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連載コラム

第62回「味も空間もヨーロッバ風味のドーナツ店〜Neyn」

[ 2008年11月6日 ]

赤坂サカス(東京都港区)からすぐの赤坂通り沿いに、小さなドーナツ店がある。9月1日にオープンした「Neyn(ネイン)」だ。細長い白の室内に、大きなテーブルを2つ並べたシンプルなつくり。モダンな空間に素朴な感覚をトッピングした店のしつらえは、ヨーロッパの味を持ち込んだドーナツの特徴を反映させたものといえる。

 ふと気づくと、ドーナツが元気ではないか。

 2006年に日本初出店し、長蛇の列で話題を呼ぶ米国発の「クリスピー・クリーム・ドーナツ」はもちろん、街を歩いていると、色とりどりのドーナツを並べた店が目につくようになった。その多くに共通するのは、機能的なファストフード店とはひと味違う、生活雑貨の店やカフェにも似た空間のつくり方だ。

 「Neyn」も、そうした店舗の1つに位置付けられる。

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写真左:赤坂通りに面した店の入り口まわり/写真右:店内全景

 通りからガラス越しに見える店内は、ごくすっきりとしたデザインだ。細長い長方形のスペースは、ショップとカフェのコーナー。さらにガラスで仕切られた奥には厨房が続く。

 白い色調でまとめられたショップとカフェのコーナーは、客と店スタッフのスペースをはっきりと区分していないのが特徴だ。

 入り口を入ると右側の壁に沿って、包装紙やコーヒーメーカーを並べた作業カウンターが延びている。反対側の壁沿いには、3つの円テーブルとスツール席、トイレなどの入ったステンレス製ボックスが並ぶ。

 両側の壁にはさまれた空間には何の仕切りもない。細長い木製の白テーブルを2つ直列に配しているだけだ。手前のテーブルは、色とりどりのドーナツを並べたドーム型の陳列台とレジのコーナー。奥のテーブルはカフェ用で、左側1列に客のいすが置かれている。

 テーブルの両側は基本的に行き来自由な状態になっている。実際に客がスタッフ側のスペースへ入っていくことはないのだろうが、客とスタッフの領域をあいまいにしたデザインは、両者の距離を近く感じさせる効果をもつ。

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写真左:ドーム型の陳列台を載せたレジカウンター/写真右:スツールのコーナー

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カフェのテーブル

 「ヨーロッパの田舎にあるような一軒家のキッチンをイメージした。いかにも店舗という雰囲気はできるだけなくし、フレンドリーな気軽さを与えたいと考えた」。経営者の山田善久・ネインジャパン社長は、空間デザインの狙いをこう説明する。

 2つのテーブルの下に目を向けると、斜めに組んだ木の脚が天板を支えているのが見える。壁際に並べたスツールも、厚い集成材をくり抜いたものだ。いずれも、モダンさのなかにどこか素朴な味わいを残したデザインによって、"一軒家のキッチン"というイメージを補完している。

 こうした配慮は、店のあちこちに施された小道具からも見て取れる。

 エントランスの外側に張り出した日除けの下には、木製のベンチが置かれている。室内の壁のあちこちには、キャンバスの布地が洗いもの風に掛かっている。生成りに赤でプリントした布地は、レジの背後ではメニュー表となり、カフェテーブルの向こう側では小動物の足跡をあしらったアートとなる。

 ドーナツ自体のディスプレイも、親密さの演出に一役買っているといえるだろう。

 陳列台は、円形の木製トレイに透明なドーム型のカバーを被せたものだ。この日は、テーブルに大型ドームが2つ、背後のカウンターに小型ドームが7つ並んでいた。持ち運びできるドームの陳列台は、家庭で使うケーキやパンのカバーを想起させる。

 パッケージなどを含めた店のアートディレクションはロンドンで活動するサイモン・ブラウニング氏が担当した。インテリアは内海智行・ミリグラムスタジオ代表が設計した。両者のコラボレーションが、小さいながらデザイン密度の濃い店を生み出した。

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写真左:壁に掛けられたプリント地
写真右:レジカウンターの背後。メニューも布地にプリントしている

 山田社長は、日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、金融業や楽天トラベル社長などを経て独立したユニークな経歴をもつ。

 モノづくりをしたいと考えて食の分野に足を踏み入れた山田社長がドーナツに目をつけたのは、「日本でも人気があり、ユーザーに定着しているが、まだ?商品として研究・開発の余地が残された対象だと感じたから」。そこでネインのドーナツでは、米国発祥のドーナツにヨーロッパ的な手法を持ち込んだ。

 例えば、小麦粉にはフランス菓子で用いる高品質な素材を使用する。さらにモンブラン風のドーナツなどでは、ケーキのように繊細なトッピングも施している。素材も見栄えもヨーロッパ風を取り入れたというわけだ。10月末現在、230円のプレーンから300円のネインモンブランまで、11種類のドーナツを販売している。

 山田社長が第1店舗を赤坂のこの地に選んだのは、メインターゲットに据えた"トレンドに敏感な働く女性"の多い場所だからという。TBSや博報堂などの企業が近くにあり、電柱を地下埋設した歩道もきれいに整備されている。歩いている人の目に留まり、そのまま入ってもらうようにするためにもちょうど良かった。

 「ブランドイメージを築くまで、特に最初の数店舗は立地選定も含めてぶれない店づくりをしていきたい」と山田社長。まずは1店舗めの土台固めに注力するという。

 (守山久子)

■Neyn: http://www.neyn.com/
東京都港区赤坂5-4-8
(TEL:03-6459-1150)
営業時間 平日8:00〜22:00、土8:00〜21:00、日祝9:00〜20:00
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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