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連載コラム

住民の精神に調和し、交流を生む公園。コペンハーゲン「スーパーキーレン」

[ 2013年10月8日 ]

 デンマークのコペンハーゲン市内に2012年6月に完成した、ユニークな公園がある。その名は「Superkilen(スーパーキーレン)」。市内中心部から北に伸びるノアブロゲーテ通りとテインスヴァイ通りの間となるNørrebro(ノアブロ)地区に位置し、広さは約3万㎡にも及ぶ。

 ノアブロゲーテ通りから公園に入るとすぐ「牛乳大王」と漢字が記された看板が目にできる。すぐそばにはロシア語のネオンサイン。そして地面を覆う一面の赤......。「北欧の公園」と聞いて一般的に思い浮べられるイメージとは全く異なる光景だろう。

スーパーキーレンのロケーション。タテに長く伸びている。Photos: Iwan Baanスーパーキーレンのロケーション。タテに長く伸びている。
Photos: Iwan Baan

 他ではなかなかお目にかかれないこの公園を手がけたのは、デンマークを代表する建築事務所 Bjarke Ingels Group(ビャルケ・インゲルス・グループ/BIG)とデンマークのアーティスト集団のSuperflex(スーパーフレックス)、ベルリンのランドスケープデザイン事務所、Topotek 1(トポッテック1)だ。

 1974年生まれのビャルケ・インゲルスが率いるBIGは、上海万博のデンマーク館の設計を手がけるなど、世界的に活躍中の建築事務所。スーパーフレックスもアート界の大御所である(メンバーはRasmus Nielsen, Jakob Fenger, Bjørnstjerne Christianse)。ヴェネチア・ビエンナーレを始めとする国際美術展への出展など、彼らの活動は注目を集めている。

 公園計画のそもそものはじまりは、ノアブロ地区の特色と課題にあった。家賃の安い集合住宅が建ち並ぶ同地区には、国外から移ってきた労働者が多く暮らす。留学生も多く、住民の出身国は50を超えるというが、住民間の交流は限られ、習慣の違いなどから、住民同士の争いごとが日常茶飯事となっていた。犯罪もおこっていた。

 対策に乗り出したコペンハーゲン市はノアブロの駅に隣接するデンマーク国鉄の車庫跡地を公園につくりかえる計画を立て、2007年にコンペを実施。その結果、前述した3組の恊働案が選出された。

レッドゾーン。自転車道が中央に伸びる。この先に(道路をはさみ左上)ブラックゾーン。Photo: Superflexレッドゾーン。自転車道が中央に伸びる。この先に(道路をはさみ左上)ブラックゾーン。
Photo: Superflex

 タテに長い公園は、赤、黒、緑の3色のゾーンに大きく分けられている。

 赤のゾーンは「レッドスクエア」と呼ばれる。「ノアブロホール」という屋内スポーツ施設が以前からあることから、「スポーツ」がテーマ。スポーツを行うことで住民同士のコミュニケーションをはかり、問題を解決していくとの考えだ。

レッドゾーン。右側にスポーツ施設。「牛乳王国」は台湾のネオンサインだそう。様々なイベントはレッドゾーンで行われている。Photo: Torben Eskerodレッドゾーン。右側にスポーツ施設。
「牛乳王国」は台湾のネオンサインだそう。様々なイベントはレッドゾーンで行われている。
Photo: Torben Eskerod

オランダの自転車スタンド。他にも様々なスタンドが用意されている。Photo: Torben Eskerodオランダの自転車スタンド。他にも様々なスタンドが用意されている。
Photo: Torben Eskerod

インドの遊具。Photo: Torben Eskerod インドの遊具。
Photo: Torben Eskerod

 「ブラックマーケット」と呼ばれるブラックゾーンは、家族連れや子どもを持つ親同士の交流が目的。地面には運動場のトラックさながらに白いラインが引かれている。道路との区別を行う機能を備えてのことだ。

ブラックゾーンをレッドゾーン側から見たところ。周囲を一望できる環境として、争いや犯罪を防ぐ。Photo: Iwan Baanブラックゾーンをレッドゾーン側から見たところ。周囲を一望できる環境として、争いや犯罪を防ぐ。
Photo: Iwan Baan

 レッドゾーンから入って最も奥となる部分がグリーンゾーン(「グリーンパーク」)。ここでも犯罪を防ぐために樹木の茂みをあえて廃し、見通しの良い公園となることが重視された。すぐそばに幼稚園があることもあり、ベンチやハンモックなども置かれている。ランチを食べるためのコーヒーテーブルも置かれ、住民の庭として機能し始めている。

 マスタープランをふまえ、建築事務所BIGと全体のコンセプトを詰めたのはスーパーフレックス。スーパーフレックスの活動に詳しいストックホルム在住のアートキュレーター、横山いくこ氏は次のように語る。

 「彼らはノアブロ地区の住民にヒアリングをすることから始めています。とはいっても皆が簡単に協力してくれるわけではないので、地域の新聞に広告を出したり、学校に出向いたり、ダンスを楽しむために老人が集まる公民館に行くなどして、住民それぞれの出身国の『記憶』を聞き出しました。こうしてタイボクシングのリング、日本の公園にあるタコの滑り台......という具合に一人ひとりの記憶が集められたのです」

スポーツがテーマのレッドゾーンには市営の屋外スポーツ施設としてタイボクシングのリングも。Photo: Iwan Baanスポーツがテーマのレッドゾーンには市営の屋外スポーツ施設としてタイボクシングのリングも。
Photo: Iwan Baan

現地に掲示されていた各ゾーンに点在する遊具やパブリックファニチャーの情報。スーパーフレックスのホームページでも詳細が紹介されている。配置はランドスケープデザイン専門を専門とするトポテック1と進められた。 Photo: Noriko Kawakami現地に掲示されていた各ゾーンに点在する遊具やパブリックファニチャーの情報。
スーパーフレックスのホームページでも詳細が紹介されている。
配置はランドスケープデザインを専門とするトポテック1と進められた。
Photo: Noriko Kawakami

 スロベニアやチュニジアのベンチ、オーストラリアのハンモック、エジプト カイロの車止め、アフガニスタンのブランコ、アルゼンチンのバーベキューグリル、ジャマイカのサウンドシステム、イギリスのゴミ箱、タンザニアのマンホール......等々、配されたのは、57カ国からの108種類。照明も住民ヒアリングをふまえた海外からのものだ。

 今やインターネットショッピングで海外の品々が手に入る時代。「パブリックスペースでさえもネット社会の現状を活かしてつくれるのではないか」とスーパーフレックスは考えた。インターネットを駆使し、海外で製造されている公共物を購入されていることも、本プロジェクトの重要なポイントの一つとなっている。

 各国にある品々と同じ大きさで制作されたものもあり、タコの滑り台は日本から職人を招いて制作されている。この公園のなかでも特に人気の高い遊具になっているという。

ブラックゾーンに置かれた滑り台。東京都足立区の北鹿浜公園にある赤いタコの滑り台と同じものを日本の職人が現地で仕上げ、黒に。Photo: Iwan Baanブラックゾーンに置かれた滑り台。
都内、北鹿浜公園にある赤いタコの滑り台と同様のものを日本の職人が現地で仕上げ、黒に。
Photo: Iwan Baan

モロッコからの星形噴水、右奥にある白い月形のベンチはドイツから。Photo: Torben Eskerodモロッコからの星形噴水、右奥にある白い月形のベンチはドイツから。
Photo: Torben Eskerod

 スーパーフレックスは数名の住民と、彼らの祖国にまで足を運んでいる。一つがパレスチナ。祖国に一時帰国できた人々は、記念に少量の土を持ち帰ってくるのだという。その習慣を象徴するべく、スーパーキーレン内にはパレスチナから運搬した土を一部とする「丘」もつくられている。

 デンマークのこれまでの公園のあり方をただなぞるのではなく、現在のコペンハーゲンを構成する人々そのものに焦点をあてているのが、この公園の大きな特色なのだ。再び、横山氏のことばを引用しておこう。

 「私の暮らすストックホルムの都市開発を例に挙げると、既存の街並みとの調和を崩さないためのマニュアルが細かく用意されており、複数の建築事務所が関わった地区でも、建物はどれも似たものとなってきます。 コペンハーゲンでは、他の地区でも自由な外観の建築物が誕生しています。市の考えが柔軟なのでしょう」

 「なかでもスーパーキーレンは周辺の街並とはまったく異なります。周囲の環境と視覚的に調和する公園とは違いますが、重要なのは、今この地区に暮らす『人々の精神』そのものに調和しているということなのです。そのうえで、透明な状況として多くの人々に活用される場となれば、この地区が危険ではないことがさらに伝わっていく。すばらしいプロジェクトだと思います」

グリーンゾーン(「グリーンパーク」)。茂みはつくらない。Photo: Iwan Baanグリーンゾーン(「グリーンパーク」)。茂みはつくらない。
Photo: Iwan Baan

グリーンゾーンに置かれたアルメニアのコーヒーテーブル(残念ながら公園周辺の治安はまだ完全に改善されてはいないため、夜間の一人歩きはできるだけ避けたほうがよい)。Photo: Mike Magnussenグリーンゾーンに置かれたアルメニアのコーヒーテーブル
(他都市の公園と同様、夜間の一人歩きはできるだけ避けたほうがよい)。
Photo: Mike Magnussen

 BIGもスーパーフレックスも土地の背景を理解し、暮らす人々を巻き込んだ公園を目ざした。人々が活用する公園を実現し、オープンな場を実現することで市民の交流をはかり、地域の課題の解決に向かおうとするものだ。

 「住民の出身国の多さを考えると、昔からデンマークの公園に置かれてきたフェンスなどに懐かしさや愛着を感じる人は一部となるでしょう」(横山氏)。まさにそれが現実といえる。

 「ただし公共の施設で用いる遊具や道具は予め選択肢が限られているので、市の関係者に納得してもらうことが不可欠となります。時間はかかったようですが、結果として市当局もスーパーキーレンの企画を納得しています。またこの試みが、郊外ではなく市内で実施されたことも注目すべきだと思います」

 公共の場のつくり方に決まりきった解答はない。最も大切なのは暮らす人に寄り添うことであり、人々がいかに「安心」して利用できる場となるかどうかだろう。心理面への影響を考慮することなく、パブリックデザインを行うことはできない。住民の文化、さらには一人ひとりの精神を支える場となることを目的に掲げることで安心や安全を実現するべく試みられたスーパーキーレンから、多くを学びたい。

本公園はAIA(アメリカ建築家協会)による昨年度の建築プロジェクトベスト21に選出され、ドイツの国際的なデザインアワード、レッド・ドット・デザイン賞の「Best of the Best」にも輝く。欧州連合による2013年のEU現代最優秀建築賞(ミース・ファン・デル・ローエ賞)ではファイナリストに。Photo: Noriko Kawakami本公園はAIA(アメリカ建築家協会)による昨年度の建築プロジェクトベスト21に選出され、
ドイツの国際的なデザインアワード、レッド・ドット・デザイン賞の「Best of the Best」にも輝く。
欧州連合による2013年のEU現代最優秀建築賞(ミース・ファン・デル・ローエ賞)ではファイナリストに。
Photo: Photo: Noriko Kawakami

取材協力:横山いくこ(Ikko Yokoyama)
Danish Agency for Culture、デンマーク王国大使館

Bjarke Ingels Group(BIG)
http://www.big.dk

Supeflex
http://www.superflex.net

Superkilen

http://superkilen.dk
住所:Noerrebroruten, 2200 Koebenhavn

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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