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連載コラム

特色ある建物で活動開始。ホロン・デザインミュージアム

[ 2011年1月5日 ]

ホロン市文化計画のハイライト

2010年2月、イスラエル、テルアビブ近郊のホロン市にデザイン専門のミュージアムとしてDesign Museum Holon(ホロン・デザインミュージアム)がオープンした。同ミュージアムのクリエイティブディレクター、Garit Gaon(ガリット・ガオン)氏に話を聞いた。

「まずはホロン市に特色があります。14年前に就任した市長、Motti Sasson(モッティ・サッソン)氏が文化、教育に大変に熱心で、彼の右腕であるマネージングディレクター、Hana Hertsman(ハナ・ヘルツマン)氏も多大な情熱で文化事業に取り組んでいます。国内でも文化事業が占める予算が非常に高く、市の予算に基づく都市計画によって、10年間に8つのミュージアムが開館しました。さらに次のミュージアム計画も進んでいるところです。」

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ホロン・デザインミュージアム。計画に1年、施工に4年が費やされた。地中海湾岸都市となるホロン市。
燦々と照り注ぐ太陽のなか、独自の外観が存在感を強く示す。
Photo: Yael Pincus,Courtesy of Design Museum Holon

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地上、階段部分は、屋外レセプションの際に椅子代わりに用いられることも。
建物の特色が様々に活用されている。
Photo: Yael Pincus,Courtesy of Design Museum Holon

ガオン氏自身、2007年末に開館したマンガ・コミック・ミュージアムの館長兼チーフキュレーターも務める。地域一帯が文化振興に力を注ぎ、活況を呈している。ホロン・デザインミュージアムの現段階の活動は企画展を中心としているが、他のミュージアムと同様、市のコレクションとしてアーカイブを進める計画もたてられている。

ここで建物そのものに目を向けてみよう。遡ること5年前、市が建築設計を依頼したのは、テルアビブに生まれ、現在はロンドンを拠点として世界的に活躍する建築家のRon Arad(ロン・アラッド)氏。彼のデザインの特色である曲線はここでも例外でなく、リボンのように大胆にカーブするコールテン鋼が目をひく。強烈なアイコンだ。

コールテン鋼はイタリア、ベルガモから船で運ばれ、やはりイタリアから現地入りした一名の担当技術者によって4年の月日を費やし、組み立てられた。全体がくみ上げられた段階で錆止めのオイルが施されているが、その過程、自然に酸化することでもたらされた素材表面の微妙な色彩の違いも特色となっている。コールテン鋼は全長で約3km。ロン・アラッドの設計による大規模建築としても重要なプロジェクトとなった。

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全体が巨大彫刻物のようなミュージアム。
Photo: Yael Pincus, Courtesy of Design Museum Holon

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ホロンの日差しは強い。建物外観、コールテン鋼のリボンがもたらす光と影のみならず、建物全体として光と影の対比に特色が。
Photo: Yael Pincus, Courtesy of Design Museum Holon

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ガオン氏。同美術館クリエイティブディレクター。イスラエル美術館デザイン部門のキュレーターを長年務めた父のもとで育つ。
工業デザイン、美術館学を学んだ後、キュレーションだけでなく教育の現場にも携わる。
1994年にイスラエル初のデザインギャラリーも設立。
「ミュージアムを支えるのは愛や情熱」が持論。Photo: Yossi Zveker, Courtesy of Design Museum Holon

自然光を活かした展示空間

ミュージアムは地下1階建て、地上2階建て。2つの主要展示空間があり、広さはそれぞれ250㎡と500㎡である。

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地上階部分。一段低い左部分(地下)が250㎡の展示空間。柱のない空間。

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2階部分。右に500㎡の展示空間。構造で工夫を凝らすことでこちらも柱のない空間に。

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展示空間。Photo: Yael Pincus, Courtesy of Design Museum Holon

アラッド氏が手がけた建物の特色は、外観の曲線に留まらない。250㎡の展示空間では一般の美術館と同様に照明器具が用いられているが、500㎡の空間では天井から差し込む自然光が活かされている。そしてアラッド氏は、採光においても独自のしくみを試みていた。

自然光は天井に設けられたストライプ状の開口部から差し込む。と同時に、紫外線対策が実に巧みになされているのだ。美術館関係者が「ギター(guitar)」と呼ぶその構造は「R」状の構造体を2つ組み合わせたもの。自然光がそれらを屈折して進む過程で、紫外線がカットされる。自然光を活かしながらもデリケートな作品の展示が可能な展示空間が実現された。

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ギター構造を通して自然光が空間を包む。© Ron Arad Associate

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上部に「ギター」と呼ばれるR状の構造体。向きの調整によって採光を調整。© Ron Arad Associate

光の状態で空間の雰囲気が変わるのもホロン・デザインミュージアムの特色である。「日光が特に強い夏には変化をあまり感じないかもしれないが、たとえば秋、空に雲が通ったりすると、光の変化が展示空間でも感じられる」とガオン氏。照明を用いる夜間は趣がまた大きく異なる。

開館から今日まで展覧会に繰り返し足を運ぶ人が多いと聞いたが、展覧会内容はもちろん、空間そのものがもたらす様々な魅力によるところもあるのだろう。ちなみに500㎡の展示空間における自然光は、100%から15%まで調光することができる。

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「SENSEWARE(センスウェア)」展。
日本の先端繊維を建築家やデザイナー、企業など17組の表現を通して紹介。
ミラノサローネで開催された同展をガオン氏が高く評価、ホロンでも開催されることに。
SENSEWARE展の詳細はhttp://www.tokyofiber.com/ja/

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同展ディレクションは原研哉氏(日本デザインセンター)。
写真(本展他写真も):日本デザインセンター 原デザイン研究所

"人と人をつなぐ場"として

イスラエルにおけるデザインの展示施設としては、40年程前から機能しているイスラエル博物館(エルサレム)や10年程前から機能しているテルアビブ美術館のデザインのセクションがあるが、デザインミュージアムとしては、ホロン・デザインミュージアムが国内初の施設となる。

これまでに行われた展覧会は3つ。施設のこけらおとしともなったのは、現代社会の現状を分析の上で100点以上のデザインを選定した「The Stage of Things」(2010年3/4〜5/22)。日本の先端繊維を17組の出展者の作品を通して紹介した「SENSEAWARE」(2010年6/25〜9/4)も多数の来場者を記録した。現在は「Mechanical Couture」(2010年10/14〜2011年1/8)が開催中である。

すでに毎回のプログラムが世界から注目されているホロン・デザインミュージアム。イスラエル初のデザインミュージアムは、どのような効果をもたらし始めているのだろうか。「開館一年目の現段階は建物に慣れる時期でもあり、成果についての分析はまだ早いと思うが......」と述べた上でガオン氏は、今後の計画について、こう語ってくれた。

「建築そのものの魅力もあって、人々の心を刺激する場となっていると思います。また、来場者のデザインに対する興味をそそり、考えさせる空間として、教育的な場として機能し始めています。イスラエルでも昨今、デザインについて語られる機会が増えてきましたが、例えば、人々がスーパーでボトルを見たときにデザインを意識するようになれば、嬉しい」

同館では、今後、デザインカンファレンスの開催や教育現場との連動など、デザインセンターとして機能していくことも計画のひとつに挙げている。

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「Senseware」展から。

「新たな考えに触れられるのがミュージアムですから、その場での経験を持ち帰ってほしい。......忘れてならないことは、ミュージアムは物のための場であるよりもまず、人のための場であるのだということ。来場者にインスピレーションをもたらすことのできる場でなければなりません」。デザインミュージアムに限らず、広く展示の場に重要な考え方としても興味深い。

「人々に問いかけ、刺激を与え、考えるきっかけをつくる。そのためにも楽しい場であること」。「人と人をつなぐ場としてのミュージアムを」ともガオン氏は強調する。また今後、他に類を見ない建物の、ユニークな空間を活かした企画も期待できる。デザインミュージアムの重要な役割を果たすべく活動を始めたホロン・デザインミュージアムに、引き続き目を向けたい。

Design Museum Holon
http://www.dmh.org.il/default.aspx

川上典李子


World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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