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連載コラム

会場で体感する各社の精神。ミラノサローネ2011(2)

[ 2011年6月2日 ]

エルメス「ホーム・コレクション」は坂茂氏設計の"家"で

前回に続き、ミラノ国際家具見本市(「ミラノサローネ」)から、展示会場の様子を紹介したい。

昨年、パリを皮切りに家具とファブリックの本格的なホーム・コレクションを始動させたエルメスは、第二弾コレクションの発表の場に、かつて競技場だったミラノ市内の建物、「La Perota」(ペロータ)を選んだ。

同社がかねてよりつくる折りたたみ家具の「ピッパ・コレクション」や第一弾の「ジャン=ミッシェル・フランク」コレクション、ファブリックなどに、今回初披露となる第二弾コレクションの品々が一堂に会する機会。それも世界最大の家具・デザインの見本市、ミラノサローネとなるだけに、人々の注目が集まった会場である。

会場には異なる4種の直径の紙筒からなる一軒の家。前述したコレクションの他、第二弾コレクションであるEnzo Mari(エンツォ・マーリ)氏デザインの書斎とダイニング用の家具や、Antonio Citterio(アントニオ・チッテリオ)氏デザインのリビングルーム用の家具、Denis Montel(ドゥニ・モンテル)氏(RDAI)とÉric Benqué (エリック・バンケ)氏デザインの椅子などが並ぶ。

写真エルメスのパビリオンは「家(メゾン)」。会場構成には建築家の坂茂氏とフランス人建築家、
Jean De Gastines(ジャン・ドゥ・ガスティーヌ)氏が協働。Photos of the Pavilion Hermès at La Pelota, Via Palermo 10, Milan, Photo: Santi Caleca, ©Hermès, 2011

写真「家」の入り口から。リビング-ダイニング・ルームが続く。
居間、書斎、ベッド・ルームの他、パティオ、パッサージュも。 Photo: Santi Caleca, ©Hermès, 2011

同社のジェネラル・アーティスティック・ディレクター、Pierre-Alexis Dumas(ピエール=アレクシィ・デュマ)氏は述べる。「何かにつけスピードが求められる現代の風潮に逆らうようですが、エルメスのホーム・コレクションは長く使っていただけるよう、時間をかけてつくられています。家という空間に心地よさ、控え目なエレガンス、そして生命力をもたらすために」。

吟味された素材を丹念な作業で仕上げる同社のホーム・コレクションの精神や同社が大切にするアルチザンスピリットが、展示空間と融けあうようにして伝わってきた。「エルメスの歴史において旅に携える品々は重要ですが、紙筒は簡単に分解し、運搬できます」と坂氏。デュマ氏は「家」の空気も指摘する。「軽やかさはもちろん、その素材が温かな雰囲気を醸し出しています。ワールドツアーにも旅立てるノマド的なパビリオンを、坂氏は実現してくれました」。

坂氏が「強度を備え、自在に構成できる工業素材というべきもの」と語る通り、紙筒の家は細かな調整が可能だ。異なる場所に運ばれた際には、紙筒の組み合わせを調整することで部屋の広さや天井の高さなどを変更できる。細部まで巧みに組み立てられたこの家において、すぐれた職人技を今に受け継ぐ企業の家具の存在感が光っていた。

写真「居間部分。紙筒の家に重厚な家具。Photo: Santi Caleca, ©Hermès, 2011

写真書斎部分。組み合わせられた紙などの素材にも注目したい。光も生かされている。
Photo: Santi Caleca,©Hermès, 2011

台湾の風景を現代的に表した「Yii」、カリモク家具は日本の日常を

展示後や巡回の可能性も念頭に会場を熟考していたもうひとつの例を取り上げたい。デザインの殿堂、ミラノ・トリエンナーレ美術館(パラッツォ・デッラルテ)での台湾の家具ブランド「Yii」(イー)の展示。会場構成は同コレクションのデザインにも関わる佐藤オオキ氏(nendo)だ。

イーの主宰は台湾の伝統工芸の活性化を目ざすナショナル・タイワン・クラフト・リサーチ・インスティテュート(台湾 国立工芸研究所)。オランダ人のGijs Bakker(ハイス・バッカー)氏がアートディレクションを務める国際的なチームである。ミラノサローネでは、「street life」をテーマに、台湾の伝統工芸と日常生活のデザインを融合させた15点の紹介となった。

天井から下がるのは全長10mのビニール製風船で、その数190本。佐藤氏によると「製造や運搬の際のコストを抑えながら、展示後の廃棄物の量も少なく、将来的な巡回の際に繰返し使用できるものを考えた」という。風船を手でよけながら歩かないとならなかったのだが、「台湾に多くある竹林の空間的な要素の再現」と聞いてなるほどと納得がいった。透明な竹林なのだ。

写真竹林に見立てた多数の風船は美しい光の効果も生む。
「ある種の浮遊感を伴った心地良さとともに作品を鑑賞してもらいたいと思った」と佐藤氏。
風船は床上10cmまでの長さ。
Photo: Daichi Ano

写真空気を抜けば運搬も保管も楽だ。
Photo: Daichi Ano

この時期は市内のアートギャラリーもミラノサローネの会場となる。昨年に続き現代アートのギャラリー、「GELLERIA SUZY SHAMMAH」(ギャラリー スージー・シャマー)を会場として家具を紹介していた日本のカリモク家具は、3月の東日本大震災の状況を含む会場構成で注目を集めた。

紹介されていた家具の品々は、地球環境を考えることから国内の広葉樹を素材に用い、国内外の5組のデザイナーがデザインを手がけた「カリモク・ニュー・スタンダード」。同シリーズのクリエイティブディレクターを務めるデザイナーの柳原照弘氏が、ミラノサローネでの展示もディレクションしている。「家具は日常生活のためのもの。カリモクが創業以来大切にしてきたこの意識をふまえながら、家具と日常の接点を伝えたいと考えた」と柳原氏。

写真カリモクの展示風景。ギャラリーは52m2の広さ。
会場では家具運搬用の木箱を活用して小物類を展示するなどの工夫が。
Photo: Shin Suzuki

同社のミラノサローネ単独出展は昨年から。当初から「1年目はコレクションを明快に、2年目はコンセプトを深く伝える」と計画していた。そのうえで今回は、写真家の鈴木心氏が撮った写真をA5版約40ページの写真集にして配布することを予定。鈴木氏の自宅や日本の街の身近な光景を集めた一冊である。「会場で家具を目にしてもらい、写真集にある家具と生活との接点の部分を家に持ち帰ってもらう。むしろ写真集をメインとする考えでした」という。

その印刷がまさに始まろうとしていた時、3月11日に大地震が起こる。写真集の印刷はそのまま進められたが、鈴木氏はその後も厖大な数の写真を撮り続けていた。自宅で報道を見る妻の姿や被災地の光景……瓦礫となった街の風景に家具見本市で出会うのはきわめて異例のことだろう。

写真展示タイトルは「A DAY KARIMOKU NEW STANDARD × SHIN SUZUKI」。
Photo: Shin Suzuki

「日常の品々が予期せぬ災害で無惨な姿に変わり果ててしまう。人間がつくる物、家具とは何かを改めて考えることもしたかった」と柳原氏。日常の写真、それもあえて震災の写真を含むことに強く興味を示す来場者も多く、そのひとりがトレンド予測の第一人者でキュレーターとしても活躍するLi Edelkoort(リー・エデルコート)氏。同氏の推薦で、6月にパリで催されるデザインイベント「Designer's days」に巡回することになった。

見本市会場でも各々に工夫。イタリア企業5社の例

フィエラ(国際見本市会場)でも各社の個性を強く感じる会場に多数会う。2700を超える出展社のほんの一部になってしまうが、続いてフィエラから5社の例を挙げてみたい。

21万m2に及ぶ国際見本市会場、フィエラ。まずはブースを仕切る各社の「壁」から特色がある。周囲を半透明のファブリックで覆い、ロゴを糸で縫っていたのはイタリアの家具メーカー、Moroso(モローゾ)。女性デザイナー、Patricia Urquiola(パトリシア・ウルキオラ)氏によるクラフト、手工芸の魅力を現代的に解釈した家具デザインを始め、最新の技術と素材を駆使した商品づくりでも注目されている企業である。今回の会場構成もウルキオラ氏によるものだ。

写真ブースを囲むファブリック。

写真モローゾの展示会場とウルキオラ氏の新作家具から。
Photo: Noriko Kawakami

会場内では、新製品の周囲のほかにも人々が集まっていた場所があった。製品情報が掲示されている壁面の前である。製品写真、スケッチ、デザイナー情報などがそれぞれ冊子になっていて、日めくりカレンダーのように剥がすことができる。紙の大きさは14.7×19.7cm。カジュアルな様式だが、情報を大切に持ち帰りたいと思わせる魅力がある。

来場者が一枚ずつ用紙を剥がすこうしたハンドアウトの形態には他でも出会い、市内の倉庫などを用いた若いデザイナーの展示ではあえて無造作に床に置かれていることも多い。剥がしにくい大判用紙を使うといった遊び心溢れるものもある。モローゾでは、コンパクトサイズに情報をまとめ、部屋を彩る絵画の写真フレームさながら多数並んでいる楽しさが同社らしい。

写真
開発途中のスケッチなど、手にとりたくなる情報。企業の哲学はこうした細部にも表れる。
Courtesy of Moroso

写真全種類を集めようとする人、気になるものを楽しそうに選ぶ人など様々。
モローゾ製品の日本での取り扱いはヤマギワ。

家具開発の技術力を誇る家具メーカー、Alias(アリアス)の会場の壁は、同社の代表的な製品、「スパゲッティチェア」を800脚積み上げることで構成されていた。歴史に残る家具でもあるだけに、遠くからでも企業名が瞬時にわかるアイコン的な壁である。

中央には長さ15mのステージが置かれ、リサーチに始まる新製品開発の経緯を紹介する小展示もなされていた。デザインギャラリーの展示のようなこうしたプロセス展示から、誠実さに支えられた企業の姿勢が伝わってくる。デザインの場と製造現場との密な関係、さらには企業と優れた外部デザイナーとの関係が見え隠れする会場としても気になったひとつだ。

写真視界を遮らない繊細なフレームと透明素材の背と座の椅子が活かされている。
造作物の壁とは異なり、会期後に廃棄物を出さずにすむエコロジカルな空間の仕切りでもある。
Photo: Noriko Kawakami

写真長いステージに新作家具が並ぶ。

写真あわせて素材や部品などのプロセス紹介が。 アリアス製品の日本での取り扱いはノル・ジャパン。

他社とは全く異なる趣向で圧倒的な個性を放っていたのは、創業60周年を迎えるKartell(カルテル)社。創業当時となる20世紀半ばの空気を意識してか、「TIME for Kartell」「Kartell the DESIGN ICOS」などの電飾文字を掲げ、舞台装置のような会場で驚かせてくれた。

写真ひときわ目立っていたカルテルの展示会場。Photo: Courtesy of Kartell

写真商品化決定の最新デザイン。
既に販売が始まっている品、受注開始を控えて今まさに製造が始まろうとしている品。
「フレッシュ・デリバリー」の文字がユーモラス。

写真「ニュー・スターズ」として初お披露目の新作プロトタイプ。
商品化決定のデザインに限らず、引き続き開発が重ねられているものも紹介。


展示は新作に限らない。華やかさだけでなく今日に至る同社の開発・技術力を改めて見せてくれた説得力に満ちた会場でもある。ミラノサローネは今年で50周年を迎えるが、現代デザインを牽引しながら同程度の年数を重ねてきた企業も多く、他にも代表作を同時に紹介する会場を目にした。歩みもあわせて自社の存在を伝える会場。企業の自負に出会えるのもサローネらしい光景だ。

写真これまでの品も改めて目にできる。
カルテル製品の日本での取り扱いはデザインウェブ(カルテルショップ 青山)。

照明メーカー、FLOS(フロス)は会場入り口の壁にペンキ職人に扮したデザイナー9組の写真を掲げていた。「ペンキ職人のチーム」なのだそうだ。会場構成を担当したのは同社ショップや展示、イベントのアートディレクションを手がけるFabio Calvi(ファビオ・カルヴィ)(建築設計事務所 CALVI BRAMBILLA)。テレビCFやミュージッククリップなどのプロダクションデザイナーとしての経験を持つ人物である。

写真フロスはエントランスで新製品に関わったデザイナーを紹介。
ホール内を足早に行き来する人々の目に飛び込んでくる鮮やかな色。
Photo: Noriko Kawakami

写真工事現場などの足場を展示ステージに(左)。ロゴの1文字が傾いている(右)のも「工事中」の設定から。
同社は会場構成を「セットデザイン」と表現している。

工事現場の足場が展示台として転用されており、グラフィックもペンキに関連するもの……と徹底している。「展示の会場はフロスに生命を吹き込む絶え間ないデザインワークのメタファーであり、デザイナーこそが真の主人公。会場デザインは、毎年個性的な製品のコレクションを可能としてくれるデザイナーのクリエーティビティーへの讃辞でもあるのです」と同社。

国際照明機器見本市「ユーロルーチェ」併催の今年、照明メーカー各社の新製品はやはり環境考慮のLED光源を用いた品々が主流。しかし他国での照明器具のトレードショーとはどこか空気が違う。機能性だけを前面に押し出すのでなく、製品を含む企業アイデンティティーを人々の感性に訴えようとする試みがうかがえるのがミラノサローネの特色であり、醍醐味でもある。

写真先端技術を活かした新製品とグラフィックのアナログ感との絶妙のバランス。
フロス製品の日本での取り扱いは日本フロス。

照明メーカー、FOSCARINI(フォスカリーニ)は、吊られたオレンジ色のフレームが特色の、力強い会場構成で来場者を魅了していた。透明スクリーン上にデザイナーや建築家らが映し出され、製品コンセプトを語り始める。あちこちから響いてくる様々な声に会場が包まれる心地よさもある。映像にはプロセス紹介も含まれ、よく編集された映像にも見入ってしまった。

宇宙飛行士の服の縫製技術を参考とした新製品なども披露していた同社であるが、技術力を備えた先鋭的な企業の存在が全体から伝わってくる。協働デザイナーの存在を表舞台に、そのうえで開発経緯を丁寧に伝えようと試みる意欲的な展示の場。好感の持てる伝え方だ。

写真企業の意欲が満ちる空間。フォスカリーニの展示会場。
Photo: Noriko Kawakami

写真デザイナーが登場し、コンセプトや開発プロセスを解説。
フォスカリーニ製品の日本での取り扱いはルミナベッラ。

作り込まれた舞台からシンプルに製品を見せる展示まで、見本市会場の広々としたブースから市内のアートギャラリーまで、多様な紹介の手法があるが、企業の歩みや哲学、製品開発の経緯を、自信を持って表現することこそが強い説得力になるのだと改めて感じずにはいられない。

パビリオン設営に古材を選択したり昨年の什器をあえて再利用するなど、限られた会期に資源の無駄使いをすることなく展示空間を実現させようとする試みや、用意された費用のなかでできうるかぎり製品を理解してもらおうとする工夫も様々である。披露される家具や照明器具の品々はもちろん、会場の選定、構成する素材の選択ひとつから、企業の視点が見えてくる。

World Design Insight-次代のデザイン発想-
執筆者:川上典李子

川上典李子
ジャーナリスト。デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)、『ウラからのぞけばオモテが見える』(佐藤オオキとの共著、日経BP社)など。
公式サイトnorikokawakami.jp

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