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連載コラム

第87回「ランドマークとなる空間で街への波及効果を狙う 〜小田原早川漁村」

[ 2013年1月29日 ]

2012年12月3日、神奈川県小田原市内の漁港に「小田原早川漁村」が誕生した。エイジングを施した内外装の建物に、地元産の魚介類を扱う4つの飲食店と、干物や練り物を販売する土産物店が入っている。新しい集客シンボルとなる施設と小田原の産品との組み合わせで、街の活性化につながる店づくりを目指した。

 JR東海道本線で小田原駅から西へ1駅、早川駅を降り立つ。目の前の国道を超えると小田原漁港が姿を表し、小さな漁船が10隻ほど停泊する港をぐるりと回ると公設卸売り市場が見えてくる。「小田原早川漁村」はこの市場の向かいにオープンした。

 鉄骨造の倉庫を改装した建物は、エイジングを施した古材のような板材が外周を覆い、瓦屋根の庇が突き出す。業務用の簡素な建物が並ぶ一画にあって、赤く塗装した窓格子や2階ベランダの手摺り、丸い赤提灯の連なる外観が目を引いている。

 「非日常的な空間で新鮮な魚介や練り物など小田原の特産品を知り、食べて、思い出として持ち帰っていただきたい」。小田原早川漁村の"村長"石原広之氏は、店舗づくりの狙いをそう話す。

写真1
写真1:倉庫を改装した「小田原早川漁村」外観

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写真2:1階内観

 「小田原早川漁村」は、小田原市で飲食店を展開する(株)JSフードシステムが施設を運営している。2階建ての建物に、飲食4店舗、物販1店舗が入る。

 1階の入口すぐ左手にある「旨いもん屋台」は、まぐろ海鮮しおラーメンやぶっかけシラス飯、おつまみやドリンクなど手軽なメニューを扱っている。揚げたてさつまあげなど、小田原の老舗かまぼこ店「鱗吉」がプロデュースした、さつまあげやかまカツバーガーといった商品もある。

 入口の右手は、物販の「お土産処」。江戸時代からの老舗「山安」の干物を中心に、小田原かまぼこや地元の産品が、冷蔵ショーケースや積み重なった木箱に陳列されている。

 奥を占める漁師の浜焼き「あぶりや」では、80分食べ放題でバーベキューを味わえる。客はレジ周りに用意された生けすの貝やショーケースの魚を自分で選び取り、ずらりと連なった細長いテーブル席で焼いて食べる。屋内外に合計78席が並んでいる。

写真3
写真3:「旨いもん屋台」

写真4
写真4:「お土産処」

写真5
写真5:漁師の浜焼き「あぶりや」

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写真6:「あぶりや」のショーケース

 2階には2つの店がある。

 階段を上がった正面の海鮮丼専門店「海舟」(36席)では、相模湾で獲れる地魚を中心に揃えている。柱と腰壁の濃い茶色に障子をあしらったインテリアが、レトロな雰囲気を醸し出す。障子には、メニューと並んで各種の魚たくも飾られている。

 湘南茶屋「ばんがさ」(内外38席)は、コーヒーやお茶、和洋菓子を供するカフェだ。白い布地で覆った椅子のカウンター席と、緋毛氈を敷いたテーブル席がコントラストを成している。屋外テラスからは、小田原提灯を形どった港の灯台も見える。

 小田原駅前に1号店を構える「海舟」以外は、すべて今回オリジナルで開発した店舗だ。

 むくの木の柱を並べ、エイジングした木材で仕上げた室内は、かつて鉄骨造の倉庫だったとは感じさせない。魚屋の店先のように吊り下げた品書き、天井に浮かび上がる赤い番傘、店舗入口に掲げた小田原提灯など、雰囲気をもり立てる小物類を随所にあしらっている。

 1階は、モルタルたたきの床にすだれの間仕切り、竹を格子状に組んだ天井といった構成とし、漁師や海辺を思わせる素朴で雑駁なにぎわい感を強調した。一方、フローリングで仕上げた階段と2階は、少し落ち着いた雰囲気にまとめている。

写真7
写真7:海鮮丼専門店「海舟」

写真8
写真8:「海舟」の壁面

写真9
写真9:湘南茶屋「ばんがさ」

 小田原早川漁村は、JSフードシステムの田川順也社長が地元活性化への思いを託してつくり上げた。村長の石原氏は、次のように代弁する。

 「宿場町でもあった小田原は、集まってくる旅人をもてなすことで栄えてきた。しかし近年は観光客が目指すランドマークや観光客を迎え入れる施設が少なく、地魚などおいしい素材があっても利用者の目になかなか届かない。小田原早川漁村は小さなテーマパークのようにすることで、ここを目的に訪れてもらう新しいランドマークにしたいと考えた」。

 施設自体の規模は合計150席強の飲食店4つに土産物店1つで、特に大きいわけではない。しかし、手軽な屋台や丼の店、賑やかに食べるバーベキューの店やお茶を飲めるカフェ、土産の物販と、多様に楽しめる業種を用意した。さらに地元の大工、映画のセット製作やテーマパークの工事に携わっている専門家に施工を委ね、できる限り本格的な内外装を施して非日常感を高めた。

 現在は東京を中心とした首都圏からの来店者が多い。開業後1カ月半の時点で、週末の来店者数は推定1000人以上。施設としては、許容量ほぼ一杯だ。「明確な数値目標は立てていないが、年間10万人以上は目指していかねばと思っている」と、石原氏は気を引き締める。

 小田原早川漁村の開業後、危機感を覚えた周辺の飲食店が大きな看板を出すようになったという。実は、こうした切磋琢磨による相乗効果こそ小田原早川漁村の狙いでもある。「お互いが刺激しあって、再びたくさんのお客を呼べる街に育てる」という夢に向け、一歩を踏み出した。

■小田原早川漁村
http://www.gyoson.com/
神奈川県小田原市早川1-9-6

TEL 0465-24-7800
営業時間 平日9:00~17:00、金土日祝9:00~22:00
定休日 なし

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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