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連載コラム

第65回「暫定利用の空き地が生んだ街中の広場〜日比谷パティオ」

[ 2009年4月10日 ]

東京・日比谷交差点から1ブロック南下した一画に、オフィスビルに囲まれたポケットパークがある。2008年12月5日にオープンした「日比谷パティオ」。ビルの取り壊し跡地を約2年の予定で利用している期間限定のスペースだ。好況期とはひと味違った土地活用法が、都市の持つ魅力を改めて浮かび上がらせている。

 3月中旬のとある平日昼。オフィスビルに囲まれた「日比谷パティオ」でアコーディオンのミニコンサートが始まった。

 紫色に塗装したコンテナの仮設ステージで、アコーディオニストの田ノ岡三郎さんがリベルタンゴをはじめとする楽曲を次々に奏でる。ステージ前に並ぶ木製の折り畳みいすに腰掛けた客が耳を傾け、芝生上のテーブル席に座った人たちは昼食を取りながら談笑している。

 暖かい春の日差しに映える芝生の緑。これに噴水でもあったらヨーロッパの街角かと見間違えそうな風景だ。

 「オフィスワーカーを中心に、家族やカップルなど様々な人に都会の中のパークライフを楽しんでいただきたい。人の出会いや交流によって、オフィス街の一画から新しい何かが生まれることを期待しています」と、日比谷パティオ運営事務局の瀧川裕太さんは話す。

左:コンテナのステージと芝生の席 右:日比谷パティオの芝生席まわり
左:コンテナのステージと芝生の席 右:日比谷パティオの芝生席まわり

 日比谷パティオは、旧三信ビルディングの建て替え敷地を暫定利用している。細長い長方形をした敷地は約2700㎡の広さをもつ。

 短辺に当たる西側は日比谷通りを介して日比谷公園に接し、反対の東側には映画館や専門店の入る日比谷シャンテが建っている。周辺には日生劇場や東京宝塚劇場、帝国ホテル、ペニンシュラホテルもあり、まさに都市文化の集積地といったエリアだ。オフィスも多い。

 土地所有者の三井不動産から委託を受けた日比谷パティオ運営事務局は、こうした立地環境を生かし、公園とアートの融合する"都市の中庭"を考案した。中庭では、冒頭で触れたライブ・パフォーマンスやアート展示、移動式のフードワゴンによる食事やコーヒーの販売などを行う「ヒビアカリ プロジェクト」を展開し、集客の仕掛けとしている。

 さらに敷地の西半分には、オープン当初から1月4日までスケートリンクを設置。その後1月17日から4月12日までは、仮設施設を建てて「テオ・ヤンセン展」を開催している。ゴールデンウィーク後には、仮設施設を撤去して新たに円形芝生を2面設ける予定だ。

 このように、運営事務局は夏季のビアホールなども想定しつつ、季節に応じたイベントを展開していく。

左:緑のコンテナは「パティオ・ステーション」 右:パティオ・ステーション内部
左:緑のコンテナは「パティオ・ステーション」 右:パティオ・ステーション内部

フードワゴンと「テオ・ヤンセン展」会場(正面)
フードワゴンと「テオ・ヤンセン展」会場(正面)

 日比谷パティオのハード面の特徴は、仮設のコンテナを活用している点にある。平らに整地された敷地に、大きなコンテナを1個、小さなコンテナを6個点在させている。

 日比谷シャンテ側に置かれた大きなコンテナは「パティオ・ステーション」と呼ぶ基幹施設だ。

 室内はテーブル席の並んだ無料休憩所とインフォメーションセンターのカウンターで構成され、カウンターには運営事務局のスタッフがいる。美顔やボーンケア、照明制作など様々なテーマのワークショップも開催している。

 オリーブ色や黄色、濃い茶などに塗装された小さなコンテナは、敷地の長辺に沿って並ぶ。これらはライブ・パフォーマンスのステージのほか、インスタレーションや小休憩所などに利用している。取材当日は、ハンディクラフトや照明作品を展示していた。コンテナの並ぶ合間に、フードワゴンが出店している。

 テオ・ヤンセン展の入場以外は、基本的に無料で利用できる。オープン時間は9時半から21時までで、時間外は車止めによって人が出入りしないようにしている。

左:フードワゴン 右:インスタレーションのコンテナ
左:フードワゴン 右:インスタレーションのコンテナ

写真8:インスタレーションのコンテナ
インスタレーションのコンテナ

 事業としては、各種イベントに対する企業の協賛金や外部委託するフードワゴンの収益の一部を運営に回していく仕組みを採用している。当初は、遊休地を駐車場として活用する案などもあったという。収益面だけから考えると、確かに現状よりもっと効率の良い使用法は考えられるだろう。

 しかし、この場所を訪れて改めて感じるのは、都市の魅力は経済的側面だけで測れるものではないという点だ。

 誰かが常に何かを行っていて、そこに行くと刺激を受け、あるいはくつろぐことができる。そんな街中の広場は、都市が備える古典的な魅力の一つだ。しかもオフィスの建物に囲まれた人工的な空間の中で、自然の光や風にも触れられる。気候の良い日は単純に気持ちいい。

 隣接する丸の内エリアでも、路面に商業施設を配する改修がオフィス街の堅い雰囲気を一変させた。人々の活動が個々の建物内で完結しがちな都市にあって、歩いたり、休んだりできる外部空間の存在は街に活気を与え、街に対する利用者の愛着も深める。敷地単体での収益性は低くても、街全体の付加価値を高める効果は見逃せない。

 もちろん、今回のような遊休地利用は、大きな投資が難しい経済環境だからこそ可能だったとも言える。また、かつて建っていた三信ビルは1階に魅力的な吹き抜けのアーケードを持ち、熱心な保存活動が起こった建物だ。そうした建物の取り壊しによって生まれた空地が、街中の広場の良さを再認識させる場になっている点は、個人的には少々皮肉な巡り合わせのようにも感じる。

 それでも、都市の魅力を体験できる貴重な機会が生まれたことは前向きに受け止めたい。次の本格的な街づくりに生かせるヒントが、ここから汲み取れると思うからだ。

(守山久子)

 

■日比谷パティオ

http://www.hibiya-patio.jp/

東京都千代田区有楽町1-4-1 旧三信ビルディング跡地
TEL 03-3581-9820(日比谷パティオ運営事務局)
営業時間 9:30〜21:00
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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