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連載コラム

第63回「複雑な空間を生かした7つのゾーニング〜ブックファースト新宿店」

[ 2008年12月15日 ]

工事中から西新宿を歩く人の目を引いてきた超高層ビル「モード学園コクーンタワー」。その名のとおり"まゆ"のような外観が異彩を放つ建物の低層部に、2008年11月6日、「ブックファースト新宿店」が誕生した。複雑な空間形状を生かして書店を7つのゾーンに分割。売り場ごとの個性を打ち出している。

 ブックファースト新宿店は、地下1階と地下2階に分かれた3410m2のスペースに広がる。約90万冊の書籍や雑誌をそろえ、ブックファーストの基幹店として位置付けられている。地上1階には、190m2の「BLUE SQUARE CAFE(ブルー スクエア カフェ)」を併設する。

 「7つに分かれた空間構成を生かして書店を7ゾーンに分割し、ジャンルごとの特性を前面に押し出した」。梶野光弘・ブックファースト新宿店店長は、店づくりの基本方針をそう説明する。

 実際、四角い箱形の空間に本棚が整然と並んだ風景が書店の一般像であるならば、ブックファースト新宿店は型破りと言っていい。

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写真左:新宿の中央通り地下通路に面したエントランス吹き抜け
写真右:地下1階のAゾーンの売り場まわり

 なにしろ、空間形状が複雑だ。

 書店スペースは、モード学園コクーンタワーの超高層棟と低層棟をつなぐ地下階にある。活用できるスペースを最大限に有効利用するため、凹凸の多い不整形な空間を連結させた平面になっているのだ。

 さらに、外部空間との接点が多い。

 地下階は、新宿駅から超高層ビル街へ向かって延びる中央通り地下道に面している。中央通り地下道から半階上がると地下1階、半階下がると地下2階へとアプローチできる。また建物の地上レベルでは、敷地の3方向が道路に接している。

 そのため、地上や地下の中央通りと売り場を結ぶ吹き抜け空間や階段、エレベーターといった公共スペースが、随所にちりばめられている。加えて将来、中央通り地下道と北側の新宿エルタワーを結ぶことになる南北自由通路が地下2階レベルを貫通する。

 これらの公共スペースが、売り場と交錯している。結果、書店の入るスペースは地下1階で4つ、地下2階で3つのゾーンに分割されていた。店内移動の際も、ゾーンによっては一度公共スペースへと出なければならないつくりになっている。

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写真左:地下1階Aゾーン「TOKYO Magazine Center」/写真右:地下1階Bゾーン

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写真左:地下1階CゾーンのKID'Sカウンター
写真右:地下2階Eゾーン。開口に沿っていすを並べている

 こうした空間の特徴をそのまま生かし、同店は小割りのゾーンを連結した街のような売り場づくりを試みた。

 主な売り場構成は次のようになる。

 地下1階は、周辺を歩く流動的な客を引き入れ、「新鮮な情報をすみやかに提供する」(梶野氏)エリアだ。一般的で比較的安価な書籍や雑誌を中心に置く。

 中央通り地下道から一番近いAゾーンには、新刊・話題書や雑誌の並ぶ「ADVANCED STAGE」のコーナーや地図・旅行ガイドの棚などを用意した。「TOKYO Magazine Center」と称した雑誌コーナーでは、バックナンバーや地方誌を含めて5000タイトルを集めている。

 Aゾーンの両脇には、文芸・アートのBゾーンと、文庫や新書、コミック、実用書などのDゾーンを連結している。らせん階段やエレベーターのある外部吹き抜け空間を介して、児童書や語学、洋書、学習参考書などを揃えたCゾーンが続く。

 一方、地下2階は、より専門的な内容の書籍を中心に集めている。「落ち着いた『本の森』のような空間のなかで、書林浴に浸っていただくというイメージ」と梶野氏は話す。

 地下2階は、完全に独立した3つのゾーンに分かれている。中央通り地下道の吹き抜けに面したEゾーンは、ビジネスや経済、金融など社会科学系のコーナー。このほか人文や教育・福祉を扱うFゾーン、理工学や医学などの専門書を揃えたGゾーンがある。

 店づくりの特徴の1つは、従来店に比べてテーマ性を強く打ち出したことにある。文芸書とアートとのコラボレーションによる展開を狙ったBゾーン、ラーニングというテーマでくくったCゾーンなどが象徴的だ。

 また、ゾーンごとに空間のつくり、照明、BGMも変えている。例えば、中央のAゾーンは天井材を張らずにコンクリートむき出しのままとし、配管も露出させた。高い天井高をもつ空間はハードな感覚のインテリアとなっている。一方、文庫などを並べた奥のDゾーンは天井材を張り、ベージュ系で落ち着ける雰囲気にまとめた。

 什器は、背が高く平台のないスラント什器を中心に構成した。話題本を展示する平台はスラント什器の端部に設け、フェア用の棚を別に用意している。品揃えを確保しつつ、メリハリをつけた独自提案をできるようにと考えたディスプレイだ。

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写真左:1階のカフェ「BLUE SQUARE CAFE」/写真右:カフェの書架コーナーまわり

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i-Pod touchのコーナー

 トランジットジェネラルオフィスに運営委託する1階のBLUE SQUARE CAFEでも、新しい試みに挑戦している。「ユニーク・インストール・カフェ」をコンセプトに掲げ、本や音楽、インターネットなど多様な情報を入手できる仕掛けを用意したのが特徴だ。

 本は、外通路と店の境界に並べた黒い可動棚や、赤い曲面のコーナーに展示している。オープン後1カ月の取材時には、可動棚で「飾る」、赤いコーナーで「ワールド」をそれぞれテーマにした書籍を販売していた。当初、本の売り上げはあまり期待していなかったが、「予想の5倍くらいは売れている」(梶野氏)状況という。

 このほか、カウンターまわりにi-Pod touchやパソコンを設置した席を用意。ギャラリーやイベントスペースも設けた。また本にちなんで壁に古い活版を掛け、「TOILET」のサインも活字を並べて組み上げるなど、知的楽しみを味わえる趣向も凝らしている。

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書店内の案内図。地下1階、地下2階の平面と
当該Eゾーンの売り場構成を示している

 先にも触れたように、カフェを含めると3層に分かれた店は、空間のつくりとしてはかなり複雑だ。ゾーンが分割されているほか、アプローチの経路が多いため入り口の数も多い。地下1階は5カ所、地下2階は7カ所ある。レジも6カ所に分散配置している。運営上の難しさは容易に想像できる。

 ただし、梶野氏のとらえ方は前向きだ。

 「ネガティブな面への対応ばかり考えていると、本来のニーズや期待にこたえられない。店員の数は通常店の1.2倍程度いるが、それによってお客様は店員に声をかけやすくなるし、店員もより細部まで目配りできる。売り場が分散していることも、慣れれば目的の売り場に直接アプローチできるメリットにつながる」。

 もちろん、慣れていない客のために、店内マップや書籍検索ディスプレイは通常店以上に設置している。

 一見、非効率と思える側面を逆手に取り、いかに店の独自性へとつなげていくか。ブックファースト新宿店には、そんな工夫がちりばめられている。

(守山久子)

■ブックファースト新宿店
東京都新宿区西新宿1-7-3 モード学園コクーンタワー地下2階・地下1階
TEL 03-5339-7611
営業時間 10:00〜22:00
不定休

■BLUE SQUARE CAFE
東京都新宿区西新宿1-7-3 モード学園コクーンタワー1階
TEL 03-5339-7613
営業時間 平日8:00〜22:00、土日祝10:00〜22:00
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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