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連載コラム

第85回「ライフスタイルを選べる大人の『家』 〜代官山 蔦屋書店」

[ 2012年3月2日 ]

白い「T」の字が浮かび上がるファサードを備えた棟が3つ、旧山手通りに面して並ぶ。2011年12月5日、大胆なデザインの外観をまとって「代官山 蔦屋書店」がオープンした。「家」をイメージした空間に、ライフスタイルのテーマに絞った書籍コーナーなどで構成した売り場を配し、50歳以上の大人を主ターゲットに据えた店づくりを行った。

 「T」の字が白く浮かび上がる建物に近づくと、白い外壁部分そのものが、さらに「T」という文字の組み合わせで出来ていることが分かる。遊び心あふれた外観は、設計を手がけたクライン ダイサム アーキテクツの面目躍如たるところだ。

 とはいえカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)が運営する「代官山 蔦屋書店」の見どころは、街行く人の目を奪うファサードだけにあるのではない。

 従来、顧客層の中心を20代から30代に置いていたCCCが、初めて50歳以上の大人を主対象に据えたターゲット設定。クルマ、旅行、人文、料理、建築、アートという6つのカテゴリーに絞った書籍エリア、品揃えの充実に注力した映画や音楽のエリアなど、対象とするカテゴリーでの競争力強化を意識したショップ戦略。ターゲット層が足を運びたいと感じる「家」のような空間を意識したインテリア。空間と運営があいまって、大人向けのライフスタイルのセレクトショップになっている。

 「CEOの増田宗昭は1983年に大阪府枚方市で蔦屋書店を創業した。そのとき掲げた『新しい生活スタイルの情報を提供する拠点』というコンセプトに、いわば原点回帰した店」。CCCは、代官山の店をそう位置づける。

写真1
写真1:建物外観
Photo by Nacasa & Partners

写真2
写真2:白い壁のクローズアップ

写真3
写真3:1階の「クルマ」ゾーン

 店舗内の構成は、次のようになっている。

 旧山手通りに直交して、細長い低層の建物が3つ連なっている。正面左から順に、地下1階・地上3階の1号館(延べ面積1990.77㎡)、地上2階建ての2号館(同1379.54㎡)、地上3階建ての3号館(同1820.02㎡)だ。

 店舗として利用されるのは地上1階と2階。1階は3館を通じて展開する本売り場に加えて、1号館にファミリーマート、3号館に文具・旅行のゾーンとスターバックスを配している。本売り場の中央には、雑誌を並べたマガジンストリートと呼ぶ帯状のゾーンが3館を貫いて延びる。マガジンストリートに置かれた雑誌に関連した分野の書籍ゾーンが、ここから派生するようにマガジンストリートの両側に展開するという構成だ。2階は1号館が映画、3号館が音楽のコンテンツを集めたエリアで、両者をブリッジで結んだ中央の2号館に「ラウンジ」がある。

 インテリアは、フローリングと木の什器を基調とした落ち着きのある雰囲気にまとめ、一部にカーペットや御影石をあしらっている。蛍光灯を使わなかった照明は、什器に当てるスポットライト以外は、四角いペンダントやスタンド照明がメインとなる。6つのジャンルに分かれた1階書籍売り場の多くは、見通しの効く中央のマガジンストリートとは対照的に小さな部屋に分割している。これらは皆、「行きたくなるような居心地のいい家」というコンセプトを体現したものだ。

写真4
写真4: マガジンストリート

写真5
写真5: 小部屋に区切られた「人文」ゾーンの一画

写真6
写真6:2階の映画エリア

写真7
写真7:2階の音楽エリア

写真8
写真8:2階のラウンジ

 こうした特徴ある店づくりは、「顧客層の拡大」というCCCが抱える課題に対する回答だった。

 CCCが展開するTSUTAYAは、20代では56%の人が利用しているのに対し、50代では20%強、60代では11%強、70代では6%強と減ってくる。特に、マーケット規模が大きい団塊の世代を取り込むことは今後に向けた大きな命題だった。全国で1400店舗以上を数えるTSUTAYAは、約100の直営店以外はすべてフランチャイズの加盟店になる。リアルの店舗をもつ加盟店に向けて、次のマーケット開拓に向けたモデル店舗を提示する必要もあった。

 CCCは50歳から団塊世代の63歳までを文化を楽しむ「プレミアエイジ」ととらえ、これを主ターゲットとする「代官山 蔦屋書店」の計画にとりかかった。

 大人の店にふさわしい立地として、代官山の敷地11646㎡を選定。建物の設計者を選ぶために、およそ100事務所に声をかけてコンペを実施した。60事務所からの応募を得て、2段階の審査の結果、選んだのがクライン ダイサム アーキテクツの案だった。具体的な計画に当たっては、さらに複数のクリエイターを呼んで作業を進めた。例えば、施設全体のクリエイティブ・ディレクションにはikgの池貝知子氏、グラフィックを中心としたアートディレクションには原研哉氏がそれぞれ当たった。

 一方で、ソフト運営の面でも工夫を凝らした。先に触れたように、書籍はクルマ、旅行、人文、料理、建築、アートという6つのジャンルに絞った。ビジネスノウハウ本やコミック、学生向けの学習書など、通常の書店では売り上げの多くを占める分野をあえてそぎ落とし、ライフスタイルでくくった独自性を明確に打ち出した。

 また、「ない映画はない」を目指した映像フロア、ジャズやクラシック、60's〜80'sのロック・ポップスを特に充実させた音楽のコーナーも、大人というターゲットを意識したものだ。個々のコーナーには専門知識を備えたコンシェルジュを配し、コンテンツの適切な補充や客の細かなニーズに対応できるようにしている。

 なかでも2階の中央にあるラウンジは、この店を象徴する存在と言える。暗く照明を落とした空間に、ソファや大テーブル、カウンターの席が120席ゆったりと配置されている。周囲の壁は、「平凡パンチ」「太陽」といった今はない雑誌や海外誌などがずらりと並ぶライブラリーだ。客はお茶や食事をしながら、ライブラリーの本や雑誌を手に取ってもいいし、蔦屋書店の書籍をここで読みながら選んでもいい。大テーブルなどには電源コンセントもあるので、パソコンで仕事をすることもできる。文化的なコンテンツに囲まれながら、ゆったりと時間を過ごせるスペースになっている。

写真9
写真9:ラウンジ

写真10
写真10:ラウンジまわりの書棚

 これらの意欲的な試みを成り立たせているのは、次代への提案を目指した実験店舗という位置づけだ。同時に、大人に向けたライフスタイル提案というコンセプトから導かれた本の絞り込みは、個々の本の単価を上げる効果をもたらす。CCCが展開するT会員サービスへのプレミアエイジの登録率向上も狙っている。実際、「他の店舗に比べ、客単価やプレミアエイジのT会員登録率は高くなっている」(CCC)という。

 施設の複合によるメリットも見逃せない。そもそもカフェとAVソフト・書店を複合した店舗は、2003年に開業したTSUTAYA 六本木店(東京都港区)以降、実績を積んできた業態だ。さらにここでは代官山 蔦屋書店の奥に広がるT-SITEガーデンに、カメラショップやカフェ・バー・ダイニング、多目的スペースなど7つのテナントをそろえた。代官山 蔦屋書店とT-SITEガーデンを合わせた「DAIKANYAMA T-SITE」全体で、収益の確保を見込む構造にしているのだ。

 開業前の店前通行が1日1500人程度だったというこのかいわいにあって、開業後、施設に足を踏み入れる人は平日でも1万人強、週末には3万人を記録している。インターネットでの購買が普通になっている書籍や映像、音楽の分野で、「足を運びたくなる空間」というリアルの店舗ならではの存在価値を示す。そんなCCCの挑戦は、まずは集客面での順調な滑り出しに結びついている。

■代官山 蔦屋書店
http://tsite.jp/daikanyama/
東京都渋谷区猿楽町17-5
TEL 03-3770-2525
営業時間 (1階)7:00~深夜2:00、(2階)9:00~深夜2:00
定休日 なし

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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