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連載コラム

建築事務所が運営するサウナ。ヘルシンキ「クルットゥーリサウナ」、今春完成

[ 2013年3月4日 ]

 フィンランド、ヘルシンキを拠点とする建築事務所が進めるサウナ施設が3月末、竣工する。一般向けに運営されるパブリック・サウナ(公衆サウナ施設)。今後は建築事務所自ら運営を行っていく。現代の都市におけるサウナの可能性を探る試みとしても、実に興味深いプロジェクトだ。

写真12月の様子。雪のなかで進む工事の最終段階。
©NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

写真2

写真3プロジェクトは2010年の土地探しから始まった。
©NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

 昨年2月の「ワールド・デザイン・キャピタル ヘルシンキ2012」記事でも触れた「Kulttuurisauna(クルットゥーリサウナ)」。プロジェクトを進めてきたのはトゥオマス・トイヴォネン氏(建築家)とツボイ・ネネ氏(アーティスト、デザイナー)による建築事務所「NOW」。場所はハカニエミマーケットから徒歩5分ほど。マリーナと高層住宅が並ぶメリハカ地区の一角というすばらしいロケーションだ。

写真4筆者が訪ねた昨年9月の様子。
クルットゥーリサウナはマリーナに続くハカニエメンランタ公園の東端に位置する。
Photo: Noriko Kawakami

写真5奥に建設中のサウナ。隣接するのは1970年代に開発された住宅地。
近くに若者たちが多く住み始めている地区も。
Photo: Noriko Kawakami

写真15 エントランスの柱にはフィンランド湖水地方の松が。
Photo: Noriko Kawakami

 彼らのサウナ計画は3年前、「人々が集まる場所を自分たちの手でつくる」との考えから始まった。サウナ施設に決定した経緯にはいくつもの理由があったという。まずは、ヘルシンキ市内で公衆サウナの人気が高まっている状況。ヘルシンキには現在、市が1920年代から運営するサウナの他、民関経営の3軒の公衆サウナがあるが、サウナを楽しむ若者が増加しているのだ。

 集合住宅に共同サウナが設けられ、都市型集合住宅の各戸にもサウナが設置されるに従い、公衆サウナの施設は減少してきた経緯があるが、今日のサウナ人気の理由はどこにあるのだろうか。

 若者たちが住む市街地の賃貸アパートは1960年代、70年代に建てられたサウナなしのものが多く、市内の公衆サウナが用いられる。しかし、それだけでなく、「交流の場」としての魅力が見直されているのだ。SNSが広まり、友人、知人と瞬時にやりとりできる時代を迎えたが、一方で(だからこそ)、直に対話のできる交流の空間が求められていることがうかがえる。

写真6トイヴォネン氏(左)とツボイ氏。
トイヴォネン氏は10年前、「家でも学校でも仕事場でもない」シェアスペースを計画、運営したことがある。
市の中心部で会員500名を超える人気のスペースだった。Photo: Noriko Kawakami

 そのうえで本プロジェクトは、建築家とデザイナーによる「文化的なサウナのあり方を探る」試みとなる。二人の想いが込められているのがサウナ名。「クルットゥーリサウナ」とは、フィンランドを代表する建築家、アルヴァ・アアルト(1898〜1976年)が1925年にユバスキュラの地方紙「Keskisuomalainen(ケスキスオマライネン)」に寄稿した文章に由来している。

 クルットゥーリとはフィランド語で「文化」の意味。アアルトは「フィンランドはサウナ発祥の地であり、サウナはフィンランドにとって固有の文化的な現象」と記すと同時に、「古くさい"半文明的な(half civilized)"サウナではなく、ナショナルモニュメントとしてのクルットゥーリ(文化)サウナを建てよう」と提案していたのである。

 「アアルトが20代の時の提案でしたが、その2年後に大規模コンペに優勝してトゥルクに事務所を移転し、多忙を極めていくと同時に、いつしか忘れられた提案となってしまった。若き日のアアルトの意思を継ぎ、人々が時間と空間をシェアできるパブリックスペースとしてのサウナを実現したいと考えました」(トイヴォネン氏、ツボイ氏)。

写真7昨年9月、完成を心待ちにする近所の人々がトイヴォネン氏に話しかけていた。

写真8マリーナの向かい側にある高層住宅。Photo: Noriko Kawakami

 トイヴォネン氏とツボイ氏の自主プロジェクトが公衆サウナ施設となったのには、さらに理由があった。

 「図書館には本、美術館には作品が必要ですが、サウナは設備があれば機能します」。またトイヴォネン氏は2010年、フィンランド環境省の「ERA17」(エネルギー、スマートな建築環境の実現を目指す行動計画)に参加した専門家の一人。クリエイティブ・サステイナビリティに関してアアルト大学の修士コースで教鞭をとる彼にとって、サウナは環境、エネルギーを考察できる具体的な場。「サウナという文化そのものを進化できるプロジェクト」なのである。

コージェネレーション発電の試み

 このためのサウナストーブは1920年代の伝統的な形状をカスタマイズしたものだ。「キウアス」と呼ばれるこのストーブの熱源は木質ペレット。ペレットを燃やしてサウナストーブを熱すると同時に、熱回収方式の循環システムで煙突内の水を温水にし、熱を床下暖房や給水として使う方法がとられる。フィンランドの地方都市で取り入れられているコージェネレーション発電の方法でもある。

 屋上の一部には太陽光パネルが設置され、可能な限り太陽光パネルによる電力が使用されていく。発生する熱や海洋温度差を利用した冷暖房も行われるなど、再生可能エネルギーのみの使用に徹底してこだわられている。

写真9工事の記録写真より屋上部分。土が盛られ、植物が植えられる。
建物の壁は軽量コンクリートAAC。
海に面する外壁にはレンガが組み合わせられる。
Photo: NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

 「使用する熱は自分たちでつくるという考え」と二人。「環境面での負荷の軽減はもちろん、薪より効率の良い木製ペレットを使うことで長期的な費用効率も考えました。木製ペレットは市街地で煙を抑えるうえでも最適な素材です」

 「また、フィンランドでは電力会社と契約する際に、石炭、天然ガス、石油、水力、原子力等の発電方法からどのタイプの電力を購入するかを選択できますが、我々は水力発電を選択しました。エネルギー技術の開発においては、民間の電力会社フォルトムと提携しています」

写真10完成に向けて進む工事の様子。
海に面するコートヤードには、この地にあった白樺がそのまま残されている。
© NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

写真11海側(写真手前)から見たサウナ。横長のガラス窓がサウナルーム部分。
© NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

写真16サウナルーム(2月段階)。
© NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

写真17サウナルームから目にできるメリハカの海。
Photo: Noriko Kawakami

地域への貢献はもちろん、学びの場としても

 「できる限りの知識とアイデアを具現化していきたい」という二人の考えは、運営面においてもユニークなものとなる。というのも、日常的に集う地域の人々の交流の場となることはもちろん、ある目的のために人々が集まる場としてのサウナを育てる計画が立てられているからだ。その活動に活かされるのが「カビネット」と呼ばれる小空間だ。

写真12手前にサウナルーム、その右側の部屋が「カビネット」。
サウナ施設の延床面積は280㎡。
土地の所有者であるヘルシンキ市と数十年の賃貸契約を交わした長期プロジェクト。
Photo: NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

 サウナ完成に先駆け、カビネットではすでに複数の講義がなされている。カナダのカールトン大学建築学部の学生の研修の場となっていたり、トイヴォネン氏が教鞭をとるアアルト大学の講義が最終段階を迎えた施工現場の傍らで行われていたりする。春以降には建築やアーバニズムをテーマに、国外建築家も招いたレクチャーが予定されている。

写真13カビネットではすでにロシアの建築家アレクサンドル・ブロツキー氏(写真)や
ブリュッセルの建築家ダヴィッド・ファン・セヴェレン氏を招いてのセッションが行われた。
パワーポイントなどの画像投影をあえて行わずに、学生との対話を重視したレクチャー様式。
Photo: NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

 「大学構内やミュージアムなどでの講義とは異なり、小さなスペースで対話を行うセッション形式は親密で内容の濃いものになるという実感をすでに得ています。昔はこのように集まる小さな場が街のあちこちにあり、新たな交流が生まれていたのだと思います」

 「歴史に刻まれたものでは1968年、フィンランドの建築家たちの企画で、バックミンスター・フラーを始め世界的なクリエイターをヘルシンキに招いたことがありました。その時のように、このサウナがあったからこそ始まった......という機会を生む場になればと考えています」

 建築家とデザイナーが計画し、自らの費用でつくりあげた場。クルットゥーリサウナは、自国の文化(サウナ)を発展させるようにして現代に活かす試みや、エネルギーや環境の問題に正面から向き合うことなど、多くの示唆に富む。
さらには、建築事務所の運営によって、学びの場となり、交流の場となっていく独自性。海を一望できるサウナでくつろぐ時間はもちろん、「サウナを楽しみながらレクチャーやイベントに参加できる」場としても注目を集めるに違いない。

写真14最新の状況。凍った海の上からコートヤードを撮影。
Photo: NOW/Tuomas Toivonen,Nene Tsuboi

「クルットゥーリサウナ」
http://www.kulttuurisauna.fi

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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