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連載コラム

デザインの視点で作業の時間や背景を紹介。「テマヒマ展〈東北の食と住〉」

[ 2012年7月17日 ]

テマヒマ。費やされる「時間」を伝えるために

日常的な食材や生活の品々を、文化背景をあわせてどう伝えられるのか。21_21 DESIGN SIGHT(東京)で開催中の「テマヒマ展〈東北の食と住〉」は、展覧会名が示す通り、「手間ひま」をかけた東北のものづくりに焦点をあてたものだ。東日本大震災を受け、同館が昨年7月に開催した特別企画「東北の底力、心と光。 『衣』、三宅一生。」に続くプログラムである。

建物外観。Photos: Yusuke Nishibe(全て)、Photo Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT建物外観。Photos: Yusuke Nishibe(全て)、Photo Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

デザイン展を企画している施設における「食と住」の紹介。展覧会監修も2名のデザイナー、グラフィックデザイナーの佐藤 卓氏とプロダクトデザイナーの深澤直人氏が担当している。

二人を中心に結成された企画チームは、2011年秋から2012年3月まで東北各地約90ヵ所を訪ねて調査を行った。展示はその調査をふまえた55品種と各地での映像や写真。実は筆者も企画チームに参加したこともあり、今回は会場構成の経緯を補足しながら紹介していきたい。

最初に登場するのは東北の地図。展示している品々の名とその地域を示している。横に長い壁にあわせた横向きの地図。右側が北方位となる。私たちが見慣れているもの、あるいは見慣れていると思っているものを普段とは違う視点で見てみようとのメッセージも込めた地図でもある。

「東北の地図」。「東北の地図」。

近くには「東北の根 : 大根」「東北の樹 : 杉」の図。実用と、ことわざや儀礼等に大きく分類したうえで、根と杉の使用法、民話、言い伝えといった多種類の要素をまとめている。

大根を例に挙げれば、調理法はもちろん、東北6県の在来品種が豊富にある。モノカルチャー(単一栽培)ではなく多様な品種を社会に持ち続けることが、厳しい自然環境における生命の危機回避でもあることを東北地方の人々は体験的に把握してきたのだ。杉も、建築材料を始め、舟から桶、樽まで幅広い。あるひとつの素材と人々との密接な関係や生活のなかで多様に活かしてきた歴史、生きることのたくましさ。様々な要素がこの図には凝縮されている。

右側に見える図が「東北の根:大根」。右側に見える図が「東北の根:大根」。

続く展示空間ではショートフィルム7本を上映。字幕等の解説を一切含まない映像だが、各地の風景や作業の様子を淡々ととらえることで、風土や生活と密接な「食と住」の現場を紹介している。作業をする人々の手そのものにも焦点をあてている。ちなみに「手」は、展覧会全体を貫く視点のひとつ。展示には各地の職人の手を撮った写真も含まれている。

佐藤氏の言葉を引用しておこう。「今、残っているすばらしい手仕事をほめたたえることは容易いが、どうしてこの地域に残ってきたのかを掘り下げ、そしてその精神をなんとか未来に残していく方法を探らなければならない時がきている。なぜなら、永い間受け継がれてきた日本のものづくりの精神は、『便利』を崇拝する合理主義に、歪んだ民主主義と資本主義とが折り重なり、急速に消えつつあるからだ」

「便利とは、身体を使わないということである。身体を使わないとどうなるか。様々な現代の病がそれを物語っている」(佐藤氏) 

「『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』のための映像」より「りんご剪定鋏」(青森県弘前市) 。トム・ヴィンセント、山中 有。©Tom Vincent / Yamanaka Yu「『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』のための映像」より「りんご剪定鋏」(青森県弘前市) 。
トム・ヴィンセント、山中 有。©Tom Vincent / Yamanaka Yu

「飾らない美が示唆するものに向きあえる場に

映像に続くメインの展示空間は約440㎡。展覧会をディレクションした佐藤氏と深澤氏は、それぞれに訪ねた東北各地で「繰り返されるものづくり」を実感したと語る。利益を追求するためにつくられるのではなく、生きるための食材やその保存の方法、あるいは生活の道具......。

深澤氏の言葉を引用しておこう。「手間ひまをかけるものづくりは常に『準備』。その営みに終わりはないし完成もない。しかしその手間ひまが生み出すリズムが、行く先を見失いかけている今の人間のペースをおだやかに緩和し、大切な何かを明示し、焦りの心にひとつの糧を与えてくれるような気がしてならない」

「粘り強く淡々と繰り返される一瞬単純そうに見える作業が、穏やかで豊かな生活の循環を生み出している。この会場にその空気を持ち込めるだろうか、急ぎすぎて混迷する現代を救う、啓示に満ちた生活の美を持ち込めるだろうか、と考えた」

展覧会会場風景。展覧会会場風景。

会場構成での具体的な作業では、グラフィックデザインを佐藤氏、展示台を含む空間デザインを深澤氏と分担したうえで、やりとりが重ねられてきた。構成の軸となったのは「博物館のような」紹介。展示台の整然としたフレームが、集められた品々を際立たせる。

「食にしても住にしても、特別ではない日常のものをしげしげと眺める機会は少ない。しかし改めて目にしてみると、それぞれに何と魅力的なことか。一例として袋詰めされた麩や駄菓子を丁寧に並べることで、繰り返しの作業の過程が見えてくる」。佐藤氏は言う。

展示台のフレームは、会場サンクンコートに象徴的に積み上げられた津軽の「りんご箱」と同じ松の木。深澤氏のこだわりで、釘を用いることなくダボ組みで仕上げられている。展示面には透明アクリル板。天井からの照明で床に落ちる影もまた、淡々とつくられてきた品々の存在を浮かび上がらせる。

さらにその影は天井のバナーの柄と呼応する。バナーの柄は伝統的な文様にも見えるが、実は、きりたんぽ、打ち豆、雪上作業靴といった展示品のシルエットなのだ。

サンクンコートに積まれた「りんご箱」。津軽の農家が市場に出荷する際に使い、再利用もされている。展覧会終了後に希望者に届くよう、予約販売中。サンクンコートに積まれた「りんご箱」。
津軽の農家が市場に出荷する際に使い、再利用もされている。
展覧会終了後に希望者に届くよう、予約販売中。

会場の展示から。会場の展示から。

4カ月の会期中、「食」も実物展示にこだわる

寒干し大根、へそ大根、凍り豆腐、凍(し)み餅、凍みイモ、打ち豆、干し菊、麩......。これら東北の保存食はすべて実物の展示となっている。氷点下の寒風や陽ざしを活かしてつくられる凍みイモなどの保存食の展示は、地元で使用される紐をそのまま用いたもの。現代の現場のリアルな状況を尊重してのことでもある。

会場の展示から。会場の展示から。

きりたんぽ、鮭、漬物床である三五八、はたはたずしなども実物の紹介にこだわった。とはいえ、真夏を含んで4カ月に及ぶ展覧会、関係者の議論の末に挙がったのが、真空パックによる展示方法だった。昆虫や植物の標本箱のような木製フレームを制作し、採集物や美術作品さながらに食材を納める方法だ。展示台と同様に「一点一点をじっくり見てもらう」(佐藤氏、深澤氏)工夫でもある。

きりたんぽや鮭など、真空パックの手法で12品種を紹介。きりたんぽや鮭など、真空パックの手法で12品種を紹介。

素材や制作過程、使用する道具も含んだ「住」の品々では会場の床面も展示に用いている。各地の作業場をリアルに再現する展示の手法とは異なるが、土間も使われる制作の場をそれとなく想像させる床面活用だ。荒削りされた素材や使い込まれた道具の凛とした存在感からか、展示台のグリッドに沿って並べられながらも、そこにただ静かに納まりきらない力強さを放っている。

秋田杉桶樽の展示台。秋田杉桶樽の展示台。

より新しいもの、より合理的なものを追求し、進歩を求めようと変化を遂げてきた現代社会。しかしそのなかで、根気強く淡々とつくられてきた品々がある。無理をしないからこそ継続されてきた「手間ひま」がかけられたものづくりと、そこに生まれ出る飾らない美の存在。

あるいは、長く深い雪に覆われる厳しい自然と寄り添うようにしてなされるものづくり。厳しい自然環境に抗うのではなく、環境を受け入れると同時に知恵や工夫を凝らす暮らしが、東北の「食と住」にはある。東日本大震災に見舞われながらも生き続ける生活のエネルギーだ。

それら伝えるべきメッセージや準備に関わったメンバーが各地で実感したことをふまえながら、伝統的な品々を集めた物産展でも、販売のためのクラフトショップとも異なる展覧会となった。また、民俗博物館とも異なる。ごくふつうの品々を前に、「テマヒマ」という趣旨の伝え方を開幕直前まで検討した結果の会場。「デザインの視点で整理して伝えたかった」とは佐藤氏と深澤氏の言葉だ。

「テマヒマ展〈東北の食と住〉」

8月26日(日)まで(火曜日休館)
展覧会情報
http://www.2121designsight.jp/program/temahima/

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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