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連載コラム

真にエコロジカルな場を生む"からまりしろ"。建築家、平田晃久の試み

[ 2012年8月30日 ]

人工と自然とが絡まりあう場を探る

 この夏、都内にある家具メーカーのショールームに、水と緑で構成された一角が現れた。オカムラが毎年開催している「オカムラデザインスペースR」。招かれた建築家が「今、最も関心のあること」を自由に表現する展示として、毎回注目を集めている。

 第10回となる今回の展示を手がけたのは平田晃久氏(1971年生まれ)。ガーデンプランナー、フラワーアーティストの塚田有一氏(1968年生まれ)と共に、人工的なオフィス空間に「水と植物の力」を導く試み、「Flow-er」を披露した。

写真1オカムラデザインスペースR 第10回企画展「Flow-er」。
7月24日〜8月10日、オカムラガーデンコートショールームで開催された。
Photo: Nacása and Partners, Photo courtesy of akihisa hirata architecture office

 建築について、「生命の営みに寄り添い、周辺環境に連鎖し、絡まりあいながら秩序を織りなす『からまりしろ』」との持論を述べる平田氏。「Flow-er」は、そのうえで重要なひとつである「水の流れ」を視覚化し、実際に体感できるようにしたものだ。

 「からまりしろ」とは「絡まる」と「しろ」から成る造語で、糊しろの「しろ」に想像できるように可能性を含む状態である。平田氏はそれを生態系になぞり、有機的な動きとして考える。「Flow-er」では「その建築があることで植物が絡まり、風や水の流れも絡まるようにして豊かな秩序を生む。オフィス空間で水と構造体と植物が絡みあった、庭とも建築ともつかない状況」だ。

写真2Photo: Nacása and Partners, Photo courtesy of akihisa hirata architecture office

 アクリル素材の構造体を活かすことで、1点から落ちる水を薄い面としてひきのばす。水が流れる面によって、建築と庭(植物)が交わっていく。水や植物を建築に組み入れる提案は既に様々に行なわれているが、「Flow-er」はそれとは異なり、人々の身体や動きとより密接に関係しあうランドスケープの可能性を探るもの。展示のためのインスタレーションを超えて、空間づくり、街づくりの未来に向けたひとつの提案ともなる。

 「水や風の流れに沿うように人々が集まり、暮らす」都市をつくるという発想は、台湾の都市開発に対する提案でも示されている。

写真3台湾、高雄における大規模開発のための国際コンペでの提案。
水の流れに加えて海風もひきこむなど、建物単体を超えた環境全体に目が向けられた。
Graphic: kuramochi+oguma, Courtesy of akihisa hirata architecture office

写真4上は国内で進む集合住宅の案。
起伏に富んだ豊かな地形を見せる東京都目黒区洗足。
バルコニーなど、「外部との接点」を積極的につくることが考えられている。
「緑の多い地区でもあるので、周辺環境と建築との関係性を考えた。
発酵して穴のあいた食物のようにあいている部分がある。
大地に人々が暮らすイメージでもある」と平田氏。
© akihisa hirata architecture office

太陽エネルギーとマネジメントシステム。"光合成"というコンセプト

 平田氏が一貫して模索し続ける「からまりしろ」。今年春のミラノ国際家具見本市(通称「ミラノサローネ」)でも、パナソニックの展示において、その考えが活かされている。

 会場となったのは市内にあるミラノ大学の中庭と回廊部分。パナソニックの製品である太陽光パネル、蓄電池、LED照明や有機EL照明、エネルギーコントロールのマネジメントシステム等を、印象的なインスタレーションを通して来場者に伝えるのが目的だ。

 パナソニックのチームと掲げた展示コンセプトは「光合成」で、樹木の「葉」「実」「花」の関係が想起された。「循環し、互いに関係しあう生態系の秩序の縮図があります。太陽から降り注ぐ光があるからこそ可能となる秩序です」。「人工の物が自然界の秩序と重なりあう風景、建築、都市こそが、本当の意味でのエコロジカル(生態学的)な環境」とも強調する。

写真5平田氏が描いた太陽光と樹木(葉、実、花)の関係。
こうした関係性を体感できる展示を考えた。

写真6「Photosynthesis ---光合成---」展風景(4月16日〜4月30日)。
ミラノ大学の中庭につくられた太陽光パネルのパビリオン。
パネルはポリカーボネートで支えられ、枝を広げた樹木のように組まれた。
サローネ会期中の優れたインスタレーションに授与される
Elita Design Awardsでグランプリに輝いたことでも話題に。
Photo by Santi Caleca, Photo courtesy of Panasonic

写真7太陽光パネルは通常は平面的に敷き詰められるが、
ここでは3次元的な配置で、樹木の「葉」のようになっている。
Photo by Takumi Ota, Photo courtesy of Panasonic

 平田氏は著書『建築とは〈からまりしろ〉をつくることである』(INAX出版)に記している。「生きているものの世界は、タンパク質のようなミクロの世界から森のようなマクロな世界まで、からまりあい連鎖する秩序の織物。山肌が雲を引き寄せるように、"からまりしろ"となるものが、そこにからみつくものを引きよせ、より高次のまとまりが形成されてゆく」

 次のようにも述べる。「生きている世界は、あるわずかなきっかけの上に何かが絡まって、またそこに何かが絡まっていくという繰り返しの連続。その結果、精妙な共存の秩序が生まれます」。「人間の営みとしての建築もその一部。人間がつくる都市も、少し見方を変えれば、表面積を増やしていく地表面の活動のようにとらえることができます」

写真8夜間の中庭パビリオンの様子。
Photo by Santi Caleca, Photo courtesy of Panasonic

写真9

写真10太陽光パネルで蓄えたエネルギー、回廊に設置したLED電球や有機ELの照明を点灯した。
生物のように大きさを変えるバルーン照明は、
LED照明デバイスで光の変化も楽しめるものに。
持続可能な社会に向けた企業の研究や製品開発を魅力溢れるメッセージとして伝えた。
Photos by Santi Caleca, Photo courtesy of Panasonic

 ここではまた、考えを伝えるための造形にも工夫が凝らされた。

 「ミラノサローネのように大勢の人が来場する場で概念を示す際には、伝わりやすいかたちであることが大切。多方向に向けたパネルの組みあわせを単純な幾何学で構成すること、実際の組み立てにおいても単純であるという点も念頭に置きました。太陽光パネルが実際に立体で使われる際を考えても、シンプルな造形、組み立てやすい構造であることは重要です」

写真11エネルギーマネジメントに関する製品も明快に紹介された。
Photos by Santi Caleca, Photos courtesy of Panasonic

べネチア・ビエンナーレ 国際建築展にも参加中

 平田氏は現在、べネチアで開幕したばかりの第13回 べネチア・ビエンナーレ 国際建築展(8月29日〜11月25日)で、日本館(国際交流基金主催)の展示「ここに、建築は、可能か」展に参加している。日本館の今回のコミッショナーは建築家の伊東豊雄氏。平田氏のほか、藤本壮介氏、乾久美子氏という若手建築家3名と写真家の畠山直哉氏が参加作家となっている。

写真12第13回 ベネチア・ビエンナーレ 国際建築展、日本館。
Photo: Naoya Hatakeyama, Photo courtesy of Japan Foundation

写真13参加作家。左より、乾久美子氏、伊東豊雄氏、平田晃久氏、藤本壮介氏、畠山直哉氏。
Photo: Naoya Hatakeyama,Photo courtesy of Japan Foundation


 展示は、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市に「みんなの家」を建てるプロジェクトのドキュメント。伊東豊雄氏を中心に3名の若手建築家が議論を重ねながら建設している「みんなの家」とは、津波で家を失い、仮設住宅に暮らす人々が集うことのできる木造の小屋だ。

 仮設住宅で暮らす人々の声を聞き、つくり手と住まい手が一体となって話しあいながらつくられる「家」。伊東氏の言葉を借りれば、「近代の『個』の意味を問い直そうとする試み」であり「近代以降の建築のあるべき姿を問う大きな課題を背負ったプロジェクト」である。

写真14

写真15日本館会場風景。
Photo: Naoya Hatakeyama, Photo courtesy of Japan Foundation


 震災を受けた地でのプロジェクトであることに加えて、建築家と写真家が意見を交わしながら進める共同作業であるなど、一般的な建築プロジェクトとは大きく異なる。今後の建築のあり方や場づくりを模索するうえでも、とりわけ重要な問いかけを含んだプロジェクトだ。そのなかで、「そのものがあることで他の何かが関連していく」という平田氏の持論は思慮深く活かされている。

 「箱として閉じられてしまった仮設住宅には、"からまりしろ"がありませんでした。現地で印象的だったのは、仮設住宅の庇に干し柿が下げられた風景です。外部と関係する環境を人々がつくろうとしていることを感じました」(平田氏)

 同時に、非日常的な状態においては、建築物の投入が必ずしも「からまりしろ」になるのではないということも実感したという。「様々なものが矛盾しながらも共存する状況です。整理された考えの導入は、リアルな状況から離れてしまう。既に存在する状況を増幅することでも、何かが生まれていくのではないかと」。その場にあるものが関連しあう状況をつくる手法は、ひとつに限らない。

 今秋にはロンドンの建築財団を会場に、個展「Akihisa Hirata: Tangling」も始まる(9月18日〜11月17日)。状況を分割することや、個々の建築や場で環境や状況を完結させるのではなく、周囲と相互に関連できることで真にエコロジカルな環境が生まれるのだという発想が、私たちが暮らし、集う場をつくるうえで、いま大きな注目を集めている。

平田晃久建築設計事務所
http://www.hao.nu/

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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