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連載コラム

第88回「リアルの空間は街との結節点 〜ドットDNP」

[ 2013年2月25日 ]

2013年1月23日、大日本印刷はコミュニケーションプラザ「ドットDNP」を開設した。 上階に同社の一部オフィスが入るDNP市谷田町ビルの地下1階から地上2階まで、3フロアを占めている。小さな子どもや親子向けの体験コーナーや電子書籍を誌読できるカフェなど、これまでBtoBビジネスを主体にしてきた同社にとって一般ユーザーとの接点となる施設だ。

 JR総武線の電車が東京駅方向から市ケ谷駅のプラットフォームに滑り込む直前、外堀越しにガラス張りのDNP市谷田町ビルが見える。コミュニケーションプラザ「ドットDNP」は、このビルの低層部にオープンした。大日本印刷が手がける様々な技術と事業を紹介し、子どもから大人まで幅広いユーザーに「新しい『本』と『写真』の楽しみ方」を体験してもらうスペースを集めている。

 「当社は1876年の創設以来、BtoBの事業を中心に展開してきたため一般の人からの認知度が高くない。ドットDNPという場を通して、会社を知ってもらい、親しみや活気のあるイメージを抱いてもらえるようにしたい」。コーポレートコミュニケーション本部コーポレートブランド室の藤重利強氏は、施設開設の狙いをこのように語る。

 大日本印刷が手がけるBtoBビジネスは、会社の出発点となった出版印刷のほか、機能性のフィルム、建材、店頭の販促物、パッケージなど多岐にわたる。さらに最近は、電子書籍と紙媒体を扱うハイブリッド総合書店「honto」やセルフプリント機「PrintRush」といったBtoCの事業も展開している。こうした動きに伴い、2011年にはコーポレートブランド室を立ち上げた。社名のDNPを入れたキャラクターDNPenguinをつくり、テレビCMも放映する。ドットDNPの開設は、これらの延長線上にあるものだ。

写真1
写真1: 外堀越しの外観

写真2
写真2: 吹き抜けを介して連続する3フロア

 地下1階から地上2階までの3フロアに分かれた施設は、5つのコーナーで構成されている。

 外堀通りに面した1階のエントランスを入ると、総合受付カウンターの奥に2つのコーナーが続く。カウンターの右手にあるのは、「DNPenguinハウス」。広報担当のキャラクター、DNPenguinが大日本印刷の事業を紹介してくれる。正面奥のコーナーは、電子書籍を体験できる「hontoカフェ」。それぞれのテーブルに計28台のタブレット端末が設置され、およそ100冊のコンテンツを誌読できるようにした。

 地下1階は、「デジタルえほんミュージアム」と「Enjoy!フォトパーク」だ。デジタルえほんミュージアムは、青やオレンジ色などのカラフルな円形の什器を並べた常設展示のコーナーと企画展示のコーナーに分かれている。円形什器では、固定のディスプレイとタブレット端末で国内外のデジタルえほんが見られる。コーナー中央には、ベッドのような白い台に画面を映し出す装置もある。子どもたちは、円形什器の中に入ったり、ベッド状什器の上に載ったりしながら、思い思いの格好でデジタルえほんを楽しむ。父母が読み聞かせてもいいし、体の動きに合わせて展開するデジタルえほんのコンテンツで遊んでもいい。

 企画展示コーナーでは5月18日まで、クリエイティブディレクター季里さんによる「tap*rapへんしん展」を開催している。デジタル画面とマグネットで留めるリアルな画面で、それぞれ動物の顔などをつくっていく展示だ。隣接するスペースでは毎日、子どもたちのためのワークショップを開催している。

 Enjoy!フォトパークでは、背景の画像を選べるスタジオでの撮影や持ち込んだデータのプリント、フォトブックの作成などさまざまな体験ができる。フォトグッズなどのワークショップを随時行い、作品を展示するギャラリーがある。デジタルえほんミュージアムもEnjoy!フォトパークも、参加型の仕掛けをあちこちに盛り込み、楽しみながらデジタルの書籍や写真に接することができるようにしているのが特徴だ。

 一方、地上2階は、階段室まわりの大きな吹き抜けに面したイベントゾーン。大日本印刷グループ各社のイベントなどの会場として使われる。取材した日には、グループ会社の会社説明会が開かれていた。

写真3
写真3:1階のDNPenguinハウス

写真4
写真4: DNPenguinハウスの展示

写真5
写真5: 1階のhontoカフェ

写真6
写真6: 地下1階のデジタルえほんミュージアム

写真7
写真7: デジタルえほんミュージアムの円形什器

写真8
写真8: 企画展示の「tap*rapへんしん展」

写真9
写真9: 地下1階のEnjoy!フォトパーク

写真10
写真10:2階のイベントゾーン

 このように、3つのフロアに盛り込まれたコーナーは多種多様だ。対象とするユーザー層もそれぞれ異なる。デジタルえほんミュージアムは、未就学児童とその親。Enjoy!フォトパークは、カメラ女子と呼ばれる女性など、手軽に写真を楽しむ層が主なターゲットになる。それに対し1階のhontoカフェは、ランチやお茶に立ち寄る周辺のビジネスパーソンなどが中心だ。

 そのため空間のデザインも、コーナーごとの特性をそのまま生かすようにしている。「大日本印刷のショールームとしてすべての年齢層に対応できるようにしつつ、階とゾーニングによってコーナーの区分けを明確にした。hontoカフェはハイグレードな雰囲気、地下1階は安全性に気を遣いながら楽しさを表現する子ども向けのデザインという風に、デザインもコーナーごとに変化を与えた」(技術本部の藤重光人氏)。

 例えば、インテリアデザイナーの大塚則幸氏が手がけたhontoカフェは、ふんだんに木を用いた落ち着きのある空間にまとめている。目を引くのは、10万個の活字を組み込んだ正面奥の壁面だ。漢字を並べた正方形とひらがなを並べた正方形を市松に配して格子模様を浮かび上がらせ、硬質な金属の質感に艶を与えている。

 一方、子どもたちの使うデジタルえほんミュージアムの什器は、柔らかな合成皮革を用いて安全性に配慮した。

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写真11: hontoカフェ

写真12
写真12: 活字を並べた壁面

写真13
写真13:デジタルえほんミュージアムのベッド状什器

 現在、大日本印刷は本社や工場が集まる東京・市谷一帯の再開発計画を進めている。2018年の完成に向けたプロジェクトでは、工場を地下に埋め込み、周辺に「市谷の森」と呼ぶ緑地をつくっていく。そんななか、外堀通り沿いという視認性の高い場所に設けたドットDNPは、街に向けた大日本印刷の顔として機能する。

 もっとも、ドットDNPの役割は情報発信だけではない。「これまでユーザーと接する場所を持っていなかったが、ここでは訪れたユーザーの声を直接聞ける。私たち社員も、ドットDNPという場を通してどんどん学んでいければいい」と藤重利強氏は期待する。hontoカフェには、車いすの母親を連れた中年男性が訪れたこともあるという。従来は無縁だった層との接点が生まれている証左と言える。

■ドットDNP
http://www.dnp.co.jp/dotdnp/
東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル

TEL 03-6386-1700(カスタマーセンター)
営業時間 10:00~18:00
定休日 日・年末年始

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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