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連載コラム

育児休暇中の親にも大人気。ストックホルムのジム・クライミング

[ 2013年11月29日 ]

スウェーデン、ストックホルム市内で近年、インドアのクライミング施設が人気だ。

スウェーデンにおけるクライミング協会の設立は1973年。以来今日まで、クライミング人口は増加の一途を辿ってきた。冬になると日照時間も短く、寒さの厳しい北欧のこと、「ジム・クライミング」と呼ばれるインドアでのクライミング需要が高まることは容易に推測されるところだが、最近のジム・クライミング人気にはそれ以外の理由もあるようだ。

「KLÄTTERCENTRET(クレッテルセントレット)」の建物外観。Photo: Hironori Tsukue (他すべて)「KLÄTTERCENTRET(クレッテルセントレット)」の建物外観。
Photo: Hironori Tsukue (他すべて)

ジム・クライミングのエントランス。隣には国立のデザイン大学がある。ジム・クライミングのエントランス。隣には国立のデザイン大学がある。

市内北西部、スウェーデンを代表する通信機器メーカー、エリクソンの工場跡地でもあるテレフォンプラン地区に2010年に開業した「KLÄTTERCENTRET(クレッテルセントレット)」。店長を務めるマッティン・ノードストローム氏によると「ジム・クライミングそのものがスウェーデンで特に注目されるようになったのは2000年頃から」という。

この施設を含め、ジム・クライミングは市内に現在4カ所。この施設を含め、ジム・クライミングは市内に現在4カ所。

「スウェーデンの登山家、ヨーラン・クロップが1996年、酸素ボンベを着けずにエベレスト登頂を果たしました。それもストックホルムから自転車でエベレストに向かい、登頂後に再び自転車でストックホルムに戻ってくるという前例のない計画を実現したのです。この快挙を多数のメディアがとりあげたことから、登山に対する関心が多くの人々に芽生えました」

元倉庫だった建物を有効活用。広々とした施設内。元倉庫だった建物を有効活用。広々とした施設内。

この施設の詳細に触れておこう。倉庫を改装した施設は総面積2000㎡で天井高が15mもある。まずはストックホルム市内北部のSolna(ソルナ)地区に2003年に開業したのだが、利用者数が増加を辿ることから、ソルナ地区の施設はそのままに現在の場所にも開業したのだ。

同店はストックホルムから北に100kmほどに位置するUpprsara(ウプサーラ)にも施設を持つ。3施設合計の会員数は13000人。なかでも人気のテレフォンプラン地区店は会員数が約8000名、1日あたり400名から500名近い利用者がある。

取材に応えてくれた店長のノードストローム氏。取材に応えてくれた店長のノードストローム氏。

「会員は7歳の子どもから82歳まで。全体の7割を占めるのが20歳から40歳で、会社帰りに利用する方も多くいます。また8割の方はアウトドアでのクライミングの経験がなく、ここで初めてクライミングを始めるという状態です。休暇時期である夏は利用者が減り、冬期の利用者がやはり多くなります」

館内で行えるのは、ロープで安全を確保したうえで2人一組で登るリードと、講習不要ですぐにひとりで始められるボルダリングの2種類。ボルダリングは高さ3〜4mで下にマットが敷かれている。館内の320㎡がボルダリングのコーナーとなっている。





平日も初心者から上級者まで、幅広い利用者が訪れる。平日も初心者から上級者まで、幅広い利用者が訪れる。

興味深いのは日中の利用者状況だ。育児休暇中の親に人気で、彼らの交流の場となっているのである。彼らはSNSを活用しながら連絡をとっており、来館時間をあわせてやってくる親たちも多い。たとえば3組で来館すれば、順に2人一組でクライミングを楽しみ、その間、他のひとりが子どもたちの面倒を見ることができるというわけだ。



子どもをつれたグループ。子どもをつれたグループ。

「館内の床は柔らかいゴム状なので、子どもたちを遊ばせておくにも最適です。午前中から午後2時、3時までの間は比較的すいていることもあり、子どもが少し離れてしまっても危険ではありません」。常連のひとりが語ってくれた。

平日に来館していた女性3人組は、それぞれ1歳前後の子どもと一緒に朝から昼まで、週に数回、集まっている。3年前に知り合ったという男性2人組は、最初の子どもの育児休暇中にジム・クライミングを始め、引き続き今も子どもと一緒に通っている。「育児休暇クライミング同好会をつくり、フェイスブックで連絡をとっています」



イクメンの交流の場としてもすっかり定着。イクメンの交流の場としてもすっかり定着。

こうした利用者が増えているのには、使いやすい利用料ということもある。安全講習を含む会員登録をすませると(ボルダリングは講習不要)、午前9時から午後7時までの利用料は1回90スウェーデンクローナ(約1300円)、午後5時から10時までの時間帯と週末利用は140スウェーデンクローナ(約2100円)。

月々の引き落としで契約すると(大人は月275スウェーデンクローナ/約4100円、子どもは265スウェーデンクローナ/約4000円)、9時から17時までは利用料なし、それ以外の時間と週末は40スウェーデンクローナ(約600円)のみで利用可能。6歳までの子どもは親と一緒の場合は無料、他に家族入場料金も用意されている。



ランチタイムのサラダバーが用意されたカフェの様子。ランチタイムのサラダバーが用意されたカフェの様子。

カフェでは簡単なサンドイッチも用意され、ランチタイムになればサラダバーが登場。幼い子どもたちと訪れる親たちにとっては、ランチタイムをはさんで情報交換ができる場所としても貴重な施設となっているようだ。サウナが完備されている環境も、交流の場としての根強い人気の理由のようだ。



簡単なジムコーナーやスポーツウエアのショップも。簡単なジムコーナーやスポーツウエアのショップも。

一般的なカフェとは異なり、多数のマシンが並ぶスポーツジムとも異なる施設。公園とも違う。天井が高く広々とした空間では、幼い子どもたちも伸び伸びと数時間を過ごすことができる。育児休暇中の親たちが声をかけあいながら集合するジム・クライミングは、都市に暮らしながら健康的な日々を送りたいという人々の思いにまさに応える場となっている。

取材協力・写真:
机 宏典 (Hironori Tsukue)

KLÄTTERCENTRET
http://www.klattercentret.se/svenska

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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