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連載コラム

第69回「歴史を刻印した商業スポットがオフィス街に新風 〜丸の内ブリックスクエア、三菱一号館」

[ 2009年10月2日 ]

明治時代に丸の内初のオフィスビルが建設された地が生まれ変わった。2009年9月3日、再開発によって生まれた超高層ビルの低層部に、商業ゾーン「Marunouchi BRICK SQUARE(丸の内ブリックスクエア)」がグランドオープン。かつてのレンガ造建物を復元した「三菱一号館」と共に、オフィス街に新しい賑わいをもたらしている。

 何といっても、この再開発の象徴的な存在となっているのは三菱一号館だろう。

 三菱一号館は1894年(明治27年)に竣工し、かつて「一丁倫敦(ろんどん)」と称された馬場先通りのオフィス街の先がけとなった建物だ。設計者は、明治初期に来日し、日本の近代建築づくりに大きな足跡を残した英国人建築家ジョサイア・コンドル。建物は1968年に解体されたが、このたび当初の設計図面や解体時の実測図面などを基に復元された。

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写真左:三菱一号館外観
写真右:中庭と三菱一号館

 丸の内のほぼ中央、東京国際フォーラムの斜向いに建つ赤レンガの建物は、三角屋根と小さい窓が並ぶ外観が特徴となっている。

 建物に用いた約230万個の赤レンガは、当時と同じ製法を用いて中国で生産した。帯鉄と呼ぶ補強金物を入れて耐震性を高めたレンガ積みの工法も、当時のものだ。工法から材料、間取りから装飾に至る細部まで、できるだけ忠実な復元を試みている。

 同時に、免震装置を取り入れ、中庭側にガラス張りのエレベーターホールまわりを新設するなど、現在の法規や機能を満たす改変も行っている。

 1階から3階まで連なる展示室は、来春、「一号館美術館」としてオープンする。現在は竣工記念展「一丁倫敦と丸の内スタイル」を開催中だ(2010年1月11日まで)。1階のミュージアムショップ「Store1894」とカフェ「Café 1894」は、既に営業を始めている。

 Café 1894は、かつての銀行営業室を再現した空間を利用している。2階部分を回廊が取り巻く高さ8メートルの吹き抜けに、装飾を施した柱頭を抱く木の柱が6本そそり立つ。入り口の待ち合いスペースには、かつて窓口として使われていた腰壁とガラスの仕切りもある。

 往時の雰囲気を味わえるどっしりとした空間で楽しむランチやコーヒーの味はまた格別だろう。運営は、ロイヤルパークホテルが担当している。

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写真左:Café 1894
写真右:Café 1894の待ち合いスペース

 この三菱一号館と中庭を介して並んでいるのが「丸の内ブリックスクエア」だ。地上34階建ての超高層オフィスビル「丸の内パークビルディング」の低層部、地下1階から地上4階までに飲食や物販、サービスの店舗が36店集まっている。

 丸の内ブリックスクエアでも、三菱一号館を意識したデザインをそこかしこに施している。

 例えば外観は、アイアンワークを随所に取り入れ、黒を基調とする重厚なデザインだ。どっしりとした素材感は、これまでの多くの超高層ビルと比べても異彩を放つ。

 建物内も、レトロな内装でまとめている。

 共用廊下の天井では洋館風の装飾照明をしつらえ、以前この地に建っていたビルで用いられていた吊り時計を下げている。床材には、石張りのほか階によってはフローリングやカーペットを用い、落ち着いた雰囲気を醸し出す。エレベーター入り口の上にある階数表示板が、針で示すアナログ方式なのも楽しい。

 テナントは、1階部分は丸の内仲通りに面したエリアがファッションや雑貨系のショップ、中庭に面したエリアはオープンカフェ風の飲食店という構成だ。2階は本格的な和洋中のレストラン、3階はマジックショーやミュージックライブなども行う特徴的なレストランが並ぶ。地下鉄駅への通路にもなっている地下1階には居酒屋やラーメン店などが並び、4階にはフィットネスクラブが入る。

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写真左:丸の内ブリックスクエア入り口まわり
写真中:共用廊下
写真右:地下1階

 「1998年以降、それまでビジネスオンリーだった丸の内に商業などの多機能を盛り込む街づくりを進めてきた。今回の開発は、その延長にある」(三菱地所広報部)。

 同社が「丸の内再構築」と名付けて1998年から進めてきたプロジェクトは、丸ビルや新丸ビルなどの建て替えによる東京駅前周辺の再開発、丸の内仲通りの整備という第1ステージを終了。2008年から始まった第2ステージでは、対象地域を大手町・丸の内・有楽町全域に広げ、開発の広がりと深化を目指している。その第1弾となるのが、丸の内パークビルディングと三菱一号館の計画だった。

 第2ステージの開発では、歴史や文化、芸術もテーマにすえている。レンガ造のオフィスビルを復元し、美術館機能を盛り込んだ三菱一号館は、そうした意味でも計画の意図を先導する施設となる。

 さらにもう1つ、今回の計画が果たしている大きな役割は、丸の内エリアに中庭空間を生み出したことだ。

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写真左:一号館広場
写真右:一号館広場のベンチまわり

 三菱一号館と丸の内ブリックスクエアに囲まれた中庭は「一号館広場」と呼ばれ、ふんだんに配された植栽や噴水を囲むようにベンチが置かれている。飲食店の前にはテーブル席も並ぶ。昼にもなると周辺のオフィスワーカーたちが思い思いにベンチに腰掛け、木陰で一時の休息を楽しむ。

 以前実施した丸の内仲通りの整備では、ブランドショップや飲食店を路面に配し、従来はオフィスとしての顔しかなかった通りを活性化させた。ただし、それはあくまでも"通り"という線状の試みだった。

 それに対し一号館広場という中庭は、街行く人や周辺のオフィスワーカーがくつろぐ"溜まりの場"となる。商業施設と一体化した溜まりの場の誕生は、丸の内というオフィス街に、機能と空間構成の両面から新たな奥行きをもたらしていくに違いない。


(守山久子)


 
■丸の内ブリックスクエア
http://www.marunouchi.com/brick/
東京都千代田区丸の内2-6-1
営業時間 ショップ11:00〜21:00(日祝11:00〜20:00)、レストラン11:00〜23:00(日祝11:00〜22:00)一部店舗は異なる

■三菱一号館
http://mitsubishi-ichigokan.jp/
東京都千代田区丸の内2-6-2
03-3212-7156(Café 1894)、03-3212-7155(Store1894)
営業時間 Café 1894  11:00〜23:00(土日祝 11:00〜19:00。イベントによって変更あり)、Store1894  10:00〜20:00(土日祝10:00〜18:00)

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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