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連載コラム

第66回「アートの香りが漂う公園の多目的施設〜象の鼻テラス」

[ 2009年6月26日 ]

開港150周年のイベントでにぎわう横浜市に2009年6月2日(火)、新しい観光スポット「象の鼻パーク」が誕生した。パーク内の桟橋を望む広場に建てられたのが、休憩所とカフェ、ギャラリーなどの機能をもつ「象の鼻テラス」だ。文化発信地としての歴史を受けて、公の拠点にアートの楽しさを加味した施設運営を目指している。


 象の鼻パークと同時に開業した「象の鼻テラス」は、カフェやギャラリー、地域の観光インフォメーション窓口などを複合した施設だ。シンプルなしつらえだが、そのなかにアートの要素をちりばめて楽しさと彩りを加えている。

 ガラスで覆われたメインの空間は、約350㎡の広さをもつ。手前は、赤や緑、ピンクなどの絵柄を施したスツールとテーブルが並ぶ休憩スペース。奥のギャラリースペースでは、「文化交易 象の鼻150年史」をテーマにしたオープン記念展示を行っている。

 建物の設計は、象の鼻パークと共に、設計プロポーザルで選ばれた建築家の小泉雅生氏が手がけた。施設についても横浜市がプロポーザルを行い、ワコールアートセンターに業務委託している。

 同社は東京・青山で複合文化施設「スパイラル」を運営する企業だ。ここでは年間およそ5000万円の委託費で、カフェやギャラリーなどを運営していく。

左:「象の鼻パーク」。正面の建物が「象の鼻テラス」 右:「象の鼻テラス」の内部。手前が休憩スペース、奥がギャラリースペース)
左:「象の鼻パーク」。正面の建物が「象の鼻テラス」
右:「象の鼻テラス」の内部。手前が休憩スペース、奥がギャラリースペース

 建物内をもう少し見てみよう。

 ギャラリースペースと休憩スペースの間に間仕切りはない。その代わりというべきか、アーティストの椿昇氏が創作したオブジェ「時をかける象(ペリー)」が両者を緩やかに仕切っている。

 休憩スペースのスツールは、フィンランドのアーティスト、カティア・トゥキアイネンさんと地元の小学生が共同でつくりあげた。カティアさんが板に下図を描き、子供たちが色を塗った。円形にくり抜いてスツールの座面とし、穴の開いた残りの板材は立方体に組んで入り口の横に展示している。

 カフェの小物やメニューも、ちょっとばかり凝っている。

 店のキャラクターである青い象や店員のエプロンは、「ミナ ペルホネン」ブランドのデザイナー、皆川明氏が手がけた。ドライフルーツやサーモンなどを載せた長さ30センチのロングオープンサンドは、象の鼻からイメージしたものだ。また、クリエイターのコラボレーションチーム「宙trip」が発案したゾウシャワー、ゾウダンクといった飲み物、自家製酵母パンもある。

 「カフェという日常的な空間を中心に、いかにアートを織り込んでいくか。これまでスパイラルが行ってきた生活とアートを結び付ける活動を生かし、より幅広い人たちに向けてマルチに文化情報を発信するスペースに育てていきたい」と、担当者の林妙子さんは話す。

 こうした狙いから、インフォメーションカウンターには周辺地区のアート情報に詳しい担当者を配している。窓際にアートやデザインを扱った雑誌類を並べているのも、これらに気軽に接してもらうための工夫だ。

 ギャラリースペースでは今後、パフォーミングアーツのワークショップ、「都市のスペクタクル展」や「象の鼻カフェ展」などの展覧会(いずれも仮称)を企画している。アーティストやデザイナーを地元の企業や職人などと組み合わせて商品開発を進めるイベント「ランデヴー プロジェクト@横浜(仮称)」も計画中だ。

 一方では夏期にビアガーデンも予定しているなど、カフェの集客にも力を入れる。

左:スツールの座面をくり抜いた残りの板を立方体に組んだオブジェ 右:「文化交易 象の鼻150年史」展の映像コーナー。昼は窓のロールスクリーンを一部下ろして暗くしている
左:スツールの座面をくり抜いた残りの板を立方体に組んだオブジェ
右:「文化交易 象の鼻150年史」展の映像コーナー。昼は窓のロールスクリーンを一部下ろして暗くしている


左:インフォメーション(左)とカフェのカウンター右:窓側に並べたアート、デザイン関連の雑誌類

左:インフォメーション(左)とカフェのカウンター 右:窓側に並べたアート、デザイン関連の雑誌類


 象の鼻テラスがある象の鼻パークは、横浜市が「ナショナルアートパーク構想」を掲げる都心臨海部再開発の一環で整備された。同構想は、文化芸術活動を積極的に取り入れながら、歴史や文化の資産を生かし、親水性の高い都心臨海部のまちづくりを目指すものだ。

 なかでも象の鼻パークは、歴史的にも地理的にも核というべき場所になる。

 横浜港開港と同時に波止場がつくられ、欧米文化が流入する窓口となった。名前は、初期に造営された弓状の防波堤が象の鼻に似ていたことに由来する。その後、防波堤の形は直線に変わったが、開港150周年に向けて往時の形に復元された。

 現在は山下公園、横浜港大さん橋国際客船ターミナル、横浜赤レンガ倉庫が続くエリアの中央に位置し、海沿いに延びるペデストリアンデッキ「山下臨海線プロムナード」に直結する。近代建築が並び、歩道を用いたオープンカフェを町ぐるみで展開する日本大通りも近い。

左:室内夕景。窓の外には「横浜赤レンガ倉庫」などが見える 右:海側からの風景。建物の周囲には芝の広場が続く
左:室内夕景。窓の外には「横浜赤レンガ倉庫」などが見える 右:海側からの風景。建物の周囲には芝の広場が続く

 象の鼻パークの誕生で、海沿いと町のエリアが一つにつながり、歩行者の回遊ゾーンが完成した。パークの中心となる象の鼻テラスは、小さいながらも、休憩機能に加えて「文化観光交流の拠点」としてソフト面での駆動役を期待されている。

 とはいえ、ここには文化という言葉が思い起こさせる堅苦しさはない。ふらりとやってきた客がカフェでくつろぎ、興味を覚えた人がギャラリーの映像を眺める。誰でも受け入れる公的施設ならではの間口の広さは、営利を第一の目標にすえた商空間ともひと味違う。

 あらためて気づくのは、こうした微妙な案配を実現していく際に果たすカフェの役割の大きさだ。

 肩の力を抜ける雰囲気のなかで、複数の機能、あるいは人とアートを結びつける。施設整備の観点からすれば、けっして主役ではない。しかし、さまざまな要素のつなぎ役として、カフェの存在が効果的に働いている。

(守山久子)

 

■象の鼻テラス

http://www.zounohana.com/

横浜市中区海岸通1
TEL 045-661-0602
営業時間 インフォメーション9:00〜17:00 カフェ10:00〜20:00
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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