍奮闘してきた。

9. 築90年の歴史ある「蔵」を改装した趣きのある空間と、洗練された洋の料理が融合、予約の取れないイタリアン&フレンチの「KURAYA KATO(クラヤカトウ)」も小島氏がプロデュース
9. 築90年の歴史ある「蔵」を改装した趣きのある空間
と、洗練された洋の料理が融合、予約の取れないイタリ
アン&フレンチの「KURAYA KATO(クラヤカトウ)」
も小島氏がプロデュース
10. ヒト気のない海辺に突然オープンしたジェラート店「LA PALLETE(ラ パレット)」に500人が行列し静岡名所となった
10. ヒト気のない海辺に突然オープンしたジェラート店
「LA PALLETE(ラ パレット)」に500人が行列し静岡名所と
なった
11. ウインドー形式の中庭に囲まれて過ごす癒しのひとときが売りの古民家宿「日本色 NIHON IRO」千種棟の居間空間
11. ウインドー形式の中庭に囲まれて過ごす癒しのひとときが
売りの古民家宿「日本色 NIHON IRO」千種棟の居間空間
12. 「日本色」 6棟の一つ、「青藍」は88.40㎡+庭付で大人6人が泊まれる
12. 「日本色」 6棟の一つ、「青藍」は88.40㎡+庭付
で大人6人が泊まれる
13. 一番新しくリノベーションが完成した40㎡平屋タイプの「月白」。
13. 一番新しくリノベーションが完成した40㎡平屋タイプの
「月白」。"こじんまり感"が若いカップルに人気で、天窓か
ら星が臨める
14. 日本色宿泊者向けの送迎用リムジンカー。本場タイで特注した日本仕様の真っ白な「トゥクトゥク」は高級外車並みのコストがかかった。めずらしさと目立つことから用宗地区のアイコンになっている
14. 日本色宿泊者向けの送迎用リムジンカー。本場タイ
で特注した日本仕様の真っ白な「トゥクトゥク」は高級
外車並みのコストがかかった。めずらしさと目立つこと
から用宗地区のアイコンになっている

遠大なまちづくりがテレワークを呼び込む!

 「過去に人生や仕事に悩む時期があり、静岡の都心部から用宗に引っ越してみたところ、海と山の自然の中で新たな発見と感動があった。古民家を買い取り、自宅としてリノベーションし、本格的に用宗の住民になった」という小島氏は毎日港を眺めているうちに、ここは都会人にとって素晴らしいオアシスになると確信した。
 小島氏の用宗地区のまちづくり事業は、空き家となった古民家を旅館として一棟貸し宿泊施設にリノベーションした「日本色」シリーズから始まった。次に空き倉庫、工場を買い取り、行列ができるジェラート店「LA PALLETE(ラ パレット)」、古い蔵を改修し予約が取れないと評判のイタリアン&フレンチの店「KURAYA KATO」。さらに、使われなくなった倉庫を全面リニューアルし、"用宗シラス丼"が話題の飲食店街「用宗みなと横丁」に生まれ変わらせた。また、2018年末に用宗港に面したマグロ加工工場の敷地内に温泉を掘削し、「用宗みなと温泉」を開業した。古民家宿として人気の「日本色」シリーズは4棟から昨年2棟が追加され現在6棟となっている。小島氏の仕事は不動産仲介の域を超え、自ら物件を取得し、"理想に燃えた若い商業者"との豊富なネットワークを活かし、出店オーナーとのマッチングや、条件交渉から店舗プロデュースまで手掛けている。
 そんな矢先、大手広告代理店電通関連会社のIPG社(Gガイドで有名な電子番組制作・運営・サービスを行う)のサテライトオフィスが進出することとなり、タコの加工場跡地に新たなオフィスが誕生する。IPG社は東京本社から数名を移動させ、今後は現地採用を10~20名に拡大したいと発表。IPG社の星野社長は、「理想的な環境で仕事ができるのは大変嬉しい」と語る。

15. 空き倉庫をリノベーションし、2018年5月にオープンした「MINATO YOKOCHO」。用宗のソウルフード
15. 空き倉庫をリノベーションし、2018年5月にオープン
した「MINATO YOKOCHO」。用宗のソウルフード"しら
す"をメインにした「しらす丼と海鮮の店 次郎丸」に並ぶ
人々
16. 2018年12月にオープンした「用宗みなと温泉」。温泉は1000mを掘って汲み上げ、建屋はマグロの解体工場跡をコンバージョンしたもので、露天風呂から富士山が見える。地元はもちろん、隣りまちの焼津市や近隣市町からも利用客が訪れ、用宗ににぎわいをもたらせている
16. 2018年12月にオープンした「用宗みなと温泉」。温
泉は1000mを掘って汲み上げ、建屋はマグロの解体工場
跡をコンバージョンしたもので、露天風呂から富士山が見
える。地元はもちろん、隣りまちの焼津市や近隣市町から
も利用客が訪れ、用宗ににぎわいをもたらせている

自ら仕事をつくり、働き方改革がまちを変える

 テレワークの先進事例として名高い、和歌山県白浜町では"ワーケーション"(ワークとバケーション)という新しい言葉を広め、進出したセールスフォース社の社員は「自然や地域活動に接する中で、個人の人間的スキルが向上し、結果として生産性が高まった」と語っている。
 また、長野県塩尻市振興公社では、多様な働き方を推進し、ひとり親、子育て中の女性・男性、シニア、障害者等、働くことが困難な人が、やりがいとワーク・ライフ・バランスを確保して、安心して働ける環境を整備している。すでに、在宅就業支援の「KADO(家で働く)」、「テレワークセンターしおじり」、コワーキングスペース「Corabo」などで、多様な支援を行っている。また、振興公社は地元や都心企業から遠隔地でも対応できる仕事の切り出しを集めて回り、仕事量に対し働き手が足らなくなる程で、塩尻市近隣市町との連携や、全国各地からの連携申し入れに対し、対応を急いでいる。通信インフラの整備により塩尻市がハブとなって、仕事がなかった地域にも仕事を供給する仕組みが着々と育っている。
 一方、アメリカのシリコンバレーを意識し、川崎市が東京近郊で運営する「マイコンシティ」南黒川・栗木地区では、IT企業誘致に成功し全区画が満杯となるなど、朝夕は都心に通う通勤者とは反対に、マイコンシティに通う多くの若い人達で逆の流れが起こっている。
 また、小田急多摩線沿線の栗平駅前にはカフェ、レンタルスペース、ワークスペースからなる「コミュニティ施設『CAFÉ&SPACE L.D.K』」、黒川駅前ではシェアオフィスを核とした複合商業施設『ネスティングパーク黒川』がこの春オープンを控えている。共に、首都圏郊外の多摩丘陵が持つ自然環境を味方に、郊外住宅地における職住近接のライフスタイルを提案している。施設オープンを広報するシンポジウムでは、Facebookページのキャッチコピーに「いつまで都心で働くの?郊外にある新しい暮らしと働き方」と言うメッセージが添えられていた。
 固定席を作らないフリーアドレス・オフィスの普及や副業の容認などで働き方が変わり、人の移動・流れが変わる社会では、商業はどのような展開となるのだろう。用宗地区のように高齢化が進んだ港町にオフィスや店舗が次々と進出するのを誰が予測したであろうか。最近の商業界では"バッド・ロケーション"が成功のキーワードと言われて来たが、次は職・住・商が一体となった自然豊かな環境や都心では体験できない時間・空間が、新しいライフスタイルを望む人達に人気となるだろう。

17. 和歌山県白浜町の「白浜町ITビジネスオフィス」。白浜市が大手企業の保養所を買い取りリノベーションした。海を見下ろす高台にあり絶景!!すぐ裏手に南紀白浜空港があり、羽田空港と毎日3往復のJAL便が就航、抜群の利便性だ
17. 和歌山県白浜町の「白浜町ITビ
ジネスオフィス」。白浜市が大手企
業の保養所を買い取りリノベーショ
ンした。海を見下ろす高台にあり絶
景!!すぐ裏手に南紀白浜空港があり、
羽田空港と毎日3往復のJAL便が就
航、抜群の利便性だ
18. 塩尻市中心街、大手量販店が撤退した建物2階に振興公社が運営する在宅勤務支援のワークステーション「KADO(家で働く)」があり、3階には「テレワークセンターしおじり」がある。
18. 塩尻市中心街、大手量販店が撤退
した建物2階に振興公社が運営する在宅
勤務支援のワークステーション「KA
DO(家で働く)」があり、3階には「テ
レワークセンターしおじり」がある。
19. 政府が推進している「プレミアムフライデー」を街中で盛り上げてきた静岡市民。この日の午後3時には呉服町名店街で音楽が奏でられる
19. 政府が推進している「プレミアム
フライデー」を街中で盛り上げてきた
静岡市民。この日の午後3時には呉服町
名店街で音楽が奏でられる
テンポロジー考
執筆者:百瀬 伸夫

まちづくりアドバイザー、商店街活性化コーディネーター、高齢者就労、地方創生にも係る。
武蔵野美大建築学科卒 (株)電通にて環境設計部・スペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、(株)ロッテ専務取締役を経て、一般社団法人IKIGAIプロジェクト理事、NPO法人顧問建築家機構理事、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会副理事長、一般社団法人新現役交流会サポート理事、テンポロジー未来コンソーシア株式会社代表取締役。著書に『新・集客力』、『Showroom & Exhibition Display Ⅰ・Ⅱ』等がある。

バックナンバー

PAGE TOP