24デザインミュージアムも含む文化のプラットフォ-ム「DDP」、ソウルに開館
[ 2014.02.27 ]
ソウル・ファッション・ウィークが開幕する3月21日、ソウル市内の東大門(トンデムン)にDDP(Dongaemun Design Plaza)が開館する。ソウルデザイン財団が運営するDDPは、デザイン分野をはじめ、クリエーティブ産業のためのプラットフォームとしての役割を担う大規模施設となる。
ザハ・ハディドの設計は曲面を描く建物。ハディドは日本でも新国立競技場の国際デザインコンクールで優勝した建築家。
Photos: Courtesy of DDP
「デザインの新たな価値を探る立場として、地域の文化と産業を振興する環境をつくっていきます。東大門にはファッションに関する企業が3,000社あり、4万人が働いています。韓国ファッションの中核となる経済力です」。DDP経営団長として、DDPを束ねる鄭國鉉氏は述べる。「こうした地域の特性をふまえ、ファッションに関するプログラムも重要になってきます」
東大門地区のダイナミズムを表現するザハ・ハディド設計の建物。外壁には厚さ4mmのアルミパネルが45,000枚。
うち30,000枚はすべて異なる大きさ、曲面のため高い施工技術が必要とされた。
かつて朝鮮時代の漢陽(ハニャン)都城の城郭があったこの地には、韓国で初となる近代的な野球スタジアムとサッカー場を有する東大門運動場が設けられていた。同運動場の老朽化に伴い、ソウル市は東大門歴史文化公園造成事業の推進を決定、2006年、運動場の移転が決まり、建築デザインコンペが開催された。
建築家のザハ・ハディドがコンペに優勝したのは2007年8月。ハディド設計のDDPの完成に先駆けるかたちで2009年10月には東大門歴史文化公園が完成している。
複数の機能から成る一大施設。次に詳細が掲載されている。
http://ddp.or.kr/guide/floor_main.asp
デザインソウル政策が推進されるなかで完成した東大門歴史文化公園。公園を造成する際に発掘された朝鮮時代の遺物も展示。公園エントランスには東大門運動場記念館も設けられている。ギャラリーなど展示空間も含む。
DDPの施設概要を紹介しよう。敷地面積は62,692m²で、延床面積は86,574m²に及ぶ。大きな軸となっているのは「アートホール」「ミュージアム」「デザインラボ」の3つ。アートホールは2つのホール(2,991m²、1,547m²)と国際会議場(414m²)から成る。
ミュージアムに設けられるのは、デザインミュージアム(1,462m²)やデザイン・エキシビション・ホール(1,216m²)。イマジネーション・ゾーンと名づけられた子ども向けの空間も、1,892m²という広さが確保されている。
デザイン展が開催されるミュージアム。エキシビションホールやカフェもある。
ミュージアムの一環となるイマジネーション・ゾーン。
アートホールは国際会議場や展示会などに対応。今後はソウル・ファッション・ウィークの会場として機能する。
アートホール1(1,500席)、アートホール2(1,000席)、インターナショナル・カンファレンス・ホール(200席)と
用意されている。
なかでもDDPらしい施設が、デザインラボだろう。2フロア、合計約6,000m²に及ぶ2つのラボ空間のほか、ワークショップやデザイン関連の教育的プログラムが行われるアカデミーホール(1,000m²)も備えている。デザインラボは若手デザイナーの発表の場としても活用されていく予定。拠点を構えたデザイナーは販売も行えるなど、ビジネスとして成長し得るための環境が大切にされるようだ。
デザインビジネスの可能性が探られるデザインラボ。
これらミュージアムやホール、デザインラボに前述した東大門歴史文化公園や商業施設の2つをあわせると、DDPでは大きく5つの機能を軸とする活動がなされることになる。ちなみにDDP全体を貫くモットーとして掲げられているのは「Design with People(人々と共にあるデザイン)」だ。
外観ディテール。
3月のDDP開館時にはデザインや建築に関する展覧会が予定されており、その数の多さもまたDDPならではといえるだろう。デザインミュージアムにおける特別展覧会は、韓国デザインの源を探る企画として、澗松(かんそん)美術館のコレクションよりハングル文字の起源となる訓民正音(國寶70号)を始め国宝を含む重要な品々の展示となる。
デザイン・エキシビション・ホールにおいては、「スポーツとデザイン」に焦点をあてた展示が予定されており、アートホールでは、建物の設計を手がけたザハ・ハディドに関する展覧会が開かれる。他の展示空間では、イタリアデザインの巨匠エンツォ・マーリに関する展覧会やデザイン史のうえでも重要なウルム造形大学に関する展覧会なども予定されている。
建物内部の螺旋状の通路。ハディドの空間がどう使われていくのかにも注目が集まる。
夜間の外観風景。
デザインとビジネスの融合もDDPの活動方針として重要な一面。「経済的に自立できる道筋をつくることが重要。そのための方法を探りたい」と鄭氏。「DDP内には自主運営となる商業施設部分も誕生します。繊維関係の問屋などが夜間も活動している地区でもあるので、24時間の運営を予定しています」。ホールや展示空間、会議施設の貸し出しもあわせ、自立的な財政運営を目ざすという。
「デザインは未来を創造する力。そうした創造性を広く示し、発信することによって、地域の文化はもちろん、経済など地域の環境の発展に寄与していける」と鄭氏は強調する。デザインと地域、人々とを結び、人材育成も役割として担いながら、デザインによる経済的な発展も実現していこうとするDDP。多数の展覧会プログラムの企画を始め意欲的な準備が進むDDPの開幕を、各国が注目している。
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- 執筆者:川上典李子
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川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp
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