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連載コラム

岩手県山田町に誕生した放課後児童クラブ「オランダ島ハウス」

[ 2015年2月28日 ]

東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県山田町(やまだまち)に、一般社団法人オランダ島のメンバーが寄贈した子どもたちのための施設がある。その名も「オランダ島ハウス」。オランダと関係の深いこの町の復興を願い、将来を担う子どもたちを思う有志によって計画され、昨年夏に完成したものだ。以来、地元の人々が集う場となっている。

年月を経るほどに美しさを増すレッドシダーの外壁材。施設の広さは196.41m2。総工事費用は約6500万円。Photo: Josh Lieberman年月を経るほどに美しさを増すレッドシダーの外壁材。施設の広さは196.41m2。総工事費用は約6500万円。
Photo: Josh Lieberman

プロジェクトは東日本大震災直後に始まった。在日オランダ商工会議所のメンバー(DSM ジャパン、ラボバンクネダーランド銀行東京支店、ヴァンダーアーキテクツジャパン、 'Hastex International)、PA International、日蘭協会による復興支援の検討が行われた。

宮古市と釜石市の中間に位置する山田町はオランダとの縁が深い。鎖国時代であった1643年(寛永20年)、オランダ船ブレスケンス号が水や食糧を補給するために山田浦に入港した際に地元の人々の温かいもてなしを受けたことから、現在に至り二国間の市民交流が続けられてきた。山田町はオランダのザイスト市と友好都市となっており、同町のホームページには英語に加えてオランダ語の説明も含まれているほど。山田湾の島のひとつはオランダ島と呼ばれる。

「これまでお世話になっている日本の方々の恩に報いたい」と、前述した企業や団体が震災後の山田町を訪ねたのは2011年4月28日。続いて8月にも山田町を視察し、11月にはオランダ系企業や団体を中心に山田町復興支援を目的とする一般社団法人オランダ島を設立、地元の人々との意見交換をさらに進めていった。

一般社団法人オランダ島の理事を務める原田信氏(農業金融リサーチ事務所代表、元ラボバンクネダーランド銀行東京支店副支店長)に放課後児童クラブを計画した経緯をうかがった。「未来を担う山田町の子どもたちに焦点をあてた支援活動を行う活動方針を立て、さらに現地視察や意見交換を行うなかで、仮設住宅の子どもたちが帰宅後に遊ぶ場所がないこと、仮設住宅は落ち着いて勉強をする環境にないことなどを知りました。完成間近だった山田町船越小学校放課後児童クラブが大津波の被害で全壊してしまい、再建が求められていたことも知ったのです」

放課後児童施設/ケアセンターの建設に関し、沼崎喜一町長(当時)と一般社団法人オランダ島との共同声明に調印がなされたのが2012年3月。2013年1月には高台の建築予定地を決定し、2014年5月、「オランダ島ハウス」の落成、寄贈式典が行われた。7月より山田町によって運営されている。

ロゴを手がけたのはオランダを代表するグラフィックデザイナー、絵本作家のディック・ブルーナ。Photo: van der Architectsロゴを手がけたのはオランダを代表するグラフィックデザイナー、絵本作家のディック・ブルーナ。
Photo: van der Architects

グランドには人工芝。子どもたちのイマジネーションを刺激する灰色と白。存分に遊べるよう衝撃緩和パッドも使用。Photo: Mayumi Kanekoグランドには人工芝。子どもたちのイマジネーションを刺激する灰色と白。存分に遊べるよう衝撃緩和パッドも使用。
Photo: Mayumi Kaneko

「我々のメンバーの一人がオランダ人建築家でもあったので、オランダらしさを活かした施設を完成させて寄贈することを決めました。プロジェクトの立ち上げに始まり、町の人々との話を重ねながら手づくりともいえる特色が溢れる施設になっていると思います。寄贈後は山田町役場によって運営されることとし、使用目的のキーワードが子どもたちであれば、当社団法人では特に干渉しないかたちにしています」と原田氏。

設計を手がけたのは、第一回目の視察から参加するなどプロジェクトの中心人物でもあるMartin van der Linden(マーティン・ヴァン・ダー・リンデン)氏だ。氏はこれまでに建築家 原広司氏のもとで京都駅や梅田スカイビルなどのプロジェクトにも参加、さらにシーザー・ペリ氏の建築事務所の東京オフィスに所属した後、2001年にはヴァンダーアーキテクツジャパンを東京都内に設け、日本を拠点に活動している。

中庭に向かって曲がった建物とすることで、「包まれている安心感」をもたらす。館内には子どもたちが将来ラジオ放送を行える防音壁の部屋や和室も用意されている。中庭に向かって曲がった建物とすることで、「包まれている安心感」をもたらす。
館内には子どもたちが将来ラジオ放送を行える防音壁の部屋や和室も用意されている。

広い窓が特色。ウッドデッキも設けられた。Photo: Josh Lieberman広い窓が特色。ウッドデッキも設けられた。
Photo: Josh Lieberman

メインルーム。オランダの学校で一般的に用いられている床材を使用。Photo: Josh Liebermanメインルーム。オランダの学校で一般的に用いられている床材を使用。
Photo: Josh Lieberman

「オランダと日本の光が異なるように、光はその国その場所固有のもの」と、ヴァン・ダー・リンデン氏はこれまでにも天気や時間帯によって変化する光の効果や、それによってもたらされる室内の表情を探究してきた。オランダ島ハウスでも、「体験を構成するうえで大切なのは光。一日を通して屋内に注がれる自然光の感覚は重要」との持論に基づく設計がなされている。

「子どもたちは放課後の15時から18時までこの施設を使うことになりますが、その間、日ざしは変化しながら建物内部に注ぎ込みます。建物とは既存の環境を向上させるものだと私は考えています。このオランダ島ハウスでは建物内部を日光が駆け巡り、子どもたちが滞在するあいだ静寂をもたらすと同時に彼らの活動の舞台となる。意識的にもしくは無意識のうちにも、この場が子どもたちの幸福につながることを信じています」(ヴァン・ダー・リンデン氏)

さらに、子どもたちのメンタルケアに着目し、精神科医のアドバイスにも耳を傾けたという。「地元出身の精神科医である佐々木清志先生に相談したところ、一般的に考えられていることとは逆に、子ども達は大変明るい色の空間を望んでいることを知りました。よりナチュラルで落ち着いた色を選択することで、子ども達を育む環境を考えています。佐々木先生は図書室の私の案も気に入ってくれました。天井をあえて低くし、子ども達が安全に過ごせ、安心感を持てるようにしています。この効果は子ども達がテーブルの下に潜って遊ぶことに似ています」

四方が木製パネルで囲われた小さな図書室。40cmの入り口を登るようにして中へ。天井には窓が設けられ、光によって空間の表情が変化する。Photo: Josh Lieberman四方が木製パネルで囲われた小さな図書室。40cmの入り口を登るようにして中へ。
天井には窓が設けられ、光によって空間の表情が変化する。
Photo: Josh Lieberman

「山田町の子ども達やその親御さんたちがオランダ島ハウスを長期にわたって使用してくれることを望んでいます。施工は地元の優秀な工務店が行ってくれたので、半永久的に残ることでしょう。今回、オランダ島ハウスに関わることができたのは光栄なことでした。プロジェクトに専念すると同時に、皆さんが熱意をもって関わってくれた過程にも喜びを感じています。関係者全員が100%以上の力を寄せることで完成まで導くことができました」(ヴァン・ダー・リンデン氏)

スチームコンベクション・オーブンも備えられた本格的なキッチン。写真は昨年7月の様子。Photo: Mayumi Kanekoスチームコンベクション・オーブンも備えられた本格的なキッチン。写真は昨年7月の様子。
Photo: Mayumi Kaneko

キッチンと廊下。廊下では半透明のポリカーボネイトごしに柔らかな光が差し込む。Photo: Josh Liebermanキッチンと廊下。廊下では半透明のポリカーボネイトごしに柔らかな光が差し込む。
Photo: Josh Lieberman

山田町では現在、放課後児童クラブに限らず子育て支援のためのプログラムなど、終日的にオンラダ島ハウスを運用している。また昨年11月には、オランダの球根会社等の協賛によってチューリップの球根およそ3000個とパンジーの苗を植える催しも行われた。この春、施設は多くの花々に包まれることだろう。

「我々社団法人は現在、山田町役場から個別の要請があればそのつど検討のうえで側面支援を行うという姿勢をとっていますが、我々のメンバーは子ども好きが多いので、こうしたイベントを始め地元の人々や子どもたちと一緒に楽しめる活動もしたいと思っています」。今までも年に4、5回は山田町を訪ねているという原田氏は語る。

「震災当時の地元の方の言葉がまだ私の耳に残っています。『今は日本全国から支援物資もいただき注目されていますが、3年もすれば被災地は忘れられる存在になるのでしょう。それが怖いです』と。山田町との関係を今後も継続させていきたいと思います。またこの放課後児童施設が、子どもたちがオランダに興味を持つきっかけを提供し、さらには世界にはばたく国際人を生むことになるかもしれないとの期待も持っています」

今日までの市民交流も背景として、2年の対話を重ねながらカスタムメイドで設けられた地元の人々のための施設。山田町におけるオランダのシンボルとなることで、オランダから日本を訪れた人々がこの町を訪れるきっかけも、もたらすことだろう。オランダ島ハウスでは建物の寄贈に留まらず長く継続される関係を築いていくことが丁寧に考えられている。それだけに今後にも注目したい。


放課後児童クラブ/ケアセンター「オランダ島ハウス」
http://oranda-jima.org

ヴァンダーアーキテクツジャパン
http://vanderarchitects.com

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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