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連載コラム

第60回「路地風空間に個店を集め、空き店舗対策 〜亀戸横丁」

[ 2008年7月23日 ]

カウンター席を中心とした小規模な店が、間仕切りなく通路を挟んで背中合わせに並ぶ。2008年4月8日にオープンした「亀戸横丁」は、雑ぱくな路地風の空間に15の飲食店が集まっている。テーマパーク風にも見えるつくりだが、全体を統轄する運営母体を置かずに個店の集合体としたところに特徴がある。

 JR亀戸駅の北口から歩いて2、3分。駅前の大通りの角を右に折れた小道の突き当たり、商店街の一画に「亀戸横丁」は位置する。約450平方メートルの店内には、浜焼き、焼き鳥、寿司、カフェバーなど15業態15店舗が集まっている。

 左右2つある入り口から店内に入ると、細い通路が縦横に走り、両側に小さな飲食店が並んでいる。3坪(約10平方メートル)を基本区画とした店舗は、厨房を取り巻くカウンター席だけというしつらえが中心だ。

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写真左:外観/写真右:入り口すぐのカフェバーと和食どころ

 通路や隣の店舗との間は壁で仕切らず、店によってのれんなどで簡易な間仕切りをしている程度。通路と店が渾然一体となっている。客同士が肩を接しながら飲み食いするといった雰囲気は、庶民的でどこか懐かしい印象を与える。

 簡易にまとめたそれぞれの店のつくりも、路地裏にある飲み屋横丁のようなイメージを増幅させる。

 例えば、カフェバーにかかるサインやメニュー看板のデザインの古めかしさ。プラスチックのビールびんケースを積み上げたいすや、カウンターの上から突き出すように載せたテーブル板の仮設風なあしらい。

 提灯やすだれ、プラスチック製いすなども、庶民的な印象を強調するツールとなる。一番大きい9坪(約30平方メートル)の区画を占める浜焼きの店では、実際に漁師から買い取ってきたという木箱を重ね、浜の雰囲気を演出していた。

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写真左:すだれのかかるホルモン焼きの店
写真右:カウンターに仮設風のテーブル板を載せた、どて鍋・肉料理の店

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写真左:ビールびんケースをいすに用いる焼き鳥の店
写真右:漁師の木箱を重ねた浜焼き酒場

 企画やゾーニングなどを担当したのは、飲食専門求人誌「グルメキャリー」を発行するジェイオフィス東京のネオサポート事業部。飲食店の開発プロデュースを手がける事業部だ。5月30日には、同じように小さな飲食店を集めた「恵比寿横丁」を開業させている。

 小さな飲食店を集めて路地風の演出を施した亀戸横丁は、ラーメンやカレーの店舗を集積させたり、明治や昭和をテーマに内装を統一したりといったフード系テーマパークの一種にも見える。しかし、計画の狙いや運営の手法は大きく異なる。ここで出発点となったのは、大規模店舗が撤退した空きスペースの活用という問題だった。

 以前このスペースには全国居酒屋チェーン店が入居していたが、撤退後のテナントがなかなか決まらなかった。

 「大型店がオーバーマーケットになっている最近の環境では、1つの店が退店すると、その後のスペースに入る出店者を見つけるのは難しい。一方では人材活用の面からも、少ない資本で独立しやすいような仕組みをつくり、店を持ちたい人を支援したいと考えていた」(ネオサポート・ヘッドコーディネーターの浜倉好宣氏)。

 そこで導入したのが、貸しスペースを小さく分割し、出店意欲のある人に専門店を出してもらうという方式だ。テーマパーク系の店舗と違うのは、施設全体を統一運営する母体は置かず、個人店主が集まって経営していくという形態をとる点にある。

 ここでは日本総合企画が設備投資を行い、同社および設計施工を担当したミクプランニングがリーシングを実施した。家賃は、坪当たり2万5000円の固定賃料のみ。賃料は各店の面積に共用通路の担当面積分を加えて算出するが、施設運営者によるコントロールはない。

 「トイレの清掃やゴミの出し方なども、出店者が自分たちでルールを決めていく。店の人同士で貸し借りをしたり、出前を取り合ったりするような間柄になればいい。昔ながらの商店街と同じような人情味あふれる空間を目指している」と浜倉氏は話す。

 賃貸契約の条項には、造作部分の譲渡が可能という項目を加えた。店を出る際、スケルトン状態に戻す必要がないため、居抜きで次の出店者に渡せる。少ない負担で出店、退店できる仕組みを用意し、ステップアップを目指す出店者による適正な入れ替えを促すのが目的だ。

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写真左:囲炉裏のある炉端焼きの店/写真右:路地風の通路

 衰退が進む既存商店街に全体のマネジメントが必要、と指摘されて久しい。大型店舗に対抗するには、販促活動や空き店舗への新テナント導入の促進、空きスペースの活用など、商店街が一体となった取り組みが欠かせないからだ。

 個性をもつ店舗を集めつつ、施設全体のマネジメントの下に運営するフード系テーマパークは、飲食店でこうした方向性を打ち出した業態とみなせるだろう。一方、亀戸横丁は、あえて全体のマネジメントという手法を手放した。

 小規模な出店者の集合体としたことには、もちろん大変さも伴う。テナントリーシングする側からみると出店調整に手間がかかるし、出店者からみると人頼みができない。個々の店主のバイタリティーと知恵、助け合い精神の発揮いかんが開業後の成績を左右する。

 それでも、ここでは組織性や効率性を手放すことによって、小さな事業主を育て、より人間味の漂う店づくりを目指した。出店候補者にとっても、ユーザーにとっても、店の在り方の選択肢を増やす試みといえる。

 (守山久子)

■亀戸横丁
東京都江東区亀戸5-13-2
営業時間 8:00〜翌2:00(店によって異なる)
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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