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連載コラム

第70回「グローバル性と地域性のミックスを目指す 〜日産 グローバル本社ギャラリー」

[ 2009年11月4日 ]

2009年8月8日、横浜市に「日産 グローバル本社ギャラリー」がオープンした。新しい日産自動車グローバル本社ビルの1階を利用している。従来の同社ギャラリーとは異なり、国内で販売する車の展示に加え、海外を含めた幅広い展開や企業情報を発信。同時に、市民や地域との距離を縮めていく場としての役割も担う。

 定時になるとメインステージのターンテーブルが浮き上がり、「フェアレディZ ロードスター」のシルバーの車体が斜めになって回転を始めた。横には、初代の「フェアレディZ 240ZG」が長いノーズをもつ独特の車体を光らせている。背後の壁に据えられた大型画面に映像が流れ、両側の壁面へ投影された文字が帯状に流れていく。

 車好きではなくても、ちょっとワクワクしてくるような演出だ。

 「日産 グローバル本社ギャラリー」は、2009年夏に竣工した日産自動車のグローバル本社ビルの1階につくられた。約4000㎡文字の空間に、展示スペースやショップ、カフェ、イベントホールなどが並ぶ。吹き抜けのダイナミックな空間からは、大きなガラス越しに、隣を流れる帷子川の水辺風景が見える。

「日産 グローバル本社ギャラリー」外観 メインステージ プロダクト ゾーン
写真左:「日産 グローバル本社ギャラリー」外観
写真右:メインステージ
写真下:プロダクト ゾーン

「日産のブランドを発信する、多機能スペースメディアと位置付けた」。ギャラリーのコンセプトを、今泉利國館長はそう説明する。

 同社は以前本社ビルを構えていた東京の東銀座でも、1階を車の展示ギャラリーにしていた。しかし新しいグローバル本社ギャラリーは、従来の約1000㎡から4倍の面積に増える。この広さをどう有効活用するか。検討の末に決まったのが、車の展示だけでなく企業全体のブランドを発信していく場とすることだった。

 そのため、ギャラリーでは多様なコーナーを用意している。まず展示スペースは、大きく4つのゾーンに分かれている。

 中心となる「プロダクト ゾーン」では、国内の販売車種を中心に展示。ターンテーブルのあるメインステージのほかにも、スポットライトを浴びた車がずらりと並ぶ。日産自動車のウェブサイト閲覧、販売店や車種の検索などができるデジタルギャラリーなどもある。

 その他の3つのゾーンは、海外展開する車種を展示した「グローバルプロダクト ゾーン」、日産の歴史や歴代の車などを見せる「ヘリテージ コリドー」、日産の最新情報を発信する「コーポレートコミュニケーション ゾーン」で構成される。コーポレートコミュニケーション ゾーン」では、企業情報や同社のニュース、最新モデル、社会貢献活動などを紹介している。

 展示スペース以外では、600人を収容するイベントホールの「NISSAN HALL」、「GALLERY CAFE」、「日産ブティック」がある。

 NISSAN HALLでは、メインステージの展示と連動したイベントも企画する。日産ブティックでは、1/43サイズのミニカーや小物、ウェアなど、日産が扱うグッズを全商品そろえている。

コーポレートコミュニケーション ゾーンのイベントコーナー コーポレートコミュニケーション ゾーンのコーポレートインフォメーションウォールまわり
写真左:コーポレートコミュニケーション ゾーンのイベントコーナー
写真右:コーポレートコミュニケーション ゾーンのコーポレートインフォメーションウォールまわり

へリテージ コリドー GALLERY CAFE
写真左:へリテージ コリドー
写真右:GALLERY CAFE

 ギャラリーでは、視覚面でも日産らしさを表現している。

 アイボリーホワイトを基調とした色彩のなか、ヘアラインのシルバーや横スリットを施した壁面が随所にちりばめられている。いずれも、日産ギャラリーでよく用いているモチーフという。さらに一際目立つのが、壁面や什器に赤を用いた日産ブティックだ。NISSANのロゴに使われている赤は、"差し色"となって空間を引き締める。

 全体に、メカニカルできりっとした印象のデザイン。最近の商空間では自然素材やラフな納まりを取り入れた"ロハス系"インテリアが目立つだけに、金属の肌合いを生かし、きっちりしたディテールをもつ空間はかえって新鮮だ。

デジタルギャラリーまわり 赤い壁で覆った日産ブティック
写真右:デジタルギャラリーまわり
写真左:赤い壁で覆った日産ブティック

 真夏のオープンから約3カ月がたった。夏休みは日に5000人を数えた来場者は現在、平日で2000人、休日になると3500人ほどになる。今泉館長は、「日産という企業を知っていただくことと同時に、地域の一員としての役割を担うことも重要だ」と話す。

 こうした意識の背景には、立地上の特性もある。象徴的なのは、建物の2階レベルを貫通する公共通路「NISSANウォーク」の存在だ。

 「NISSANウォーク」は、横浜駅東口側から帷子川を渡る公共の歩行者デッキ「はまみらいウォーク」と直接つながっている。反対側の出入り口は、横浜高速鉄道みなとみらい線新高島駅に向かう歩行者デッキへと続く。建物内の通路ながら、横浜駅とみなとみらい21を結ぶ主動線の一部として位置付けられており、周辺地域の整備工事が終われば朝4時45分から深夜1時15分まで利用可能になる。

 実際、グローバル本社ビルの周辺にはオフィスや大型商業施設、集合住宅が建ち並んでいる。11月11日には、新高島駅の先に劇団四季の専用劇場「キヤノン・キャッツ・シアター」もオープンする。これら建物の利用者の多くはNISSANウォークを通って行き来し、ガラス越しにギャラリーの様子を目にすることになる。

 「いかに、NISSANウォークを歩いている人を1階へと引き込み、一度見た方にはリピートしてもらえるようにするか。展示内容や展示替えなどで工夫を凝らしていきたい」と、今泉館長は今後の課題を見据える。

 同時に考えているのは、地域や市民と企業の距離を近づけていくことだ。ギャラリーを地域のイベントに提供したり、メディアに対する新車発表会の展示をそのまま市民に開放したり、といった新しい試みにも取り組んでいく。

 発信内容はグローバルに、活動は地域密着を視野に入れて。日産グローバル本社ギャラリーには、そんな二面性が秘められている。


(守山久子)

■日産 グローバル本社ギャラリー
http://www.nissan.co.jp/GALLERY/HQ/
横浜市西区高島1-1-1
TEL 045-523-5555
営業時間 10:00~20:00
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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