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連載コラム

"美"を伝える展覧会会場構成-「U-Tsu-Wa/うつわ」展から-

[ 2009年3月3日 ]

作品に宿る作家の哲学、さらには展覧会に込めた主催者のメッセージをどう込めていくのか。
会場全体の空気を、どうつくっていくのか。光や音、ステージ等のすべてをあわせた空間構成が担う役割は実に大きい。
海外の展覧会関係者と話をしていると、彼らの口から「セノグラフィー」(舞台構成)という言葉がしばしば出る。展覧会はもちろん舞台装置や舞台美術とは異なる手法で構成されていくが、いかなるストーリーで会場全体を構成していくのか、作品を包む時間の質さえも、彼らは常に念頭に置いているからだろう。大切なデザインの視点がそこにはある。

21_21 DESIGN SIGHT(東京)の「U-Tsu-Wa/うつわ」展は、ルーシー・リィー(1902-1995)、ジェニファー・リー(1956-)、エルンスト・ガンペール(1965-)を紹介する展覧会だ。木の作家と陶作家、さらには年齢、生まれた国が異なる彼らの合計約120点の作品を紹介する内容だ。

ルーシー・リィー作品から。写真:岩崎寬(STASH)
ルーシー・リィー作品から。写真:岩崎寬(STASH)

企画ディレクションは三宅一生。未来を考えるにあたり改めて大切な「ものづくりの原点」、さらには自身が体感した「感動のかたち」を伝えたいと、展覧会企画を手がけた。
「土、石、木。自然素材と向き合い、美しい形を削りだしていく仕事は、自分の内面を深く厳しく掘り下げる作業に通じている。とりあげた3作家の宇宙が、そこにはある」と三宅は語る。
会場構成は、安藤忠雄。21_21 DESIGN SIGHTそのものが安藤の設計であるため、自身の建築のなかで、展覧会の空間構成を手がけたかたちだ。「みずみずしい感性が、より直接的に伝わるような空間演出を考えた」と安藤。

建物地下の会場は、大きく2つに分けられた。生木を削ることで生み出されるガンペールの作品と、ルーシー・リィーとジェニファー・リーによる陶芸作品を紹介する空間だ。そして、これらの全体を貫くように、安藤が選択した素材が、「水」であった。

写真:岩崎寬(STASH)
写真:岩崎寬(STASH)

「うつわ」と水の関係は深い。古来人はうつわに水を汲み、うつわ(壷)に水を溜めてきた。さらにここでは、作家の美意識を伝える重要な要素として水が用いられている。
「流れる水という空白を介して、その静と美の狭間で、美しいうつわと対峙する。作品を通じて、作家の心を感じられるような展覧会になればと思う」(安藤)。

「小学生のときに伊勢神宮の五十鈴川を見て、日本の水はなんと美しいのかと感じ入った。日本の水に日本ならではの美意識を強く感じとる経験でもあった。この会場でも、『水』の美しさを、自分なりの方法で示そうと試みた」。展覧会会場で先日行われたギャラリートークの際に、安藤本人が述べていた言葉だ。

水上に十字架が浮かぶように目にできる「水の教会」を始め、水上に建物が浮かぶようなフォートワース現代美術館など、水盤越しに目にできる建物を多数手がけている安藤。現在はイタリアのヴェネツィアで、ピノー現代美術館(パラッツォ・グラッシ再生計画)に続き、歴史的建造物、Punta della Dogana(海の税関)を改築した美術館計画も進行中だ(6月完成予定)。彼にとって「水」とは、身近な表現素材であり、また、大きな意味を持っている。

会場内の水盤は全長約22メートル。28,000個のガラス瓶がぎっしりと並べられており、その瓶上部を覆うかたちで水が満たされている。水盤の水はステージ左右から湧き出るように循環しており、それによって水面が静かなゆらぎを見せる。
こうした「舞台」上に透明アクリルの台座が点在され、ルーシー・リィー、ジェニファー・リーの作品が配されているのだ。舞台奥にはダイナミックな「滝」。「『水』の存在を、音によっても伝えたかった」と安藤は言う。

約443 ㎡の空間。水盤の左手に滝。右手に建物開口部。屋外にサンクンコートがある。
約443 ㎡の空間。水盤の左手に滝。右手に建物開口部。屋外にサンクンコートがある。

写真4 写真5
開口部から屋外が見える。安藤の案で、サンクンコートに土が運ばれ、麦が植えられた。
人が古来うつわに盛ってきたものには、水の他に麦(糧)があるとの考えから。写真:筆者

今回の「水」は、ドイツ生まれの木の作家、エルンスト・ガンペールの展示空間では異なる姿で表現されている。こちらは敷き詰められた透明のガラスカレットだ。天井からの光に照らされてきらめくガラスはきらめく水面の様子を私たちに想い起こさせる。同時にそれは、星々のきらめきのようだ。

ガラスカレットを用いたエルンスト・ガンペールの展示。約133 ㎡の空間。写真:岩崎寬(STASH)
ガラスカレットを用いたエルンスト・ガンペールの展示。約133 ㎡の空間。写真:岩崎寬(STASH)

実は安藤はこの会場で、水に加えてもうひとつの趣向を凝らしている。ルーシー・リィー、ジェニファー・リー、エルンスト・ガンペール、それぞれの「星座」とその時期の天空の星の配列を作品配置に生かしているのだ。水だけでなく宇宙の広がりさえも、会場の構成要素として取り込んだ。

3人の作家の美意識から醸しだされる空気感を伝えるべく試みられた会場構成は、展覧会空間の常識をひとつひとつ覆すかのごとく思考された結果でもある。そして、こうして完成した会場を、出展作家であるガンペールとリーが堪能していたことも付け加えておこう。
「うつわが水に映ってゆらぐ光景が本当に美しい。水盤の前で中腰になって、そのリフレクションをぜひ見てほしい」とジェニファー・リーは言う。
「私は大地や自然の光景の一瞬を取り出すような気持ちで制作に向かっている。それは、風化していったり錆び付いていったりする素材の一瞬を取り出すようなもの。そうした私の興味、自然の光景や時の流れと自分の作品との関係性を、この会場は読み取ってくれた」(リー)。

透明の展示台により、うつわが浮いているように見える。ジェニファー・リー作品。写真:岩崎寬(STASH)
透明の展示台により、うつわが浮いているように見える。ジェニファー・リー作品。写真:岩崎寬(STASH)

作品はもちろんのこと、作品をうみだした人びとの世界観をいかに凝縮し、伝えるのか。
展覧会とは作家の世界観を来場者に伝え、さらには来場者の感覚を呼び起こす場の創出ともなるが、そうした会場表現の可能性が様々にあるのだということを、「U-Tsu-Wa/うつわ」展における安藤忠雄の試みは示唆している。

「U-Tsu-Wa/うつわ」展

http://www.2121designsight.jp/utsuwa_about.html

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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